第八話





「はぁー。俺がGS試験か」


事務所からの帰り道にて、俺は額にいる心眼に向かってそう言った。

すでに太陽は海に沈み、夜の帳が下りている。

この時間帯なら暗いので、ぎょろりとした目玉である心眼を、一般の人に見られる心配はない。

まぁ、独り言を延々と発しつつ歩いているようにも見えるので、結局怪しいかもしれないけれど。

職務質問されそうになったら、逃げよう。うん、いつも通りに。

…………って、いつも通りって言っても、俺は変態じゃないぞ。基本的に誤解だ。うん。


「でもまぁ、俺には隠れた素質ってやつがあるらしいしな?」


誰にともつかない言い訳を繰り広げそうになった俺は、心眼に言葉を求める。


『見つけ出さなければ、死ぬまで隠れたままだが?』

「なぁ、もう少しくらい浸らせてくれよ」

『何か間違った話をしたか?』

「ぐぅ! い、いや、正論だとは思うけど」


心眼の性格は、布のくせに現実的かつ皮肉的だった。

先の発現から自宅へ帰宅する今までの間に、嫌と言うほど味合わされている。

多分、この先もこの正論かつ嫌味な言葉を、俺は聞き続けるんだろう。胃に穴が開くかも。

ちなみに『ならば、行動を持って俺を黙らせろ』と、ありがたい言葉を頂いてもいる。

…………でも、この心眼をぐぅの根も出ないほどにするのは、

美神さんに幼稚園でボランティアの劇をさせるくらいに難しいと思うぞ。


『その者の持つ素質は、その者を磨かねば見つからない。

 そしてお前は基本的に自堕落だ。どうせ素質など見つからん。

 きっと、いつか不本意な結末を迎え、後悔の中に死ぬことだろう。残念だ』


途中からひどく悲しげに、それこそ線香を供えそうな声色で言う心眼だった。


「おいおいおいおい! 不吉な予言をしてんじゃねーぞ!?」

『横島忠夫。将来の夢。美しい伴侶を得て、退廃的に生活する……か。はっ』


ちなみに最後の『はっ』は、鼻で笑った感じである。

分かりづらいが、心眼的には嘲笑だったんだろうと思う。


「あの……何故それを?」

『相手を知らなければ、支援も難しいからな。少しばかり覗かせてもらっただけだ』

「覗く? そ、それって、俺の記憶をか!?」

『俺の名前を言ってみろ。心眼だ。心の眼だ。お前の心の中を探る程度、造作もない』

「うあぁー!? 思春期の秘密な記憶まで、余すことなく!?」

『誰が貴様の自慰行為など、つぶさに観察するものか』

「って、見てんじゃねーか、お前!」

『該当箇所は早送りした』

「ビデオかよ!? 俺の記憶は!」

『疲れないか? 騒がしいやつだ』

「誰のせいやねーん!」


夜の住宅街に、俺の絶叫がこだました。

犬の遠吠えや、『うっせーぞ!』と言う怒鳴り声が、どこからともなく続いた。

……くっ、ちょっとまずいな。

俺は大声でツッコんだことを後悔しつつ、かけ足を開始した。


『無様なやつだ。実に笑える』


まったく笑いのこもらない口調で、心眼が呟いた。

皮肉屋っちゅーか、単に嫌なやつなのか、お前は?





      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『さて、本題に入るぞ』

「今のが前フリかよ」


3分ほど駆け足して軽く息の上がった俺に対し、心眼は平坦な声で呟く。

心眼のその眼に、タバスコでも落としてやろうかと思ったりした。


『隠れた素質は、そのままでは当然隠れたままだ。早急に見つける必要がある。

 具体的に言えばGS試験直前までには、その表層にたどり着く必要がある』


心眼は先ほど聞いた内容と、同じような言葉を繰り返す。

まぁ、確かに心眼の言うことは正しい。

素質は見つけて、そして伸ばさないと意味がない。

正しく宝の持ち腐れとか、タンスの肥やしってやつだ。

しかし、試験直前とは、少し急すぎるだろう。あと1週間もないぞ?


