第九話



「いたいけな子供を、みすみす人攫いに渡せるかよ!」

「だから! 私は正義のGSだって、言ってんでしょ! こんのクソガキ!」

「クソガキ言われて、誰が信じるか! このシリコン胸!」

「っ!? 悪質なデマを流すな!?」



あーもぅ、何なのよ、この子は!



天竜童子を探すことを、小竜姫さまから依頼された私は、

神様に恩を売ると言うことで、それを快諾した。

まぁ、以前妙神山に行ったとき、道場を破壊しちゃったっていう引け目もあったしね。



『武神・小竜姫を倒すこと』が、

妙神山修行場での最終試練だったんだけど、

どうにも強すぎて、勝てる気がしなかったのよね。


で。戦闘とは、何が起こるか予測不能。

その場にあるものは、たとえワラでも使う。

そんな信念から、私はこれ見よがしにギャグくさく転んで、小竜姫さまに隙を作り、

その瞬間、おキヌちゃんに小竜姫さまを背中から襲わせたんだけど……。



もちろん、小竜姫さまはおキヌちゃんの羽交い絞めなんかで

ダメージは受けなかった。だけど、たまたま背中にあった逆鱗に触れちゃって……。


竜化した小竜姫さまは、ここぞとばかりに暴れまわり、修行場は地獄と化したわ。

もう、ぺんぺん草も生えそうにないくらいに。

もちろん、その小竜姫さまの暴走によって破壊された修行場は、

この私がお金を出して、きっちり修繕したけどね。



でも、恩はまだまだある。

だからこうして恩返ししつつ、

さらなる恩を売るために、この私が足を使って子供を捜していたというのに!

何故か邪魔をする高校生が一人、私の目の前にいる。


勝手に修行場を抜け出した天竜童子が、

小竜姫さまのお仕置きが怖くて、あの高校生にあることないこと言ってくれた結果らしい。

あの高校生にしてみれば、私は何処かからお金を貰って、子供をさらう人攫いだそうだ。


GSだと言ったところ、それは認めてくれた。

TVでもよく見ている、とのことだ。

だが、彼は同時に、私がお金が好きなことも、TVなどで重々知っていたみたいだ。

『金好きのGS美神は、金さえ積めばなんでもする!』とか思われてるらしい。



心外だわ!



確かにお金は好きだけど、人としての最低ラインは一応守ってるつもりよ!? 

…………一応だけど。



で、始まった罵詈雑言のやりとりの末、出た言葉が『シリコン胸』ですって?!

あんた、さっきから私の体、ちらちら見てたじゃない!

いいわよ、その台詞、撤回させてあげるわ! 

その上で、地獄を見せてあげる♪



高校生が、大人の色気にどこまで耐えられるかしらね!?



「君、名前はなんていうのかしら?」


声に艶を乗せつつ、私は彼に尋ねる。


「…………よ、横島だけど」

「そう、横島クン。ねぇ、その子を渡してくれたら、

 私、この体でお礼をしてあげてもいいんだけど?」


「な! なんですと!? くっ?!」


ちらちらとこちらを見ていた視線が、じろじろと言う凝視のそれに変化する。

鼻息は荒くなり、奴の喉からはごくりと音がなった。

ふっ、所詮はまだまだガキね!



迷ってる、迷ってるわ。

さぁ、さっさと天竜童子を寄越しなさい。



そうしたら私のこの体の、

特に肘や膝を駆使して、苛め抜いて……もとい、お礼してあげるから!



「よ、横島! 余を見捨てる気か!?

 あのような女子は、絶対約束を守らんタイプじゃぞ!」



横島の頭にしがみつき、天竜童子が大声で怒鳴る。

それにより、横島の視線は私から外れた。



「はっ!? 俺は一体!」

「それでも余の臣下か! 色香に迷うな!」

「あ、ああ。すまない! 確かに、絶対約束守りそうにないよな!」

「その通りじゃ! どっからどう見ても、あの女は性悪じゃぞ!」



ちぃ、天竜童子めっ! 余計なことを!

道の真ん中でセクシーポーズをとった私が、馬鹿みたいじゃない!

…………って言うか、あんたも随分な言いようじゃない!?



