第十二話




自分とは違うはずの、自分。今の自身に直接繋がらない時間を辿る自分。違う世界の自分。

とは言え、身長に大差があるわけでもなければ、額に3番目の眼があるわけでもなく、実に見慣れた容姿であるわけで……。


犬飼の八房の攻撃でTの右腕が斬り飛ばされた時には、思わず割って入ろうかと思ったね。

アレは俺だから、何とか我慢出来たんだと思う。仮にもし、令子なら? そりゃもう、飛び出ただろうなぁ。

深慮なようで、実はかなりその場の勢いで事を進める人間だったりするし。そして後悔するんだよな。あるいは逆ギレするか。

そんな部分を可愛いと思えるようになったのは、俺自身が成長したからか?


「……って、んなことを考えるのは、現実逃避だよなー」


俺は下らないことを呟きつつ、地面に倒れ伏している観察対象Tこと、過去の俺へと近づいていく。

八房の連続攻撃を6回目まで防いで見せたのは、見事と言うしかない。

何でそんなに武芸達者やねーんと、ちょっとツッコみたくなったほどだ。

つーか、お前は実は雪之丞じゃないか? 背中にチャックとかないか?

だって犬飼と対峙した時、俺は連続攻撃を何とか一回だけ逸らすので精一杯だったぞ? あとは人狼の長老任せだった。

しかも犬飼との戦いは、時期的にはもっと後だったしな。

白竜会の指導って、実は結構いいモンなんだろうか? 


いやいや、まぁ、そんなことは置いておいて!


今はこいつの治療だな。このままじゃ出血死だ。って言うか、仮に助かっても右手が引っ付かなくなるし。

ついでにシロも危険だ。かなりの霊力を消費してしまっている。今夜は寝ずに霊波を注いでやらなー……。

いや、文珠で一発回復の方が楽か? いやいや、ここは文珠節約のためにも、ちまちまと霊波を出した方がいいか?

……まぁ、どっちにしろ楽じゃないことだけは確かだな。文珠が減るのは痛いし、霊波を出すのは疲れるし。


あと犬飼の方は、どうすればいいんだ? とりあえず見送っておいたんだが、このまま放置でいいのか? 

なんでアシュのヤツは連絡を入れてこないんだよ、こんな状況になってるってのに。

……ってか、向こうに一般人のお兄さんが倒れてるんだが? あれも俺がどうにかするんだよな?

見捨てるわけにも行かんし。イヤでも治療もせにゃいかんのだろーなぁー。うぅ、何で俺がこんな苦労を?

寝かせてくれよ。フツーに。頼むから。何なんだ、この疲れる展開の連続は? 

休ましてくれないと、マジックポイントは回復しませんぞ? だから文珠もストック数がかなりやばいですぞ?

そもそも当初の予定じゃ……足りなくなったら、こっちの世界の俺にいくつか貰う予定だったんだよなぁ。

今さらながらに、甘い見通しだったなぁと反省してみたりする。


「って、再び現実逃避してるぞ、俺。さっさと作業せにゃ」


冷たくなり出している右手を拾い上げて、Tの身体に添える。そして『復』を文珠に込める。回復の復であり、復元の復だ。

切断面が綺麗だから、繋がるイメージは簡単だ。これがミンチになっていたりしたら、文珠を二つ使う羽目になったかもしれない。

いやぁー、人体の斬り口が異様なまでに美しくなる妖刀に感謝……って、誰がするか!

そもそも馬鹿が刃物を持つから、こんなことになっているわけで。刃物は人に向けてはいけません!

ぶつぶつと胸中で文句を並べつつ、Tの治療を開始した。てい、文珠発動。













            第十二話 貴方の知らないところで、偽メイドにトラウマを植え付けられたのでござる〜の巻!












――――――文珠がぱぁっと輝いて、Tの腕を元に戻していく。

すでに皮膚に切れ筋はない。そして内部は見えないが、骨や肉や神経なんかも、どんどん元に戻って行っているはずだ。

もし復元しきらなければ、コイツの使った文珠モドキみたく、手を動かしたりしたらポロっと取れたりするかもな。

いや、まぁ、ここで『治』の文珠を重ねがけすれば、まず問題はないんだが……今は節約だ。

多分、大丈夫だと思うし。斬り分けられた肉と肉が、きっと頑張って繋がり直してくれるはずだ。

それこそ、手と手を取り合って回復するはずだ。斬られたのが右手だけに。って……考えてて空しいな。オモローないし。


「次はあそこで倒れてる一般人の兄ちゃんか」


30代前半くらいのように見えるが、そのくらいの年齢なら、間違ってもオッサンとは言わない。

俺もそろそろいい年齢なわけだが……それでもオッサンやらオジちゃんとは、絶対に言われたくないし。

気づけば、街の女子高生に『何なの? このオッサン?』と呼ばれるようになった今の辛さは、もう……な?

