第三話


「てめぇ! あんまり俺のことを舐めてんじゃねぇぞ!」


唐突にそんな台詞を投げかけられた俺は、

どう対応したものかと首をかしげることとなった。

俺の目の前には、俺と同じ白竜会の胴着を着た男が立ちはだかっているのだが、問題はその表情だ。

なぜか、怒っているのですよ。

しかも『おいおい、お前の冗談はいつもきついな〜』って感じの、

ちょっとした怒りじゃなく、まるで親の敵を見るみたいなんですよ。

こっちが冗談じゃないですぞ?


(何なんだ?)


うん、訳が分からない。

何かやばい行動をしたのか、と俺は自分の今までの行動を振り返ってみる。


学校を終え、その足で駅に向かって、

電車に乗って、そして俺は一直線に白竜会道場へとやってきた。

学生鞄を自分の胴着箱の隣に立てかけ、すぐさま学ランを脱いで胴着に着替える。

白竜会では空手とは違い、全員が黒い帯を巻く。

正直これだとぱっと見たときに相手の実力が分からないのだが、

そんなものは相手の霊力そのものを見て判断しろ、ということらしい。

まぁ、たしかに。

霊の体に実力を現す部位なんてないのだから、

普段から霊視に慣れておいたほうがよいというのは自明の理。

相手が『白帯だから』とか『黒帯だから』ではなく、雰囲気で読み取るのが大事。


そんなわけで、黒い帯を巻いたら準備完了。

まずは体を温めて……というところで、いきなり『舐めるな』である。


「訳が分からんっすよ?」

「んだとこらぁ!」


俺の答えが気に入らなかったのか、突然声をかけてきた男の感情線はさらに捻じ曲がる。

どうしたものかと、

俺が再度……先ほどは右に曲げたので、今度は左に……首を傾げようとすると、

そこにさらにもう一人の男がやってくる。


「おい、何をやってんだ? 組み手なら俺も混ぜろ! 順番な!」

「おいおいユッキー、ちょっと待てよ。俺は別に組み手なんかしないぜ?」

「んだよ? だったら単にもめてたのか? 道場内で無駄な喧嘩はご法度だぜ? 横島」


こいつの名前は雪之丞。

俺と同い年で、この道場には俺より前から通っている、いわば兄弟子の一人。

体を鍛えることが好きで、好戦的な性格の男だが、

今の会話からも分かるとおり、ちゃんと分別はつく男だ。

ユッキーがその男を一睨みすると、男は視線をそらして舌打ちし、去っていった。


「なんだったんだ、あいつ?」

俺が疑問を呈すると、ユッキーは苦笑した。

「横島が新入りだから、いちゃもんつけたかっただけだろうな」

ユッキーが、あの男の性格を把握した上での分析を、俺に投げやる。

「そういうもんか」

「あいつはそういう奴だよ。名前は陰念」

「まぁ、一応覚えときます」


強面なんだよなぁ、あの人。

両目の上に傷があって、そこから霊波を飛ばしたりするし。

実力的にも、かなり強い人なんで、俺は内心ちょっとびくびくしてた。

うう〜。

道場内は他の人がいるからいいけど……よし、今度から、トイレとかは気をつけよう。

力的に言えば、ユッキーのほうが強いのだけど、

なお、ユッキーはトイレで俺のこといじめるような奴じゃないし。

やっぱり、さっぱりした性格の奴って、いいよな。


「それより横島。組み手するぞ、組み手! 俺の新技の感想を聞かせてくれ!」

「カンクローさんに頼めよ、そういうの」

「あいつとの組み手は苦手なんだ……」

「……わ、わかる。なんとなく。なんか、やたら寝技に持ち込もうとするし」


カンクローと言う人物は、先ほどの陰念とは別の意味で、危険な人物だ。

しかも、俺にとってだけではなく、

ある意味、ユッキーにとってすら脅威となる人物である。

あの人とも、トイレでは鉢合わせしないようにしなければならない。

そうしなければ、俺の純潔が…………!


「ま、まぁ、カンクローさんのことは、ちょっと置いておこう」


…………何だか嫌な光景が思い浮かんだので、少し思考を転換した。

えーっと。

俺と雪之丞は、この道場内でもかなり仲がいい。

これは実に意外な接点なんだが、

俺は過去にこいつとミニ四駆の大会で戦ったことがあるらしい。

今となっては鮮明な思い出ではないが、

ああ、なんと言ったか……そう、ダテキラー? いや、違うか?


