第二十五話



人間は死ぬとどうなるんだろう?

普通なら、死んだ人間はどうにもならなくて、単なる肉塊になるだけ、とか……。

あるいは、人々の心の中に、永遠に生き続けるんだ、とか……。

色々なことが言われているけれど、GS的な立場から言うなら、

間違いなく天界とか魔界とかはあるわけで。


俺は天国に逝けるんでしょーか? 

清く正しく美しく生きてきたつもりですが、

美少女な神様とは、セクハラやらメドーサさんの件で対立してるしなぁ。

もし地獄に堕ちたら、魔界めぐりとかやって見ようかな?

そう言えば、地獄の門番にはケルベロスがいるって言うけど、あれってメドーサさんの家系なんだよな。


コーラルの話でちょい気になったから、前に学校の図書館で神話の本を読んでみたんだけど、

それによると、メドーサさんはポセイドンに無理矢理孕まされて、ペガサスとクリュ何とかって言う子供を産んだ。

で、そのクリュ何とかって言う奴の娘に、エキドナって言う魔物がいて、

そのエキドナの子供に、RPGでお馴染みの怪物がわんさかといるわけだ。

合成獣キマイラ、水蛇ヒュドラー、冥界番犬ケルベロス……。

化犬オルトロス、スフィンクス、スキュラ、ネメアのライオン……などなどなど。

こうして考えると、メドーサさんは名門魔物の祖先って感じなのかな?


もし、地獄でケルベロスに会ったら、こう言っとこう。

貴方の祖先であるメドーサさんと、今現在真剣に交際させてもらっている、横島……横島忠夫でございます! ってな。


あー……、でも生まれる前まで時間を遡って消滅するってことは、普通の死に方じゃないよな?

だったら、俺・横島忠夫の魂は、生まれ変わることもなくて、永遠に次元を狭間を漂うのか?

………あれ? 生まれる前まで遡って消滅したなら、今こうして考えている俺は誰だ?

おキヌちゃんみたく、自我の強い幽霊として、何処かをさまよってんのか?

それとも、今俺がここにいて、何かを考えているって言うのは、全部錯覚?

俺は俺じゃなくて、俺はどこにもいなくて、俺はここにいない?

でもでも、コギト・エルゴ・スム……とか言う言葉もあるよな?

考える自分がいるから、自分はそこにいると言っていいとか、確かそんな意味。


「起きろ! いつまで寝ている!」


どこからともなく、声が聞こえてくる、

それはどう考えても、野太い男の声だった。

最悪だった。死ぬか生きるかのよく分からない瀬戸際で聞く声が、男の声だなんて。

これはもしかして閻魔大王の声なのか? 

もしかして、俺地獄の入り口に立っているのか?