「こうなったらもう、実力行使よ!」



私は腰のポーチから神通棍を取り出し、一気に展開する。

一筋の光が伸びたかと思うと、それは私のための剣となった。

また、ポーチからはすぐさまお札を取り出せるよう、その端を軽く引き抜いておいた。


手加減はしてあげるわ。殺さない程度にね! 

でも、死んだほうがマシ級の痛みは与えてあげるわ!

泣いて、叫んで、そして自分の口から出た言葉に、後悔しなさい!


確かに、小さい子を守ろうって言うその気概は大したものよ?

鬼門の見た目は、お世辞にも清廉潔白そうだとは言えないし、勘違いも仕方ないわ。



でもね。



この私を極悪人扱いした罪は重いわ。

こんな清く正しい美女を捕まえて、何を考えてるのよ!



挙句、シリコン胸? 

悪いけどこれ、純正よ! 100パーセントよ!

その腐りきった目を、私がこじ開けてあげるわ!



「悪いけど! うだうだしてる暇はないのよね!」

「くっ!?」



こちらが戦闘状態に入ったためか、横島はかなり動揺したようだ。

多少オカルトをかじっているみたいだけれど、所詮はただの高校生。

プロのGSの霊気を受けて、怯まないはずがないわよね。



ああ。もう、謝っても許す気はないから。


恨むなら、己の口を恨むことね!



「@−デコイ!」



横島からこちらに向かって、数個の霊気の塊が飛来する。

横島自身、射出した瞬間に気配を消しているため、これは非常に厄介な技だと言える。


霊的戦闘では相手の霊力を捕らえる霊視が基本であり、それゆえ誰もが霊視を重視する。

だからこそ、気配の変化に引っかかるのだろうけど……。

すでに鬼門がかかっているのを見た以上、私には効かないわ。


ま、仮に見てなくても、この私が引っかかることなんて、ないけれどね!



「はっ!」



小さく息を吐き、私は神通棍を振り下ろす。

彼の放った霊気は、

私の攻撃により破壊され、その中にこめられた霊気を空間へと拡散しようとする。



「吸引っ!」



しかし、その拡散を黙って見てるわけには、行かないのよね。

私はポーチから一番安い50円の破魔札を取り出し、その中にすべての霊気を封印する。

悪霊を封印する破魔札だが、こういう使い方もできるのだ。



「……で? 次は何をするのかしら?」



「横島! 早く次を出すのじゃ!」

「駄目だ! あれじゃ、俺の霊力が無駄に吸われて、先にこっちのスタミナが切れちまう!」



その通り。

なかなか分かってるじゃない。



瞬間的な大出力霊波は吸引できない。

つまり、霊波砲などは高級な破魔札のキャパシティでさえ超えてしまう。

まぁ、だからこそ、悪霊もシバいてその力を殺いでから、吸引するわけね。

でも……素人少年の作り出すものくらい、この50円札でも十二分に吸いきれるわ。


「よし、横島! 新しい技を何か考えるのじゃ!」

「無理に決まってんだろ! んな簡単に必殺技が編み出せりゃ、誰も苦労せんわ!」


天竜童子と横島は漫才のような受け答えをする。

初対面にしては、なかなか息が合ってるわね。


しかし、そんな下らない漫才をいつまでも見ている気はない。


私はその馬鹿なやり取りを聞き流しつつ、ポーチからもう一枚、札を取り出した。

馬鹿二人組みは、私の動きなど気にも止めず、漫才を続行している。



「なら、どうするのじゃ!?」

「決まってるだろ!」

「なんじゃ?」

「逃げるんだよ! ……って、うおぉぉお!?」


走り出そうとした横島だったが、目に見えない壁に行く手を阻まれ、その場にこけた。


「逃がす分けないでしょ?」


私の手に握られた札は、

その内部に込められた力を発揮し、私を中心に強力な結界を作り出す。

横島がどれだけ体当たりをしたところで、この結果を破ることは出来ない。

繰り返すけど…………素人の高校生が、最高ランクGSの私に勝てるはずがないのよね




チェックメイト。

そうでしょ? お馬鹿な高校生の、横島クン?