まぁ、そんな思い出話もあるせいか、あるいは年が同じせいか、こいつとはこんな感じだ。


「とりあえず、俺は体を温めるわ」

「おう。後から付き合えよ!」









          第3話   横島クンの日常、道場編










道場通いの、その一日目。

俺はメドーサさんの連れてきた新人ということで、

ユッキーにいきなり対戦を申し込まれた。

今なら分かるが、好戦的なユッキーは、

新しい人間の実力が知りたくて、うずうずしていたのだろう。


まぁ、初日にいきなりそんなことを言われても、俺としては戸惑うしかなかったのだが、

メドーサさんが『雪之丞に5発攻撃を通じさせれば、ご褒美を考える』なんて言ってくれるので、

全身全霊で頑張っちゃったりした。


『こぉんちくしょぉぉぉぉ!』

『ふっ! まだまだだな、横島!』


そりゃそうだろうなぁ。だって俺、正真正銘の素人だし。

そう思いつつも、俺は何度も何度もユッキーに突撃した。

メドーサさんのご褒美。

何がもらえるかは分からなかったが、

しかしそれは俺に力を与えてくれるだけの、とてつもないパワーを持っていた。


『何が何でも勝ってやる! 俺は勝たなければならんのだぁ!』


軽いキスでもいい! 何なら、頭ナデナデでもいい!

いや、メドーサさんは魔族! 考え方が人間とは少し違うんだ!

もしかすると、かなり凄いことまでやってくれたり、やらせてくれたり!?

唇! 首筋! 胸! 腰! 太もも! ふくらはぎ!


『う、うおぉぉぉおおおぉおおおおお!! 行ける!? 行けるのか!?』

『荒い動きだが、この気迫はっ!? やるな横島っ! だが!』


ユッキーの動きは、俺の軽く3倍先を行っていました。 

ユッキーのパンチが腹を襲い、吐き気を催すごとに、

俺はあのメドーサさんの豊満な胸の感触を思い出して、自分を奮い立たせた。

勝てばご褒美、負けても5発殴ればご褒美、というのが俺に更なる力を与えていた。


(5回殴ればご褒美! 5回殴ればご褒美! 5回殴ればご褒美!)


KOするのは無理。

でも、手を伸ばせば届く位置にいる相手を5回殴るだけなら、無理っぽくなさそう。

適当にパンチを出せば、少しぐらい当たるのでは? そういう現実感。

絶対に勝てないなんて思わないから、無力感もないわけで。

俺は無謀にも、どんなに苦しくてもギブアップしなかったわけで。


『まぁ、そこそこ楽しめたぜ、横島。気合だけはそれなりだな』

『…………はひゅ〜、はひゅ〜』(←かなりやばい呼吸音)


結果は惨敗。もう、ボロクソにやられました。ええ、足腰立たないくらい。

ドラマで恋人に振られて、街中で荒れに荒れて走り行く。

で、やくざにぶつかって、謝らなかったのでボコにされる人……そんな感じ?


俺の振り回した腕は、ユッキーに2回しか当たらなかった。

いや、2回当たっただけでも御の字か。

もともと素人の俺のパンチが、

修行漬けのユッキーにヒットすること自体、ありえないはずなんだし。


で、メドーサさんが直々に連れてきた新人にしては、ちょい弱すぎっていう話になった。

だから俺が正直に『ズブのど素人です』って告白したら、今度は逆に褒められた。


『おいおい、素人だって?

 なのにあの気迫はすげぇ! よく雪之丞に諦めずに立ち向かったな!』

『こんな奴が、まだ世間にいたなんてな! 強さを求める姿勢、これぞ本物!』

『ああ。まだまだ無謀だが、これは磨けば!』

『ふふふっ! 面白い奴が入ってきやがったぜ!』


…………みたいな感じ。

内心、ご褒美が欲しいだけに頑張ったとは言えないなぁ、って思いました。

いやぁ、そりゃ強くなりたいですけど、

今の俺の最終目標は、メドーサさんとベッドで愛を囁いたりなんかしちゃったり……まぁ、そんな感じだし?

