第七話




小竜姫の神剣を、私は手の平から発現させたサスマタで、何とか受け流した。

まさか第一撃が、超加速によるものだとは……少々予想外だった。

神剣を使い、正々堂々をモットーとする神族にしてみれば、珍しい奇襲とも言える攻撃。

だがまぁ、小竜姫はすでに戦闘態勢に入っていた。

奴からすれば、すでに名乗りを上げたあとなのだから、全力を尽くして当然なのだろう。


仮に、私が事態を飲み込めず、戸惑っていたとしても、奴にすれば関係ないのだ。

…………紛れもない神族だね、こいつは。

本人がそう言っていたように……魔族の私を斬り殺すのに、証拠は要らないか。

そういう正義の味方ぶった考え方が、ムカつくんだよ。


「さぁ、兵を退かせなさい! メドーサ!」

「くっ!」


小竜姫の中では、一連の騒ぎの本人は、私で決定したらしい。

確かに私は、GS協会乗っ取りを計画していた。

また、何らかの疑いがあるときに、

それらしい存在を見つけられたなら、そう信じ込むのも仕方がないだろう。


だが……少なくとも、この流れ込んできたゾンビどもは知らない。

それだけは本当だ。

デミアンを信じて……神族などに対し情報漏れはないと、信じていたのだ。

わざわざゾンビを用意し、GS試験会場襲撃の準備をする必要は、私にはない。


だが、この『正義の味方』は『悪である魔族』の言葉に、耳を貸そうとはしない。

私がどれだけ無実を訴えたとしても、それを信用するはずがない。

それはこれまでの実体験でも、分かっていることだ。

神族とは、そういうものなのだ。


私は小竜姫の剣を捌きつつ、考える。

私たちが戦っている観客席の下や上では、

GS候補たちとゾンビの戦いが、今なお続いている。

時折、私の視界に、勘九朗や雪之丞も入る。

奴らにすれば、ゾンビは少しだけ格下の相手だ。

相応の余裕を持って、次々と撃破している。

また、横島は先ほどの場所で、GS美神と何やら言い合いをしている。

その近くにいる愛子も、同様に健在だろう。


とりあえず、私の身内と表現できる人間は、今のところ無事だ。

私はそれに一先ず安堵する。

その間にも、力の弱い人間は、コート上で負傷していくが、

……そんな奴らのことは、知ったことではない。

赤の他人で、見知らぬ人間がどうなろうが、私は別にかまわない。

思い入れのある人間が特例なだけで、

私は目の前の小竜姫のように、人間を愛護するような存在じゃないからね。


「メドーサ!」

「そんな正直な剣で、私を倒せるとでも?」

「くっ!?」


「いいのかい? 私よりゾンビの相手が先じゃないのかい?

 このまま放っておくと、死人が多く出るよ?」


私は小竜姫の相手をしている時間が惜しかった。

だから、私は奴を挑発することで、この場を退いて欲しかった。


小竜姫は確かに強いのだが、私からすれば剣筋は非常に読みやすく、戦いやすい相手だ。

実際、私は奴の攻撃を、それなりの余裕を持って相手している。

だが……完全に倒すとなると話は別だ。

殺す寸前まで行けば、小竜姫も形振りかまわず本気になり、人化を解いてくるかも知れない。

本来の姿である竜神となれば、理性を代償に、小竜姫は圧倒的な力を得る。

そうなれば事態は逆転し、人界では真の力を出せない私が倒されるだろう。


「将である貴女を倒すことが、この事態を収拾する最も早い手です!」

「…………外れちゃいないよ。私が本当に犯人なら、ね」

「貴女以外に、誰がいるというのですっ!」

「………ちっ」


小竜姫の言葉は、そのまま今の私の疑問でもあった。

この事態を引き起こせる者。

そもそも、何故小竜姫がこの場にいるのだ?


『お前がGS協会に手下を送りこもうとしていた魔族ですね!?』


私を見た小竜姫は、そう言った。

つまりどこからか神族に情報が漏れたことは確実だろう。

だが、どこからだ?

小竜姫は自身で『まだ証拠は掴んでいない』と暗に言っていた。

つまり、横島や勘九朗など……白竜会の誰かから漏れたとは考え辛い。

そうなると……もっと他の、何か特別なルートから、曖昧な情報が流れた?


