第一話




「ここが試験会場なのね」


俺が背中に担いだ机から、上半身だけを発現させ、愛子がそんなことを呟いた。

そう、今日はゴーストスイーパー資格取得試験、第1日目。

受験は戦争だ……なんて言うけれど、

本当にド突き合いをする、危険な試験の第1日目。

俺は格闘大好きっ子じゃないので、あんまりこーゆー試験は、好きじゃない。

つーか、普通好きな奴なんて、いないはずだよな。


だから早く帰りたいなぁ、と思う。

平和主義者なのだ、俺は。

どこぞの血を見ると興奮するような、戦闘中毒者じゃないのだ。

でも、早く帰るって言うのは、試験に落ちたと言うこと。

試験に落ちて、することがないから、仕方なく帰ると言うこと。

そりゃ駄目だ。俺はGSになるんだから。

だから、今日は昼飯を食って、

ゆっくりと試合を受けてから、この会場から帰らなきゃならないんだよな。


「横島クン、緊張してる?」

「そりゃ、少しくらいはな」


軽く言う。だが、それは嘘だった。

少しどころか、俺はかなり緊張してるような気がする。


バクバクと、心音が激しくなるのを、俺は自覚する。

去年の春……いや、正確には初夏か?

初夏のあの日、俺はメドーサさんと出会って、

そして今日この日まで、GS試験を目指して頑張って修行をしてきた。


最終目標は、メドーサさんの隣に立つこと。

そして世界にいる、人間と共存していけそうな妖怪や幽霊を保護すること。

実際、現役GSの美神さんのところにはおキヌちゃんがいて、俺の家には愛子がいるんだ。

つーか、今も俺は愛子を背中に担いでいるんだ。

俺やメドーサさんの掲げる共存って言う目標は、無理なことじゃない。


……そんな目標を達成するためには、

俺たちがGSになって、協会の体質を変えたり、

あるいは、オカルトGメンに入って、

新しく部署を作り、保護を促進したりしないといけない。


今日は、すべての目標に向かうための、第一歩。

受験者数は1800名を越す。

しかし、最終合格枠は32名。

これに合格しないと……最初の1歩が踏み出せないと言うことになる。


…………でも、本当に、出来るのか、俺に?

まだ、霊能に目覚めて1年も経っていない俺が、

長い修行を経た人間に、本当に敵うのか?


そんな弱気な考えが、全くないわけじゃない。

でも、その弱きより大きい自信みたいなものは、ある。


大丈夫! 絶対に俺はやれる。やれるさ。

今日この日のために、新たなる必殺技を用意しておいたんだ。

今日この日のために、俺は魔眼の制御を習得したんだ。


あっ…………今気づいたんだけど、殺さないんだから、高威力不殺技か。

細かいところは、まぁ、どうでもいいか。

とにかく!

