第三十五話



私がこれまで足を踏み入れたことのなかった区画には、私がこれまで見たこともなかった怪物が眠っていた。

眠っていたと言っても、私がそう感じただけで、実際にそうなのかどうかは分からない。

そもそもアレが一体なんなのか…………まずそこから、私には全く予想がつかなかったのだから。


そしてそれは隣にいるメドーサも同じようだった。

彼女は自身の眷属を持って、その眠っているような怪物により近づいた。

遠目から目を細めて眺める私と違って、彼女は怪物のすぐそばまで接近した。

でも、何かに納得するような顔はせずに、色々と呟いては考え込んでいた。


それから数分。

メドーサの思考は、高島と道真を置いておいた区画に戻った今もなお、続いている。

これだけ考え続けられると言うことは、それだけ多くの経験値を積んでいると言うことだろう。

私の場合、与えられた基礎知識しかないと言ってもいいような状態のため、

メドーサのように自己の経験から、何らかの答えを予想すると言うことは、出来ない。

だから私は、考え込むメドーサの横顔を眺める。

その横顔は……とても凛々しい。

創造主から見捨てられて、情けなく座り込むことしか出来ない私とは大きく違う。


私とメドーサの違いとはなんだろう?

やはり取得した人生経験値の量が違うことが、一番大きい?

メドーサのような存在になるには、より多くの経験値が必要?

恐らくそうだろう。


『存在の価値なんて、自分で決めるものだよ』

『言ってしまえば、使われるだけの存在に未来などないということだ』

『考えようによっては、アンタは今、自由の身だよ』


さきほどのメドーサの言葉を思い出してみる。

この言葉も、メドーサの経験から出た言葉なのだろう。

私だって多くの経験を積めば、そのうち新米の下級魔族に対して、同じような言葉をかけられる存在になれるかもしれない。

使われるだけじゃ、ダメ。

うん、そうよね。相手の言うことを聞いてるだけじゃ、ダメよね。

むしろ、相手をこき使うくらいじゃないと。

そうよ……自分が這い蹲るより、相手を平伏させる方が、キモチがいいわ。


私は創造主であるアシュタロスに、見捨てられた存在。

無価値で廃棄すべき存在だと、そう判断された存在。

そんな私がアシュタロスをどうやって見返すか。

それはもう……捨てるには惜しい価値の存在だったと思わせるくらい、価値を高めるしかない。


自分の価値は、自分で決める。

そう……私の価値は、とっても重いのよ。たった今、そう決めることにしたわ。

ここは一つ目標を大きく持って、『この星より私の命の方が重い』くらいのノリで行くことにするわ。


私の名前はメフィスト。

無価値な出来損ない……なんて思っていると、逃がした魚の大きさを思い知ることになるわよ?


(…………となると、当面の目標は、メドーサを追い越すことね)


自分の成したいことを見つけ、私はそう決意した。

なんだかさっきまでの落ち込みようが、自分でも嘘みたいだ。

これは言ってしまえばアレね。

私の人生経験が薄いからこそ、極度に落ち込むこともないって言うか……

……つまり、長く落ち込んでいられるほど、うじうじと考え込める情報量がないと言うか。


(それはそうと)


自分の欠点をあげつらっても仕方ないので、私は胸中の思考を転換する。

同時に視線も動かして、いまだに眠りこけている高島を見やる。

高島……正確には、この高島に入り込んだ来世の高島……に、メドーサはひどく執着していた。

何故、メドーサほどの存在が、この程度の存在に執着するのだろう?

何か特別な意味や効果があるのだろうか?


(……まぁ、よろしくと願われたことだし)


この寝こけている高島のことは、一応面倒を見てやろう。

そして願いも聞いてやることにしよう。

もちろん私単体が叶えられるの願いなど、たかが知れている。

でも……この高島が私の力量を超える願いを言うならば、それを叶えられるように努力してみるのもいいかもしれない。

メドーサを追い越すことを目標としてみよう……とは思ったけれど、

何をどう努力するかなんて言う指針は、まだないわけだし。


「う……うん?」

「あ、気づいたのね?」


高島の事を考えていたまさにその時、彼は目をうっすらと開いた。

覚醒した高島には、メドーサも少しだけ驚いて、こちらに視線を向けてくる。

でも、彼女はすぐにまた自身の思考の海へと潜った。

そう言えば、メドーサは高島に抱きついたけれど、

中身が元の時代に帰ってからは、今のように特に高島に執着していない。

つまり、高島の身体を気にしているわけじゃなくて、高島の中にあった魂を気にしてたってこと。

……やっぱり、あの高島の魂は、何か特別だったのかしら?

