番外



机を背負って、俺は愛子と一緒に並んで歩く。

テストも無事に終わり、学校に愛子のことも報告した。

学校側……と言うか、担任だけど……は、

愛子が学校に通うのを、前向きに考えると言ってくれた。

一応、会議にみたいにして、

他の先生にも愛子を紹介してくれたし、あれで大丈夫だろ。


テストや愛子などの心配事は、今のところ問題もなく、無事に行っている。

メドーサさんも、愛子が道場に来ることに、別に何も言わなかったし。

俺にしてみれば、肩の荷が降り立ってところだな。

まぁ、とは言え、机を担いでいるわけですけど。


俺はふと、隣を歩く愛子を見やりつつ、考える。


セーラー服の少女と、机を背中にロープで固定した少年。

そして今歩いている場所は、放課後の繁華街だ。

人通りは言うまでもなく多く、周囲の喧騒が、

俺たちの通過している場所だけ、微妙に違ったものになっている。


例を挙げるなら、こんな感じだ。

まず、俺たちが歩いていて、前方から二人組みの女の子が来る。

しゃべっている内容は、昨夜のTVか何かだ。


『えー、マジで?』

『そうなのよ。でね、次回で……』


で、ここで俺たちが彼女たちの視界に入る。


『…………って、何あれ?』

『さぁ? 罰ゲームとか?』

『カメラやスタッフはいないし、TVでもないみたいだけど』


こんな風に、俺たちを見る前までは、

明らかに違う内容の話をしていたはずなのに、

俺たちを見た後は、ずっと俺たちの正体について、想像を巡らすのだ。


恥ずかしいか、と聞かれれば、

正直かなり恥ずかしいかもしれない。


「どうかしたの、横島クン?」

「ん? んにゃ、別に」


俺の顔を覗き込み、質問してくる愛子に、俺は適当に答えた。


愛子の机を担いでいるから、注目を集めていて、

そのせいで目立って恥ずかしくて仕方がないぜ……なんて言えない。

そんなことを言えば、愛子が気にしちゃうだろうし、

それに、もともと『いつもそばに……』と言ったのは俺だし。

男なら、自分の言ったことには責任をっ!


まぁ、学校から道場までは、すでに歩いたんだし。

ここだって何回か通れば、そのうち注目されることもなくなるだろ。

ようは、慣れだよな。


「ところで、横島クンの言うお店って、まだ先なの?」

「んー、もう少し先だと思う」


愛子の次なる問いかけに、俺はまたしても適当に答えた。


そもそも、何故俺が愛子と一緒に、

こうして繁華街を歩いているのかと言えば、その答えは実に簡単だ。

愛子と一緒に住むことになったので、

愛子用の日用品をそろえることにしたのだ。


もちろん、愛子は妖怪だ。

人間とは身体能力も、機能も違う。

ぶっちゃけちゃうと、宙に浮くこともできるんだし、

靴なんて要らないと言えば、確かに要らないのかもしれない。

体をちゃんと制御すれば、汗もかかないわけだし、

風呂に入らなくても、乾拭きで事足りるのかもしれない、


でも、実際そういうわけにも行かないだろ?


愛子は定期的に霊力を供給してもらえば、

それでもう、食事をする必要はないらしい。

外見だけ見てると、全然そうは思わない愛子だけど、

そういうことを言われると、やっぱり妖怪らしいよな。

……で。つまりは、俺が愛子の霊力を渡すだけで、十分らしい。

でもだからって、

愛子の食事を作ってもらって、俺一人が食うのもなぁ。

どうせ食うなら、一緒にテーブルに座って食いたい。

となると、愛子の茶碗も要るわけ。


そんなわけで、取り敢えず色々と買おうとしているのだけど……。


俺もしっかりと把握しているわけじゃないしなぁ。色んな店の場所。

たとえば、俺のシャツとか下着は、

お袋がいたときから基本的にバーゲン品だ。

だから、俺も時々デパートを覗いて、安い下着を購入するだけ。

んなわけだから、ブテックなんかに行ったことはない。

それに茶碗なんて、どこに売ってるんだか。

ホームセンターか何処かか? 

ホームセンターって、どの辺にあったっけ?