俺は、ただのアシスタント。美神さんの言うように、お札もまともに使えない人間。

小竜姫様がいくら素質があると言ってくれても、今の俺は完全な素人なのだ。

たった1週間では、どうにもならないだろう。

というか、1週間でそれなりにたどり着ける素質だと、それはそれで悲しいぞ?


『別に自身の素質全てを見つけ出せとは言わない。その一部でいい』

「一部でも、かなり無茶だと思うぞ?」


自転車ですら、乗りこなすのはかなり大変だ。

まだ幼き小学校の頃、かなりこけた記憶があるぞ。

親父のやつ、持ってるって言ったくせに、あっさりと離しやがって……。

他にも水泳とか、あれとかこれとか。身体に覚えこませるのは大変だ。

多分、霊能も似たようなもんだろ? 感覚を覚えこませるというか……?

覚えれば話は早いだろうけど、その覚える段階に1週間で到達するのか?


『出来るか出来ないかではない。やるんだ。と言うか、やれ』

「ちょっと待てよ、心眼。何でそんなに急ぐんだ?」

『GS試験には実技試験もあったはずだ。受験者同士での試合だな』

「…………ちょ、待て! 聞いてないぞ、そんなの!」

『聞いていようがいまいが、これは事実だ。美神令子からも、そのうち知らせられるだろう』

「ぴ、ピートとかも出るんだぞ!? 死んでまうわ!」


ピートはあれでも、吸血鬼である。ガチで試合をすれば、俺は多分負ける。

と言うか、ピートは顔見知りだし、手加減もしてくれるだろう。

しかし対戦相手によっては、それこそボッコボコにされてしまうかも知れない。

運悪く、メドーサの弟子に当たったら…………うん。死ぬ。


今さら美神さんに、やっぱ出ませんとか言ったら怒られそうだし、

これはもう、今夜中に逃げるしかないな。夜逃げだ、夜逃げ。


『俺という反則的な存在を得たお前が、何を恐れる?』

「――――――え? お前って、そんなにすごいのか?」

『よちよち歩きになるかどうかのGSの卵の中、一人だけ専用の歩行器使用だが?』

「そ、そー言われると、確かにそうかも?」

『しかも歩行器の製作者は、小竜姫だ。伝説の修行場の管理人である竜神だぞ?』

「そ、そうだな! 小竜姫様に貰ったお前がいれば、百人力ってやつだよな!」

『……百人力? それは違う』

「――――――ふえ?」

『一騎当千。千人力だ。まぁ、万でも億でもいいがな?』


尊大な態度で、心眼はそう言った。

別に俺を安心させるためとかじゃなく、マジで言っているんだろう。

つくづくどこから来るんだろうか、この布っきれの自信は……?


「……まぁ、どうにしろ頼りにしてるぜ」

『任せろ。明日からの特訓で、お前を高みに導いてやる』

「……………………特訓?」

『ああ。せいぜい、今日は早く寝ることだな』


特訓? 早寝早起きして? 明日から? 

