第一話


高校生の、都会での一人暮らし。

安いアパートだけれど、自分だけの城。

これには様々な利点があるわけですよ。

夜更かしして深夜のTV番組を見ても、

ビデオショップでレンタルしたAVを見ても、

コンビニで購入した雑誌を眺めていても、

食事をした後、それをわざわざ流し台に運ばなくても・・・・・・

誰に咎められることもありません!

そう。親に見咎められることもないのです。

あれです。彼女ができたら、連れ込み放題。

ぶっちゃげた話、学校サボって3日間ずっとヤりっぱなしもOK!

まぁ、安いアパートですし、他の住民から若い情熱の迸りに対して、苦情が来るかもしれませんけどね!

なんて、調子こいてたわけです。ウハウハな一人暮らしを、満喫していたわけです。

……が、しかし。

その生活を始めて数週間で、俺はその様々な利点より大きい問題に直面した。

掃除? んなもん、どれだけ汚しても、人は死なんとです。

洗濯? んなもん、学校の学ランなんて、毎日洗濯するもんでもないとです。

風呂? もともとこのアパートにはついてないし、近所の銭湯に通っています。

つまりは………ご飯です。こればかりは、食わんと死ぬとですよ?

「くそばばぁ! 生活費を削りまくるって、どういう了見じゃ!」

俺は電話につばが飛ぶことも気にせず、そう叫んだ。

そんな俺に対し、電話の相手はものすごく冷静な声で答えた。

『あんたが、母さんらのところにくれば済むことでしょう?』

「なんでそんな訳も分からん田舎の国へ行かなあかんねん!」

『ああ、そう? じゃ、そっちで生活したいなら、自分でどうにかなさい』

「マジっすか! 本気と書いてのマジ!?」

『最低限の生活費しか振り込まないわよ、母さんは。あんたの我侭でしょう?

最低限の生活費を送ってあげるだけでも、ありがたいと思いなさい』

「食費は最低限の範囲だろ! 光熱費だってもうちょっとくらい…」


ぷつっ。つー。つー。つー。


「き、切りやがった……。あのばばぁ……」

どれだけ待ったところで、切ったほうからの連絡は来ず、俺は途方にくれた。

どうやら、本気らしい。

もう一度かけなおしたところで「じゃあ、仕送りを増額するわ」などという言葉は、絶対に出ない! 

そう確信できた。確信した瞬間に出たものは、やはり大きなため息だったぜ・・・・・・ふっ。

・・・・・・とまぁ、そんなこんななやり取りがあったわけです。

家賃は必要ないけれど、ご飯食べるお金がいるとです。

巣穴だけ用意されているけれど、ご飯は自分で狩って来いと言うことです。


くそばばぁ……。

お前は鬼か?

巣立ちまで面倒見るのが、親の仕事だと思いますけど、この考えは、俺の甘えですか!?


そんなわけで俺、横島忠夫は、バイトを探しているとですよ。

忠夫です。ご飯が食べられません!

忠夫です。親に見離されました!

忠夫です。クラスメイトのメガネは、俺を見てあざ笑います!

きれいなオネーさまがバイト募集してるところ、ないっすかねぇ……?





          第1話  きれーなオネーさま




学校帰り。俺の足取りは実にフラフラしたものだった。

最近ろくな食事にありついていない、とまでは言わないが、

お世辞にも恵まれた食生活でないのも、また事実。

そもそも高校生男子が、まともに料理を作れるはずがないし。

小学校と中学校で、家庭科の授業は受けてきた。が、それを家に帰ってまで実践した経験はない。

経験がない以上、突然上手く料理ができるようになるはずもないわけで。

そして、料理に使うための食材を、失敗してもいいくらい大量に買い込めるわけでもない。

そうなると、カップ麺なんかに落ち着くわけで。

でも、最近のうまいカップ麺は300円位するわけで。

そうなると、安い菓子パンなんかを口にしようと思うわけで。

つまりは、さして腹がふくれない訳で。


「くっそ〜。マジでバイトせにゃあかんなぁ」


放課後の楽しいひと時。

その時間を、俺は部活にすら入れないというのか。

放課後に始まるかもしれない甘い恋愛ストーリーは、バイトという過酷な労働ストーリーへと取って代わるというのか!