なんと、その技の威力なら、ユッキーの魔装術の装甲すら突破できる。

メドーサさんとの愛の修行は、伊達じゃないんだ。


俺は一度深く呼吸し、肺を膨らませた。

新鮮な吸気が、俺の体に酸素を供給していく……。


「うっし!」


軽く精神統一をして、視線を上げる。

俺の目の前には、木造3階建ての微妙に古い試験会場がある。

まず、午前はこの中で1次試験がある。

それを突破すると、午後から2次試験の試合……その第1試合があって、

今日中に受験者は64名にまで、削られるんだ。

なお、試験の試合自体は、この建物の裏にある、体育館を貸し切ってやるそうだ。



「さすがに、ドキドキするなぁ」


「お前もか? そうだよな。
 
 どんな奴がいるか、わくわくドキドキしちまうよな」


ポツリと、俺は呟いた。

それは紛れもなく独り言だったのだけれど、何故か反応した奴がいた。

こういう物騒なことを言って笑うのは、言うまでもなくユッキーだった。

今まで俺と愛子の会話に口を挟まなかったのは、

試験に対して、ユッキーなりに何か感傷があったからだろうか。


…………いや、なんか、違うっぽい。


ユッキーは視線をきょろきょろと周囲に這わして、強敵を探している。

今のユッキーは、まさに野獣のような目をしている感じだ。

まだ1次試験が始まってもいないと言うのに、

心はすでに、2次試験に飛んでいるらしい。

本気でわくわくしてますな、ユッキー。

放っておいたら、一人で戦いを楽しむだけに、毎年試験に参加しそうな勢いだ……。


「なぁ、分かってるか? 今日は試験なんだぞ? 武道会じゃないぞ?」

「おう。分かってるって。主席は頂いたぜ」

「気が早いなぁ、ユッキーは」


主席。トップ。一番。

さすがに一番は無理かなぁ……とは思うものの、

隣で宣言されると、さすがの俺も、微妙に腹が立ってくる。

だって、ユッキーは仮に俺と当たっても、絶対に勝つって言ったようなもんだぜ?


確かに、俺はユッキーに手合わせじゃ、言いようにあしらわれてきた。

俺がまだ何も出来ない時期に、ユッキーは霊波砲が撃てていたし、

それどころか、魔装術を覚えるようになってからは、

ユッキーより弱いサボ念にも、まともに勝ったことはない。


だが、試験目前にして、俺もまごついていたわけじゃないんだ。

今なら、ユッキーに手足も出ずに負ける……なんてことは、ない。

そう、ユッキーたちの知る俺は、最終調整前の俺。


……つーことは、俺の知ってるユッキーも、少し前のユッキーなんだけどな。


ユッキーが修行をサボるはずがないので、

やっぱ勝てるかどうかを言うと……かなり厳しいだろう。

でも『厳しい』なんだ。『無理だろうな』じゃない。


「いい気合だな、横島」


少し鋭い視線だったからだろうか。

ユッキーは俺の視線に気づき、そんなことを言ってくる。


「ユッキー。俺、お前と当たっても、軽々と負けてやる気はないからな」

「ああ、本気で来い!」

「負けても恨むなよ」

「そりゃお前のほうだ、横島」


道場で一緒に鍛錬したり、あるいはバカなことを言って、笑いあったり。

そういう日常では、いい親友なんだけど、こういう場面では、超強力なライバルだよな。

俺とユッキーは、無言で手をとり、固く握手をした。


「青春よね〜」


誰もが予想していた言葉で、愛子がそう締めくくった。


「お、あいつ、強そうだな……」

「ユッキー。もうちょっとしたら試験だぞ?」

「大丈夫だ。分かっている」


本当に分かっているのか、いないのか。

ユッキーは何かを感じる人間を見つけたらしく、

ふらふらとどこかに歩いていく。


ユッキーが目を付けたってことは、

間違いなく俺にとっても強敵なんだろうが……誰だろうか?

そう思って視線をやるものの、

すでにユッキーの後姿すら、見つけることは出来ない。

街中なら、気配を探ってユッキーを特定できそうなんだけど、

能力者が集まっているこの会場じゃ、そんなことは無理だな。

なんつっても、霊気が異様に充満しすぎてる。


……それにしても、試験会場には人間が多い。


つーか、多すぎると言っても、言い過ぎじゃないほど多い。

会場は、3階建ての木造建築。

しかも、まだ試験が始まっていないので、中には入れない。

試験会場には人間が多い、なんて言ったけれど、

俺たちは正確に言うと、会場の前の庭で、時間を潰しているんだ。

受付だけは終えた1800人が、会場前の庭でゴロゴロ……。


凄まじい人口密度だ。


しかも、それぞれが大なり小なり霊能を持っている。

中には、力を誇示するように、霊波を足れ流している奴まで、いたりする。

ユッキーが目をつけたのは、そういう奴の中の一人だろう。

正直なところ、すっげぇ鬱陶しい。


「……愛子、大丈夫か?」

「ごめん。そろそろ辛くなってきたわ」


そこらじゅうで力が溢れているこの状況は、かなり不快だ。

これが神社やある種の退魔結界みたいに、

一定方向の力で満ちているなら、逆に気持ちいいと思えるかもしれないんだけど。


例えるなら、香水か?  