茶碗なんて、そんなに頻繁に買うもんじゃないしなぁ。


もちろん、彼女のいない俺にとっては、

ランジェリーショップだとかも守備範囲外だ。

女物の下着に興味がないわけじゃないけど、

さすがに男一人でそういうところに行って、ハァハァしないだろ。

いくら俺がエロ人間だとしても、さすがにそこまではな……。


「ねぇ、横島クン。ちょっと質問なんだけど」

「なんだ?」

「メイド服って、普通の洋服店に売ってるものなの?」

「っえぇ!?」

「? 何? どうかしたの?」

「愛子、メイド服着るのか?」

「だって、私は横島クンのメイドなんでしょ?」


歩きつつ、ぽつりと愛子の漏らした言葉に、俺は驚かされた。

まさか、最初から自分でメイド服を着るつもりだったなんて、

まったくこれっぽっちも、本気で思っていなかった。

確かにメイドとして、働いて償えとは言ったけどさ……。


ふむ。


最初から着るつもりなら、ちょっと予定を変更しよう!

もともと、それとなくメイド服を勧めるつもりだったが、

これなら最初からメイド服を購入しても問題ないだろ!


ブテックの場所は知らないけれど、

そういうコスプレ用品を売っている場所は知ってるぜ!

そういう場所には、

ビデオだとか、本だとか、エロ下着だとか、色々売ってるしな!


…………あ、愛子のセーラー服姿はまずいか。


思いっきり高校生って感じじゃ、まず店に入れないしな。

よし、じゃあ、もうデパートでいいや。

そこで適当に服を買って、次にメイド服だ!

別に俺はそこまでメイド服にこだわりはないけど、

どうせなら、一度は生で着こなしを見てみたい!


「よし行こう、愛子!」

「ど、どうしたの、急に?」

「ふっ! 気にするな!」


俺は愛子の手を取り、走り出す。

机を担ぎ、少女の手をとって、さらに疾走する少年。

その光景はものすごく目立つものだったんだが、俺は気にしなかった。


男はロマンの前には、小さいことは気にしないのだ!














            第6.5話      想定の差異と……










前代未聞。

そんな言葉が、近年の教育の現場では、叫ばれている。

教師による、あまりに程度の低い不祥事や、あるいは生徒の奇行。

もしくは、学校外部からの侵入者による、教師生徒に対する殺傷行為。

例を上げれば、キリがないと言える。

しかし、そんな現代の教育の風潮に対し、

この高校は、大して危惧していなかった。


人間の温和さ、と言うのだろうか?