(戸惑っているようだな、メドーサ)

(…………これはベルゼブル!?)


不意に、私の思考に、ハエ野郎の声が響く。


(はっ! そうかい、あんたらが私をハメたわけか!)

(悪く思うな、メドーサ)


そこで、突然ハエ野郎からの念話は途絶えた。

念話である以上、そう遠くないはずだが……どこだ?

さすがに気配を消した小さなハエを、剣をかわしつつ探すことは出来ない。


それにしても…………悪く思うな? 

そんな言葉を素直に聞けるはずがないだろう!?

ハエがこう言って来ると言うことは、黒幕はデミアンか……。


(がはっ!?)


私がそう当たりをつけたとき、不意に腹部に激痛が走った。

困惑とともに視線を腹へとやると、

ライフル弾に撃ち抜かれたような、小さな穴があった。

血が、零れていく。人のそれとは違う、ほの暗い紫色の血が。


(……悪く思うな)


くそっ、ハエ野郎め。

超高速でこちらの腹へと突撃し、私が比喩したライフル弾よろしく、

人の腹に大穴を空けてくれたらしい。

だが、これくらいならば、まだ大丈夫だ。

そう思い、私が意識を腹の傷から浮上させると……眼前に剣が迫っていた。


「メドーサ! 隙有り!」


…………ああ、そうか。本命は、小竜姫の神剣か。

ハエはハエらしく、ただ人の集中を削いだだけ、か。


私の肩に、小竜姫の神剣が埋没していく。

胸の肉を、固い金属が切り裂いていく。

私の二つの乳房の間に、綺麗な紫色のラインが引かれていく。

そして、そこからラインと同じ色の液体が、盛大に噴出した。




………………ああ、斬られている。




このままでは、死ぬ。

戦い、小竜姫をどうにかすることなど、不可能だ。

私に隙を作らせた小さなハエは、今もどこかに居るはずだから。


何としても、この場は逃げなければならない。


私は、こんなところで死ぬ気など、全くないのだから。


そう考えたものの、私は飛び続けるだけの力も維持できずに、

気づけば、体は地面に叩きつけられていた。














            第七話    出来うる限りの、全力攻撃














突然、メドーサの動きに隙が出来た。

おそらくは、油断か。

あるいは計画の失敗により、彼女は彼女なりに、大きく心を乱していたのか。

なんにしろ、メドーサは私の剣を受け、試験会場のコートへと落下する。

地面に叩きつけられた彼女は、しかし、まだ息をしていた。

そして、コート上に立つ、

メドーサに召喚されたらしいゾンビも、いまだ健在だった。


さすがは指名手配されるだけの上級魔族だ。

私は真剣を握りなおすと、メドーサに向かって下降する。

やはり、彼女の首をはねなくてはならない。

彼女も、分類的に言えば私と同じ竜神なのですが……仕方がありません。

胸中で決心を固め、息に気合を練りこみ、私は剣を振った。


……だが、その剣はメドーサの首に届くことはなかった。


「どういうつもりですか、貴方は」

「そっちこそ、どういうつもりだ!」


横島さんは手にしたサスマタで、メドーサの首を狙う私の剣を受け止めていた。

私の神剣を止めるとは……あのサスマタには、相応の力が込められているらしい。