貴方に逃げ道は、唯の一つもないのだから。


「さぁ、さっさとその子供を、私に渡しなさい」

「あ、今の洒落っすか? 私に渡し……」

「…………下らないことを言って、さらに命を削りたいかしら?」

「ひ、ひいぃいいっ!?」


天竜童子のことは、何処かの魔族も狙ってるかもしれない。

そう小竜姫さまは言ってたわね。

だからこうしている間も油断はできない。早く確保してしまわなければならない。


でもまぁ、鬼門が小竜姫さまを呼びに言ってるし、すぐ来るはず。

そして近場に神族がいる以上、魔族も無茶はしないはず。


後は、この生意気な高校生・横島を苛めつつ、時間を潰せばいいわね♪

いい感じに脳内麻薬を出させて、極楽に逝かせて上げるわ♪









          第9話      横島クン、妙神山へ逝く









くっそ、どうすればいい?

GS美神が、本当に敵なのかどうか。それは今、定かになることはない。

もしかすると、あの鬼二人組みはいい鬼で、

GS美神と提携していたと言う可能性も、ないわけじゃないのだ。


あ、でも、そうなると、天竜童子の嫌がりようの説明ができないのか。


その辺のことは、じっくりと悩み、そして結論を出したいところです。

俺としても、GS美神は敵に回したくない。


ユッキーと基礎的な鍛錬をしただけで、プロから見れば、俺はまだまだ素人。

そんな状態の俺が、プロの中の最高位と戦って、勝てるはずもない。

俺は道具の使い方だって、ほとんど知らないのだ。



しかし、逃げようにも、結界に阻まれて、逃げきれそうもない。

美女に追われるって言うシュチュエーションは、望むところなんだけどね、男として。



シリコン胸なんていったけど、あの胸は生で見ると、もう光り輝いて見えます。

メドーサさんよりは小さいですが、世間一般からすれば十分な大きさですし!

実際、GS美神本人も、

自分のプロポーションにはかなりの自信を持っているようだし。



ま…………だからこそ、むっちゃくちゃさっきの俺の発言に怒ってるんだろうけど。



もう、敵とかどうとか関係なしに、殺されそうな予感。

横島忠夫、享年17歳。

原因は美女に『シリコン胸』と言う暴言を吐いたから。



……………し、死にきれない! 



いくら相手が美女で、その手にかかって死ぬとはいえ、死にきれない!

夢半ばに死す理由が、シリコン?

なんじゃ、それ? 

愛子にも笑われますよ? オヤジは、俺に何て言いますか?



メドーサさんが期待してくれた俺は、たった一回の暴言で、極楽ですか!?



「あ、あの、美神さん?」



なんとしても、生き延びなければならない。

俺は勇気を振り絞って…………取り敢えず、時間を稼ぐことにした。

会話が成立すれば、その間は時間を稼ぐことが出切るのだ。

時間があれば、何かイイ方向に状況が転ぶことも、あるかもしれない。

さっきの『私に渡し……』では外したけれど、今度こそは上手くヨイショして!

最悪にならないよう、少しでも上昇するんだ!



…………うん?

ちゅーか、すでに状況は最悪じゃん?

これ以上悪くなるといえば……むっさいショウリュウキが登場ですか?

うん、それは確かに最悪だな。

やはり、どうにかして、美神さんの機嫌を取らないと!



「ちょ、ちょっと聞いていただけますか?」


「何かしら? 遺言?」


うわ、全く、全然許してくれそうにない感じ!

ど、どうすればいい? どうすれば……。


「取り敢えず、謝りますから、許してください。マジすんません!」


俺はプライドをかなぐり捨てて、頭を地面にゴリゴリと押し付けた。

女王様の機嫌を取れそうな行為と言えば、それくらいしか思いあたらなかった。

天竜童子の頭も、ついでとばかりに、一緒に下げさせてみる。


「な、何をするのだ、横島! お前は諦めるのか!」

「じゃあ、俺があの人に勝てると思うのか!?」

「………………………思わん」


天竜童子は、俺とGS美神を交互に見やり、そして静かに呟いた。

『ああ、確かにそりゃ無理だよなぁ』ってな感じの諦めが、その声には含まれていた。


「なら、今は雌伏のときだ!

 謝って、謝り倒して、取り敢えず命だけは見逃してもらわないと!」

「そ、そんな……」

天界の竜王の子供としての誇りがあるのか、天竜童子は眉を寄せた。

仕方なく俺は、童子の肩を掴み、静かに、しかし熱く諭した。

「そう、それは屈辱だな。だが、仕方ない!