どうせなら……最悪でもヒャクメちゃんでもいいから、女の子の神様に声をかけてもらいたかった。


「ええい! 起きろと言うのに!」


目を覚まさない俺にいらだったのか、男は声を荒げたみたいだった。

でも、俺は何の反応も返さない。返すことが出来ないんだ。

どうせ、どれだけ目を開こうとしても、目は開かない。

なんせ、俺は生まれる前に遡って、消滅しちまったんだしな。

もしかすると、俺と言う魂は何もない空間で、幻聴を聞いているのかも……。


「ごぼばっ!?」


諦観と言う、俺らしくない状態で物事を考えていたら……頭に衝撃が走った。

殴りつけられたような、蹴られたような、そんな衝撃。

て言うか、痛い。頭も痛いが、首も痛い。

後々、熱を持つであろう、そんな痛みだ。


「っだぁ! ああ、もう! こっちは消滅して、受け答えが出来ないって言うのに!」

「寝ぼけているのか、お前は!」


憤慨とともに声を上げれば…………声が出た。なぜか、出た。普通に出た。

驚きとともに目を開いてみれば……やはり開きはしない……なんてことはなく、あっさり開いた。

ずっと目を瞑っていたからか、世界は光に溢れているように思えた。

一瞬、ここが天国ってヤツか、などと考えたけれど、

すぐに目は慣れて、普通の世界にしか見えなくなる。


「あー、いってぇ……」


頭を押さえつつ、立ち上がる。うん、足はある。手もある。

鏡がないから分からないけど、顔もある。だって、目が見えているし。

ついでに言うなら、重力もしっかりあって、俺はしっかりと上下左右の区別が出来ている。


「? 俺、どうなってんだ? 生きてる? マジで?」


ひとしきり、俺は自分の身体を点検する。

点検結果を述べるなら、五体満足。完璧だった。

異常があるのは、先ほど殴られでもしたらしい頭と首だけだ。

あと、おかしいと言えば、着ている服が着た覚えのない和服だったが……まぁ、今はどうでもいい。

とりあえず、俺は生きているらしい。


「俺、生きてる?」

「殺しても死なないような人間が、何を言っているんだ」


現実を把握しようと零した言葉に、男の声が茶々を入れてくる。

声の主の方に視線をやってみれば、

そこにいたのは眉毛が勘九朗さんレベルに濃い、俺と同じような和服を着たロン毛の兄さんだった。

と言うか、今辺りを見回して気づいたんだけれど、床は板張りで、天井も全部木造。

フローリングって感じじゃない。

床にあるはずの畳を全部めくりましたって感じの、実に固そうな造りだった。

俺が今まで寝転がっていたのは、もちろん布団の上だったけど。

でも、その布団も羽毛布団とかじゃなく、かなり薄い煎餅布団だった。


布団から視線を話して、周囲の観察を続ける。

随分と開けっぴろげな造りの建物の中にいるらしく、その場から庭が見えた。

はるか昔の日本庭園と、そう思えるような質素な庭。でも、何気に池なんかもあるな。

そしてその庭は、2mほどの壁で覆われていた。

天気は晴れていてるが……しかし庭の向こうからは、自動車の音も道行く人の声も聞こえてこない。

…………ここは、いつの『過去』なんだろう?

俺がこれまで歩んできた人生の中で、こんなところに来たことはあったか?

なんか、雰囲気が凄い田舎のお屋敷か、何かっぽいんだが……。


「きょろきょろして、どうしたんだ? 頭でも打ったのか?」

「いや、どーなんだろ。て言うか、あなたは誰ですか」

「…………打ち所がよかったらしいな。言葉使いが丁寧じゃないか」


疑問符を貼り付けて周囲を見回す俺に、ロン毛が言う。

何処か嬉しそうなその顔からは、いたずらが成功したような、優越感みたいなものが感じられた。

この人、俺とどういう関係なんだ? 

少なくとも、俺はこの人と会った覚えはない。

顔を見て名前が思い浮かばない時点で、会った事がないのは確実なはずだ。

俺には男の顔を覚える気なんて、普段から基本的にない。

でも、こんな悪友じみた雰囲気で話しかけてくる人間をすっぱり忘れるほど、

俺は薄情な人間じゃないはず。マジで誰なんだろう、この人。

年齢は……大体20代後半くらいだろうか? 

格好が格好なので、どういう職業の人間かとかも、想像できない。何しろ、和服だし。


「やれやれ。君は昨日の夜、何がどうなったか、本当に覚えていないわけだ?」

「昨日の夜? その、できれば教えてほしいんスけど」

「いいだろう。僕が分かりやすく説明してあげようじゃないか、高島君」

「……高島?」


微妙に俺の名前ではない名前に、俺は眉をひそめた。

けれどロン毛の兄ちゃんはそれをスルーして、話を続ける。


「若い娘を見れば、誰彼かまわずツバをつけようとする君に対し、

 陰陽寮は強攻策に出ることにした。

 君も今の情勢が理解できんほど、阿呆でもないだろう?

 中務省の重要部署とは言え、今の藤原氏と事を構えるのは、陰陽寮としても得策ではないんだ。

 だから、まぁ……つまり藤原氏の娘に夜這いにいく君に対し、罠を張ったわけだ。

 そして昨夜、君はこの僕が張った捕縛結界に、見事引っかかったと言うわけだ!

 恨むなら、その自分の節操のなさを恨むんだね、高島君!」


嘲笑うかのように……と言うか、確実にこっちを嘲笑して説明するロン毛。

しかし、今は挑発するようなその声も、バカにするような説明も気にならない。

高島って、誰だ? 藤原氏? 陰陽寮?


ここはいつの過去ですか、と言うか、もしかして……………いや、マジで? でも……?



俺は不意に、あることに気づく。

生まれる前。それってつまり…………アレ、ですか?



俺は、俺は……生まれる前に遡って……前世まで来てしまいましたか?











                  第二十五話     鳴くよ、鶯、平安京










一体、今が『いつ』なのか。

具体的な年号は、俺にはよく分からない。

何しろ、今この時代に使われている暦は西暦なんかじゃなくて、『延喜』ってものだから。

でもまぁ、街中を一回りすれば、人々の噂を聞けるんで、ここが『何時代』なのかは、大体で予想がついた。


恐らく、900年代。

俺がいた21世紀より、1000も昔の時代。平安時代だ。


何でもつい最近、菅原道真がなんか色々あった結果、九州の大宰府に飛ばされたらしい。

で、藤原氏が勢力を持ち始めていて……多分、もう少しすれば、藤原道長なんかが出てくる時代なんだろう。

藤原氏と言えば、10円玉の後ろに描かれている鳳凰院とか言う建物を作るんだよな。

あれ? 平等院だったっけ? まぁ、どっちでもいいけどさ。


とにかく、今は藤原氏がすっごい権力を持っているんだそうだ。

そしてその藤原氏ゆかりの娘に、俺の前世である高島は夜這いをかけようとして……仲間に捕らえられた。

もしその罠までもかいくぐって、夜這いに成功していれば、死刑もありえた……らしい。


現代風に言うなら……うーん、どう言えばいいんだ? 

