第十二話



テーブルの上に一枚の紙を置き、そこに名前を書き連ねていく。

一定の間隔をあけ、そう、あたかも何かの魔方陣を構成するかのようにだ。



まず、中心にメドーサの4文字。

次に勘九朗を筆頭とした、白竜会の面々。

その次に、中央に書かれた『メドーサ』の主である存在の頭文字『A』や、

同僚である存在の頭文字を書き綴っていく。ゆっくりと……。



そして最後に、横島忠夫……と書き記す。



何らかの色恋じみた思い入れがあるのか、はたまた憎くて堪らないのか。

その名前を書くのに、ペンの持ち主は他の名より多くの時間を使っていた。


それから上下左右、中心にあるメドーサの名前から、各名前へと矢印を引く。


たとえば、このように。

メドーサ → 勘九朗(+白竜会)


そしてその矢印の上に、相互の『関係』を表す文字を書き入れる。

勘九朗たちに対しては、『部下』あるいは『駒』と。

主である『A』に対しては、そのまま『主』あるいは『上司』と。

同僚に関しても、そのまま『同僚』と書く。

ちょっとした遊び心で、同僚の文字に『バカども』というルビを振ったりもする。



やはり最後に、横島忠夫。



メドーサと彼の名前を結ぶ線の上には、『部下』と書かれ…………

その後、書き手により二重線が引かれ、訂正がなされた。

消された部下の文字の上には、新たに『駒』と書かれ…………

しかしこれもまた、訂正され消されることとなった。

さらにその上から『ペット』と書かれ、しかしペンを動かす主は気に入らないのか、

またしてもその言葉をかき消す。

そして『可愛いペット』と書き直すが……しかしまたしてもかき消す。



「…………」



ペンの主はしばしの沈黙の後、震える手でこう書き記す。



『恋ノ』



おそらくは『人』とでも書こうとしたのだろうか?

二文字目は完成することなく、結果としてその言葉は意味を成さなかった。

だから『人』と書こうとしたのではないか、

という推測が正解かどうかの答えは、誰にも分からない。



どうにしろ、ペンを持つ人物は叫んだ。



「うっがぁぁぁぁ! 書けるかぁぁぁ!」











            第12話      横島クンの同僚さん












「何やってんだ、あんたら?」



道場に勘九朗と雪之丞の姿が見えなかったので、

俺は白竜会敷地内をぶらぶらと歩いていた。

別段、あいつらがいようといまいと、俺には関係がない。

だが、姿が見えないことが、少し気になったのだ。


重ね重ね言うが、あいつらがいようといまいと、俺には関係ない。

別につるんでないと俺が不安になる、なんていう理由は、もちろん存在しない。

絶対無い。



なんせ、俺は魔装術も体得している。

並みのGSなら、すでに倒せるだけの力を持っている。

街を歩いて、俺に勝てる人間なんてそうはいねぇ。

だから見知った顔がいようといまいと、俺は特に気にしない。

今日はたまたま、探してみようという気になっただけだ。

勘違いするなよ?



……ああ、話がそれちまったな。

とにかく俺は奴らを探していた。

そしてある一室の前に差し掛かったとき、あいつらを見つけた。



「なんだか可愛いわねぇ」

「そうだな。というか、見てて面白いぞ」



勘九朗と雪之丞は、なにやら中を覗いてやがった。

うん? 女でも着替えているのか?