いい香りの香水が一つなら、嗅いでいて気持ちもよくなる。

でも、1800の香水を一つの壺で、分量も考えず混ぜ込んだら……。

それはもう、言うなれば悪臭だよな。



「もう少しとは言え……試験開始まで、暇だなぁ」



サボ念やカンクローさんとは、すでに到着した時点ではぐれてしまった。

ユッキーも、強敵を物色してどっかに行ってしまった。

愛子は、周囲の霊気に当てられて、

一時的に本体の机に隠れて……と言うか、引きこもっている。

一人でこんなとこに突っ立ってるのは、本当に暇だな。


はぁ。メドーサさんも試験が始まって、

多くの人間が試験に注目してからじゃないと、会場には来ないって言ってたし。

つまり、近場からは応援してくれないんだよなぁ。

当たり前と言えば、当たり前なんだけど。


GSの卵が勢ぞろい。

そんな場所で魔族がいるなんてばれたら、

さすがのメドーサさんも、逃げるたりするのが面倒だろうし。



「…………うーん」



…………いやな匂いが充満した場所に、一人。

暇な上に、苦痛。

試練はすでに始まっている、気を抜くな……みたいな感じか?


「あ、横島さん!」


そんなことを考えていると、俺に声がかけられた。

振り返ってみると、

そこにいたのは俺より690歳くらい年上な、吸血鬼転校生・ピートだった。


うーん。これまであんまり気にしなかったけど、こいつの力は凄いなぁ。

周囲に霊波が混ざっているからこそ、よく分かる。

ピートの持つ力は、人間のそれとは、かなり気質が違うっぽい。


「ぼくはぁ、ぼくはぁ……! 故郷のみんなの期待が!」

「だぁぁ! はなせ! ええい!」


こっちに走ってくるピートの力を観察する俺に、

奴はなんと、ジャンプして抱きついてきた。

ピートの両手が、俺の背中に回され、ぎゅっ固く締め付けられる。

固い胸板、そして固い腕……それらが、俺の体に巻きついてくる。

く、なんてこった! 悪寒が、俺の背中につつぅ〜っと走る。


「これに受かってGSになって、故郷に仕送りしないと、島のみんなが!」

「分かったから、放せっての!」


ピートが外国のどこかの島の出身だということは、知っている。

だが、その島の財政が苦しくて、仕送りが必要だなどということは、知らなかった。

こういうのも、外貨獲得つーのか? 大変だなぁ、ピート。


でも、それとこれとは、話が別。

ピートが大変なのは分かったけど、

だからって俺は男の頭を抱えて、よしよしとか言ってナデナデしない!

絶対しない! 女の子には進んでやりますが、男には絶対しない!

つーか、690歳以上年上のおにーさんが、15、6のガキにすがるなってば!


「あ、あれ何かしら?」

「どこからともなく、バラの香りがしない?」


しません! しませんよ! 何を言うんですか、そこのお嬢さん方!

そんなことじゃ、貴方たちは腐った女子とか、そういう風に言われますよ!

……ん? 何であんな女子高生の集団が、この試験会場にいるんだ?

着ている制服は、ごく普通のものだ。胸元のリボンが可愛い感じ。

んんん? 六道……女学院?

女学院は女子高として、六道と言うのは? あの六道なのか?

…………まぁ、あの人の運営する学校なら、

社会見学でこういうところに来ても、おかしくないような気がする。

なんと言っても、神父も逆らえない式神の名家らしいし。


そう言えば、冥子ちゃんはまだ発見されないのか?

いや、あのおばさんのことだし、意外とちゃっかり見つけてるような気もする。

あんまり気が進まないけれど、今度電話してみようかな……。



「ねぇ、あそこの外人……」

「もっといい相手を選べばいいのにねぇ」



あああああ! だから、違うっつーのに! 

自分、選ばれてませんから! 断じて違いますから!

女子高生に見入っている間にも、俺への誤解はどんどんと加速していく!

