第七話




平行世界とは言え、過去の自分の生活を監視すると言うのは、なんだか微妙な気分だ。

その自分が、過去の俺よりもかなり恵まれた生活環境を手に入れていれば、なおさらだ。


――――――過去の自分を監視して、早3日。

仕事と割り切っているものの、やはりそこはかとなく腹が立つ。自分と同じ顔をしているだけに。

あーっ……こんちくしょう。まったく……まったくもって、どっちくしょう。

俺が時給255円と言う低収入で、女の気配が微塵もないアパートにて極貧生活をしていたはずの時期に、

どうしてこの世界の俺は、同級生メイドなる高スペックな愛子と、ラブな生活をエンジョイしてやがる?

しかも、そこにさらにメドーサと言うオマケつき。いや、あいつ的にはこっちがメインか。

以前は別居していたはずなんだが、俺が観察し始める少し前から、

あの狭いアパートは男女比1:2のプチハーレム状態に移行したらしい。


なんでも、俺を召喚するために起動した元始風水盤が、この状況の原因だそうで。

この世界の俺は、アシュの野郎にとって欠かせないキーパーソン。

そんな重要人物が死んだり、大怪我を負わないように、アシュは以前にメドーサをたきつけたらしい。

『ちゃんと守らないと、風水盤が動いて計画が第2段階にはいる頃に、横島が死んじゃうかもよ?』と。

裏を返せば、俺の召喚と言う一大イベントが発生する前後に、この世界の俺を5体満足な完全状態で

しっかりと確保しとけよってことになるわけだ。文珠の修行開始ってことだしな。

突き詰めれば、令子さんのところでGS研修中だけど、そこで下らない怪我をさせるなよ……ってことだ。

あるいは、アシュの計画に全然関係ないところで動いてる魔族に、ちょっかいをかけられたりするなよ……とか。

まぁ、ただそれだけのことなんだ。


しかし、メドーサは何を勘違いしたか、

『元始風水盤が動く時に、横島に人生最大を危機が訪れる! そして死ぬかも!?』と、考えているっぽい。

だからこそ、押しかけ女房 & 正しく肉の壁的な護衛を続けているのだと思う。

アシュはちょっとたきつけただけのつもりらしいが…………どういう風に言ったんだ?

それとも、メドーサも惚れた相手には過保護になるってことか?

まぁ、地脈が停止しているような状態で、フェンリルを相手にすることになりそうだし、

人生でかなり大きな危機が来ることには、間違いないとも言える。

しかしまぁ、それも文珠を覚えてしまえば、かなり楽なイベントでしかないんだがな。


実際、文珠の使用可能な今の俺なら、かなり楽にフェンリルは倒せる。

まず相手は犬なので、『座』でお座りをさせて、足を止める。

そしてフェンリルに近づき、『玉』『葱』とかを口に放り込んでやろう。

所詮は犬だし、玉ネギの効果で中毒になって、とことん弱るだろう。

あとはまぁ、寄ってたかってフクロ叩きにすればいい。れっつ・こめでぃ!


なお、俺の文珠の同時発動可能数は、フツーなら10で、ちょっと無理して14。

限界突破の成功確率10パーセント未満でもいいのなら、20文字に挑戦も可。

もっとも、実際はそこまで多くの文字を同時使用することはないけどな。

暴走が怖いし。そもそも10文字を越えた辺りで、ほとんど文章だ。超絶な言霊使いか?