メドーサの持つものと比較すると……漂う雰囲気が非常に似ている。

おそらくはメドーサから受け取ったものだろう。


「貴方は、何故メドーサに肩入れするのです? 彼女は犯罪者なのですよ?」

「まずその犯罪者だって言う、断定が理解できないよ、俺には!」


人間の彼にも分かりやすいよう、あえて犯罪者という言葉を使う。

実際、神に剣を向け、あまつさえ人界の組織を操作しようとした魔族は、

犯罪者などという表現では収まりきらないほどに、『悪』の存在なのですけれど。


「退いてください」

「いやだ! メドーサさん、逃げて! 時間は俺が稼ぐ」

「私の邪魔をすると、仏罰が下りますよ?」

「それでも、退かない!」


私は剣を構えなおし、彼と対峙する。


言い合いは、無駄だろう。

彼はメドーサを心底信用しているようで、

実際、先ほどの言い合いも、無駄なものでしかなかったのだから。

また、彼の様子を見るに、すっかりと頭に血が上ってしまっている。

私の知る彼は、

随分とちゃらんぽらんな性格の人間でしたが……やはり、怒りは人を変質させるのですね。


とにもかくにも、今は彼を剣で退かして、早くメドーサに止めを刺さなければならない。

魔族である彼女は人間と違い、

時間を置けば、ある程度その傷を回復してしまうのだから。


幸い、メドーサは彼の背後で、いまだ動けずにいる。

私から受けた傷が、ひどいのだろう。

仮に動けたとしても、地面をはいずるようにしか前には進めないはずだ。


メドーサから視線を放し、私は一人の少年を睨みつける。

それに対して彼は、自身の右手に霊力を集中させた。

まさか、自然に体を覆っている霊的防御を一点に固め、

高威力の何かを作り出すつもりなのでしょうか?

私は彼のやろうとしていることを、彼を見据えて分析する。


たかが人間。人間では上等の部類である唐巣さんにも劣る、GS候補の少年。

しかし、されど人間です。

特にメドーサの元で修行した人間とあれば、油断は出来ません。

可能性としては、美神さんの様なからめ手で、こちらを翻弄するかも知れません。

得体の知れない相手の行動には、相応の注意と予想が必要なのです。


…………だが、彼は私の予想を超えることをし始める。


なんと、右手に集めた霊気の塊を石化させ、石の手甲を作り出したのだ。


「行くぞ! スピリット・ガントレットゥ!」

「!?」


彼はそう叫ぶなり、こちらに向かって疾走する。

超加速すら出来る私からすれば、

大して速い速度ではないが、人間としては及第点だろう。

私はこちらに迫る彼に、神剣を振るった。


おそらく、彼はその剣をサスマタで受けるはず。

それによりこちらの攻撃をかわして、

その右手の手甲で、こちらに打撃を加えてくるはずだ。

私は胸中でそう推し量ったのだが、

しかし、彼はまたしてもこちらの予想しない行動に出た。


「でやぁぁぁぁ!」


彼は私の振る神剣に対し、その右の拳で応えた。

そう、彼は自身の作り出した石の手甲で、神剣の刃を殴りつけてきたのだ。

神剣の刃は、鋭く光を称える刃。

私が使えば、金剛石でも切り裂ける刃なのだ。

それを、何故ただの石の手甲が…………?