表立っていじめが横行し、

それを教師が見て見ぬふりする……と言うこともなく、

また、教師間の大きな派閥の対立も、ない。


日々、小さな喧嘩や事件は起きている。

しかし、それも想定の範囲内なのだ。

モメ事が起こらなくなるはずもない。

テストの不正が完全になくなることもない。

日々、皆が大なり小なりのストレスを感じて、生きている。

しかしだ。

しかし、苦痛から道を踏み外すものも、いないのである。

ごく普通の、高等学校。

そう。

TVにとり立たされる問題を、対岸の火として眺める、

そんなのんきな高校なのだ。この学校は。

いや、正しくは『学校だったのだ』と言うべきかも知れない。


何しろ『横島忠夫』という一生徒が、前代未聞の質問をしてきたのだから。

今となっては、のんびりとした空気など、微塵も感じられない。


曰く『妖怪と知り合いになったんですけど、一緒に通っていいすか?』


何とも、軽い。

それはまるで、今日の夕食のメニューの確認のような口調だった。

『秋刀魚が安かったんですけど、それでいいすか?』と、そんなレベルの口調。

恐らく、横島忠夫という生徒は、

大して物事を考えずに、そう提案したのだろう。

だが、実際そんな質問一つで、OKサインを出せるはずがない。



今、横島忠夫の高校では、盛大なる職員会議が行われていた。



つい先ほど……とは言え、もうすでに30分以上前……までは、

ここに件の横島忠夫と、妖怪もいたのだ。

そして彼らが退室した後、

残った教師陣は、ああだこうだと、いまだに議論を続けていた。


妖怪と言う存在そのものについては、教師全員が納得している。

昭和の時代に流行したオカルト・ブーム。

そのころはまだ、妖怪や幽霊と言えば眉唾物でしかなかった。


しかし、平成に入り、バブル期にGSと言う職業が台頭して以来、

物の怪の類の存在は、すでに民衆からしっかりと認知されている。

また、愛子自身が宙に浮かんだり、

机をまるで生き物のように動かしたことも、認知の速度を速めていた。


さて…………。

妖怪が学校に侵入しており、

その妖怪と生徒である横島忠夫が接触。

その後、横島忠夫はこの妖怪と意気投合し、

普通にこの妖怪が学校に通えないか、と考えた。


その一連の流れは、理解できる。

しかし、繰り返すが、

理解できたからと言って、すぐさまOKは出せないのだ。


妖怪と言う存在。人ではない存在。

その能力が脅威となりうる可能性がある以上、

危機管理の面から見ても、通学は許可できない。

しかし、もし通学を許可しない場合で、

横島忠夫が、その妖怪を『私物』として所持してきたら、どうするのか。


一昔前のたまごっちではないのだ。

まさか、取り上げるわけにも行かないだろう。

取り上げて職員室に置いておいたところで、現状は全く変化しない。


普通なら、机は学校の備品である。

しかし、あの愛子と言う妖怪の机は、

いつの間にかこの高校に紛れ込んでいたものであり、誰のものでもない。

横島忠夫が所有権を主張し、妖怪本人がそれを認めれば、

少なくとも学校側が強制的にどうこうすることは出来ない。

昔は、生徒の長髪を戒めるため、

教師がバリカンで強制的に髪の毛を刈った時代も、あるにはあった。

生徒が持ち込んだ私物を、教師が没収し、焼き捨てたことも、あるにはあった。

しかし、現代において、そのようなことは出来ないのだ。

生徒のほうも、

教師にそこまでの権限が法的にないことは、重々承知しているのだから。


いやいや。そういう問題でもない。


だから、仮に取り上げたとしても、

捨てることも燃やすことも出来ないのだ。

相手は、妖怪なのだから。


会議は、煮詰まっていた。

学校とは多くの人間が集まり、念の蓄積する場所。

怪談の発生しやすい場所であり、

また多くの妖怪も生まれると言われている。

しかし、実際に学校妖怪と対面することなど、前代未聞だ。



「彼女を見る限り、凶暴そうではなかったが……」



一人の教師が、そう発言した。

すでに議論は一転二転し、わけが分からなくなっていた。

しかし、その発言により、

再度議論内容が、もとのレールに乗りなおす。

今の発言者は、愛子許容派だった。

外見が人間であり、

性格も大人しいのであれば、通わせてしまえばいい、と言うのだ。


なお、下手に通学を禁止し、逆恨みをされる可能性を考えれば、

妥当な判断ではないか、と言う意見なども、許容派を援護している。



「しかし、凶暴かどうかを、外見だけで判断するのは!

 相手は物の怪なのですよ!?」



すぐさま、保守派の教師が反論した。


現在の情勢は、

愛子という妖怪を『取り敢えず学校に通わせる』が4割。

それに対し、何かの理由をつけて『処理してしまうべきだ』が4割。

どちらとも言えない『様子を見ようじゃないか』が2割である。


言い換えるならば、

賛成4。条件付賛成が2。絶対反対が4……というところだろうか。

やや、許容派が有利だとも言える。


その不利な情勢からか、

愛子を通わせないべきだ、と言う保守派は、声を張り上げる。


保守派の主張は、

一般的な観念から見れば、決して分からなくもない。

いつ変容し、人を襲うか分からない物の怪。

そんなものを校舎に安々と招きいれ、

今後もしも第事件に発展した場合は、どうするのか。

多くの生徒を保護者から預かっている『学校』なのだ。

危険因子の混入は、出来うる限り避けなければならないのだ。


しかし、だからと言って、

愛子の存在をどうするかと言う具体的な解決策も、保守派にはない。

テスト期間中、すでに愛子は横島忠夫と学校に通っていた。

彼のクラスを中心に、多くの生徒に受け入れられている。

もし、学校側がGSを召喚し、

愛子の存在を滅したならば、大きな不満が生徒間に発生するだろう。


いや、生徒のみではない。

すでに多くの教師も、愛子の存在を受け入れ始めているのだ。

愛子の性格は、決して悪いものではなく、むしろ好ましいものだった。

直に接しておいて、それを嫌えと言うのは、無理な話である。


「相手は妖怪です! 性格がいいとか、そんなのは全部演技です!