 生きているからこそ、達せられることもあるんだ!」

「むぬ。確かに、一理あるが……」

「ああ。生きていれば、あのGS美神のボディも、やがて俺のものに出切る可能性だって!

 あの胸やふとももや、お尻だって、いつの日かは、俺のものに!」


「なるわけないでしょ!」


俺の台詞の途中で、神通棍がこちらの脳天へと振り下ろされた。

どうやら、俺の台詞は、途中からかなり脱線していたらしい!



「ふぎゃぁあああぁぁぁっ!」

「お、鬼じゃ! 鬼がおるぅ!」



俺の絶叫が響き渡る。

ばちばちと放電すらしていそうな神通棍は、俺の頭部に確実に大きいダメージを与えてくる。

なんて、容赦のない攻撃なんだ! 

やはり、GS美神は敵なのか!?

恐怖におののく天竜童子の悲鳴を耳にしつつ、俺はそんなことを思った。



「あ、あうぅう…………」



いい感じにボロボロです。

く、くそうぅ……このままじゃ、やられる。

何かないか?



GS美神の出力を100とすると、俺は1か5くらい。いや、もっと差があるかもしれない。

殴っても……攻撃は通らない。

それ以前に、相手は棒切れを装備しているので、間合いに入ることも無理。

唯一の技であるデコイは、すべてお札で無力化される。



お札がなくなるまでデコイを出したりは……うにゃ、そんなに出ません。



まさに打つ手なし。

俺にできることは、メドーサさんが出張ってくるまで、耐え忍ぶことか?



いや、他に何かないか? 本当にないのか!?

俺の出力で、どうにかしてGS美神を…………いやいや、GS美神本人を倒す必要はない。



彼女の作り出す結界を、どうにかして突破できないか?

ここから逃げれれば、それでいいんだ。それ以上を望むのは、無茶ってモンだろ?


相手はGS。

街中まで行けば、人目もあるから攻撃はしてこないはず!

ここから逃げることさえ出来れば、この最悪状態は脱せられるはずなんだ……。


(う〜ん……)


俺は沈黙したまま、考えに考えを重ねる。

あ、やばい! 

頭からぴゅーぴゅーと血が吹き出てるので、

早く考えをまとめないと、何かアクションを起こす前に、そのまま失神しそうだ!


考えろ! 考えるんだ、俺!

愛子の集中レッスンで、何気に試験の順位は少し上がったんだ!

その俺にしては華麗な成績で、何か考えるんだ!


う〜ん、う〜ん……。ぴゅ〜〜。

ううう……。真剣になればなるほど、血が出て行ってる気が……。


えっと。

結界出力も100としてみる。で、俺は5。

後95の差を、どうやって埋めればいいんだ?

この差が埋まれば、結界を破って、外に逃げられるかも知れないんだ……。

気合でどうにかできるか? 



あう、正直無理です。

どんなに頑張っても、急に95も余計に出せませんよ。

だって、19倍ですよ? どんな倍率ですか、それ。



無理無理。絶対でない。火事場のバカ力でも無理。

あらかじめ溜めて置くなら、ともかく。



…………………………………ん?



溜める?



(そうか、そうだよな)



そうか! 何だ、簡単なことじゃん。

普段から、俺の霊力は5ずつ出てるんだし、

それを何とかその場に押しとどめて、100までチャージすればいいんだ。

そしてぶつければ、霊波砲を放ったのと、同じことになるだろ?



つーか、いつもデコイでやってんじゃん!

気配を消すために、体中の霊気を出すのを、一時的に止めたりとか、すでにやってんじゃん。

あれは一瞬とか、長くても数秒だけど……100溜まるまで、数十秒、我慢すればいいんだ。

うまく制御できなくて暴発する可能性もあるけど、それはまぁ、時の運だ!



これなら、いけるんじゃないか?

うん、いける。いけるはずだ!

強力な霊波砲なんて、一気に出せないけど、

なら、出せるまで我慢して溜めるだけのことだったんだ!



(…………ばれませんように!)



俺はしばき倒されて地面に転がったまま、GS美神を見やった。

よし、彼女は天竜童子と何か言い合ってて、俺に注意を払っていない!