だったら同時に、あの高島の魂に目を付けた私は、目利きってわけよね?


「ぅんん〜〜〜〜」


そんなことを考えていると……目の前に高島の唇が迫っていた。

視界一杯に突き出された唇が広がって、かなり不気味だった。


「い、い、いきなり! な、なんなのよ、アンタは!?」

「いや、目覚めのキスをな?」

「キ、キス?」

「あれ? 用法はあってるよな? 接吻、キス、ベーゼ……同じ意味で」


キスと言う行為と意味は知っている。

知っているけれど……いきなり突き出された唇が眼前に広がったら、普通は驚く。

と言うか、目覚めた瞬間にいきなりそういう行為に走ろうとしたこいつの思考回路が、私にはよく分からない。

この高島は、来世の高島に身体を借りられてて、今ようやく目覚めたわけでしょ?

つまり、自分が知らない間に見知らぬ場所にいて、かつ知らない女が目の前にいるわけよね?

そこで何をどう考えれば、目覚めのキスをしなければならないと言う結論に結びつくわけ?

私は自身が不可解に思ったことを、高島に問いかける。

すると高島はからからと笑って、私の問いに答えてくれた。

…………答えてくれるのはいいけれど、なんか余裕のあるその態度は、ちょっと気に食わなかった。


「アイツが俺の中に入り込んできたせいで、俺はずっと眠ってたさ。

 でも、ちゃーんと外の出来事は把握しているつもりだ。

 ついでに、来世の自分の知識もある程度は読んでみたりしてな。なかなか楽しい経験をさせてもらった」


つまり、こいつは寝ながらにして、外界で何が起こっているかを知っているらしい。

私が『器用なものね』と言うと、彼は『ブイブイ言わせている陰陽師だしな』と答えてきた。

なんか、ムカつく。なんでだろうか?

前の高島にはあった『こっちを尊敬するような雰囲気』が、今の高島にはないからかもしれない。

言葉の端々に余裕があって、こっちを見下していると言うか……なんかそんな感じがする。


「そう睨むなよ、メフィスト」

「……睨んでなんかないわよ」


もしかすると、睨んでいるかも知れない。

そう思いはしたけれど、素直に認めるのもしゃくなので、とりあえず否定しておく。

すると高島は私に対してそれ以上は何も言わず、苦笑するだけだった。


「ムカつく笑いね。なんなのよ、アンタ」

「ん〜〜、そうだな。なぁ、メフィスト。俺と来世の俺の違いが何か分かるか?」

「知らないわよ」


違うと言うことは、分かる。

でも、それがなんなのかは分からない。

だから私は素直に分からないと告げた。

すると高島は笑った。何に対して笑ったのかは分からないが、やっぱり何となくムカつく。

噛み付いたところで軽くかわされそうなので、我慢をしておいた方が無難だと思う……けれどムカつく。


「今度は素直だな」

「…………で? なんなのよ、違いって?」

「来世の俺はまだチェリーボーイで、そして俺はそうじゃないってことだ」

「? チェリー?」

「つまり、女を抱いたことのある男は、そうでない奴より余裕があるってことだ」

「…………余裕のあるヤツは、いきなり脈絡なくキスを迫るの?」

「ふっ。それはそれ、これはこれだ」

「そういうものなの?」


とりあえず、心のメモにしっかりと書き込んでおくことにする。

今後生きていく上で、ある意味重要な情報かも知れないからだ。

女を抱いたことのない男には余裕がなくて、抱いたことのある男には余裕がある。

けれども、キスに関しては例外があって、それはそれで、これはこれ…………。

…………………しっかりと書き込ませてもらったわ。もう忘れないわよ?