 人に取り入るためのものに決まっています!

 騙されてるんです! 本当は狡猾に決まってます!

 だって悪魔とか何とか、そういう類は、

 昔からそう相場が決まっていますから!

 即刻、GSに依頼して、妖怪を殺すべきです!」


保守派の一人…………先ほどもすぐさま反論した若い教師が、

愛子の人格について、そのものの非難を開始した。

愛子に好印象を持っている教師にしてみれば、

彼のこの発言は『愛子君を絶対通わせて見せる!』などと言う、

そんな火に油を注ぐようなものだった。


そして同時にこのとき、保守派の教師も、

先ほど見たただの女生徒にしか見えない愛子を、

『殺す』と言う案には、かなりの難色を示し始めていた。

確かに、彼女は妖怪であり、危険だと思う。

だが、傍目からただ見ているだけなら、そうは感じない。

そんな存在を有無を言わずに『殺す』と言うのは……。


妖怪に対し、人道的や道徳的という言葉は相応しくないだろう。

しかし、繰り返すが、格好はただの女子生徒なのだ。

少女がGSに攻撃され、

悲鳴を上げながら消滅すれば、やるせない思いだけが残ることだろう。



「あの妖怪が可愛い!?

 皆さん、どういう目をしているんです!?」



叫び続ける保守派の教師は、

お化けや何だと言った存在が、どうしても許容できないらしい。

彼はまだ若い、大学を出たばかりの男性教師だった。

彼は年配の教師陣にはないような、大きなお声を持って

ポツリポツリと湧いてくる愛子許容意見を、ここぞとばかりに潰そうとする。

黒髪を、額に浮いた汗によって湿らせ、そして声を張り上げる……。



「しかし、では聞きます。

 仮にGSに依頼をするとして、そのお金はどうするんですか?」



ほとんど半泣きになりながら意見を述べる彼に、

他の教師からの、超現実的な意見が突きつけられる。

そう、お金。依頼料金。

それがGS召喚には必要となる。

しかし、GSには法外な依頼料が必要なのは周知のことである。

歴史ある公立のこの高校に、

そんな余剰予算がふって湧くことは、ない。


「じゃあ、皆さんはどうするって言うんです!」


「いいんじゃないか? 別に」


「そうだ。むしろ、彼女がいたほうが、

 来年の我が校の出願率上昇にも……」


「そうですねぇ。

 可愛い妖怪、愛子ちゃんと一緒に勉強しよう、とか?」


「危機管理については、一応GS協会に申請しておくと言うことで」


「それで十分ですな。

 私立でもない我が校としては、

 実際どこまで議論しても、それが精一杯ですし」


どんどんと、愛子許容に意見が傾いていった。

まだまだ実務的な話し合いは続くだろうが、

この時点で、愛子はこの高校に受け入れられていた。

祓う金がなく、その妖怪が友好的ならば、共存しようじゃないか。

実に簡単な話である。

また、愛子排斥に尽力を尽くしていた保守派教師も、

この会議をまとめるのに、一役買っていた。

彼があまりに愛子を責め立てたので、愛子に同情票が集ったのである。


結果。

総合的な割合で言えば、99対1で『愛子許容』が認められた。


「こんなの、認められません! 認められませんよ!?」


「…………はぁ、少し静かにしたまえ」


会議終了間際になっても、一人だけ騒いでいる男がいた。

あの保守派の若い男性教師である。

すでに決定した事柄に反論し続ける彼。

その光景はまるで、聞き分けのない子供の駄々だった。

他にいたはずの保守派の教師も、

彼からはすでに距離を取り始めている。

すでに愛子を許容できないと主張しているのは、彼だけだった。


そんな彼に対し、一人の老年の教師が、口を開いた。


「君は、何をそんなに叫んでいるのかね?」


白髪をオールバックで固めた、紳士的な教師。

彼は静かな口調で、若い教師に問いかける。

年の功か、それとも本人の人徳なのか。

騒いでいた若い教師も、落ち着きを取り戻して、口を開く。


「相手は、妖怪です。いつ、凶暴化するか……」

「君は、彼女が妖怪だから、危険だと言うのかね?」

「そうです! お化けなんて、全然信用できないじゃないですか!」

「ふむ。君の言いたいことは、分からなくもない」


白髪の教師は、底で言葉を切った。

そして、嘆息し、虚空を見上げる。


「しかし、お化けだから信用できないと言うと……

 人間ならば、すべて信用に足りると言うのかね?」


「せ、先生は、御自分の生徒を信用できないと!?」


「そう言う意味じゃない。

 ただ、人間だからどう、妖怪だからどうと言うのは、

 少々狭いものの見方ではないかね?