今なら…………いける!



ああ! というか、このアングルなら、スカートの中が見えます!

おお!! なんだか、ライフリングが回転しだしたのか、色々と気が楽になりましたよ!?



いける! 

あの愛子とは、正反対の漆黒ショーツの力があれば!

大変いいです、この豪華さ溢れるデザイン!



俺はGS美神から視線を……名残惜しくも……外し、自分の左手を見やった。

体中から常時出ている『5』の霊力を、少しだけ抑制し、左手に溜めていく。



いきなり体外に出る分を全部溜めだしても、制御できないし。

それに、気配が大きく変化すれば、気づかれてしまうからな。

少しずつ、少しずつ。



ちゅーか、地面に這いつくばってGS美神を見上げてる時点で、

かなりの興奮モンなので、制御はむっさ難しいんですけどねっ!



(平常心、平常心。愛子の寝顔を見ても焦らなくなった耐久性を、今こそ!)

まぁ、焦らなくはなっても、しっかり萌えるんで、あんまり意味は無いんですけどね。



細い水の糸をバケツにたらし、

その中に溜め込んでいくように、俺は少しずつ霊気をチャージする。



5、10、15、20、25、30……よし、まだ大丈夫だ。


35、40、45……くっ、ちょっと重くなってきた!

つーか、ばれてないよな? 

左手に結構な気が溜まってきたんですけど。



「ほら! ちゃんと言うことを聞きなさい」

「い、いやじゃ! 助けてくれぇ、後生じゃ!」

「あーもー、神族って言っても、ほんとまだガキね」



気づかれてない、よし、いける。大丈夫。

彼女は全然、こっちに注意を払っていない。


……これってもしかして、俺が溜まったと思っている霊力も、

GS美神からすれば、取るに足らないってことか?

今は結界さえ破れればそれでいいと思うけど…………少し悲しいっス。



50、55………75、80………100!



……よし、溜まったぞ!



世界の萌えよ、俺に力を分けてくれ、みたいな?



…………ん?



って、あああ! 105、110、120、130…………210!?



やべ、とまらねぇ! 

制御しきれない!?

ていうか、チャージが加速してる!?



このままじゃ、いきなり俺が爆発して、他の皆さんはびっくりなんてオチですか!?



「くそ! おい! 逃げるぞ!」

「おお、横島、生きておったか!」



「あ、ちょっと!」



俺は立ち上がり、

天竜童子をGS美神から奪い取ると、そのまま結界の外へ向かって走り出す。

待ちなさい、なんていう声が後ろからかかったが、そんなものに振り返ることはない。

とにかく今は、この左手に溜まった霊気で攻撃を行い、少しでも減らさないと!



「いくぜ! 爆ぜろ! C−マイン!」



C−マインのCは、チャージのCだっ!

左手に溜まった霊気を、俺は結界にぶつけた。

がりがりと氷でも削っているかのような音が耳朶を打ち、結界に変化が現れ始める。

結界は、俺が予測したものよりも、かなり硬いものだった。



だが、それはちょうどよかった。

なんと言っても、俺のC−マインにも予想以上のエネルギーが溜まっていたので、

もし結界が予想通りの硬さだったなら、

突き抜けて外に出た後、俺の左手から爆発が起こっていたかもしれない。


何にしろ、がりがりと結界をC−マインが削り、そして大きく穴を開ける。

結界の一部は、C−マインによって相殺されたのだ!


俺はその穴に身を投げ込んで、結界外へと脱出する。


ああ、上手いことチャージした分を全部使えてよかった。

そんな安堵とともに俺は走る!

後ろからは相変わらず声が聞こえていたけれど、かまうことなどない!



このまま振り切って、それから後のことは考えよう。それでいいはずだ。

C−マインの賭けには、一応勝ったと言っていいだろうが、

もう一度同じことができる保障はないし、したくもない。



この未完成技は、当分の間、封印だ! 

危険すぎて、とてもじゃないが無理無理!



「横島、おぬし奥の手があったのじゃな! さすがは我が臣下の者よ!」



……気楽に言ってくれるなぁ、こいつ。

天竜の子供なんだし、

ちょっとくらい逃げる手伝いしてくれてもいいと思うんですけど、その辺どうなんですか!