俺は全力を持って、ピートをはがしにかかった。


「放せっちゅーのに! ついでに離れろ!」

「ああぁ…」

「名残惜しそうな声を出すな!」



俺はピートの手を振り解き、ついでにゲシゲシと蹴りを放った。

愛子の机を担いでいて、よかった。

そうじゃないと、もう完全に密着されてしまい、離れられなかったかも。


「もう、ひどいじゃないですか、横島さん」


蹴られた腹なんかを気にしつつ、ピートが言う。

その台詞は、むしろ俺のほうだろうにと、俺は思った。


「ったく。男に抱き疲れても、俺は嬉しくなんだっーの」 


むしろ、霊力が減退します。いや、実際、少し霊力が……。

まだピートだから良かったが……。

これが筋肉ムキムキ系の、油でテカった男だったら……。

うう。気持ち悪い。駄目だ。

愛子、取り敢えず、脱いでくれないか?

このまま試験に行ったら、俺落ちちゃうかも。


(おーい、起きろ、愛子)


さすがにこの場で脱いでくれ、と言うのは冗談だぞ?

俺は自分が見るのはいいが、

他の人に愛子のアレやコレな姿を見られるのは、嫌な人なのです。

愛子を起こそうとしたのは、

今のピートを俺一人で抑え切れるとは、思えなかったからです。

俺は再度、背中の愛子に、小声で話しかける。


(おい? 愛子ってば)

(うぅ〜。あと五分〜)


…………周囲の霊波に当てられたから、休んでいたはずの愛子さん。

だがしかし、今や完全な熟睡体制だ。

コレが普通のおんぶなら、むっちゃ萌える展開だが、現実は机。

くそ。なんだか最近、サービス少ないんじゃないか?

寝るならせめて、体を発現させて、背中に胸を押し付けつつ寝て欲しい!

そうすれば、俺の霊力もうなぎ登りなのに。


「おお、横島クンじゃないか」


下らないことを考えている俺に、またしても背後から声がかけられる。

振り返ると……そこにいたのはピートの師匠であり、美神さんの師匠であり、

気苦労が耐えずに、若い頃はあったであろう髪の毛が、

日に日に減り続けている、唐巣神父だった。

神父の髪の毛は、地球に残された森林と同じようなものだと思う。


「あ、神父。お久しぶりです。ピートの応援すか?」

「ああ、そうだよ。もう、がちがちに緊張していてねぇ」


聞けば、忘れ物がないか、

ピートは朝から何度も、持ち物検査をしていたらしい。

持ち物と言っても、ピートの場合、

着替えと受験票さえ持っていれば、それでいいだろうに。

俺みたいに机を担いだり、サスマタを持ってくるわけでもないんだし。


「横島クンは、それほど緊張していないみたいだね」

「いや、それなりに緊張してたんですけど。ピートを見てたら……」


そう。俺だって緊張はしていた。

でも、俺以上に緊張しているピートを見ていると、なんとなく気が抜けた。

あれかな? パニックになりそうなとき、

自分以上にパニくってる人間を見ると、

急に冷めてしまうみたいな、そんな感じかな。


「まぁ、あんまり緊張しないで行きなさい。

 あまりガチガチに固まると、受かるものも受からないよ。

 ほら、今回の試験には、あんな大物も来ているんだ」


唐巣神父は、すぅっとある方向を指差した。

指の先には………ショートカットの女の子を脇に従えた、爺さんがいた。

その爺さんはマイクやインタビューに囲まれ、なにやら受け答えしていた。

ああ。あの爺さんを取り囲んでいる人たちが、GS協会の広報課なのか。

こうしてみると、普通のリポーターと大して違いはないな。


「あれはヨーロッパの魔王とさえ言われた、ドクター・カオスだよ」

「ま、魔王っすか」

「ああ。そして、横にいるのがマリア。彼の作った、ロボットだよ」

「ろ、ロボットっすか!?」

「今から何百年も前に、彼女を作ったそうだよ」

「すげぇ…………って、あの人は何歳なんスカ!?」

「1000歳を超えているそうだよ」

「せ、1000!?」


とんでもないことを、ごく普通に言う唐巣神父に、俺はビビリまくりだ。

不老不死で、ロボットが作れて……。

日本に来ているんだし、もちろん日本語は使えるんだろうな。ヨーロッパの魔王なのに。

中学から3年以上習ってきた英語すら、俺はいまだに使えないのに。


そんな凄い爺さんが、何でいまさらGS試験なんかに?

