旅日記 第四話




「ええい、あの少女は化け物か!?」

「どう考えても化け物ですよね、あれ」


日本へと帰る飛行機……南部グループの所有する、隠密輸送機ヴイトール……の中で、

私は大きな怒りと小さな無力感を、同時に感じていた。


ゴーレムの試作1号機。

あれは完全な失敗作だった。そして真に遺憾ながら、2号機も、ほぼ同様だった。

それらの失敗から、ようやくこぎつけた試作3号機。考えうる限り、最強の機体。

その巨体の、自重を乗せた打撃は言うに及ばす、内部兵装も凄まじい。

機関銃やらミサイルやら、詰め込めるだけ詰め込んだ。


それが、あの少女には全く歯が立たなかった。

そして私たちは今、こうしてまさに尻尾を股の間に挟むように丸めて、

あの少女に見つからぬよう心底怯えつつ、日本へと帰っているのだ。


ゴーレムは撃破されてしまったので、ヴイトールの格納庫は、がらっがらだ。


今回の実戦テストに関する初期の計画案には、

テスト後、その場で試作機を爆破して土に返し、我々の帰還を早めようと言うものもあった。

積載重量が下がれば、飛行速度は速まるのは当然だからな。


しかし、まさかそれを実行することになるなんて…………!


また須狩に頼む仕事が増えるな。

仕事である以上、仕方がないのだろうが……。

だが、あんまり缶詰にしておくと、さすがに彼女もストレスが溜まるのだろう。

私に、それとなく嫌味を言ってくるのだ、あの女は。


くそ。あの少女は、霊能力者だった。


海賊どもが、たまたま能力者を有していたから、この結果だった。

それさえなければ、我々の圧勝だったはずなのだ、クソ!

4号機からは、霊的な防御力をさらに上昇させてやる!

今回の敗因は、霊的なものであるにもかかわらず、

ゴーレムを現代兵器っぽく扱いすぎたことだ。



見てろよ、化け物め!

今度は霊的な防御力も、とんでもない性能にして、

能力者にも止められないゴーレムを作り出してやる!