そんなわけで、40の大台に乗るまでは、お兄さんと呼んでいいと思う今日この頃だ。

TVの体操のお兄さんだって、30代なのにお兄さんだし。

くっ……20歳の令子に『曲がり角ってヤツじゃ?』なんて言っていた、昔の俺の馬鹿野郎め。


そんな瀕死の人間からすればかなりどうでもいいことを考えつつ、俺は一般人のお兄さんの治療に入る。

傷はそれほど深くない。ついでにシロが一応とは言え止血してくれたことも、幸いしてるのかもしれない。

あんまり得意じゃないヒーリングで、傷口をささっと撫でておく。うん、これで十分だろ。とりあえず命に別状はないっぽいし。

失血のせいで、しばらくは貧血に悩まされるだろうが……そんなモンだ。妖刀で直接斬られてもないから、生命力を吸われたワケもないし。

しかし、結構な傷痕が残りそうだ。ヤクザのおっちゃんでも、今時こんな痕を持ってるヤツは少ないだろう。

おキヌちゃんくらい治癒が得意なら、傷痕も残らなかったかもしれないが……。

まぁ、胸元に残るこの盛大な痕も、そこは男の勲章ということで一つお願いしておこう。

息子に自慢出来るぞ、多分。お父さんも昔はヤンチャしてたんだぞーってな。


さて、次に助けてやったその顔を見てみると……どこかで見たことがあるような、ないような? うーん?

まぁ、俺の男の顔に関する記憶力はかなり頼りないので、早々に思い出すことに見切りをつける。

すぐに思い出せないってことは、さほど重要人物でもないだろう。

実際、俺の人狼事件の時に会った記憶も……ないはずし。多分。


「んで、ここからどーすっかな?」


道路の真ん中で倒れるTとシロを担いで、道路脇に移動する。

意識がなく、ぐったりとしている二人を運ぶのは気が滅入った。俺はサスペンスに出てくる死体遺棄中の犯人かよ?

あぁ、もちろん傍に落ちていたサスマタとかも、ちゃんと回収しておいた。

ちなみに……不幸な一般人は、シロがすでに道路脇に移動させているので、そのまま放置だ。

目を覚ましたら色々と戸惑うかもしれないが、男相手のアフターケアサービスはないんで、あしからず。


「ちっこいシロを抱っこするってのも、何か新鮮だな」


呟きどおりにシロを抱きなおして、俺は軽く霊波を注いでやる。

俺の時みたいな大怪我は負ってないから、超回復が起こって身体が急成長するかどうかは分からない。

うーむ? 大量に霊波を注げば、一気に『ぼんっ!きゅっ!ぼん!』の、ナイスバデーになってくれるんだろうか?

試したくなるけど……止めておこう。急な成長が身体にいいはずもないし。


「シロ、ゆっくりと回復しろよー」


息の荒い、一見すると風邪を引いているようなシロに、俺はそう語りかける。

道路には血痕。意識のない者が3名。そのうちの幼女を、成人男性が抱えている。

むぅ、一般人の誰かが通りかかったら、即通報ものだ。

――――――なんてことを考えていた俺は、ふとある可能性に思い当たる。

もしも順調に回復して身体が急成長したら、シロは大量のメシが必要になるんじゃなかったか? 

ヤーさんの別荘でバーベキューした記憶があるぞ? ついでに、その後に別荘を爆破した記憶も……。

あそこまでは食べないにしても、とにかく眼が覚める前に何か用意しておいてやらなー。

ご飯は腹一杯食べたいモンだ。ひもじいのはイヤだ。俺の実体験からも。

とは言え、どうやって食料を調達したものか? そもそもどこで食うんだ?

俺の仮住まいのホテルに2人を運んで、それから買い物に行くか?