いえ、どうやら違うらしい。考えてみれば、すぐに分かることです。

彼は自身の霊気を凝縮し、塊とした後に、それを石へと変えた。

つまり、この手甲は霊石によって作り出された手甲。

自然の気が集約して発生する精霊石には遠く及ばないでしょうけれど、

それでもかなりのものだろう。

純度だけで言えば、純度100パーセント霊石なのですから。


「はぁっ!」


本当なら、手加減をするつもりだった。

だが、そうも言ってられない。

もしこの手甲で殴打されれば、私とて相応のダメージを受けることでしょう。

ただの霊波砲、ただの霊弾……そんなものならば、私はさほどダメージを受けない。

しかしこの手甲は、その霊波砲や霊弾を、信じられない方法で固形化したもの。

ある種、禁断の術である魔装術と通じるところがある……。


私は力を込め、彼の拳に応える。

悪いが、このままこの拳は壊させてもらいます。


「降参してください! 無駄な殺生をする気はありません!」


拳を壊す気は、あった。彼の攻撃の最たる手段を壊す気はあった。

だが、殺す気はなかった。

だから、私は彼に再度この場から退くよう、忠告した。


しかし、彼は私の言葉を受け入れる気はないらしく、

こちらに体重をかけ、私の剣を押し返そうとしてきた。


仕方なく私がさらなる気合を剣に込めると、その圧力に負け始めた。

彼の手甲の表面に、ぴしぴしと小さな亀裂が発生する。

このまま彼が意地を張り続ければ、

彼の右腕は『1本』ではなく『2枚』になってしまうだろう。

仮に開いた左手でサスマタを使おうとすれば、そこに出来る一瞬の隙を突くつもりだ。


「降参、しなさい!」

「ここを退く気はない!」


私が圧倒的に優位に立っているにもかかわらず、彼の態度は変らない。

それどころか、彼は私に対して、笑みを浮かべた。

嘲笑でも自嘲の笑みでもない。

なんと言うか、この場にそぐわない……いたずら小僧のような笑みだった。

瞬間、彼が叫ぶ。


「石破!」


彼が叫ぶ言葉どおり、彼の右手の手甲のひび割れは大きなものとなる。

そして、砕けた。

ただ砕けたのではない。

石の破片が私の方向へ飛来する……そう、まるで爆発したかのように、砕けた。


「っああぁ!?」


石の破片は、それ一つ一つが凝縮された霊気の塊。

さすがの私も、この攻撃には参らされた。

何しろ、霊石の弾を使用する散弾銃を、眼前で撃たれてしまったようなものなのだから。


情けないと思える悲鳴をあげ、私は後ろへと飛んだ。

…………くっ。目まで、眩んでしまっている。


私は片手で神剣を持ち、空いたもう一方で目を擦った。

少々辛いが、しかし、戦えないほどではない。

もう数十秒もすれば、この目の状態も治るだろう。

しかし、驚かされました。

まさか、自分から作った手甲を破壊して、相手に攻撃するなんて……!



「…………予想はしていたけど、全然効いてないな」



彼の笑いを含む声が、私の耳朶を打った。

しかし、今回含まれている笑いは、呆れによるものだった。

どうやら、今の技が彼に出来る最高の威力のものだったようだ。

それが私には大して効果がないと感じ、互いの力量差に思うところがあったのでしょう。


しかし……。

彼自身はこの現状に満足していないようですが、

私にしてみれば、それは傲慢と言うものです。

竜神であるこの私を驚かす。

それは、十分に凄い技なのですよ?

少なくとも、GSにすらなっていない人間が行使する技ではありません。


私はもう一度目を擦って、彼のほうを見やった。

彼の後ろには…………すでにメドーサはいなかった。

まだまだ動けないだろうと踏んでいたのだが……見通しが甘かったようですね。

逃げられてしまったようです……。


私の視線に彼も気づいたらしく、後ろを振り返りました。

隙だらけでした。

隙だらけのまま、彼は背後を見て嘆息し、小さく笑みを浮かべます。

『安堵』という言葉を、彼はその表情で表現していました。


「メドーサさん……よかった」

「何が『よかった』ですか! 何故、貴方はメドーサのことを……」

「何でも何も、あの人は俺にとって大切な人だから」


私の言葉を遮って、彼はそう言い放ちました。

言ってから少し照れたらしく、視線を私から逸らしました。戦闘中だと言うのに、です。

何なんでしょうか、この人は。

私は眉を寄せつつ、彼のことを観察し続けます。


彼はサスマタを肩に担ぎ、もう一度息を吐きました。

いまだ、彼の口には微笑が湛えられていた…………のだけれど、

それが突然、凍りついた。


「っ! 危ない!」


私が彼の表情の変化を怪訝に思っていると、

彼はこちらに向かってサスマタを投げやった。

それは私の隣を通り過ぎて…………背後から接近していたゾンビの首に直撃する。

サスマタの先端は、Uの字を描いているのですけれど、

その先端にゾンビの首が挟まり、地面へと縫い付けられたのです。


「……どういうつもりです?」


私は彼にたずねました。

彼の行動には、一貫性がまったくありません。

彼は、何なのでしょう? 

魔族に協力していたGS候補では、ないのでしょうか?

もしそうであれば、何故私を助けるのでしょうか?


私が健在であると言うことは、メドーサを追跡する存在で健在であるということ。

メドーサを助けたいのであれば、今のゾンビが背後から攻撃し、

私に隙が出来たその瞬間に、こちらへと攻撃してきても、よさそうなものです。

私を行動不能にする。それが無理なのであれば、この場に出来る限り縫い留めておく。

そうしなければ、私はメドーサを追跡し、彼女を殺すのですよ?