誰も近づけない孤高の強さとか、そういうのが最終目標じゃないんで……。

ごめんなさい、不純な奴で。


……で。ユッキーとの試合終了後、

メドーサさんがようやく口を開いて、俺の説明をしてくれた。


曰く『使えそうな、でも今はまだただの高校生』


これから鍛えて使えるようにしろ。

それが先輩の役目ってもんだ。要約するとそんな感じ。

ユッキーはメドーサさんのこの言葉に、痛く心打たれたらしい。

多分、本人がもともと強くなるためにこの道場に入ったからだろう。


『俺が鍛えてやる! 一緒に強くなろうぜ!』

『ああ、頼むぜユッキー!』

…………などと、ユッキーは俺と硬い握手をした。うん、青春だ。


で、今日の今日まで、

順調に道場通いを続けてたんだが、陰念に因縁をつけられてしまった。

強い先輩と仲がよさそうにしているのは、

やはり生意気に調子付いてるように見えるのか?

さん付けで呼んだほうがいか? 

今襲われたら、俺は即座に病院行きかも……。


「おい、どうしたんだ、横島?」


組み手の準備が整い、俺はユッキーと相対して立っていた。


「ん、ああ。別に。ちょっとした考え事」

「集中しろよな」

「ああ、分かってますって。新技のテストはともかくとして、今日こそお前から一本とってやる!」


もちろん、ハンデを設定した上での一本で、

ユッキーを完全に打ち負かすわけじゃないので、あしからず。

いや、どう考えても、無理だし。今の俺が、マジのユッキーに勝つなんて。

で、ユッキーに勝てば、ハンデ設定が緩和されるのだ。

分かりやすく言えば、最初は腕1本しか使えないユッキーと対戦。

それに勝てば、次から両手を使用するユッキーとの対戦となるわけだ。


「全力できやがれ! お前が学校に行っている時間も、俺が修行していることを忘れるな!」

「いくぞ!」

「ふっ、新技には気をつけろよ?」


そう言えば、新技を試したいと言っていたよな。

と言うことは、ある意味ハンデとか何とか関係なしに、今日の俺は実験台なわけだな……。

まぁ、相手が思いもかけない技をしてきて、

それに即座に対処していくのも、大事なことなんだけど。

…………だが、ユッキーが新技の手加減を間違えたら、

俺はそのまま、天国にご招待されちゃうのでは?


「えーっと…………参考までに、どんな技っすか?」

「詳細まで教えるわけないだろ? 

 新技があるってことを言っただけありがたく思いやがれ」

「ま、そうっすよね」


この先輩は、後輩の育成方針を『習うより慣れろ』としている。

うん、スパルタだよな。

なお、ユッキーは中学卒業後、この道場に住み込みだそうだ。

なんでも母親が死んじゃってるせいとかもあり……まぁ、色々あるそうだ。

それこそ、俺とミニ四駆で戦っていたときから、こいつの家の中は色々あったんだろうな。

だからこいつは、力を求める。

母親に貰った自分の体を、最高のものとするために。


だが、俺だって負けていられない。

メドーサさんに期待されているのだから!


すでに俺は劇的な進化を遂げている。

そう、俺はもう、一般的な男子高校生ではないのだ。

感覚なんてかなり鋭いし、

簡易的な肉体強化も出来たり、小手先だけの技なんかもあるのだ!


メドーサさんが言うには、俺は無意識にも霊能力を使っているらしい。

それは一般人にも言えることで、

たとえば緊急回避を可能とするような、瞬間的な未来予知や肉体強化なんかがそうだ。

災害で大規模な落石があったなら、

その落石位置が視えたり、そしてそれを避けるために限界を超えた動きをする。


で、俺はそれを無意識に使っているのだ。

オネーさまの姿を追ったり、オネーさまの体に抱きついたり、そういうときに。

実際、メドーサさんに飛び掛ったときなど、

自分が『俺ってすげー動きするな』って感じるときは、体内の霊気を駆使しているのだそうだ。


ようはその霊気使用の感覚を覚えればいいのだ。

無意識に使っていたものを、意識して、好きなときに使えるようになればいいのだ。

そう。その感覚は、すでに体得済み!


気まぐれに道場を見に来るメドーサさんの霊気を感じ、そしてそれを眼で捉え、ダイブ!

その繰り返しで、慣れました!