しかし、ならば勘九朗がいることが解せない。あいつは男のほうが好きだからな。

それに可愛いはともかく、面白いという評がわけ分からん。

…………いや、そもそも、白竜会に女はいない。

いやいや、一応いるにはいるが、そのどちらも、基本的に着替えることなどないんだ。



そんなことを考えつつ声をかけると、ちょうど中から

『うっがぁぁぁぁ! 書けるかぁぁぁ!』などというメドーサの叫び声まで聞こえてきやがる。

本当に何がなんだか、分からなかった。



「あら、陰念」



勘九朗が俺の声に反応し、こちらを振り向く。

ちなみに雪之丞の野郎は、まだ中を見てやがる。



「何なんだ、いったい」

「今、メドーサ様が中で苦悶してらっしゃるのよ」

「何でだ?」

「そうねぇ。言うなれば、

 子供だと思ってた幼馴染から大人の色気を感じて、ドッキドキ? みたいな感じかしら?」

「……わけが分からん」



俺が怪訝そうな表情を浮かべたからだろうか。

勘九朗の野郎は水を得た何かのように、実に生き生きと物事の詳細を語りだした。

その話は無駄に長ぇから、要約するとだ。

横島の奴のことを、メドーサはこれまで『ただ可愛がってただけ』だと自覚してたんだと。

んだら、それは実は違ってて、『ただ』どころか『無茶苦茶』可愛がっていたわけだ。



あれだ。

さっきの勘九朗のたとえは、

『普段は全然気にしていなかったのに、

ふとしたことで、自身の心に気づかされる』ということらしい。

回りくどいことを……。

そうならそうと、最初から分かりやすく言えって言うんだ。



……んでもって、メドーサは今一度、

自分の人間関係がどういう感じか、再認識するために、紙に書いてたんだと。



なお、今書いているもので、3枚目らしい。

1枚目は完全に破られ、2枚目は放り捨てたのを雪之丞が拾っているらしい。

俺は奴の持つ紙を手渡してもらい、その内容に眼を通した。

くしゃくしゃに丸められた紙には、数個の名前が書かれている。



「………えーっと…………」



……………………………………。

………………………おいこら、どういうことだ!?

何で俺の名前がないんだよ!

つーか、なんだおい? 

俺や雪之丞は『勘九朗(+白竜会)』の『(+白竜会)』かよ!?

思いっきり後付けな上、むっちゃどーでもよさげじゃねーか!

ざけんなよ!?



大体、何で横島の奴が、そんなに気に入られんだよ?

あいつは魔装の心得すら掴んでない、カスじゃねーか!

メドーサは、何であんな弱い奴がいいんだ!? 

わけが分からん!



「まぁ、それは趣味の問題だしねぇ。私もあんたより横島のほうが好みよ? 可愛いもの」


俺の呟きが聞こえたのか、勘九朗が答える。


「てめぇの趣味なんざ、聞いてねぇよ」



くそ。メドーサに取り入って、俺はゆくゆくビッグになる男なんだ!

にもかかわらず、メドーサは横島しか見ていない!

何故だ! 俺の何が悪い!

顔か!? つーか、メドーサも魔族なら、俺みたいな顔のほうが好みなんじゃないのか!?

俺の態度が悪いのか? できるだけ『様付け』で呼ぶようにしてるぞ!?

いや、奴のお気に入りの横島は『さん付け』だから、それは関係ないのか?


ええい! とにもかくにも、何で横島ばかり!



大体あいつ、机妖怪なんか従えやがって! 

白竜会に出入りする若い女の片割れを、思いっきり独占か!?

しかもメイド服だと!? そして普段は学校の制服・・・・・・セーラーだと!?

マジでふざけるなよ!? 俺より弱いくせに!



ああ、そりゃ前は圧勝することもなかったさ。

前の俺はあいつの挑発に乗って、ついペースを乱してたしな。

だが、今は魔の装甲という圧倒的な実力差がある。

最近戦ってないが、今の俺ならあいつをあっさり殺すこともできるんだ!


「それはそうと、今日、横島は帰ってくるかしら? 帰ってくるにしても、遅くなりそうねぇ」


怒りに燃え始める俺を尻目に、勘九朗の野郎はのほほんとそんなことを言いやがった。

何故だ、と聞くと、なんでも横島は神族に連れて行かれたらしい。

それ以上は、俺なんかには話せないそうだ。

くそ! またしても横島が! 何で弱いあいつが、俺より機密に近いんだ!