でも文章を考えるくらいなら、やっぱり一文字に思いを込める方がイイわけで。


同時に使える最大文字数は、だいたい5文字くらいでいいよな。

むしろ、生成速度を上昇させるようになった方がいい。

1時間に1個。一日24個生成可能なら、マジで最強だろう。

3日後に試合だ! とか決闘を申し込まれても、全然OKだ。

72個もストックがあれば、まず負けない。むしろどうやって負ければいいのか。


同時使用にはコントロールが必要だが、連続使用に複雑な制御は不必要だ。

『絶』『対』『防』『護』『領』『域』と、無理して6文字のすごそうな防壁を張るくらいなら、

『守』『護』×3回なんかの方がずっといい。暴走の危険性もより少なくなる。


よし。この世界の俺には、同時にいくつ使用出来るかより、

一日に何個の文珠を発生させられるかに重点を置いて、教育しよう。

俺の場合、文珠に目覚めたあと、急いで生成して……ヒャクメが出て……平安京に飛ばされて……

あのせいで、つい生成速度を速めるって言う修行は、無意識的に避けてたしな。


俺がついていれば文珠の暴走も止められるだろうし、

この世界の俺には、どんどん生成を試みてもらおう。


――――――問題は、文珠に目覚めたあとの鍛え方じゃなくて、

まずはどうやって文珠に目覚めさせるかだよなぁ。

こっちの俺は、符を使ったり、サスマタを使ったり……。

本当に、俺とは全然違う方向へと進んでいるらしい。

メドーサの……白竜会の指導を受けた以上、当然だろうけど。

……その割には、ちゃっかり美神所霊事務所に入ってやがるし。


あぁ、ちくしょー。俺が悩んでるのに、当の本人はへらへらしとる。

これがムカつくんだよな。俺は一人孤独にしとると言うのに。

俺のくせに……高校生の俺のくせに、両手に花だと? くそぅ……。


「あー……思考転換、思考転換」


暴走しかけた思考を、ゆっくりと戻す。

自分相手に嫉妬する光景は、冷静に考えると悲しすぎるしな。平行世界とは言え。

さっさと教え込んで、元の世界に帰って、令子に感謝されて、一発燃え上がろう。


――――――えーと、んで、思考はループするわけだ。

どうやって、過去の俺に特殊能力を教え込むか?


「俺は……心眼に教えてもらったしなぁ」


間違っても、雇い主であった令子ではない。

俺のことは馬鹿にするくせに、まともに何も教えてくれんかったぞ、令子は。

もっとも、やる気があるなら自分から尋ねたり、事務所の書物に眼を通すべきだったんだろうけどな。


「それはそうと、心眼か。懐かしいな……」


小竜姫様に授けられた、素人だった俺のための歩行器。道しるべ。

俺の相棒で、実質的な師匠で、そして……恩人か。

まぁ、口は悪かったけどな。


「心眼は、教えるのが上手かったしなー」


俺もああいう風に、教えた方がいいかもしれない。

心眼は俺のことを、誰よりも理解して、上手く誘導していたように思う。

令子や小竜姫様なら、『さぁ、妄想して煩悩エネルギーを溜めろ!』なんて、

究極なラスボスでも相手にしないと、絶対に言わないだろうしな。


そんなことを考えていた俺は、気がつくと思考を過去へと飛ばしていた。

あの日……小竜姫様にキスをされて、心眼を手にしていたあの日へと……。















            横島サンのご苦労 第七話


                    〜〜〜横島サン、思い出に浸る〜〜〜















俺は今、美神さんの事務所に向かっている。

通い慣れた…………出席率の悪い学校より、よほど通い慣れた道だ。

ここはGSの事務所へと向かう道。

でも、俺はGSなんかじゃなく、ただのアシスタント。

現場まで荷物持ちをしたりするだけの、ただのアルバイトだ。


「GSかぁ」


――――――今日は学校で進路調査があった。

居眠りをしていたところ、教師の命を受けたタイガーに進路指導室に連行され、

俺だけ緊急かつ個別の調査となったのだ。

まったく、タイガーめ。何が『友達なのにスマン』だ。

転校初日にも、俺を縛り上げたなぁ、あの野郎。


まぁ、そんなこんなで、何か将来に希望があるのかと問われた。

よって、美人な奥さんと退廃的な生活を送ると言う、極めて偉大な夢を語った。

――――――が、まったく理解されずに呆れられた。

男の夢だと思うのだが。これだから飼い慣らされた中年男は困る。

俺は美人で優しい……包容力と魅惑さを兼ね備えた女神を手に入れてみせる。

…………残念ながら、具体的候補はまだいないけどな。

美神さんとおキヌちゃんが、足して2で割った感じになると正に理想だと思う今日この頃だ。

『ナイスバデー + 包容力 = 理想』うん、これ最高の真理。

ちなみに最強は『ナイスバデー + 包容力 + 多数 = ハーレム』だ。

まず高みに達して、そこから人数増加により最強を目指す。それが男の道。

もっとも、美神さんが俺のモンになるなんて、

『物理的に有り得んのじゃ……?』とも思ったりする今日この頃だったりもする。


「それで? GSのバイトをやってるそうだが、卒業後はGSか?」


輝く瞳で夢を見据える俺に対し、教師は現実だけを見据えていた。

GS。強いGS。なってみたいと、思わなくはない。むしろ是非なりたい。

コテンパンになっている美神さんの元に颯爽と駆けつけて、敵を蹴散らしたいと思う。

でも特殊な才能の要る職業だ。俺なんかになれるモノだとは思わない。

身分制度ってワケでもないけど、アシスタントはアシスタントだ。多分、一生。

いつかは美神さんに勝てる日が来る……とは、思わない。

来ればいいとは思うけど、やっぱり物理的に有り得ん気もするのだ。

何しろ、美神さんだ。ヤーさんよりも、たちが悪い。

俺を社会的に抹殺するだけの金も力も、持ってるんだよなぁ。

俺がいくらセクハラしても、それをしないのは、ひとえに俺への愛か?