「でだ。来世の俺から願い事を叶える権利を、俺は受け継いだはずだよな」

「一つだけね。大したことは叶えられないけれど……でも、叶えたあかつきには魂はもらうからね」


魂を収集しろと、そう命令されたから、私は代金として魂を要求していた。

見捨てられた今となっては、人間の魂を集める必要性なんて、ない。

ないけれど……この高島に関しては、別だ。

陰陽師・高島の魂……まぁ、正しくはこいつの来世での魂なんだけど……は、私が初仕事に選んだ魂だしね。


「俺は何か知らんが、いつの間にやら他の陰陽師に追われる立場になっているわけだ」

「まぁ、そんなことを言ったら、私だってわけが分からないうちに見捨てられたんだけどね」

「そうだな。つまり、ある意味俺たちは運命共同体なワケだ」


何故、いきなり運命共同体?

少々引っかかるところはあるけれど、まぁいいだろう。

実際、私たちはお互い、何者かに追われている立場なわけだし。


「で?」

「力をあわせて、これからの困難に立ち向かっていかなきゃ行かんわけだ」

「……で?」

「その助け合う姿は、まさに愛なワケだ」

「愛?」

「そうだ!」

「…………つまり、何なの?」

「な、何って……」


愛と言われても、私にはよく分からなかった。

何度か初期設定された知識の中から、その言葉の意味を探すけれど……やはり、ない。

私があらかじめ持っている知識の中には、愛と言う言葉はなかった。


「なんつーか、こう、助け合っているうちに色々あってだな。

 一つの布団で仲睦まじく眠ったりとか、なんかそーゆー感じと言うか。

 で、そーゆー逃避行の末に、子供が出来たりとか」


一つの布団で? 仲睦まじく? 

とりあえず子供が出来るってことは、発情して性交するってことよね?

そう言えば、女を抱いたことのある男は余裕が生まれるのよね?

その割には、今の高島はかなり必死にこっちに詰め寄ってきている気がするのだけれど、これは私の気のせい?

それとも、これも『それはそれ、これはこれ』なのだろうか?


まぁ、私のことを一回抱くくらいなら、それはかまわない。

それで高島の魂が手に入るなら、一度抱かれるくらい楽なものだ。

しかし、子供まで産むとなると、途端に話は難しくなる。

抱くのは高島が勝手にやってくれるだろうが、子供を産むとなると私が自分で出産しなければならなくなる。

私には出産に関する知識も、子供を生んで育てる知識もない。

そもそも人間と魔族で、どんな子供が生まれるのだろう? 

仮にちゃんと生まれなければ、私は高島の願いを絶対に叶えられないことになる。


「……どう思う?」


判別つかなかったので、私はメドーサに聞いてみた。

考え事をしているようなので、もしかすると無視されてしまうかもしれない。

そう思ったが、メドーサは無視することなく、こちらに視線を向けてきた。


「簡潔な答えでいいか?」

「ええ」

「お前らは、馬鹿か?」


確かに、実に簡潔だった。

でも、何がどう愚かでつまらないのだろう?

もしくは、そのくらい自分で考えろと言うことなのだろうか?

……でも、私だけでなく高島も馬鹿扱いされているのよね?

どっちも馬鹿だと言うことは、高島の願いも愚かで、それを叶えようと考える私も愚かってこと?


「ねぇ、意味が分からないんだけど」

「…………来たか。意外と早かったな」

「え?」

「この感じは……そうか。横島も一緒か」


私が今の言葉の意味を聞き返そうとすると…………突然、メドーサは虚空に視線を向けて、呟いた。

そしておもむろに立ち上がると、私を見下ろしてこう聞いてきた。


「私はもう行く。まぁごく短い期間だったが、一応は世話になったし……感謝するよ」

「え? な、何なの、突然。行くって、何処に?」

「元に時代に帰るのさ」

「……えっ」


帰る? 元の時代に……と言うことは、つまり1100年後に行ってしまうと言うこと?

仮にもしここで別れたならば、私は千年以上待たない限り、またメドーサとは会えない?

ちょっと待ってよ。人を感化する言葉を投げかけておいて、それはないんじゃない?