「まぁ、可愛いマネージャーのいる部もないし、別にいいけど」


はふう〜。

楽しい高校生活は、始まると同時に急降下を見せ、俺の体に激しく冷風をたたきつけてくる。

これが世間の厳しさか。いや、ちゅーか、母親の厳しさ?

俺はまだ高校生ですぞ? もうちょっと甘やかせてくれても……。


無理か。わが母上に甘えなど通用しない。

泣きつけば、それこそあの炭鉱の国へと連れ去られてしまうかも。


『一人暮らしなんて無理だったでしょう? だから最初っから、素直についてくればよかったのよ』


母親の台詞が、俺には安易の想像できた。

連れて行かれるかも、じゃねぇな。絶対連れて行かれる。

それだけは、いやじゃ。

日本語も通じんようなとこに行って、どうすんねん。

そりゃ向こうでも、探せば可愛い女の子もいるだろう。

けれど、やっぱり日本人は日本人と、ですよ!


洋物のビデオは、大味すぎるのと同じ!

ビバ! 恥じらいと童顔の日本人女性!

外国人って、俺と同じ年でかなり大人くさいしね!

で、俺より年上となると、無駄におばさんくさいし。

オネーさまって感じでもないんだよな、なんか。


「てな訳で、バイトだが……」


ついつい逸れていく思考をもとのレールに正しつつ、俺は呟いた。

色々バイトに求める条件はある。家から近いところで、高校生OKで、高額な給料が貰えるとか・・・・・・。

そして何より、可愛い女の子か、あるいはキレーなオネーさまのいるところにしなければならない。

ついでにまかないつきで、食事の心配のなさそうなやつ。

となると、飲食店系?


「メイド喫茶なんて、この辺にはないしなぁ」


さらにいえば、可愛い制服のファミレスなどもない。

あるとすれば、数十年前には看板娘だったであろう

おばあちゃんのいるソバ屋とかうどん屋とか、なんかそんな感じ。


あと近場にあるものといえば、本屋とかの露出の少ないものばかり。

誰か、水着で本を売る本屋とか、はじめないもんだろうか。

夏になると、冷やしラーメンじゃなくて『水着本屋ちゃん、はじめました』とか。


「…………ん?」


そのとき、俺の視界にある一人の女性が入り込んだ。

俺の視線は、まず大きなその女性の胸に釘付けとなり、次に短くタイトなスカートから見える白い太ももに流れていった。

そして最後に、顔だ。

何だが視線を向ける順番がおかしいような気もするが、そこは気にしちゃいけない。


俺はその見事な肢体を持つ女性の顔が、どんな美人かと言う期待とともに視線を上げる。

少し……いや、かなりきつい視線を持つその女性は、腰まで伸ばした長い髪を指で梳く。

髪がその指と風のいたずらで軽やかに踊り、そしてその女性の美貌は、いっそう光を放った。

ほかの人間は、どうして彼女に振り返らないのだろう。

なぜ、彼女に目を止め、足を止めないのだろう。

俺には到底理解できない。

特に、そこを歩き行く、疲れたサラリーマン風の男とか。

普通、鼻の下を伸ばすだろ、自分の隣をあんなオネーさまが歩いたらさっ!


「すっげーキレーな人だなぁ」


どこかけだるげな雰囲気が、女性から何とも言えない色気をかもし出している。

俺はその色気につられて、そのオネーさまに向けて歩き出す。

いや、気づいた瞬間には、すでに走り出していたのかもしれない。



「生まれる前から愛していました、オネーさま! この横島、一生憑いていきます!」


「ふわぁぁっ!?」



そんな言葉を発したころには、俺は全速力で目標に侵攻し、そしてオネーさまの後方でジャンプまでしていた。

俺の台詞は聞こえていたのだろうけれど、まさか自分に言われたと思っていないオネーさまは、こちらへの対応が遅れる。

一瞬の隙。だがそれで十分。

俺は見事にジャンプに成功した。オネーさまの背中におぶさるように着地し、その手をオネーさまの前へと伸ばす。

素早い動作で動く俺の手は、オネーさまの豊満な胸をつかみ、そしてもみまくる。

腹の辺りに感じる、オネーさまのおシリの感触も心地よい。

オネーさまの首筋の鼻を向ければ・・・・・・ああ、かぐわしい香りが!