俺の知る社会に、そこまで大きな権力ってないしな。

あえて言うなら、総理大臣の娘に手を出した……って感じか?

あるいは、やくざの愛人に手を出して、東京湾にコンクリ詰めにされて、どぼん……みたいな感じか。

どうにしろ、前世の俺は随分と大胆と言うか、恐れを知らない人間らしい。

それとも、そこまで夢中になれるくらい、美人だったんだろーか?

なら、少し見てみたい気もする…………って、おいおい。

俺って、1000年経っても、進歩してない?


「何を考え込んでるんだ、高島?」

「ああ、いや、なんでもないです」

「……そろそろ、君に敬語を使われるのが、気持ち悪くなってきたよ」

「んなこと言われてもなぁ」


ロン毛の兄さん……名前は西郷と言うらしい……に付き従って、俺は建物の中を歩く。

何でも、俺は……俺の魂が今入っている『高島』は、

それなりの上位の陰陽師らしく、仕事がけっこうあるそうなのだ。

そしてその仕事を放って置いて、夜這いばかりかけまくるそうなんで、仕事は溜まりまくり。

そんなわけで、目が覚めたなら、さっさとその仕事を終わらせろってことらしい。

西郷さんは同僚ってことだけど、どっちかと言えば俺のお守りというか、目付け役っぽいな。

事実、西郷さんは、俺のことを逃げ出さないように監視しているっぽいし。


「で、俺は何をすればいいんスカ?」

「色々あるぞ。天文の観察も僕が見張るからな。しばらく自由はないと思いたまえ」

「空の観察って、夜でしょ? なら、夜までは?」


「体力仕事だ。京の町の魑魅魍魎の退治。そして巫覡の取り締まりだな。

 最近の巫覡の技は磨かれている。検非違使では押さえきれないため、陰陽寮に要請が来ている」


「えーっと、フゲキ? ケビイシ?」

「……本当に変なところを打ったらしな。無許可の呪術者と、罪人を捕らえる役人のことだろう?」

「あ、そうか。なんか聞いたことがあると……」


そう言えば検非違使の方は、歴史の教科書でも出てくる言葉だしな。

道理で何処かで聞いた覚えがあったわけだ。

そんな風にうんうんと納得していると、西郷さんが俺を睨みつけてきた。


…………やべ、ばれたか?


俺は高島じゃなくて、その来世の横島なんだ。

そのことがばれたら、問題になる気がする。

何しろ、相手は陰陽術が最盛期の頃の呪術者なんだ。

もし『高島は変なものが取り付かれている』とか思われたら、俺が祓われてしまうかもしれない。

もし祓われたら、俺ってどうなる?

今はこうして存在している俺だけど……やっぱり存在が保てずに、消滅?


祓われた場合が全く想像がつかないんで、当分は高島としてやり過ごして、今後を考えるつもり。

ついさっき、混乱する頭でそう結論を出した……つか、出したばっかりなのに、もうばれかかってる?

ばれちゃいかん。いかんのだ! よし、ここは目を逸らさないで、我慢だ!