「ねぇ、雪之丞。あなた愛子ちゃんと横島を待っててあげれる?」

「ああ? まぁ、10時くらいまでならな。それ以上は早朝稽古に響くし」

「あら、友達がいのない子ね」

「つーか、横島のことだし、心配しなくても平気だろ」

「まぁ、あの子に関して心配すると、こっちが馬鹿を見るのは私もよく分かってるけど」

「だろ? 二度と戻ってこねぇと思ったら、机かついで帰ってくる奴だしな」


むっ。…………これは、チャンスだ。


「なぁ、何なら俺が机の奴と待っててやるぜ?」

「陰念が? どういう風の吹き回しかしら?」

「別に。横島にはちょい言いたいことがあってな」

「…………そう?」



勘九朗は何か思うところがあったらしいが、特にそれ以上、追求しては来なかった。



これでいい。

愛子とか言うメイドともに、奴を出迎えればいい。

皆が寝静まった夜中、一人疲れて帰ってきたあいつに、俺が世の中の道理を教えてやろう。

そう、弱い奴がいきがると、ろくなことがないと……な。


もし俺のしごきがいやだと言っても、こっちにはあいつのメイドがいるんだ。

魔装の心得を体得した今の俺なら、あんな小物妖怪くらい倒せなくもない。

つまりは、ていのいい人質だ。

何なら、あいつからあのメイドをぶん取ってもいいだろう。

弱い横島なんぞが持つには、分不相応だ。



さぁ、早く帰って来い、横島!

この俺は、世の中の辛さを味合わせてやる!

それは終わりのないわんこ蕎麦! 

貴様がもう食えぬといったところで、俺は止めん!

無理矢理にでも、口の中に詰め込んでやる!



くくく。

ふっ、ふっ、ふっ。

ふぁーっはぁっはぁっ!





            ◇◇◇◇◇◇◇◇


……………………………………数時間後……………………………………






夜空の向こうには、何があるのだろう。

いや、俺が空を仰いでも、

自分のいる場所が屋内である以上、そこにあるのは天井でしかないんだが。



夜もふけ、闇に包まれた白竜会。

俺はその道場の中、横島の気配がこの地に戻ってくるのを、今か今かと待ちわびていた。

俺の隣では、すでにあのメイドが眠りについている……

……らしいのだが、傍目から見ればただの机なので、何がなんだか分からん。



夜はパジャマに着替えるということらしいのだが、

今日は学校から直球で道場に来たため、お泊りセットを用意していない、とのこと。

そのため、本体である机の姿で就寝らしい。

くそ、寝顔の一つでもあれば、まだ花があるだろうに!



ええい、早く帰って来い、横島!

この腹立たしさ、すべて貴様にぶつけてやる!






             ◇◇◇◇◇◇◇◇


……………………………………さらに2時間……………………………………



むぅ、横島め、横島め。

き、貴様をだな、俺は……………すぴぃ〜…………ん、んくぅ〜……………っ!?


「ぬっ!?」


ね、寝てないぞ、俺は!?

ああ、寝てないとも……………………………………ってあれ?

何で俺は道場に? 

あ、ああ……そうか。俺は横島を待っていたんだった。

ふむ、ついウトウトしてしまったらしい。



白竜会に入ってからは、くそ真面目な生活してるしな。

街のチンピラだったころは、何日も寝ないで遊びほうけたりしてたんだが。

くそ、染み付いた健康な生活習慣がにくい!



だが、負けんぞ!

横島の野郎に、俺のほうが上だと認めさせるまでは!



いわば、今は心理戦だ。巌流島の対決だ!

ええい、横島め、遅れて帰ってくるとは卑怯な手を使いおって!

その姑息な手で、メドーサや雪之丞に取り入ったんだな!

負けない。俺は負けんぞ!

メドーサ……いや、メドーサ様に取り入るのは、俺のほうだ!