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




あの大破壊から、少しばかりの時間が経ってから…………。



その日は、唐突にやってきた。



ここ何週間も、島の復旧に尽力を注いでいたメーコちゃんが、

いきなり『自分の国に帰る』と言い出したのだ。


何もない、ゼロからの出発。

家どころか予言書すら燃え、

信仰は心の中にしか残っていない信者と、

船をなくし、海に出られない海賊。


そんな私たちには、何か心の支えが必要だった。

そしてその心の支えは、メーコちゃんだった。

聖女だとか、どうだとか、すでに予言なんて関係ない。


仮にメーコちゃんが予言にあった聖女じゃなくとも、私たちは救われたのだ。

私たちは海賊の襲撃と邪神から、救われたのだ。

海賊と普通に戦っていれば、

双方におびただしい死者が出ていたであろうし、

邪神になど、勝てるはずもなく、殺しつくされていたかもしれない。


しかし、今この島には誰一人欠けることなく、人間がそろっている。

怪我をしたものはいても、命を落としたものはいないのだ。


また、海賊もメーコちゃんに、海賊という悪しき道から更正させてもらった上、

私たちと同じく、邪神から命を救われた。

仮に海賊艦隊が健全でも、あの邪心には敵わない。

そんなことは、今この島にいる全員が分かっていることだ。


あの日から、メーコちゃんは島の中心だった。

長老や部隊長からも信頼され、期待されていた。

そして彼女は信頼と期待に答え、立派に今日まで復旧作業を行ってきた。


「苦痛でしたか、みなの期待は?」


私は、国に帰ると言うメーコちゃんに、そう聞いた。


「ううん〜〜。そうじゃないの〜〜。

 私は〜、自分の国に帰って、やらなきゃいけないことがあるの〜〜〜」


「ここには、とどまれぬと?」

「ごめんなさい〜〜」

「どうしても?」


「私は帰って〜〜、自分でちゃんと生きて行きたいの〜〜〜。

 そして、お友達の令子ちゃんに〜、ごめんなさいって言うの〜〜〜」


メーコちゃんと友人との間に何があったのか、私は知らない。

聞いた限りの事を思い出すと……確か、乗り物から落とした、だっただろうか。

それをどうしてもあやまりたい、とメーコちゃんが望むのなら、私には止めようがない。


そもそも、止めたところで、メーコちゃんがその気になれば、

彼女は神獣を使って、さっさと帰ってしまうことができるのだ。

むしろ、黙って消えていかれなくて、よかった。


聖なる人は、神に課せられた役目を終えると、消えるように去ってしまう。

そう、昔から言われている。

しかし、それは寂しすぎるではないか?


「ではせめて、見送らせていただきたい」

「お見送りしてくれるの〜〜? ありがとう〜」


「いつの日か、またこの国、この島に来てくだされ。

 我々はいつまでもあなたのことは忘れず、語り継いでいきます」


私の言葉に、メーコちゃんは微笑みで答えてくれた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




それから2日後、

メーコちゃんはみなに惜しまれながら、この島を発った。

私はメーコちゃんとともに島を出て、国の中心部まで案内した。

ここは島国であるがゆえ、外に出るためには、飛行機か船を使用しなければならない。


メーコちゃんにそのことを説明する。

そして、みなから集めたお金で、船のチケットを買うことにした。

すべてが燃えたようでも、探さばそれなりに見つかるものである。

せめてこれくらいは、見送りとしてして差し上げたかった。


「えっと〜、船のチケットは、自分で買ってくるわ〜」

「大丈夫ですかな?」


私は世話係りとしての習性か、ついそう聞いてしまった。

するとメーコちゃんは、少しだけ眉を寄せた。


「私は〜、もう〜子供じゃないわよ〜?」


メーコちゃんは子供らしい口調……あるいは思念で、私にそう伝え、

とことこと船の乗り場へと急いだ。危なっかしいが、しかし可愛らしい歩みだった。


こうして見ていると、

メーコちゃんが島を焦土にしたなどとは、ちょっと思えないな……などと、

私は胸中で考えたりもした。


そして売り場の人に精神感応を驚かせつつ、彼女は無事チケットを購入した。


チケットを購入した後は、早かった。

別に後日出発する船を予約したわけではない。

メーコちゃんの乗る船が出港する時間は、すぐにやってきた。


「それじゃ〜、私はもう、行くわね〜〜」

「お元気で。またいつか、必ず」

「うん〜。ばいば〜〜〜い」


「国に帰っても、貴女にできないことはない。

 貴女は、私たちを救ってくれたのだから。

 だから、私が保証する。貴女は、必ず自分の思うことを、成し遂げられる。

 自信を持って、自分の思う道を歩いてくだされ」


「ありがとう〜〜」


こうして、メーコちゃんは我が島、我が国を後にした。

本当に、嵐のような存在だったと思う。



「…………それにしても、少し意外だな」



海を行く船の上で、こちらに向かって手を振るメーコちゃんを見つつ、

私は一人、呟く。

それは周囲の喧騒によって、すぐにかき消されたけれども。



「見た目が、私たちに近かったから、アジア人だと思っていたのに……」



メーコちゃんは、黒い髪と白い肌を持っていた。

私はそうでもないが、島の中には彼女とよく似た顔立ちのものもいる。

だから、国というのは……天の国でないとするなら……アジア圏だと思っていた。



私はメーコちゃんの乗る船を見つつ、またしても呟く。




「まさか、メーコちゃんが、エジプト生まれだったとはな……。

 世の中、見るだけでは分からぬものだ……」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「えっと〜〜〜〜〜〜。ここって〜〜、鳥取砂丘〜〜?

 東京は、あっちかしら〜〜〜? 今、何県なの〜〜〜?」



…………そこは、サハラ砂漠ですよ、冥子さん…………。





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