 ある意味、君の反論は人種差別的ではないか?」


「私は、危機管理的な側面からっ……!」


「危険など、どこにでもある。

 私など、喫煙を注意した生徒に、刺されたよ。

 この学校に赴任する前の話だがね。

 彼は紛れもなく人間で、そして私の生徒だった。

 不法侵入した妖怪でもなければ、誰かに憑いた悪霊でもない。

 だが、私を刺した。ナイフで、腹をだ。3回もな。

 私はただ、喫煙を注意しただけなのに……」


「………………」


「今の時代は、人間……一般生徒の方が、

 ある意味では危険な時代なのかもしれないと、そう思うよ」


切々と語る白髪の教師に、会議室内に静寂が舞い降りる。

そして、静寂が沈黙になり、その場が停滞する。

その沈黙を破ったのは、白髪の教師の隣に座る、中年の教師だった。


「所詮、人間の敵は人間ですよ」

「…………いや、お前には聞いておらん」

「ふっ。問題ありません。時計の針は、自ら進めることが……」

「何の話だ?」


白髪の教師は、隣に座る中年教師を見やりつつ、嘆息する。

その後……何だか分からない中年教師の締めで、会議は終了した。

最終的な会議の結論は『満場一致で、愛子許容』だった。




      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
      会議終了後、会議室でのある会話




「いや、すまなかったね。君にだけ悪者を演じてもらって」


「かまいませんよ。

 ああでもしないと、まとまるものもまとまりませんし」


「今後、1ヶ月が勝負だ。

 その1ヶ月の間さえ、普通に過ごせれば、

 あの愛子君も、この学校になじむことだろう」


「もう少ししたら、吸血鬼の少年が入学してきますからね。

 せめて、緩衝材になってくれれば……」







      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
         一方、その頃…………




「な、何なの、このお店は!?

 だ、駄目よ、横島クン! 未成年がこんなお店に入っちゃ!」


「駄目って言っても、

 こういうところじゃないと、メイド服なんて売ってないぞ?」


「よ、横島クンの言うメイド服って、どんななの!?」


「え? なんかこう…………こんな感じ?」


そういって指し示した物は、胸元を大きく強調したエプロンと、

何故か腰元までありそうなスリットの入った、ロングスカートを着込んだ女性のポスター。

非常に淫靡なデザインであり、まず普通の街中ではありえない格好だった。



「そんなの、メイド服って言わないわ!」



ごもっともだった。

ちなみに、もともとメイド服は作業着である。

体全体を覆い、ベッドメイクや給仕の際、

髪の毛やほこりなどを落とさないような、

そういう設計になっている。

ポスターの女性は、その設計思想と真逆の服を着込んでいた。


「そ、そうなのか!?]


しかし、何故かそれに驚く少年が一人。


「そんな服を着て、家事なんてできるわけがないでしょ!?

 メイド服って、いわば割烹着みたいなものよ。

 小公子セディとか、読んだことがないの?」


「そんな読書感想文で読まされそうな本なんて、読むわけないだろ?」


「はぁ。もう、いいわ。自分で作るから、裁縫関係のお店に行きましょ?」


「ええ!? いいよ、ここで売ってるメイド服で!」


「私がよくないわよ! そんな服を着てたら、外を歩けないじゃない!」


「外を歩くつもりだったのか!?」


「当たり前でしょ? 普段着にするつもりだったんだし」


嘆息交じりに答える、黒髪が特徴的な少女。

なお、彼女の格好は青のTシャツに、白のスカートだった。


私服の高校生………と、思しき二人組み。

彼と彼女は、

大通りから外れた店の前で、大声で騒いでいた。


なお、その店の周辺には、

『新作ビデオ追加』だとか『セクシーランジェリー』だとか、

何だか原色の派手派手しいフラッグが、乱立していたりした。





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