ああ、生きていてよかった。本当に!


「調子に! のるなぁぁぁっ!」

「ぐっはぁぁぁっ!」


オネーさまの体を堪能していた・・・・・・うわぁ、エロい響きだなぁ・・・・・・俺に対し、オネーさまの鋭い声が突き刺さる。

しかも、それはただの声だけ伝く、振り返ることで俺の体を引き剥がし、さらには白い指を握った、拳のおまけつきだ!


ああ、分かっていたさ。

自分の行為がどれだけ愚かで、そして浅ましいか。

痴漢呼ばわりしても仕方ないし、実際そうだろう。


俺はオネーさまの強烈な鉄拳で、宙を舞った。

俺の意識はそこで……


『ああ、なんていい感触なんだ。もう、当分ビデオ借りる必要ないとです! ついでに、この手はしばらく洗わないぞ!』


……途切れるはずもない。

熱きリビドー、迸るパトス……あれやこれや。

俺の脳は、かなりの速度で無駄に回転していた。

今なら、10トントラックの前で『俺は死なない』とか言いつつ、飛び出したりできそうな勢いだ。


「げふぅ…………」


もっとも、そのとき俺の口から零れた言葉は、しっかりとした台詞などでなく、単なるおかしな呼吸音だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「はぁ、はぁ、はぁ…………?」

私の息遣いは、自覚できるほどに荒かった。

それも仕方がないことだろう。
自身の人生経験の中で、このような体験は初めてのことだったのだから。

というか、むしろ『街中で背後から、突然体を触られる達人』というものがいるならば、会ってみたいものだ。

いや、私は何を考えているのだろう。そんな下らないことを考えている場合ではない。

どうやら突然のことに、らしくもなく少々混乱しているらしい。

重要なのは、そう・・・・・・目の前に転がっているこのガキが、自分に突進してきたと言うことだ。


自分は今『陰行結界』を体にまとっており、

普通の人間では姿すら見えないよう、気を配っていたのだ。

有り得ない。結界に守られた私の姿を視認し、さらには体をまさぐる。


このガキは、まさか霊能力者なのだろうか?

しかし、霊力はまったくと言っていいほど感じられない。

そもそも結界を破るほどの霊力を発していれば、背後からの突進にも、私は気づいたはず。

では何故?

何か、特異な能力者なのだろうか?


「……ふぅ」


……ならば、惜しいことをした。

力任せに、思いっきり殴ってしまった。

咄嗟のことに、自身の能力を最大に発揮……いや、最大とは言わないが、

かなりの力を出して、このガキを殴ってしまった。

霊的な防御をしていない人間では、耐えられないだろう。

つまり、霊力をまったく感じないこのガキは、助かる見込みが全くないということだ。


これから様々な仕事をしていかなければならず、使えそうな人間は喉から手が出るほどほしい。
私自身の能力は高いが、それでも私は一人しかいない。

ひとつ有能な存在がいたところで、人的な物量は解決しないのだ。


「さて、どうしたものか」


このガキの死体の処理を考えながら、私は嘆息とともに、そのガキに近づく。

本当にどうしたものか。放置するわけにも行かない。

他人に任せたいが、まだ部下のいない私は、自身でどうにかしなければならない。


「……」


道路に力なく横たわるガキを見やってみれば、その顔の形は変わってしまっていた。

私の拳を受けたせいで、顔が幼児にいたずらされた粘土細工以下の造詣になっているのだ。


憐憫など覚えるはずもない。ただただ面倒なことになったと、そう思ってまたしても嘆息する。

そしてその瞬間、私はまたしても驚かされることとなった。


「白っすか。なんだか意外っす! 絶対黒だと思ったのに! ていうか、ため息一つもすごい色っぽいですよ!」


「なっ!」



死んでいたと思われたガキの口から、突然叫びが迸る。

私の結界内にガキの体があるので、その声は大勢の人間にこそ届かなかったが、私の耳にはしっかりと届く。

まさか嘆息に反応されると思っていなかった私は、一人しゃべるガキに、何の言葉も返せなかった。

というか、いいじゃないか、別に人が何色を好もうとも! 