それは嫌だなぁ……と思ったものの、俺は素直に頷いた。

今までの会話の流れからじゃ、断るのが怖かったからだ。

人、これを流されると言う。


こうして、俺のGS試験に向けた特訓が開始された。





      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





早朝5時。俺はアパートの玄関前に、ジャージ姿で立っていた。

つまりは5時前に目覚め、しっかりと着替えを済ませたと言うことである。ホントに早起きだった。

だからまぁ、いまだに完全に覚醒していないような気もする。有体に言って、寝惚け眼だ。


『さぁ、走れ』


そんな俺に、心眼はすぱっと言い切ってくれた。

正直、早朝の寒空の下を走るなんて、ご遠慮したいです。


「…………なぁ、霊能の特訓じゃないのか? 何で走るんだ?」

『アパートの中では出来ん。人目に着かないところまでランニングだ』

「まぁ、朝っぱらから騒げば、確かに怒られるだろーし」


心眼の言うことは理に適っているので、反論は尻すぼみになった。

俺は扉を開けて、まずアパートの前まで移動する。

あーぁ。まだ空は白んでいるかいないかって言う、微妙な感じだ。

あと2時間は確実に寝てられたんだけどなー。どなー。どなどなどーなーどーなー。


「で、どこまで行けばいいんだ?」

『そうだな。富士の樹海と言いたいが、今のお前の足では昼になるか』

「いやいやいや、夜になると思うぞ?」

『まったく、情けないな。嘆息しか出ないぞ?』

「いやいやいやいやいやいや!」

『まぁ、いい。とにかく走れ。川原で構わん』

「へいへい」



――――――そんなこんなで、場面は川原へ。


何の面白みもないランニングシーンと、俺の上がった呼吸。

この辺のVTRは、きっと編集でカットされるに違いない。

くぅ。真面目に走ったのに。

だったら、今回の修行シーンそのものもカットすればいいのに。

以前に実は修行してたんだーって、事後承諾でどうにかしてくれ。


『俺を外して、そこの石の上に置け』

「へいへい」


偉そうな布に従う人間。

何となく色んな尊厳の危機を感じつつも、素直に従う俺だった。


『では、修行を開始する』

「具体的にはどうするんだ?」

『俺が霊波を出す。それを回避しろ』

「何だ、簡単じゃねーか――――――って、ちょっとマテェ!」


俺の言葉の途中で、心眼の眼からビビビっとビームっぽいものが発生する。

ギリギリのところで回避すると、それは川原の地面に直撃。

ぼっふんという音ともに、小石や泥や草を吹き飛ばす。

結果、バスケットボールより少し大きい穴が開いた。

俺の頭がすっぽりと入りそうな感じだ。


『よし、その調子だ。被弾は気にするな。むしろ当たれ』

「な、なんでやねーん!?」

『霊波の攻撃を浴びれば、お前の霊能も目覚める…………かもしれん』


一番大事なところが曖昧だった。

俺はすぐに背を向けて逃げ出したかった。

しかし、背を向けてダッシュすれば、間違いなく喰らう。

結局、向き合って、放たれる一瞬を見極めるしかなかった。

ちくしょう。何ですかこれ? 新手のイジメですか?


「お札の使い方とか、そーゆー特訓はないのか!?」

『では、買って来い』

「そんな金はない!」

『ならば、この修行しかないな。さぁ、避けろ。あるいは当たれ。そしていっそ死ね』

「くそぉぉ! あたってたまぶぎゃやぁぁあああぁ!?」


一発目を飛びのいて回避。

しかし空中にいる俺を、二発目がきっちりと捕らえた。


『痛いか? ならば防御しろ。身体を覆う霊波を集中させろ』

「って言うか、集中ってどうやるんだ!?」


なんだか全身がひりひりするのを我慢しつつ、質問する。


『お前の目の前に見本がある。俺は霊波を集中させて放出しているのだからな。

 お前は放出させる必要はない。ただ、身体の前面に集中させろと言っている。

 どうやってやるか? それは俺をよく見て、感じ取れ。分かるだろう?』


さも当然とばかりに言い放たれた……が、結局具体的にどうすればいいのかが分からない。

――――――考えるんじゃない。感じるんだ――――――

それは名言だと思う。でも、考えることって大事じゃないかな? だって人間だもの!


「そんな説明で分かるかー! 俺は素人のアシスタントだぞ!」

『隠された素質のあるアシスタントだ。さぁ、目覚めろ』

「こんな無茶な目覚ましはイヤー!?」

『やはり、アパートから出てよかったな。騒音の苦情が来る』

「うぉぉおおお!? 気にするところはそこか!」

『黙れ。さっさと起きろ。男を優しく起こす気などない』


ビビビ、ビビー、ビビビーと、心眼はビームを連射する。

眼からビームは男のロマンだといった馬鹿は、今すぐ出て来い。

極上の笑顔を浮かべて、ありったけの怒りを込めて、殴ってやるぅ!