「マグレだ! もうできん!」



持ちながらでは走りづらいので、天竜童子を肩車しなおし、俺はまだまだ走った。

後ろから追ってくるGS美神を、写真集を失ったときのカンクローさんに見立てて。



…………うう、美女のほうがオカマよりましだけど……いや、本当にそうか?



「この私から逃げる気!? もう逃がしはしないわよ! 待ちなさい、高島!」


「俺の名前は横島やっちゅーねん!」


間違った名前を叫んでくるGS美神に突っ込みを入れつつ、角を曲がる。


するとそこには、二人組みの鬼がいて。

そしてその真ん中には、俺より少しくらい年上の可愛い女の子がいて。



その女の子は、俺の頭の上にいる天竜童子を鋭く視線で貫いて。

で、俺の頭の上で、天竜童子はむっちゃくちゃ震えて……。



「しょ、小竜姫!」

「小竜姫、ではありません! 殿下、少々お戯れが過ぎますよ!」

「…………は?」



デンカ? オタワムレ?

…………………何を言ってんですか?



ショウリュウキって、むっさいオヤジじゃないんですか?

鬼の大ボスじゃないんですか?

と言うか、知り合いですか? 

童子は命を狙われてたんじゃ、なかとですか?



もしかしてあれか? 

ショウリュウキって、天竜童子を保護してた神族の方ですか?

で、もしかして天竜童子が怯えていたのは、

勝手に抜け出したことを、保護者に怒られるからですか!?


俺のそんな疑問は、解決することはなかった。

なぜならこのとき、



「極楽に逝かせてやるわ! 横島!」



などと言いつつ、後ろからGS美神が迫って来ていて。

前方に注意を引かれていた俺は、それに対応することができなくて。



ショウリュウキと呼ばれる可愛い女の子、天竜童子、二人組みの鬼。

彼女彼らの見守る中、俺はGS美神の神通棍の一撃で、地面へと叩きつけられた。



ええ、耐えられるはずがありませんでしたとも。



最後に一言述べて置くなら、

なぜか殴られた瞬間、とっても懐かしいような気がしました。

殴る前の振りかぶり方とかが、多分のオカンに似ていたからだと思います。



「ぎょはんっ!?」



まぁ、何はともあれ、俺がその場に残した言葉は、そんなものでした。









……………暗転、静寂、そして………。






          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇







そして……気がつくと……。



空が見えました。ええ、突き抜けた蒼さを誇る、そんな空。

不条理な世界のことなんて、何も知らない空。

俺が生まれる何億年も前から、ただそこにある空。



その蒼さには、一種の感動すら覚える。



俺は目に涙を浮かべ、立ち上がろうとした。

その涙は、空に感動したからです。

決して体中が痛むからではありません。ええ、ありませんとも。



「ぐおおぉおおおおおっ!? な、なんだこりゃ!?」



てゆーか、痛い。なにこれ? 

ちょっと有り得なくない? マジ痛いっスよ?

自覚しだしたら、止まらない! 

歯医者で麻酔が突然切れたら、こんな感じ!?



痛みをこらる俺の姿は、たぶん感動もの。



何代か前の総理が見ていれば、こう言ったことだろう。

「痛みに耐えて、よく頑張った。感動した」と。



「……くっ……で、こ、ここは……どこなんだ?」



頭がふらふらする。貧血? 

それとも、もう脳がやばいですか?

そう自問されられるほど俺の息は荒く、そして声は枯れていた。



「ここは妙神山なのねー」



ぼろぼろな俺の問いに答えたのは、

なんかやたらと『眼』のアクセサリーをつけた、女の子だった。



ミョウジンザン?

明神斬? 

必殺技?

え、なにそれ? 

石川さんの、残鉄剣技の一種ですか?



いや、そんなことを考え込む前に……。

ここは一つ、ふらついたフリをして、この子の胸の中に飛び込まないと!



「って……あれ?」



そう結論つけた俺ですが、本当にふらっと来て、そのまま撃沈。

再度の、意識暗転。

次に眼を覚ましたのは、それから13時間と27分ほど経ってからだそうです。



そして後から気づくことになるのだけれど。

多分、この日が俺にとって、本当の人生の転機だったんだ。



この日は、俺にとって、あまりにも出会いが多すぎる日だったから。





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