いやいや、Tに目を覚まされると面倒なことになるし……むぅ?


「ん? これは?」


ふと、シロの手の中に紙切れがあることに気づく。取って見やると、それは霊符だった。

そう言えば、Tがシロに渡していたな。文珠に見えなくもない『何か』を、これに包んで。

俺はそれほど霊符には詳しくない。ここの俺みたく、自分で符を作ったり改造したりなんて出来ない。

そもそもする必要性もなかったしな。俺の霊能力の便利なところは、元手がかからないってところだ。

神通棍も吸魔護符も要らないところが、いいところに直結するわけなんだな。

もちろん道具の扱い方は知っている。俺もプロだからな。でも、作り出すほど精通はしてない。

そんな知識レベルを持って、シロの持っていた霊符を頑張って調べてみる。むむぅ? これは……?

ふむー。割と見慣れたと言うか、よくある式だったので、チンプンカンプンではないな。

これは吸引符に似た式が組み込まれた符だ。よく作るよな、こんなモン。器用と言うか、何と言うか。

吸引符―――正確には吸魔護符―――は、悪霊を吸い込んで封印するための霊符だ。

でも悪霊が強すぎると吸い込みきれないし、封印もしきれないから、まず攻撃して弱らせる必要がある。

一般人の良く知る除霊風景が、神通棍でGSが悪霊を殴り怯ませて、最後に『吸引!』の決め台詞で封印……って流れになるのは、そのためだ。

いや、一般人がこの流れを良く知るのは、令子がやたらとメディアに露出していたせいもあるかも知れないけどな。


……んで、どうやらこの自作霊符は、そんな吸引符よりも外部からの霊波を吸い込むことに特化しているらしい。

と言うか、吸収する機構しかない。封印するための機構と言うか容量が、この霊符自体にはない。正しく吸引符だ。吸魔護符じゃなくて。

じゃあ、取り込んだ霊波がどこに封印されるのかと言えば、それは包んだ文珠モドキの中ってワケだ。


あれ? 霊波砲で遠距離攻撃するタイプの敵が相手なら、むちゃなまでに有利じゃないか?

こう言った吸収能力のある中ボスは『この俺が吸い込みきれないだとぉ!?』とか言いつつ、爆発して死ぬんだよな。

自身の能力の限界を超える、過剰なエネルギーを送られてしまったせいで……。

でも、この文珠モドキの中に収めきれないだけの霊波砲とかの攻撃なんて、多分そうはないぞ? 珠の外殻はすげぇ固いし。

それに吸い込みきれそうにないと判断したら、文珠が耐え切れずに爆散する前に、文字を入れて発動させればいい。

敵の特大霊波砲を文珠モドキにチャージ。そして反転やら反射のイメージの『反』を込めて、そのまま霊波砲を撃ち返す!

事前に文珠モドキと霊符を用意しておけば、その時に必要な労力はほとんどないに等しい。うわぁ、凶悪な……。


もしももう一度、俺がコイツと戦うことになったなら……ソーサーやら霊波砲は撃たないでおこう。

安全策をとって、霊波刀も使わないでおこう。文珠は発動と同時に何かしらの現象が起こるわけだから、多分大丈夫だと思うが……あれ?

おいおい。霊的な攻撃手段が色々と制限されて、かなり厄介だぞ? 

もしかするとこっちのエネルギーを、向こうが利用するかもしれない。そう考えさせられるだけで、精神的にもキツイし。

まぁ、霊符を通してしか文珠モドキにエネルギーが送れないし、そもそもエネルギーを送らないことには発動しない。

この文珠モドキは、単体では無力だ。よって、使い勝手はかなり悪いと言えるんだよな。

まぁ……カウンター技なんて、基本的にそんなもんだが。


「つーか、ここの俺も文珠に目覚めたって言っていいのか、これ?」


どうやっても、文珠が上手く作れない。理由は一体なんだろうか?

どうやら今の横島忠夫の保有する霊力が、そもそも文珠を作るレベルに達していないらしい。

……とまぁ、コイツは恐らくそう考えたんだろうと思う。そしてその解決策が何かと言えば、『足りないエネルギーを他から持ってくる』だ。

ここの横島忠夫の作る文珠は『一定の方向性の元に、エネルギーを一気に解放する機構を持つ珠』なわけだ。

あくまでそう言う機構を持つ珠であって、それ単体では使用不可。

色々遊べる最新の携帯ゲーム機です。でも使用するためにはバッテリーが必要です。別途お求め下さいませ? みたいな?