メドーサさんの反応速度を超える出力で飛び掛れば、あの胸を我が物に!

気配を殺して、感づかれないように接近! そしてあの胸を我が物に!


日常、これすなわち鍛錬。


俺の霊気コントロールはもう、かなりのレベル! 

コントロールだけなら、ユッキーにも負けない!

嫌がらせに他人の家のピンポンを『ピポピポピポピポピポピポピポピポピポッ!』って鳴らすくらい、

霊気を出したり溜めたり出したり、ちょっと漏らしたり、出したり溜めたり漏らしたり!


「んじゃ、行くぜ?」

「ああ、来いよ、横島」

「…………うっし! でやぁぁぁ!」


霊気を体にまとった俺は、気迫を声に乗せユッキーに接近する。

ユッキーが迎撃のために足に力を溜めたのを見計らい、

体にまとった霊気をそのままユッキーの右側面に流す。

そして俺自身は霊穴という、霊気を出す穴をすべて閉じ、気配を消す。

肉眼では確かに俺は目の前にいるのだが、

ユッキーには俺が右側……ユッキーから見れば左側面……から襲い掛かってくる錯覚を覚えただろう。


これぞ俺式分身術! その名もデコイ。

まぁ、まんまなネーミングなんですけどね。あんまり凝っても仕方ないし。


生物である以上、眼で追えているのに……いや、追えているからこそ、

つい戸惑ってしまうという、何とも小ざかしい技!

でも、今の俺が最も自信を持つ技だ。

『ふぅん、昨日今日の修練で、よく考えたじゃないか』

……などと、メドーサさんにやったら、びっくりされた。

あの人は引っかかりはしなかったけど、

俺がまだそういう風に、細かい霊力制御できるとは思っていなかったらしい。


(さぁ、一瞬でも判断に迷えば、俺はお前の背後を取るぜ、ユッキー!)


一瞬間に、俺たちのさまざまな思考が入り乱れる。


「しゃらくせぇぇぇ!」

「なっ!?」


うまく惑わすことが出来れば、

いまだ総出力で及ばない俺でも、勝機が見える。多分。

そう、そのはずだった。

だがユッキーは、俺のまったく想定していない攻撃に出た。

なんと、怒声を吐きつつ、体中の霊気を俺に噴射してきたのだ!

それは広範囲の攻撃であり、俺はデコイと一緒にその噴射を体に受ける。


「喰らえぇぇ!」

「ひぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


霊気の波を受け、俺の体はユッキーの前から道場の端まで吹っ飛ばされた。

あれです。よくコントとかである、消防の放水を受けて吹っ飛ぶ若手芸人のようです。

足に気合を入れるんですが、全然駄目駄目。

俺の今の出力じゃ、ユッキーの放水に眼に見える抵抗は出来ませんでした。

って、こういう表現すると、ユッキーが股間から何かを漏らしたみたいだな。

すまん、ユッキー。俺は胸中で謝罪する。


「いってぇぇ〜。頭ん中で謝ってる場合じゃねぇ」


もしかすると、俺の思考はダメージによって、混乱していたのかもしれない。

とてもではないが、この一撃のダメージだけでも戦闘続行は、不可能である。

と言うか、これは道場通いを始めて、数週間の後輩にする技じゃないだろ!?


「くうぅ」


壁に叩きつけられた俺は、頭を振りつつユッキーのほうを見やる。

奴はにんまりとした笑みを浮かべていた。一言で言えば、勝ち誇っていた。

『見てくれたかい、ママ?』なんていう奴の台詞が聞こえてきそうだ。

くそう。いい気になりやがって、ユッキーめ。

何がどうって、デコイごと葬り去られたのが悔しい。

引っかかりそうなものは、すべてまとめて吹っ飛ばす。

確かに雪之丞らしいデコイ攻略法だけど。


「どうだ横島! 俺の霊波砲の味は!」


釣り目のせいか、満面の笑みがどこか可愛くないユッキーだった。


「すーっげえ、苦いよ! ああ、それはもうドクダミ茶のようにな」

「いや、ドクダミは止めてくれ。一応新技なんだぞ」

「すんまそん」


これは組み手というのか? という組み手が終了し、そのまま雑談タイム。

ちなみに組み手をした総時間は6秒という、まさに瞬殺だったりします。


「ちょい、出しすぎたな。疲労が激しいぜ。もうちっとうまく制御しねぇと」


ユッキーは自身の新技がどういうものか俺に説明し、俺は俺で敗因やら何やらを思考する。

むぅ。霊波砲……。これこそデコイか何かで回避すべき技だな。

直撃はまずい。実践なら死んでますよ、俺。

ちゅーか、んな技を俺で試すなよ。マジで。今度からは、もう少し加減してくれ。


(ユッキーを倒す壁が、またいっそう高くなったなぁ)