私はメドーサのことをこれからの目標としようとしたのに、いきなりいなくなられたら、困る。

もちろん私の都合を考えてくれるはずがないことも分かっているけれど、それでも……。

私がそうメドーサに言うと、メドーサは私の予想通り、非常に面倒くさそうに嘆息した。


「私の言葉なんかに、いちいち影響を受けるんじゃないよ。多くある価値観の一つでしかない」

「でも、私にとっては大事なのよ! 大体、私の人生の中で貴女と一緒に過ごした時間って、何パーセントだと持ってるの!?」

「……もともとの時間が短いから、それなりのパーセンテージになると?」

「そうよ! こちとら生後1ヶ月未満よ! 影響を受けても仕方ないでしょ!?」


威張ることでもないかも知れないけれど、胸を張ってみる。

するとメドーサはまたしても小さく嘆息した。

こちらの勢いを受け流そうとするそんなメドーサに、私はたたみかけようと声をさらに大きくする。


「なによ? 勝手について行くからね! どこまでも、絶対に!」


「ついて来られるものなら、ついてきなよ。もっとも、今のアンタじゃ無理だろうけどね。

 作り立てで経験値もなければ、エネルギー含有量も大したことがないんだし、追いつけるはずがないよ」


そう言うと、メドーサはその場に飛び上がって、次の瞬間には姿を消していた。

目に見えなくなっただけかと気配を探ってみるけれど……気配も消えていた。

どのような速さで移動すれば、こんなことが起こるのだろう?

追いつけるはずがないという、そんな最後の言葉が、私に再度突きつけられる。


どうしよう? メドーサは本当にどこかに行ってしまった。

私は、これからどうすればいのだろう? 

高島は、今のメドーサの動きが見えなかったのだろうか?


私は視線を動かして、高島に問うてみる。

すると彼も首を横に振った。


「無理だ。目で追える速度じゃないぞ、今のは」

「使えないわね! ブイブイ言わせている陰陽師じゃなかったの?」

「いや、なんつーか、もう格が違うしなぁ」

「それはまぁ、そうかもしれないけど」

「で、どうする? 俺たちもずっとここにいるわけには行かないし、どっか適当に逃避行でも♪」

「悪いけど、私はメドーサの後を追うわ」

「どうやってだ? まず追いつけないだろ? 仮に追いつけても、どうせまた煙に巻かれるさ」

「そうね。今の私の実力じゃ、叶うはずがないわ」

「だろ?」


うんうんと頷く高島。

しかし、私はそんな高島に自信たっぷりに言ってやった。


「でもね。足りないエネルギーは、足せば事足りるのよ!」

「…………へ?」


高島の顔をきょとんとさせることが出来た。

そのことが、何となく…………すごく嬉しかった。

















            第三十五話      第八十八次 魔体調整・整備計画…………頓挫
















全くもって、やるべきことが多い。

もちろん重要度と難度が高くなり、より疲労度が溜まる仕事ほど、他者には任すことが出来ない。

それに…………魔王になるという自身の悲願である。

このくらいの疲労がなければ、達成した時に充実感も得られないというものだ。


徒然と取り留めのないことを考えならが、私は拠点としている異界空間に舞い戻る。

まず最初にやるべきことは、調整中の魔体の仕上がりチェックだ。

現在の魔体は、京の都で収集中の魂を、加工したものから順に注入中である。

限りない単純作業であり、さらに担当者はドグラであるので、安心して仕上がりを待つことが出来る。

それどころか、ドグラのことだ。

変に気を使い、計画を数パーセントは勝手に進めているかもしれない。

もちろん私は、そんなドグラの気遣いも、想定内に収めて行動をしているわけだが。


「さて、魔体の様子は………………………………ふむ」


どうやら疲れが出たらしい。

私は目を擦り、それから再度魔体の収まっている特鉱管を見つめなおす。

そこには気泡を吐きながら、すくすくと骨太になっている骨格パーツが…………




「ふむ?」




………………ないのだが、これはどうしたことだろうか?

まさか数パーセントどころか、数十パーセントも推し進め、次の段階に入ったとでも?

いや、有り得ない。

いくら京の都が魔都として名高いとは言え、後1000年はかかる基礎骨格パーツ作成が、これほど早々に終わるはずがない。

どれほど早まったとしても、1000年かかるところが、997年かかるくらいに短縮される程度でしかないはずなのだ。


「ドグラ!? ドグラはどこだ!?」

『あ、アシュタロス様……』


声を張り上げて呼んでみると、どこからともなくドグラの声が聞こえた。

周囲に視線を張り巡らせてみれば……なんとも立派な石仏が脈絡なく鎮座しており、その下からドグラの声が聞こえてくるではないか。

私は急いで、石仏を脇にどかし、その下からドグラを救助する。

それにしても、一体何故こんなところに石仏が? 