俺はこっちを睨んでくる西郷さんを、睨み返す。


「…………」

「……」

「………………」

「…………」

「高島、その額の汗はなんだ?」

「きょ、今日は暑いなぁ、なんて……」

「昨日より涼しいだろう?」

「そ、そうっすか?」

「…………まったく。仕事をやりたくないからと言って、記憶を失ったふりなどやめることだ」

「え?」

「嘘をついているだろう? バレバレだよ。馬鹿らしいくらいにね」

「あ、あはははは」


何かを隠していることは悟られたみたいだけど、何を隠しているかまでは分からなかったらしい。

勝手に勘違いして嘆息する西郷さんに、俺は乾いた笑いを放った。





         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





魑魅魍魎が街中を闊歩する。それがこの時代だ。

現代社会でも、経済発展とともに過去に封印された魔物が出てきたり、

あるいはこれまでわざと触れなかった地区をわざわざ再開発して、色々と霊による問題を多発させてた。

だからこそ、GSと言う職業が成り立つわけだけれど……この時代は現代とは比べ物にならないなぁ。

理路整然って感じで、平安京は道路がまっすぐに伸びている。

その道路……大通りはまだマシなんだけど、少し裏に回れば、普通に死体が転がっていたりする。

そしてその死体に餓鬼が群がって、バリバリ食べていたり……。

これが、古代の日本の首都の姿? しゃれにならない。地獄じゃないか。

これなら、どっかの地方の農村の方が、絶対に平和だと思う。

無理矢理中国の都市を真似て都市建設を推し進めるから、こんなことになるんだ。


まぁ、そう思えるのも俺が現代人だからだよな。

今の時代の人からすれば、平安京は間違いなく最新の街で、そして栄華の象徴なんだろう。

そこらに蔓延る魑魅魍魎も、一応陰陽寮や巫覡が撃退するから、絶対的恐怖を覚えるものでもないし。

考え方によっちゃ、対処の難しい山の中の狼や熊より、餓鬼の方が安全かも知れないしな。

餓鬼は腐り始めた死体から、まず襲ってくるわけだしな。


「腐臭たち込める花の都、か」


俺は西郷さんの指示に従って、平安京の中を練り歩き、餓鬼を撃退していく。

それほど強いわけじゃないんだけど、数が多い上に、俺の術が効きにくい。

西郷さんから……と言うか、陰陽寮から与えられた札が、使いづらいんだよな。

俺が自分で作っていた符とは、少しばかり構成が違うらしい。

現代人の俺のやり方だと、うまく符の力を出し切れないつーか、なんかそんな感じなんだよな。

…………こういう違うも、いつの間にか失われた技術の一欠片なのかもしれない。

美神さんの荷物や、厄珍堂店内でも、今使っているような符は見かけなかったし。


「……どうした、今日は調子が悪いみたいだな?」

「起きてすぐに飯も食わずに、歩き詰めで死体に群がる餓鬼を退治させられれば……」

「ふむ、まぁ、そうだな。よし、とりあえず昼の仕事はこれで終りとしよう」

「あれ? いいんすか?」

「まぁ、真面目に動いたのは確かなようだしね。いつもこれくらいな助かるんだが」


西郷さんはやれやれと、両手を挙げて顔を左右に振った。

普段の高島は、どういう仕事の仕方をしてたんだろう?

慣れてしまって、もう街に餓鬼が溢れるのが、気にならなくなったのか?


俺がそんなことを考えていると、西郷さんは『ここで解散だ』と言い、去って行った。

恐らく、あの人はあの人で仕事があるからなんだろう。


「って、こんな洒落にならない都の道で、放り出されてもなぁ」


…………俺は、これからどうしようか。

知り合いもいないし、街がどういう地理になっているのかも、知らない。

行きたい場所はないし、そもそもここは俺のいるべき時代じゃない。

周囲を見回せば、見ていて気持ちいい光景はあまりない。

市場を通った時は、多少『活気』と言うものが感じられたけど、それも本当に一角だけ。

…………うーん。都が栄える要因がない気がする。

せめて商売が盛んなら、まだ救いがあるんだろうけど。

でも資本主義なんてないし、楽市楽座とか言うのは、確か戦国時代に入ってからだし。


「これほど見て回って、イヤになる街はそうないと思うぞ?」


平安京を全体的に考えると、すっごく負の空気にまとわり憑かれている感じ。

確か、湿地帯があるせいで、今後も平安京内は宅地化が進まなくて、人が住まなかったりするんだよなぁ。


「……とりあえず、もう少しやるか」


俺は西郷さんから貰った札がまだまだあることを確かめてから、歩き出す。

餓鬼が死体に群がる。そんな光景は、見ていたくない。

この時代の人々にとっては、すでに『仕方のないこと』と諦められることかも知れないが、俺には無理だ。

それに、死んだあとに自分の死体を物の怪に食われたりした魂は、

浮遊霊や自縛霊になって、さらに都の中に負の空気を呼び込む原因にもなっているみたいだし。


俺に関係のない時代……だけど、前世だと言うことを考えれば、バリバリ関係ある時代。

今すぐ現世に帰れないなら、少しでもこの時代をよくしてやりたい。

もしかすると、この時代で腹を空かせて餓死しかけている子が、

実は現世で俺に関係する人ってことも、可能性としてはあるわけだし。

なんなら、この『高島』の屋敷とかにある食料とか、勝手に配り歩こうかな?

痩せてる女の子や……いやまぁ、男でも子供が痩せてるのはマジでいやだし。


ぶつぶつと独り言を言いつつ、俺は街を行く。

もちろん、街中で不穏な空気を感じれば、出来るだけ浄化しながら。

そう言えば、この『高島』の体は、筋力こそついてないけど、霊力は俺より断然高い。

今身体を動かしている魂が俺だからか、出せる力は少ないけど……本人がマジで使えば、美神さんレベルかもな。


「おお! さすがは巷で密かに人気の巫覡! 手際はもとより、その姿も格別じゃな!」

「…………ウルサイ。黙って。検非違使をまくのも、面倒なのよ?」

「おお、すまんすまん。して、これが礼じゃ」

「……予定より、多くない?」

「かまわぬよ。狗にやるより、お主にやる方が銭も喜ぶ」

「じゃ、遠慮はしないわ。貰っとく」


平安京を左京北部に向かって歩いていると、ある屋敷の庭からそんな言葉が聞こえて来た。

屋敷の庭を覆っている塀に足をかけて、ひょいっと顔を出してみる。

おっと、やべ。高島の身体は、運動にはあんまり向いてないんだった。

俺は危うく塀から落ちそうになりつつも、何とかバランスを保った。


「さって? 今の声の人物は……っと」


貴族の家ってのは敷居が高いもんだろうし、

見つかったらやばいかもって思うけど……声が可愛かったんだよなぁ。

まぁいいや。いざとなれば、この家に悪霊が入っていったのを見たって言えばいいし。

陰陽寮って言うのは宮廷内でもそれなりに高い地位みたいだし、モーマンタイだろう。


そんな調子で中を観察してみれば、そこにいたのは金の髪をした女の子。

どう考えても、この時代の日本ではあり得ない色の髪だ。

あの容姿で『巷で密かに人気』なのか? 