…………なんて言ったら、本気で現代日本から俺を抹殺しかねん。恐ろしい人だ。

下手すると、マジで悪霊より怖い。


「いやー、考えたこともなかったなー。特殊な才能もいる仕事だし」


だから俺は、そんな言葉を発して、再び教師を呆れさせた。

そして放課後になり、こうして美神さんの事務所に向かって歩いているのだ。

いつもと同じで、何も変わらない。

でも、ふと思う。

少しだけ真面目に、自分の未来と言うものを。


「……GSか。ピートがもうすぐ資格試験だって言ってたな」


あいつなら、余裕で合格するだろう。

どういう試験内容か知らんけど、あいつは頭も良さそうだしな。

あるいは消防士とかの試験みたく、運動能力の測定とかがあっても、問題ないだろう。

何しろヴァンパイアだ。しかも昼間も歩けるハーフだったりする。さらに美形。

…………………天は二物を与えたりもするんだな。けっ。

あっ、でも神父の所にいるから、貧乏だったか。


「まぁ、俺には関係のない話か」


色々と考えてみるが、結論はそんなものだった。

俺には知識も能力もない。受けたところで、どうせ合格なんてしない。

自分に信じるべき何かがあるなんて、微塵も思ってないし。

俺なんかが軽々しくなれるなら、GSはもっと楽な職業だろう。

少なくとも、パワーアップするために断崖絶壁を越えたところにある修行場に行き、

命を賭けて戦ったりする必要はないはずだ。


「ん? あ! 鬼門じゃねーか!」

「おお、横島! 実は――――――」


俺が厳しい修行場・妙神山のことを思い出していたからだろうか?

美神さんの事務所の前には黒塗りの車が止まり、さらに黒スーツの男たちが立っていた。

これは妙神山の管理人である小竜姫様が、おしのびで下界に下りてきた証拠だ。


「小竜姫さまぁああ!」


俺はこちらに声をかけてくる鬼門を無視して、事務所へと突入した。





      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




神と人の禁断の恋に落ちましょう。そう言って飛び掛ったところ、殴られた。

何故か小竜姫様だけでなく、美神さんにまで厳しいツッコみを頂いた。

これはきっと、小竜姫様をかまったことに嫉妬して、つい手を出したに違いない。

はっはっは。大丈夫だよマイハニー! ちゃんと君の事も忘れてないさっ!


――――――と言ったところ、神通棍で頭蓋を叩き割られました。

灰色の脳細胞が、ちょっと外に飛び出したような気もする。

でも、真面目なお話の腰をぽっきりと折ったので、この程度の罰は当然とのこと。

むぅー。俺の頭蓋と話の腰は、等価値なのか? 毎度思うが、俺の命はかなり軽いらしい。


ちなみに、その真面目なお話は何なのかと言うと……

何でも、今度のGS試験にきな臭い動きがあるらしい。


天界のお偉いさんの子供である天竜童子を殺そうとした、メドーサという巨乳竜神がいる。

その殺し屋な巨乳竜神が黒幕となり、やつは息のかかった受験生を試験に潜り込ませようとしているらしい。

メドーサや他の誰かが、もし色々悪事を働いたとしても、GS側に味方がいれば逃げるのは簡単だ。

捕縛依頼や任務がGSにかかった時点で、メドーサ側にもその情報が伝わったりするだろうし。


そんなわけで小竜姫様は、美神さんに怪しい受験生がいるかどうかを確かめて欲しいらしい。

つまり今年度のGS試験への潜入捜査。それが今回の依頼だ。


「そうだ! 横島さんも受けてみませんか?」

「こんなアホには、何も出来ないと思うけど」


小竜姫様が俺を見て、笑顔でそう言ってくれた。

次いで美神さんが俺を見て、苦笑でそう言ってくれた。

すげー対極的な笑いだった。


「いいえ。最初に会った時から思っていました。

 ひょっとしたら、横島さんには隠された素質があるかも知れないと」


再度真面目にそう言ってくれた小竜姫様に、反応は様々だった。

美神さんは『じゃー、まー、試しに出れば? 失うものもないし?』と、どーでも良さそうに。

おキヌちゃんは『横島さんって、本当はすごかったんですねー』と、ちょっと見直したように。

言った本人の小竜姫様は『だから、ひょっとしたらと……』と、途中で前言撤回的な雰囲気に。

…………あの、小竜姫様? ひょっとするって、どのくらいひょっとするんスか?