霊気を感じる、そして視覚的に認識する。これが第1段階。

霊気を動かす、そして自身の手足の延長とする。これ、第2段階。

霊気の出力を高める、そして様々な術を行使する。これは第3段階以降。

ユッキーは第3段階にいて、

出力強化の末に、霊気を波として放出できるようになった、か。


でも、俺はまだ第2段階。

俺のデコイは、その制御に優れているから小ざかしくも技だけれど、やっていること自体は第2段階だ。


このままユッキーが出力を順調に上げ、

様々な術を覚えれば、最終的に魔装術とか言う、奥義に達するんだろう。

それがどんなものか詳しくは知らんけど、くっそ……差が縮まらない。

繰り返すことになるけど、

ユッキーは俺よりだいぶ早くからこの道を走っているし、

それは当たり前のことなんですけど、でも悔しい。


勝ちたい。負けは嫌じゃ。痛いし。


「でもすごいな、霊波砲って。連射とか収束とか出来るのか?」

「連射はまだ無理だ。言ったろ、新技だって。

 まぁ、来週末までには両手から出したりも、な」

「くぅっ、俺も早くマスターしないと」


ふむふむ。やはりある意味で、デコイともちゃんと通じるものがあるような気がする。

ようは、放出霊気の総量などで、すべてが変わってくるのだろう。

で、俺が『砲』と呼べるまでのものを出すまでには、まだまだ鍛錬が必要なのだ。

となれば、当面はユッキーの攻撃を回避する新技考案、そして総出力強化訓練が必須だな。


白竜会では先輩後輩の実践による成長が是とされているので、

自分より強い相手に、どうやって勝つのかを考えるのが割と楽だ。

もっとも、考え付いたところで、それを実践できるかどうかは、別問題なんだけれど。


ユッキーも、多分俺と似たような道を行ったはず。

だから、俺の次なる手を大よそで読めるはず。

そうなると俺は、これまでにない新たなる手を考えなければならない。


「今に見てろよ、ユッキー。俺はお前の考え付かない手で、お前を驚かせるぜ!」

「ふん、やってみやがれ! 受けてたつぜ!」


俺とユッキーは、視線をぶつけ合う。

そこに、なにやら少し潤んだ視線が、どこからか混ざってきた。


「あらあら、頑張るわねぇ〜」



話し合う俺たちを、カンクローさんが微笑ましそうに見守っていた。

ユッキーよりも強い人。この道場で、最高位の能力者。

……女の人ならいいんだけどなぁ。むっちゃ男なんだよな、この人。

ちなみに苗字は『鎌田』だったりする。

先にも言ったが、この人と一緒にトイレには行きたくない。

下手に二人きりにはなりたくない。悪い人ではないと思うのだが……。

なお、俺にはユッキーも同意見。

と言うか、道場に出入りするほとんどの男が同意見。



      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



その日、俺は午後7時まで道場で鍛錬をした。

まぁ、そんな毎日ですよ、ここ最近。

つーか、いまだに背が伸びるんすね。びっくりっす。


適度……いや、ある意味過度?……な運動と、十二分な栄養補給!

こりゃ、高校卒業するまでに180cm越すかもしれないな。


どうせなら、次ぎに会うときまでに鍛えまくって、お袋をびっくりさせちゃる。

俺にはまだ、あんなのでも一応母親がいるんだしな。


……って、今日はメドーサさんに会えなかった!

ああ、日に一回はその姿を見ないと、

俺の霊力はうなぎのぼり改め、風の吹かないこいのぼりですぞ。

そう言えば、あの人は普段どこに住んでいるんだろう……?


お風呂を覗くことも、

ちょっとした少年らしい好奇心から、

部屋に忍び込んで下着を手に取ることもできない……。

今度、どこにすんでるのか、聞いてみよう。


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