どう考えても、超有名人のような気もするけど……。

あれが都合よく美神さんの前世だったりしないかな、とか思ってたら……その女の子が振り返った。


「? 不穏な気配」


ポツリとこぼれるその声は、どうやら独り言らしく、俺には聞こえなかった。

でも、なんかひどいことを言われたような気がするのは、気のせいか?

俺は振り返った女の子の唇辺りを中心に、その娘の全体を眺めていく。

瞳は、実に鋭い光を持っているんだけど……声でそう思ったように、やっぱり可愛い。

冷たい感じが、得難い色気みたいなものを発していると言えばいいのかな?

そしてその娘の服は、十二単みたく全身の肌を覆い隠すような格好じゃなくて、

二の腕とかふくらはぎとか、けっこう露出度の高い、こぎれいな町民の格好って風情だった。

いい。うん、とってもいい。貴族の娘さんよりも、町娘を好む悪代官の気持ちが、よく分かる。

服装が豪奢過ぎないからこそ、本人の色気みたいなものが沸きあがるよな!

現代風に言うなら……裸に男物の、大きいYシャツだ。これはもう、クリティカル。

そして何より、その金髪。プラチナブロンドとか、そういう表現をしたほうがいいかも。


「……っ! 陰陽寮の! 私を捕らえに来たか!」

「いや、ただ単に可愛い声がしたから、覗いただけなんだけど」


女の子が警戒しだしたので、俺は本当のことを言う。

しかし、女の子は、元から鋭い目つきを、さらに鋭くした。

俺の言葉なんて、まったく信用していないって感じだ。

まぁ、実際俺は今陰陽寮の人間だし、巫覡って言う無許可の呪術者は捕まえろって言われてるけどね。

でも、俺は可愛い女の子の味方ですよ。

別に陰陽寮に忠義を尽くしているわけでもないし。そもそも、この時代の人間でもないし。


「……どうした? 捕まえないのか?」

「まぁ、捕まえる気がないし」

「………私を見逃し、後を追い、仲間とともに捕らえる気?」

「そーゆー気はないってば。俺は可愛い女の子の味方だ!」

「何故? その格好……あんた、陰陽師でしょ?」

「そうだけど、そうじゃないというか、なんと言うか」

「あっそ。ま、貴様程度に捕まる気なんて、元からないけどさ」


そう言うと、女の子は軽く跳躍して、その貴族の屋敷の屋根まで上る。

そして隣の屋敷の屋根へとさらに飛んで、どんどん俺から遠ざかっていた。

…………あれで、密かに人気なのか? 

やっぱり、納得いかん。どう考えても、目立つだろ、あれ。


ああ、でも負の空気の濃度が異様に濃いせいか、この街の人は空を見上げたりはしないなぁ。

だからか。この平安京の中には、普段から上を向く人間はいない。

なら、屋根伝いに逃走した方が、検非違使の眼もごまかせるか。

それに、あの格好なら屋根伝いで逃げやすいだろうけど、

普通の検非違使とか役人の大仰な格好じゃ、まず屋根に上りにくいだろうし。


俺は自分の立てた推論に納得して、うんうんと唸った。

それから、ふとあることに気づいて、庭に立つあの子の依頼人らしき貴族に問うた。


「すんませーん、今の娘の名前、知ってます?」

「…………彼の者の名は、若藻と言う。ああ、真に美しい巫覡! 是非私の物に……」

「そっすねぇ。カワイイっすね〜。でも、年考えろ、ジジイ」

「なんだと! 貴様、名の名乗れ! と言うか、ええい! 出会え、出会え!」

「えーっと、さよなら〜」


このロリコン野郎。そんな風に胸中で貴族の親父に言いつつ、俺はその場を後にする。

ちなみに言ってから、人生五十年あるかないかのこの時代なら、ロリコンもくそもないか、と思った。

12歳で子供生んだりする時代だしなぁ。現代なら、どう考えても犯罪なんだけど。


若藻ちゃんか。17か18くらいだよな? 

金髪でちょい顔つきが日本人ぽくない事を考えると、もしかすると14か15くらい?

どっちにしろ『現代の俺の体』と、けっこう近い年頃だと思う。

なら、高校生で国の役人に追われつつ、都の魔を祓って生活しているのか。

すげぇ。現代じゃ考えられない。

現代風なら、高校生が警察に追われつつ、テロリストを捕まえるようなモンか?