その反応だと、もしかして宝くじで3億円当たるかも的な感じなんスか?


「まぁ、お札も扱えないんだし? 合格する要素はないわよね」


俺がちょっと凹みかけていると、美神さんがきっちりと追撃してくれた。

本気で有り得ないと思っているらしく、一発合格すればバイトから正社員待遇にアップ。

さらには美神除霊事務所から美神&横島除霊事務所に改名するとまで、美神さんは言った。

どれだけ有り得ないと思っているのかが、よく分かる合格後のご褒美だった。


「アンタのダメさが浮き彫りになるだけだろうけど、まぁ、いいんじゃない?」


くすくすと笑って言う美神さんは、見惚れるくらいに綺麗だった。

そして、ちょっと可愛かった。

でも、その言葉の内容はもう、事実だけに鋭過ぎた。


「くっ、痛いところを! 現実を忘れるから夢があるのに!」


まともな反論も出来ずに、俺はちょっと泣いた。なだそーそーだ。


「大丈夫です。そのバンダナ、いつも身につけていますよね?」


それを見かねたのか、小竜姫様は苦笑混じりで俺に歩み寄り――――――……






「我、竜神の一族 小竜姫の竜気を授けます。

 そなたの主を守り、主の力となりて、その敵を打ち破らんことを……」







――――――そして、俺の額……正確にはバンダナ……に、キスをしてくれた。


「バンダナに神通力を授けました。あとは貴方次第ですよ、横島さん」

「しょ、しょ、しょりゅきさま!?」


俺は驚きとともにバンダナを外して、手に取る。

そして、しげしげと……それこそ穴の開くように見つめる。

小竜姫様の唇と、俺の手の中にあるバンダナを、交互にだ。


あの柔らかそうな唇が、ここに! ここにっ!

小竜姫様の唇そのものは果てしなく無理っぽいだが、間接キスなら!?


『……んっ……』


バンダナを口の中に放り込もうか?

そんなことを考えていると、バンダナからなぜが音が漏れた。

俺は一瞬固まって、手の中にあるバンダナを見つめなおす。

そこには、明らかにしわや影ではない一筋の『何か』があった。

それは、やがて広がって、一つの大きな眼となった。


『…………俺は?』

「ば、バンダナが喋った!? って言うか、眼が! なんじゃこりゃー!?」

『…………バンダナ?』


そりゃーもー、驚きだ。王子様のキスで、お姫様の目は覚めるもの。

なら、竜神の姫のキスで眼が覚めるってことは、俺のバンダナは王子様か!?


「何なんだ、何なんだ!? やっぱ、小竜姫様のキスの効果っスか!?」

『………………』


バンダナを握り締め、分かりきったことを問いかける俺。

しかし、バンダナから返事は返ってこなかった。

何となく、不機嫌そうな気配だけが、その一枚の布からは伝わってきた。


「お、おーい。そっちもリアクションしてくれ。一人で馬鹿みてーだぞ、俺」


俺はおっかなびっくり、手の中のバンダナに話しかける。


『お前は…………』


やがて、バンダナが口を開いた。

何を言うんだろうと、俺はバンダナに耳を寄せる。


「な、なんだよ?」

『もとより馬鹿だろう?』

「ふぬー! 布っきれのくせに生意気な!」

『ふん。煩悩だけが取柄の小僧のくせに、生意気な』


何故か知らないけど、バンダナは辛辣だった。

一応、初対面? でも、いつも身につけていたバンダナに、

煩悩だけが取柄だとこき下ろされる俺。なんて不憫なんだ、俺。

あぁ、でも、普段から身に着けていたから、この反応なんだろうか?


「あのー、小竜姫様? 何なんすか、こいつ?」


バンダナに聞いてもまともな答えが返って来そうにないので、小竜姫様に問いかける。

ちなみに、美神さんとおキヌちゃんは小竜姫様のキスからこっち、固まっている。

バンダナに対する驚きリアクションの解除タイミングを逃したんだろうか?