ちなみにその例えで言うと、俺の文珠は充電が100パーセントで、バッテリーをわざわざ買う必要がないって感じだな。


あまりに変則的過ぎるだろ、これって。むしろ逆に感心するぞ? 何だ、この微妙な器用さは?

そんなものと同じもの作れと言われても、まず作れないぞ?

やっぱり妙神山でまともな(?)修行を受けるべきだったんじゃないか?

あっ……アシュ的には別にこれでいいのか? アイツはここの俺に『変換機』になって欲しいんだから。

この世界の俺の中にはエネルギー結晶があって、アシュはそれを操作して欲しいわけだ。

しかし、普通はエネルギー結晶を最大限に活用することが出来ない。

エネルギー結晶内のわずかな不純物しか、利用出来ない……というはずだった。でも、この文珠モドキなら?

普通の―――いや、比較対象が多くないから詳しくは分からんが―――とにかく俺の文珠能力よりも、適しているだろう。多分。

いや、まぁ、結局のところ、これからの修行と成長具合によるんだろうがな。


「第一段階は合格って感じか? まぁ、何にしろ、俺はもういいよな?」


この世界の横島忠夫にも、何だかんだで文珠能力に光明が見え始めた。

なら、もう俺が特に何かを教える必要もないだろ?

俺はさっさと元の時代に帰りたいんだ……ってのが、紛れもない俺の本音だ。

この世界がどうなろうと、俺には関係がない。ここはあくまで別世界だ。

そりゃ、目の前で生死の境を彷徨うって感じの状況が繰り広げられれば、手助けの一つでもしたくなるだろう。

でも、俺が全力でこの世界の誰かのために戦う必要なんて、ない。まったくない。

俺が守るべきものは、俺の妻である令子や仲間たちと……そして、これから産まれてくるであろう子供だ。この世界の誰かじゃない。

あくまでこの世界には、令子を助けるための時間移動の途中に、アシュの横槍で連れてこられた。ただそれだけだ。


「報酬に妖怪の汁だけじゃなく、何か他にいいモンを貰いたいもんだな」


俺はシロへの霊波照射を中断して、懐からケータイ電話を取り出す。アシュは出るだろうか?

犬飼と戦う前にも『どーなってんだ、この状況は!』と文句を言おうとしたんだが、繋がらなかった。

ただただ『電話に出られない』という内容の、決まり文句が流れてくるだけだった。

ったく、ホットラインの意味がなさ過ぎるだろ。これじゃサイレントラインじゃないか。

俺はアシュが出てくれることを願い、ケータイのボタンをプッシュする。反応は――――――ない。


「出ろよ、おい! 会議とかに出てて俺の連絡を無視してるんなら、本末転倒もいいところだぞ?」


やっぱりアシュは出てくれなかった。何やってんだあの野郎は?

くそ、俺が自分で考えて行動するしかないか。

んで、ヘタをこいたら後から『まったく、その程度の判断を間違えるとは……』とか、文句を言われるんだよな。はぁ〜。


俺は嘆息しつつ、今後の行動を考える。

アシュに連絡がつくまでここにいるって言うのは、どう考えても却下だ。

腕は引っ付いたとは言え、今のTは道路で寝かせておいていい状態じゃない。

ちゃんと回復させるためにも、さっさと暖かいベッドで寝かせるべきだ。

ついでに、さっきから言ってるが俺自身も休息が欲しいしな。

蚊もいる時期の屋外で、ほぼ徹夜でシロに霊波を注ぐなんてイヤ過ぎる。せめてソファーに座りたい。


「やっぱホテルに戻るのもなんだし。てか、もうメドーサに会わせてもいいか?」


一応、文珠能力には光明が見え始めたんだ。なら、メドーサを人質にして危機感を煽る必要もないだろ。

つーか“横島忠夫の身体はエロスで出来ている”なわけだし、美女に応援された方が、今後は上手く行くかも?

うむ、どう考えてもメドーサに会わせて問題はないな。そんなわけだし、事務所に行こう。

あっ……この世界では事務所じゃないか。えーっと『芦屋敷に行こう』でいいか?