「いやぁ、痛かったっす! ちゅーか、すんません!」


「な、何が?」


ガキは『よっこらしょ』とその場に起き上がった。

私はどうしたものか対応に困り、口からはやはりらしくない言葉が漏れる。

すぐこの場で攻撃に移ろうかとも考えたが、下手に動くことが命取りになる場合もある。

そうでなくても、このガキは得体が知れないのだ。その存在自体を、よく見極める必要がある。


「オネーさまがきれい過ぎて! 自制し切れませんでした!」

「・・・・・・・・・・・・へぇ?」

「いや、嘘じゃないですよ!? 心のそこからそう思って、んで、思った次の瞬間には、飛び掛っちゃいましたし!」


私は容姿に一応の自信は持っているが、過信するほどではない。

こんな下らない台詞で、ごまかされはしない。

この台詞を馬鹿正直に信じるならば、

このガキはまるで、欲情を押さえきれずに女に襲い掛かった、ただの変態ではないか。


有り得ない。

ただの変態が私の陰行結界を外から見破り、

そしてさらにはその中へとやすやすと侵入し、

その上、私の鉄拳を受け、こうしてすぐさま回復するというのか?


そんな変態がこの世に存在するか?


否。


(暗殺しようとしたわけではない。私に何らかの用がある?)


ひょうきんな態度で相手に近づくことは、悪魔の常套手段だ。

何のつもりで、私のコンタクトをとってきたのかは知らないが、

このふざけたコンタクトには、相応の御代というものを払ってもらおう。


「お前は、何者?」


「横島忠夫! 現在高校生の赤貧人間っす! 

バイト探しの途中でオネーさまの豊満な胸に見とれて、つい!」


「…………ヨコシマ?」


「ウィ!」


「…………高校生?」


「イエス!」


嬉々として返事をするガキ……もとい、ヨコシマ。


まだふざける気か、と様子を探って見るも、彼の体からは魔力は感じられない。

ついでに言えば、霊力もだ。

私に感づかれないほど、巧妙に隠し切っている?

いや、その可能性は低い。

魔力とは体臭のようなものだ。

そして体臭とは、生きている限り、完全に消し去ることが不可能なものでもある。

つまり、どれだけ誤魔化そうとも、人界に存在する以上、完全に消すことは無理なのだ。

そうなると、より強い匂い、つまり霊気を仄めかして消すのだろうが、

しかし、このヨコシマからは、今は霊気すら感じられない。

悪魔ではなく、本当にただの人間?

私の勘違い?


なら、どうやって私を見て、私に触れて、私の攻撃を受けた?


「そ、そんなに見られると、てれるっすよ!」


私の視線に、ヨコシマは身をよじって赤面する。

その瞬間、そう、本当に瞬間的なものだが、彼の体から霊力が湧き上がった。

私は驚愕した。こぼれ出た霊力は、かなりのものだったのだから。


「………」


ふと、ひとつの考えが私の脳裏をよぎった。

私は沈黙したまま、上着を脱ぎ、そしてシャツのボタンをはずす。

私の白い胸元が、少しだけ顔を出した。


「うおぁっ!」


ヨコシマの視線が私の胸元に降り注ぎ、そして瞬間的に彼の体からは霊力が噴出した。

まるで、己の劣情を霊力に変換しているかのようだ。


そうなると・・・・・・。

彼は自分の好みの女性を見つけるために、無意識に霊視を行っていたというのか?