「それは私の与えた竜気により発現した、心眼です。

 戦闘において素人である貴方のための、歩行器のようなものです。

 貴方に眠っている力があれば、バンダナが目覚め、

 その力をより引き出してくれるはずでしたが……予想以上に早い目覚めです。

 やはり、横島さんに力があると見込んだ私の目に、間違いはなかったようですね」


うんうんと頷き、何処か満足そうに言ってくる小竜姫様だった。


「それはまぁ、いいんスけど。すげー口が悪いのは何故?」

『それは小竜姫に問題があるな』

「なっ。心眼? 私のどこに問題があると言うのです?」

『人に分けられるほど、隆起がないと言うに無理をするからだ』

「私は竜神です。竜気は問題なくありますが?」


バンダナはその大きな一つ目で、小竜姫様を見つめる。

具体的に言うと、小竜姫様の胸元を凝視している。

それには気付かずに、小竜姫様は首を傾げる。

気付いてはいけないすれ違いに、気付いてしまったような気がした。


『まぁ、些細な違いを使ったジョークだ。分からないならそれでいい」

「……? 何を言ってるのですか?」


気になるのか、追いすがろうとする小竜姫様。

しかしそれを軽やかにスルーして、バンダナは俺に話しかけて来る。


『さて……改めて問おう。お前が主だな?』

「ん? あぁ」


『俺の名は心眼。小竜姫の竜気によりこの世界に発現させられし存在。

 俺はお前の剣にして、お前の盾だ。栄光のその地まで、導くことをここに誓ってやろう。

 つまりお前を守り、敵に打ち勝つ術を与えてやるということだ。せいぜい感謝するといい』


遥か高みから俺を見下ろすように、バンダナはそう言った。

無機物のくせに、なんて生意気なやつだ。

と言うか、本当に小竜姫様の隆起…………じゃなくて!

えーっと、竜気に問題があったんじゃないだろうな?


「なぁ……その口の悪さはどーにかならんか、お前?」

『お前は俺に尊ばれる要素が、一つでもあると思っているのか?』

「それは――――――た、確かにまぁ、ないんだろうけど」


つーか、誰に対してだろうと、まともに胸を張れる事がないしなぁ、俺。

まさか、今ここで『昔はミニ四駆の大会で優勝した!』とも言えんし。

言ったら、絶対に可哀想な人間を見る眼をされるに違いない。

そこでさらに小竜姫様に『みによんくって何ですか?』と聞かれて、

『子供のおもちゃです』と答えるのは、本当にもう、色々と辛過ぎる。


俺はこの布に対し、泣き寝入るしかないのか。

そう考えてまたしても凹んでいると、小竜姫様が救いの手を差し伸べてくれた。さすがは女神様だ。


「心眼。少しばかり言葉が過ぎますよ?」

『そうか? 俺は足りないと思うがな?』


まだ俺をイジメる気なのか、お前は!

なんか俺に恨みでもあるのか?

まさか、冬場にティッシュがなかった時に、緊急回避として鼻水をぬぐった時のアレか?

それとも、何か他に普段の待遇でバンダナ的にムカつくことがあったんだろうか?


「…………つーか、小竜姫様にまでタメ口なのか、お前」

『では、母上様とでも呼ぼうか。お前の憧れる女神様も、一児の母か。父親は誰だろうな?』

「んん! そりゃ、小竜姫様が俺にキスをして、お前が生れたわけだから、当然俺だな!」

『そうか。父親か。尊ぶ理由が出来たな。これからは言葉遣いで自嘲しようか』

「……あ、あの、なんだか話の流れがおかしくないですか?」


いきなり一児の母と言うか、俺の妻的ポジションに立った小竜姫様が待ったをかける。


『何もおかしいところはないぞ、母上。竜神 小竜姫と人間 横島忠夫に子が出来たと
 
 そんな噂の流れる下地が、ようやく出来上がったところだ。流れがおかしくなるのは、これからだ』


……率先して尾びれのついた噂を流すつもりなのか、お前?

と言うか、コイツは本当に小竜姫様を敬うつもりはないらしい。

俺と同レベルと言うか、ある意味それ以上に怖いもの知らずだな。


「心眼。貴方……面白がってはいませんか?」

『いいや。自嘲すると言ったはずだ』

「……本当に自重する気があるのですか?」

『さて、どうだろうな?』


バンダナ……じゃなくて、正しくは心眼か。

心眼は体があれば、胸を張っていたかもしれない。

そのくらい、まったく後ろめたさを感じさせずに質問を質問で返した。


小竜姫様は何処か疲れた顔をして、嘆息した。


「まぁ、何にしろ……そのバンダナは私と殿下からのプレゼントです。

 GS試験、頑張ってくださいね。それでは美神さん。よろしくお願いします」


そして、そそくさと言う言葉が似合う感じで、小竜姫様は帰っていった。




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