…………言ってといてなんだが、わけが分からんなぁ。例えようがないこともあるってことだな。


にしても、可愛かったな。

周りが黒髪ばっかだし、茶髪とか金髪が凄い新鮮に思えた。


「また会えるかな? もしかすると、あの娘が京都で一番の美人さんかも」


期待を込めて、俺はそう言葉をつむいだ。

でも……多分、一期一会だよぁ。

俺は今後、ずっとこの時代で生きるわけにも行かないし、いつかどうにかして現世に帰るわけで。

それに俺は一応立場的に陰陽師で、あの子は俺のことを避けるだろうし。

仮に、あの子といい仲になっても、絶対別れが来るわけで。

でも、それはそれ、これはこれって言葉もあるし、西郷さんに聞いて、また今度探してみよう。

とりあえず、可愛い女の子が身近にいるだけで、俺はテンションの上がる人間だしな!


ちなみに、もし仲良くなれたら、別れの時の挨拶は、すでに決まっている。

『さようなら、ではまた来世!』とかな。



……って、馬鹿なこと考えてないで、もう少し餓鬼退治を続けようかね?

俺は思考を切り替えて、映画のセットではない平安京をまた歩いていった。





         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「あー……。今日一日疲れたなぁ」


自分が何故、この場にいるのか。本来いるべきところはどこなのか。

そして、本来いるべき場所に、いつか俺は帰ることが出来るのか。

それを頭の片隅で常に考えながら、今日一日を俺は過ごした。


家に……高島の屋敷に帰ってきてから、穏やかな池に自分の顔を映しこんで、見やってみた。

するとそこには、微妙に『現代の俺』とは顔の違う、しかし同じ顔にも十分見える『前世の俺』がいた。


俺だ誰だ? 横島? それとも、高島?


俺は、横島忠夫だ。

俺は現代日本に生きる高校生で、決して平安時代の陰陽師じゃない。

この屋敷も高島のもので、俺の家じゃない。

俺の家ってのは、もっともっと狭いアパートの一室なんだ。


ここは、俺の時代じゃない。


でも、俺が現代に帰るには、美神さんと密着してケーキを食わなきゃならない。

となると、この時代に美神さんがいないといけないわけだが、それは絶対にない。

美神さんが生まれるのは、今から1000年も後の事だから。

仮に前世の美神さんがいて、その人とケーキを……って、ケーキなんてないぞ、この時代。

どうする? 自分で作るか? 卵は? 小麦粉は? バニラエッセンスとか、そういうのがいるのか?

…………作れそうにないなぁ。

作り方を知らん上に、材料まで揃いそうにないし。



「はぁ……。これからどうなるんかな、俺」



俺は廊下に座り、庭を眺める。つくづく、広い家だよな。

廊下だって、端から端までで子供が競争できそうな距離があるし。

それに木造で、壁がほとんどないから、すごく風通しがよくて涼しい。

湿気の多いこの都で、広さと快適さが保たれている屋敷って、凄いと思う。

上位陰陽師か。

現代風なら腕利きのGS。まぁ、いい家に住んでいるのも、納得だよな。


「俺の回りにあるもので変らないのは、月くらいか?」


俺は視線を庭から、空へと上げる。そこには真円の月が浮かんでいた。

月の光は、強い。そう、月の光は庭全体が見渡せるぐらい、明るい光だ。

満月の明かりで、十分に本が読めそう感じだ。

もっとも、俺が読みたい本はこの時代にないけど。


「マジで明るいな、月。なんだ……。この月も、俺の時代の月と違うじゃん」


俺のいた時代の月は、街の明かりの押されてか、ここまで鮮明な存在じゃない。

そう、輝きの度合いが違う。全然違う。俺は今まで、こんな月を見たことがない。

何もかもが、違う。それが無性に悲しかった。

俺はやっていけるのか? 一人で、誰も俺を知らないこの時代で、生きていけるのか?

そしていつの日か、現世に戻る術を見つけられるのか?

仮に……この時代で長く時間を過ごして、結婚とかして、子供作って、

で、ジジイになってから帰る術を展開できるようになったら、俺はどうする?


その場合、やっぱりこの時代に骨を埋めようとか、思うのか?