自分好みの女性に触るために、無意識に結界を中和したというのか?

そして私に触れて高まった霊力が、瞬間的にこちらの攻撃を防御した?


もしそうならば、このヨコシマという高校生は、すさまじい人間だ。


(私の裸を見たら、最高出力はさらに上がる?)


ヨコシマの強い霊波動を身に受けつつ、そんなことを考える。

さすがに人の認識を阻害する結界内とはいえ、そんなことを試す気はないけれども。


(本当にただの高校生?)


だとすれば、拾い物だ。

自分は自身の手足となる優秀な人間を探していて、

ヨコシマは赤貧である貧乏学生といった。

つまり、私はダイヤの原石を道端で拾ったようなものだ。


「ねぇ、ヨコシマ?」


声に大量の色気を注ぎつつ、私は彼に話しかけた。

「は、はい! なんっすか!」

「ヨコシマは、バイトを探しているといったわね?」

「はい!」

「私はちょうど、よい部下になる者を探しているところ」

「そうっすか! なら、俺が立候補します! どんな仕事でもお任せあれ!

オネーさまのためなら、掃除から肩もみ、寂しいときの話し相手まで!」

「そう?」

「イエス、イエス、イエス!」


これ以上ないと思えるほどの、元気な返事が返ってきた。

もちろん誘ってはいるものの、彼の言い分を正面から信用し、受け入れることはできない。

私は一応、彼が何らかの理由で力を隠す存在だという疑いを、捨て切っていないからだ。

そもそも、相手の言い分を簡単に信じ、疑わないような存在なら、私はすでに仕事中に命を落としていただろう。


だが、彼が本当にただの高校生ならば、教育しだいで優秀な部下になるだろう。

ダイヤの原石かもしれない石を道端で拾い上げたにもかかわらず、その石を放り捨てるのは、さすがに忍びなかった。

ここは後日会う約束を取り付けるべきだ。そう、後日に私がしっかりとした心構えで、ヨコシマを『鑑定』すればいいのだ。

そういう判断から、私は彼に艶然と微笑んだ。


「じゃあ、私と一緒に仕事を……」

「するっす! 渡りに船、いや、これぞ運命の出会い!」


私の誘いを、彼はさえぎって返事をする。

うっとうしいとも思うが、こういう人物は御しやすくて大変よろしい。


「では詳しい話を……」

……後日しよう、と言葉を続けようとした。

私にも予定はある。

そもそも予定のない者が、結界を張って街中を歩いているはずもない。

だが、彼は私の言葉をまたしてもさえぎった。


「OK! 今すぐ! 膳は急げ! 据え膳食わぬは男の恥です!」

「ちょ、ま……」


ヨコシマは私の言葉を無視し、私の手をとって近くの喫茶店へと向かおうとする。

劣情を霊力に変換する、という私の仮説は、今のところ的を得ているらしい。

女の手を握る彼からは、時折強い霊気が零れ出ている。


「……」


殴って足を止めさせようかとも考えたが、やめた。

ここで仕事の話をして、捕まえておいたほうがいいかもしれない。

身元の確認など、あとからでもできるし、私の予定は大したものではないといえば、確かにそうなのだから。

ここは確実に、ヨコシマを手に入れよう。

私の有能なコマとして。

主人の姿に見ほれて従う犬。なかなかにそそる存在ではないか。

私も女である以上、自分の体に見ほれるガキの存在を可愛いと思ってしまう。

まぁ、度が過ぎれば先ほどのように殴るが。


「あ、そうそう! オネーさまのお名前はなんと言うのですか!」


ヨコシマが、そこでようやく根本的な質問をした。

そう。彼は私の名前を知らずに飛び掛ってきたのだ。

そして私の言葉をさえぎって、勝手に話を進めたのだ。

アホだな、と私は彼についての評価を少し下げた。


私は嘆息交じりに、自分の名前を告げた。





「メドーサだ」




「一生憑いていきます! メドーサさん! 実は外人さんっすか!」


どこか無邪気にそういうヨコシマに、私は胸中で「魔族さ」と呟いた。


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