ああ、そうか。昔はGSという職業分類なんか、なかっただろうしなぁ。

自分が霊能を使っても、GS協会に睨まれないように、わざわざ取りに来たのか……。

凄い……凄い爺さんだなぁ。俺もゆくゆくは、ああいう不老不死に!

もちろん隣に立つのはメドーサさんって感じで。


「魔王で、しかも1000歳。凄いなぁ」

「ま、まぁ、彼は彼なりに、色々問題のある人なんだけれどね」


カオス爺さんを尊敬の眼差しで眺める俺に対し、

神父は少し言いづらそうに、そう言った。

小声で『大物……と紹介しないほうがよかったかな?』とまで言っていた。

かなり詳しく、あのカオス爺さん……いや、

ヨーロッパの魔王について、知っているらしい。


「知り合いなんですか?」

「ああ、ピートや令子君も知っているよ。一緒に仕事をしたこともあるからね」

「へぇ〜」

「彼はとても凄い人物なのだが……現代においては、どうだろうねぇ」

「? 今は凄くないんすか?」

「いやいや、いろんな意味で凄い人なのだけれどね」


神父がそう言うなら、やっぱどこか変った爺さんなんだろうなぁ。

1000年も生きていると、価値観とか考え方とか、凄いことになってそうだし。

それに……なんと言っても、魔王だし!


「まぁ、ともかく。色んな強敵がいるGS試験なんだ。

 緊張せず、それでいて120パーセントの力が出せるよう、心がけなさい」


一度咳払いをし、神父はそう言葉をまとめた。

 
「いや、それはピートに言ったほうが……」


「彼にも、朝からずっと言っているのだがねぇ。

 実力的に言えば、この会場ではトップクラスなのだし」


そりゃ、もともと人間じゃなくて、ヴァンパイアハーフだしな。

生まれ持った能力で言えば、ピートは美神さんにだって、

余裕を持って勝てるかもしれないんだ。

まぁ、今目の前にいるピートを見てると、絶対に勝てないだろうなぁ、とも思うけど。


「あ、神父。悪いんですけど、

 試験が始まったら、愛子のことお願いできませんか?」


俺は今日、いつものように愛子を背負って、この会場まで来た。

でも、よくよく考えると、試験中ずっと担いでいるわけにも行かないんだよな。

その上、愛子は妖怪なんだから、

さすがに一人で、この会場をうろつくのは、ちょっとあれだし……。


「すまないね。私も少し、このあと予定があるんだ」

「え? せ、先生!? 僕の応援は……」


「もちろん、させてもらうけれど、その前に少し私用があってね。

 ごめんね、横島クン。愛子君は、試験運営の本部に言ってみるといいよ」


「あ、そうですか」


神父はそう言うと、勝手知ったるなんとやら、と言った感じで、

試験運営委員会の本部の場所を、俺に教えてくれた。

俺とピートは、試験開始前に、取り敢えず本部へと向かうことにした。




      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




私は胸中で横島クンに謝りつつ、彼とピートの後姿を見送った。

先ほど言った、私用という言葉は、ある意味では嘘なのだ。

この後、私に待っているのは個人的な用事などではない。

私はこれから、GSとしての仕事を行うのだ。


ことの始まりは、小竜姫さまからの依頼だった。

何でも小竜姫さまは、

魔族が今回の試験を、妨害しようとしているという情報を、掴んだそうだ。

その妨害の方法は……魔族が育てたGS候補を、試験に送り込む……という方法。

そしてその後は、魔族にとって目障りなGS協会を、裏から操作しようと言うのだろう。

もちろん、新人のGSが協会内で力を持つには、10数年以上の時間が必要だ。

だが、そんな時間は、人間ではない魔族にとって、さしたる時間ではない。


恐ろしい計画だと言える。

10数年。あるいは、20数年だろうか。

私や令子君が現役を退き、今の新人GSが、協会内で高位に立ったとき、

突然GS協会は、人類に対して有害な存在となるのだ……。


どう考えても、恐ろしい。

だからこそ、早いうちに、この計画は潰さなくてはならない。



「令子君、君のほうも、頼んだよ?」


私は、今ここにはいない令子君に対して、そう呟いた。



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