…………そう考えると、誰とも親しくなる前に、この時代を去った方がいいと思う。

でも、そう考えて、一人でずっと頑張っていくのは、絶対辛いとも思う。


「誰かに話して、協力を仰ぐ……って言っても、誰に話せばいいのかも分からん話だし」


考えは、どんどんと暗い方向に向かっていく。

鮮やかな月すら、今は俺の思考を暗くする要因だった。




そんな俺を助けたのは、全く予期しない存在からの声だった。




『横島? 横島よ? 我が主よ、俺の声が聞こえるか?』

『…………コーラル!?』

『ふむ、ようやく声が通じたか。さすがの俺も焦ったぞ』


アンニュイな気分で月を眺めている俺の脳内に、念の言葉が木霊した。

それは男とも女ともつかない独特な声……俺の眼に憑いた魔眼コーラルの声だった。


『お前、何でいるんだ!?』

『何でとは随分な言いようだな。流されるお前の魂に、必死にしがみ付いてきたと言うのに』


コーラルは憤慨して嘆息する……そんなイメージを俺に突きつけてきた。


『全く、落ち着いて寝られやしない。お前はそんなに俺を、完全体にしたくないのか?』

『いや、そんなわけじゃないけどさ』

『まったく、何があった? 話せ』


自分の主にかなり大仰な態度で説明を求める……いや、要求する道具。

俺は変らないそのコーラルの態度に、少しだけムカついて……でも、無茶苦茶嬉しくなった。

自分を知っている存在がいるって、すごく大事なことだよな、やっぱり。

俺はコーラルに感謝の念を送るとともに、厄珍堂での出来事を思い出した。

そして、それを一つずつ自分の中でまとめなおし、コーラルに説明していく。


『えーっと、まず時空内服液って知ってる?』

『いや、知らないな。似たようなもので、時空消滅内服液と言う魔法薬なら、メドーサの知識の中にあるが』

『あ、それそれ。それを入れられたケーキを食べちゃってさ』


こちらのちょっとした間違いは、コーラルの聡明さが素早く修正してくれる。

さすがはメドーサさんの知識や経験を受け継ぐものだ。

俺は、もしかしたら帰る術をコーラルが思いつくんじゃ、とか期待しつつ、話を進めた。


『…………つくづくアクシデントに困らない人間だな、横島は』


俺の説明を聞き終えたコーラルの第一声が、それだった。

確かに全くもって、その通り。俺としては、首を縦に勢いよく振るしかなかった。


『そうだな。GS試験終わって、研修一日目でこれだしなぁ』

『何故横島の魂が、突然俺を残して時間移動しようとしたのか、納得が行った』


そして現状把握を終了したコーラルは、最初に俺した質問まで話を戻してくれた。

コーラルが言うには……コーラルは『俺の魂そのものにくっ付いている物』なので、

俺の時空消滅の時間逆行に、ついてくることが出来たらしい。

もちろんくっ付いているものの、

俺の魂とは独立した別個のものなので、下手をすると引き剥がされていたかも知れなかったそうだ。

事実、今ついさっきまで、俺との魂の結びつきは非常に細いものになっていて、

そのためにコーラルの声が俺には届かなかったらしい。

仮に、コーラルが時間逆行の途中で俺とはぐれていれば、

コーラル自身も、何処かの次元の狭間で消滅していたかも知れないらしい。

まさに、魂の二人三脚って感じだな。


『なぁ、じゃあこの高島の眼でも、魔眼が使えるのか?』

『ああ。魂そのものに付加された機能だ。俺とお前を完全に引き剥がさない限り、使える』


例えば、だが……。

俺が誰かの身体に、幽体離脱で乗り移ったとしても、恐らく魔眼は使えるのだろう。

なんせ、俺の魂が誰かの身体に入り込んでいて、コーラルも一緒にその身体に入るわけだしな。

もしかすると、メドーサさんも誰かの身体に乗り移った場合、そのまま魔眼を使えるのかも知れない。

逆に言えば、俺の身体を誰かが幽体離脱で乗っ取っても、魔眼は扱えないってことか。


まぁ、昔から漫画とかではよく言うよな。

他人の身体を乗っ取っても、本人じゃない限り、

その身体に秘められた潜在能力は引き出すことが出来ないとか、何とか。


なお、今俺が高島の身体を自由に扱えている理由にも、コーラルは関係しているらしい。

俺が単体で時間逆行して、前世まで戻っていれば、

高島の方が魂の総合量値が高いので、そのまま消滅したり、吸収されてたのかもしれない。

でも、コーラルと言う『余分』があるおかげで、俺はこの身体の本当の持ち主である高島を奥へと追いやって、

こうして今、廊下に座って月を眺めながら、コーラルと話をすることが出来ているのだそうだ。


『メドーサさんに、感謝感謝だな』

『俺がいなければ、お前は受精卵になった時点で、存在を保てずに消えていたかもしれん』

『コーラルにも、感謝っス』


俺はコーラルにも、両手を合わせて頭を下げた。

もちろんそれは単なるイメージだけどな。

するとコーラルは俺の感謝のイメージをとりあえず無視して、何か考え込んでいるようだった。


『? どーしたんだ、コーラル? 人の感謝をシカトこくなよ』

『む、すまない。しかし……………ふむ。もしかすると、だが……』

『ん、何?』

『メドーサが今のお前の命綱かも知れない』