ドグラが趣味で飾ろうとし、その折に下敷きになったのだろうか?

いや、それにしては随分、きっちりと立っていたし……。

考えても栓のないことなので、私はドグラに質問を投げかける。


「ドグラよ。何があった?」

『と、突然メフィストが、私に攻撃を加え……』

「メフィスト? 攻撃だと? 石仏でか?」

『はい、どこからともなく』

「むぅ。なんとも面妖な。そのような機能は付加した覚えはないが……」

『アシュタロス様。論点はそこではなく……えーっと、魔体の動力である魂の結晶が、その……奪われました』

「………………………なんだと?」


様々な時代と地域で、2000年かけて収集してきた魂。

その魂を結晶化させた、あのエネルギーの珠が……う、うば、奪われた、だと?

私は再度視線でドグラに問うが、ドグラは首を横に振るだけだった。


「どういうことだ? メフィストが……? おのれ……やつはアレが何か分かっているのか?」


状況から考えて、メフィストが生きてここに来たと言うことは、道真がやられたと言うことか?

あるいは道真は何らかの策にはまり、生きてはいるが裏をかかれたと言うところか?

ええい、どちらにしろ、面倒なことになったな。


「作業中に奪われた……ならば、お前の責任だな、ドグラ」

『お、お許しを……』


ドグラは許しを請うたが、私は慈悲を与えはしなかった。

2000年かけた結晶を、つい最近生み出した娘に奪取される。

しかも何の警備もない場所から取って行かれたわけでなく、ドグラと言う作業者がいたにもかかわらず、だ。

私はドグラの体を指差して……念を込めて爆破した。

ドグラのボディは内部から外部に向けて拡散しながら崩壊する。

粉々になっていったドグラが、最後に発した言葉は『にぎゃっ!?』などと言う無様な悲鳴だった。


「まったく、道真は何をしていたのだ」


ドグラへの仕置きがすみ、私の腹立たしさは道真へと向けられる。

小事でしかないと言った。さらには、任せろとも言った。だから任せた。

その結果が『捕らえることも撃破することもできず、2000年かけて結晶化してた大切なアイテムを盗まれました』では、話にならない。


「道真はどこだ? ちぃ。ドグラ、すぐさま道真の場所を特定し……」


言葉途中で、私は沈黙した。視線は…………足元の土くれに向けて。

…………………ドグラはたった今、私が苛立ちに任せた仕置きを行い、破壊したばかりだった。

むぅ。次から次へと……。

いや、まぁ、自業自得な部分もあるが。


「仕方ない。自分で探すか……」


しかし、よくよく考えれば、私が留守にすると言うのに、ドグラすら不在では非常に心許ない。

仕方がないので、私はまず、ドグラを修理することから始めた。

くぅ……。こんなことならば、ドグラのボディを破壊しなければよかった。
















数分後、私はドグラを再構成し終えた。

そしてそのドグラに道真の位置を特定させたところ……………拠点内で見つかった。

何故か石にされて封印されており、何も話せない状態で、地面に転がされていた。

さすがの私も、他人のかけた呪縛を強引に解くことは出来ない。

もちろん、私自身に向けられた呪縛であれば、どれだけでも力任せに打破できるのだが……。

結局は道真が自力で封印を解くか、私が封印した者……恐らくはメフィスト……を殺すかしなければ、このままの状態が続くだろう。


それにしても、石化封印といい、石仏を用いた攻撃といい…………メフィストは、随分とおかしな成長をしたものだな。

少なくとも早めに廃棄処分の判断を下したことは、間違いではなかったような気がする。

問題は、廃棄処分を任せた道真が、あっさりとやられてしまったことだな。

少し余分に力を与えた気もしていたが、元が人の身であった道真には大きすぎ、しっかりと扱えなかったのだろうか?



「むぅ」



………………それはそうと、やはり私の製造過程に問題があったのか? メフィストは。

製造過程でミスを犯した心当たりなど、全くないのだが……。



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