「どういうって……聞かれてもなぁ……」


私の問いに、彼は今度は首を傾げました。

彼は私の質問の意味が、心底理解できないという風情でした。

心底理解できないのは、私も同様です。全くもって、わけが分かりません。

彼は……敵か、味方か。そのどちらなのでしょう?


「貴方は、私の敵でしょう?」

「助けた神様に敵扱いされてりゃ、世話ねぇな、横島」


私の台詞に答えたのは、

彼ではなく、彼の後ろに降り立った、目つきの悪い少年でした。

また、他にも2人の男の人が、私の前の降り立ちます。

全員が同じ胴着を着ており、つまりは……メドーサの弟子である白竜会の所属です。

もしかして、この4人で私の足止めをするつもりでしょうか?

どうでもいいのですが、何故『白竜』なのに、胴着の色が白くなく、黒っぽいのでしょう?


「ねぇ、そこの神様。小竜姫さまでよろしいかしら?

 まずはメドーサ様をどうにかするより、この事態を収拾するほうを先決しません?」


一番身長の高い男性……しかし何故か女性的な口調の男性が、そう提案する。

彼に懐疑的な視線を向けると、彼は苦笑してから言葉を続ける。

なお、目つきの悪い人と、もう一人の顔に傷がある人は、

手から霊波砲を放ち、こちらに寄ってくるゾンビを蹴散らしています。


「メドーサ様に、私たちは霊能の手ほどきを受けていたわ。

 つまり、私たちはあの人をずっと近くから見ているのよ。

 貴女は書類か何かでしか知らないようですけれど、

 私たちは毎日顔をあわせて、一緒に食事までしたりすることもあるのですよ。

 でも、だからこそ言えますわ。今回の一件、あの人のやり口じゃない。

 ここだけの話、あの人は意外と、乙女チックな人だったりするんですよ?」


「勘九朗! いい加減、こっちももう疲れてんだ!

 説得するならするで、さっさとしやがれ!」


「うるさいわね! 黙ってなさい!

 こういうのは、誠心誠意、真心が大切なのよ!

 …………っと。

 まぁ、そういうわけで、この事態を収拾するのを、先にしませんこと?」


私は、そう提案してくる彼を凝視し続ける。

確かに、メドーサに逃げられた今となっては、事態を収拾するほうが先かも知れない。

追ってもいいけれど……でもやはり、今この場を放っておくことは、出来ない。

放っておけばおくほど、負傷者は増大するだろう。

それどころか、死者も出てしまうかもしれない。

そしてその死者も、このような状況下では、

下手をするとゾンビ化してしまう可能性が……ないわけではない。


「何か、いい手があるのですか?」


ゾンビは、最初に会場の外から侵入して来た。その後、外からの侵入者はない。

そのはずなのだけれど、ゾンビやその他の魔物の数は増えている。

実際、多くのGS候補がゾンビに対して攻撃していますし、

今も目の前で、白竜会の彼らはゾンビを攻撃しています。

しかし、ゾンビは減ることなく、むしろ突入してきた最初の数よりも、増えている。


もしかすると、

倒れたゾンビたちから流れ出た血が、召喚の門となっているのかも知れません。

つまり、すべてを蒸発でもさせない限り、ゾンビは無限に湧いてくる可能性があります。

だが、この会場全体を蒸発させるような攻撃力は、私にはない。

人化を解けば話は別だけれど……それでは、

東京自体が火の海に沈んでしまう可能性もある。


最もよい解決方法は、この会場を丸ごと浄化して、召喚門を閉じてしまうこと。

しかし、やはりここまでゾンビが湧いて出るようになった場所を浄化しきることは、

並大抵の能力では不可能だ。

浄化も無理、蒸発も無理。では、どんな手があるのだろう?


「会場から人をすべて脱出させさえすれば、私に任せてくださってけっこうですわ」

「この会場を浄化、あるいは消し去ることが出来るのですか?」

「ええ。少々荒っぽい方法なのですけれど。火角結界って、ご存知?」



…………へ?

彼の言葉に対し、私は呆然としてしまった。

火角結界? あの結界兵器の火角……ですか?

確かにそれを使えば、この会場ごと召喚門を消せるでしょうけれど……。


呆れる私に、彼はウインクをしてきた。

…………似合わないと思った。





次へ

トップへ
戻る



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送