『どういうことだ?』


『あの魔法薬を飲めば、現世との縁が切れて、普通は消滅するしかない。

 仮に今のような状況になり、一時的に助かったとしても、普通は結局……助からない。

 何しろ、前世で現世との関係性……縁を強化することなど、不可能だからな。

 そう。誰かに助けてもらいたくとも、お前の存在は誰にも覚えられていないのだから、助けなど来ない。

 だが、だがしかしだ。お前には俺がいる。

 お前の魂には、俺と言うメドーサとの切れない『縁』が存在している。

 恐らく、メドーサだけは、お前のことを現世でも覚えているだろう』


『じゃあ、俺の存在が消えたことを知ったメドーサさんが、助けに来てくれる!?』

『非常に難しいが、もしかすると……。メドーサには時間を遡る能力などないしな』


そう締めくくったコーラルだけど、

でも、メドーサさんだけは俺の存在を覚えてくれているだろうって言葉は、スゲえ嬉しかった。

俺がどこで死のうが、誰も俺を知らないし、悲しまない。それって無茶苦茶、悲しい。

俺がここで死んでも、みんなは『横島が死んだ』じゃなくて、『高島が死んだ』と思うんだしな。


でも、誰か一人でも俺を覚えていてくれると思うと、なんつーか、救いがある。

それにメドーサさんは魔族だし、人間よりも寿命が桁違いに長い。

ネコ型ロボットがタイムマシーンを使うようになるまで生きて、俺のことを迎えに来てくれるかも、だ!


でもまぁ、あんまり期待しないでおこう。

もちろん『どうせ無理だ』って言う諦めからじゃない。

誰かを頼りにして待つんじゃなくて、自分から積極的に行かないとな!

そう、現世に戻ってメドーサさんとラブコメに突入するためなら、時間の壁だって越えて見せるさ!


『しかし主よ、実際どうやって時間を越える気だ?』

『この時代は超強力な陰陽師が、そこら中にいる時代だぞ? 現代とは違う。どうにかなるさ』


先ほどまでと同様に、現世に戻る方法は、心当たりすらない。

しかし、つい先ほどまでのテンションダウンは、今の俺にはなかった。


『まぁ、絶望するよりは楽観する方がいいか。まぁ、頑張れ』

『ああ、頑張るさ!』

『…………じゃあ、俺は眠る。何かあれば起こすがよい、我が主よ』

『起こしてもいいのか?』

『寝坊して、お前が現世に戻るのに気づかず、一人この時代に取り残されては困るからな』


苦笑するようにそう言い残して、コーラルはまた眠りについたようだった。

話し相手がいなくなった俺は、手持ち無沙汰になって、また月を見上げる。

白金の光を放つ月は、覆い隠す雲もないせいか、今まで見た中で一番の輝きを誇っているように思う。

ああ、もしかすると、それだけこの時代の方が、空気が澄んでいるってことなのかもしれないけど。


いいよな、こういう月も! 見てて心が洗われるくらい、綺麗だモンな!

俺の時代と違う月でよかったよ! 

どんよりしてたら、明日への活力がなくなるモンな!


「たーかーしーまー!」


ふとした感傷……かどうか微妙だけど……に浸っていると、

なにやら玄関と思われる方向から、男の声が響いてくる。

どうやら西郷さんらしいが、こんな夜更けに一体何の用だろうか?

俺は座りながらに手を振って、こっちに歩いてくる西郷さんに声をかけた。


「こんばんわー。なんすか、そんなに急いで?」

「天文の観測はどうした!? いつまで経っても姿を現さんと思えば、解散後、ずっと家にいたのか!?」


鬼の形相で、血管が切れるんじゃないかってくらい怒っている西郷さん。

そこで俺は、午前中に言われた仕事の予定で、夜間は『天文の観察』があったことを思い出す。


「あ、えっと、いや、観測ならここでしてた、ほら、月を見てて!」

「それはただの月見だろう!? 馬鹿か君は! ほら、さっさと来るんだ!」

「今日はもう、昼間の餓鬼退治でへろへろなんすけど」

「もともと自業自得だろう! ほら、来い! なんなら、ここで引導を渡してやろうか?」

「行きます、行きますってば。はい、私は仕事を忘れてました。すんません」

「最初から素直にそう言えばいいものを。全く、君と言うやつは……!」

「声がでかいっすよ? ったく、夜中なのに……」

「だ・れ・の・せいだ!? 全く、昼間の真面目さは、またしても更生したフリだったわけか!」


ぶつぶつ文句を言う西郷さんの背中を押して、俺は高島の屋敷を出る。

この人、高少し老けたら、高血圧で血管とか切れそうだよなぁ。

でも、今日のところは、本気で予定を忘れていた俺のせいだし……すみません。


とりあえず、しばらくはうまくやって行こう。

高島を起こさないように、高島として。

すまん前世の俺。

でもまぁ、未来の自分のためだ。諦めしばらく付き合ってくれ。



俺は絶対、現世に帰るからさ。




あ、あと西郷さん。

ストレスの原因とかにならないよう、明日からマジで気をつけます。

だからとりあえず……しばらく塩分の取りすぎに注意した方が、いいんじゃないかなーとか。


こめかみの血管、かなりヤバいことになってます。マジで。



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