必ずや貴様を……。



きさ……ま……を。



……………………………………すぴぃ〜、すぴ〜……






            ◇◇◇◇◇◇◇◇


……………………………………さらに1時間後……………………………………



「横島! 観念しやがれぇ〜。んごぉぉ〜……」

「ああもう、寝言がうるさいわね、この人」



陰念は、熟睡していた。

道場に置かれた机妖怪が、顔をしかめるくらいに、時折大きく唸りを上げて……。


そして………さらにいくばくかの時間が流れて……

やがてこの国に、朝が訪れた……。







            ◇◇◇◇◇◇◇◇






ちゅんちゅんとスズメが朝のお喋りをし、

朝靄の中を牛乳配達員が、どこか足早に走り去っていく。

俺・横島忠夫は、

朝の爽やかとは無縁なボロボロの体を引きずりつつ、何とか白竜会道場へとたどり着いた。


信じらんねぇ。

数十時間は山の中を迷っていた気がするんだけれど。

どうやって、俺はここまで戻ってきたんだろうか。


森を彷徨い、気がつけば都内の雑木林だった。

まだ始発も動いていない時間……つーか、動いてても金持ってない……なので、

そのまま徒歩で家に帰ろうとして。

その途中で愛子を白竜会に置きっ放しだと気づいて、仕方なくここまでやってきた。



「疲れたな……」



色々あったなぁ。

山から転げ落ちたりね。

そのときは、岩肌に折れた神剣をつき立て、何とか落下速度を殺したりした。

腐っても鯛、折れても神剣。

少しだけ凍った豆腐くらいのノリで、岩肌を剣は切り裂き、俺の身を救ってくれた。

ああ、ちなみに。

折れた神剣、じゃなくて、折神剣と呼ぶことにした。

もう刀身が7割方無いので、無刃神剣かもしれないけど、まぁそれは置いておいて。

漢字3文字だと、それっぽく聞こえるしね! ひらがなだと『せつじんけん』だ!



ううう…………小竜姫ちゃんが折らなければ、

人界で10本指に入るかもしれない剣だったのに。



いや、まぁ、折れる原因を考えていくと、最終的に自業自得ですがね?



そんなわけで、

素でクリフハンガーを再現してしまったよ、はっはっは。

手にしていたのは、ピッケルや小型パイルじゃなくて、折神剣だけど。

まぁ、何回かいい感じに死に掛けたおかげで、新技も考えれた。

天竜童子を確保する当初の目標も達成したし、新技と折神剣も手に入ったし、

何だかんだで、俺は今回かなり得してますか?



うむ。ヒャクメちゃんも押し倒せたしな。胸もんだし。

その代わり怒らせちゃったけど。



それはそうと。

途中、なんか修験者くさい格好の人にも会ったなぁ。

『むぅ、何奴? まさか我が薬を欲してきたのか』とか聞かれた。

『何の話すか?』って聞き返したら『迷い人か』とか言われて。

『このまま迷い続ければ、死ぬぞ』と言われたときは、マジで焦ったね。

うすうす感づいてたし。

だって、山を下ったはずなのに、ずっと森が開けないんだもんなぁ。


天界と人界をつなぐ場所ってことは、一種の異界空間なわけで。

あのまま迷い続けたら、

もしかすると魔界に落ちてた可能性も、まったくのゼロじゃないんだろうなぁ。

あの修験者さんには感謝だね。

長かったし、アレで顔が赤かったら、まるで天狗さんだよな。

いや、もしかすると、アレは天狗だったのかも。

うん、たぶんそうだ。そう思っておこう。

ありがとう、天狗さん!



で、俺が何とか道場に帰ってくると、そこには……



「おう、お帰り」



道場の前で雪之丞が爽やかに稽古に励んでいた。

道場の前の庭で、上半身裸で空手の型の演舞っぽいことをしていたのだ。

こんな朝早くから、よくやるな、ホント。

時計がないから分からないけど、まだ5時くらいじゃないか? 

他の奴らは、まだ寝てるんじゃないか?