「こいつはルシオラにあったら、どんな反応を見せるんだろうな?」


外見的に言えば、ストライクゾーンは外れているんだよな。だからまぁ、飛び掛りはせんだろうが……。


「っと。一応、先に断りを入れるか」


女の子ばっかりの所帯だからな。ちゃんと気を使わないと……。

いきなり行って『今、お風呂に入ろうと思ってたのに!』とかの理由で不機嫌になられても、俺が悲しい。

連絡ついでに、晩飯の残りがあるかないかを聞いておこう。何かあるなら、あっちで食いたいところだ。

コンビニで買うおにぎりをもそもそ食うのは、もうイヤだ。手料理が食べたい。ここのところ手料理とはマジで縁遠いし。

この世界に来てからは元より、前の世界でも令子は入院中だったから、手料理なんて食えてなかったし。


「もしもし? あー、パピリオか? 横島改め高島なんだけど……」

『今、忙しいでちゅから、あとにしなちゃい!』


いきなり怒られた。おにーさん、ちょっとショックだ。


「な、何なんだ? 後ろもかなり騒がしいよーだが?」

『もうすぐ敵が攻めてくるんでちゅ! 結界張りとか忙しいでちゅよ!』

「敵って……おいおい? どうなってるんだ? つーか、メドーサがいるだろ?」


人質を戦力として換算するのはどうかと思うが、あの屋敷自体に危機が迫ってるなら、メドーサも腰を上げるだろう。

自分に降りかかる火の粉はささっと払うだろうし、そうするだけの実力がメドーサにはある。何しろ中級魔族だ。


『メドーチャは逃げちゃいまちた! だからいないでちゅよ?』

「逃げた? ま、まぁ、大人しく囚われのお姫様をするような女でもないだろうけど」

『そんなわけでちゅから、今は忙しいんでちゅ!』

「待て。ストップ。まだ切るなよ。そもそもだ。敵ってなんだ? 誰が攻めてくる?」

『デミアンとベルゼブルでちゅ!』

「一応確認するが、オカッパ小僧と蝿野郎だよな? あいつらってアシュの部下だろ?」

『裏切りまちた』

「……何でまた、こんな時期に」

『詳しくは知らないんでちゅけど、えと……風水盤を神族の小竜姫に使えないようにされて、怒ったみたいでちゅ』


パピリオが言うには、アイツらは小竜姫様に風水盤を起動させるキーの針を奪われた上、盤のある場所を崩落させられたそうだ。

色々とショックを受けたせいか、つい先ほどまで盤とともに埋まったままで自失してたそうだが……ようやく精神的にも復活して再起動。

んで、報復行動の許可をボスであるアシュに願い出る。でも、アシュはそれを却下。アシュとしては別に風水盤が今どうなろうが、知ったことじゃないしな。

動かなくても困らないと言うか、むしろしばらく動かないことは想定の範囲内だって言ってたからな。報復する気なんて、アシュには起きない。

よって『指示があるまで待機しろ』とアシュが告げると、二人とも我慢の限界が来てブチギレ。

もうボスには従わない! 下克上だぜ、この野郎! ブッ殺だ! …………と言うことらしい。

まぁ、プライドが高そうだったし、小竜姫様に出し抜かれたままじゃ、黙ってられないんだろうな。

んで、小竜姫様を倒しに妙神山へ行く前に、ボスへの裏切りの明確な意思表示として、屋敷の三人娘をまずは血祭りにあげるってことらしい。

犯行予告をした時点で、かなり本気なんだろうな。


「はぁ、このややっこしい時期に、また余計なトラブルがやってくるわけか」


つい最近、一瞬とは言え俺を呼ぶために風水盤が起動して、地脈が不安定化してて、

そこに犬飼がフェンリル復活のために暗躍しだしてるってのに、さらにデミアンの謀反? そしてメドーサは逃亡?

なんだよ、そのスパロボのオープニングで語られる地球圏の混迷じみた、イベントでお腹イッパイの状況は?


『とにかく、そーゆーワケでちゅから!』

「あっ、おい? ちょっ……」


相当焦っているのか、パピリオは俺の言葉を無視して電話を切った。


「おいおい。俺にどう動けって言うんだ?」


俺ははぁ〜〜と、深く嘆息した。

幸せがいくつか逃げた気がした。


はぁ〜〜〜。ゆっくり眠らせてくれ、マジで。






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