「で、どこに行ってたんだ? メドーサは、神族に連れて行かれたと言ってたが」


修行バカは、額の汗を手の甲で拭いつつ、聞いてきた。


「ん? ああ、妙神山って言う修行場」

「ほぉ、妙神山か」


雪之丞ことユッキーは、どこか感心したようにうなづいた。


「知ってるのか?」

「有名だぜ? むしろ知らない奴のほうがモグリだろ。

 GSになった奴らが行くような、高位の修行場だ」


そうか。そんなにいい修行場だったのか。

どうりで行き帰りする道中が、あんなに辛いわけだ。

行き帰りも修行、

あるいは道場までたどり着けない奴は、修行資格がないってことなんだろうな。


つーか、小竜姫ちゃんは俺が無事に帰れると、そう見越して放り出したのか、

それとも『そのまま野垂れ死んでもよし』と思って放り出したのか、どっちだろう。

ちょっとその辺を、聞いてみたい気がする。

まぁ、それはそうとして。



「…………やべぇ。二度と来るなって言われた」



いや、来てもいいけど、性格を直して来いと言われた。

俺の性格が直ることなど、まずないと思うので、

事実上、もう来るなってことだよなぁ、アレは。


「…………何やったんだ、お前。

 そんなことを言われるなんて、普通ありえんだろ?」


ええ、そーですよね。でも、しました。しちゃいました。

俺が勝手にGS美神を怒らせて負った傷を治してもらったのに、

その恩人に、あるいは恩人の友人にセクハラしました。


よくよく考えたら、小竜姫ちゃんが人間だったら、

俺はかなりの高確率で警察に捕まっていたんじゃなかろうか。

下半身出そうとして『さぁ、よく見てみろ』って、まんま露出魔変態だし。


高校生……う〜ん、それとも女子大生? ……な、

小竜 姫(こりゅう ひめ)ちゃん17歳に、

道端で行き倒れていた俺は助けられ、彼女の自宅のマンションに連れて行かれました。

そこで俺は色々あって、その場のノリで姫ちゃんに下半身を見せつけようとしました。

姫ちゃん絶叫、操作される携帯電話、

部屋にやってくる管理人と警備員と……そしてオマワリサン。


『じゃあ、詳しい話は署で聞くから』

『ち、ちがうんやぁ〜』

『パンツ一丁で、何を言うか!』

『み、認めたくないものっすね。若さゆえの過ちって』

『認めたくないってお前……思いっきり現行犯だぞ?』


……うん、追い出されたくらいですんで、よかったかも。

想像して見ると、かなり嫌な光景が、頭に……。



「え〜っと。とゆーわけで、神族の管理人にセクハラして怒らせちゃった。てへ?」

「てへ、じゃないだろ、それは」

「しかたないや、可愛かったんやもん。

 もう一人のほうには、胸タッチまでしちゃったぜ」



ユッキーと喋りつつ、俺は道場の中に入る。

するとそこには、陰念が寝こけていて。

その近くに、愛子の机があった。

なかなか珍しい組み合わせだな、これは。



「陰念の奴、お前に言いたいことがあって起きて待ってる、とか言ってたんだがな」

「……爆睡じゃん」



思いっきりいびきをかき、よだれを垂らし、

時折歯軋りしてるこんな状態で『狸寝入りだ』って言うなら、

陰念は実はかなりの役者だって言うことになるだろうな。



「俺が起きたときには、もう寝てたな」

「ユッキー、何時起きした?」

「いつもどおり4時だ」



なんてことを言っていると、陰念がガバッと起き上がった。

陰念は寝ぼけ眼で周囲を見回し、そして大きく欠伸をする。



「んぁ……。横島、今何時だ?」

「いや〜、どうだろ。まだ6時になってないことは確かだろうけど」


俺も時計を持っていないし、正確な時刻は分からない。


「そうか。じゃあ、俺はもう一度寝なおすぜ………………って! 横島ぁ!」


そこで何かに気づいたのか、陰念は大きくもう一度体を跳ねさせた。


「な、なんだよ!?」

「…………なんだったか」

「寝ぼけてるだろ、お前」

「ぼけてなどいない! えーっと、あ、そう、そうだ!

 貴様に言いたいことがあって、俺は一晩中起きてたんだぞ!」

「思いっきり寝てたやん」

「細かいことを気にしてんじゃねぇ! ともかくだ!」

「……はぁ、なんだよ?」

「勝負だ!」



脈絡が無さ過ぎる陰念の台詞に、俺は一瞬呆然とした。

いや、マジでわけが分からないです。

奴の中では、それなりに筋道ってもんがあったんだろうけど、

今帰ってきたばかりで疲労困憊の俺に、それを察しろってのは酷だろ?



「断る! 俺は疲れてんだ! 眠らせろ! ユッキー、お前も何か言ってくれ!」



俺は陰念から視線を外し、隣に立つユッキーに助けを求めた。



「面白そうじゃないか。やれ、横島」



……ああ、そう。そうでした。

ユッキーはバトル大好きっ子でした。修行バカでした。

食べることも好きな奴なので、

3度の飯よりは好きじゃないかもしれないけど、

3時のおやつよりは戦いが好きな奴です。



徹夜でクリフハンガー&サバイバルして、そしてそのまま先輩弟子と戦闘訓練?

先輩弟子は、道場で一人寝こけていたのに?

俺、何か悪いことしましたか、神様?

俺、そんなに恨まれることしました?



俺にそんな心当たりは…………………あります。

ごめんなさい。むっさあります。神様に変態行為を迫りました。

もしかして寿命縮められても……あるいは地獄に落とされても、俺って文句言えない立場か?



道場の天井を仰ぎ、その向こうにある空を想像する。

その空には、小竜姫ちゃんの笑顔が。

彼女は『せいぜい頑張ってくださいね?』などと言いつつ、微笑んでいた。

眼が、眼が笑ってませんでしたけどね……。




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