『せめて目の前にいる生徒が、男でなければな……はぁ』

「知るかー! 俺だって、どうせなら女の子に優しく教わりたいわい!」


嘆息する心眼に、俺は噛み付いた。

そう、こっちだって特訓の相手が小竜姫様なら、まだ救いはある。

怒鳴られるにしても、嘆息されるにしても、救いはあるんだ。

小竜姫様の口から漏れる声や息と、布っきれのそれじゃーなー。

比べるまでもないと言うか、比べたら失礼だろ!?


『ふん。俺にやる気がなくてもいいが、お前はやる気を出せ。

 今のままでは、いつまで経っても目覚めんぞ?』


無茶苦茶なことを要求してくる心眼先生だった。

ちくょう。先生にやる気がなくて、生徒がついてくるとでも思ってんのか?

ざっけんなよ! んなわけがないだろ! 

生徒にやる気を出させたかったら、アメと鞭! ご褒美を出せ、ご褒美を!

この特訓で目覚めるであろう、俺の素質こそがご褒美とか、そう言うのはNGだ!


『…………仕方がない。分かった。ご褒美を用意しよう』

「はぁ、はぁ……ま、マジか?」


嘘かホントかは知らないが、とりあえずビームが止まったので、一息つけた俺だった。

なお、クールで素敵な心眼先生は、こちらを気にすることなく、ご褒美の説明を続ける。


『お前が素質の表層にたどり着いたら、修行内容に一つの項目を付け加える。

 それは霊視・遠視などの訓練だ。心眼である俺の補助を受けてな』


訓練項目が増えても、現状が辛くなるだけじゃないんだろうか?

それに霊視と言われても、幽霊なんて見えてもそう面白くないし。

と言うか、よほど弱くない限り、美神さんのところでアシやってるせいか、すでに何となく見えるし。

一体その訓練内容が、俺にとってどうご褒美になるんだ?


『美神令子の入浴を苦もなく覗けることは言うまでもなく、

 おキヌちゃんの巫女装束すら、お前の前には薄皮以下の存在となる』


霊視・遠視を強化していくことで、透視も可能となるらしい。

最終的な段階は千里眼であり、それこそ何処でも何でも覗けるとのことだった。


「マジっすか?」

『昨日から今日今この時までに、俺が嘘を吐いたか?」

「頑張ります!」


俺のやる気は、ぐーんとアップした。

テンションを折れ線グラフで表現すれば、すごい上昇率だっただろう。


『あぁ、頑張れ。では、回避しろ。よく見てな。

 回避しきれない時は、攻撃を受ける箇所に力を集中させろ。

 この特訓で、お前は自身の素質の表層にたどり着く……はずだ。

 ついでに回避能力と霊波への耐抗力も向上する……と思われる。

 この修行内容は、簡単なようでかなり効率的なものだ』


ところどころ微妙な箇所はあるが、しかし聞いていると納得が出来た。

回避すれば俊敏さは上がるし、ダメージを受ければ抵抗力がつく。

さらに霊能を刺激する攻撃である以上、そのうち俺の素質も目覚める。

うん。確かに何となく納得出来る。やってれば、どうにかなるはずだと思える。


「さすが心眼! まるで俺のための特訓メニューだ」


『間違いなく、お前用のメニューだ。他の人間には危険過ぎて適用は出来ない。

 何しろ、回避ミスにより霊波を浴び過ぎれば、そのまま…………いや、何でもない』


「おい。今、とんでもないことを言おうとしただろ?」

『気にするな。なに、お前ならば大丈夫だ。絶対に』

「なんでだ? 言い切る根拠はあるのか?」

『美神令子とのやり取りにより、耐久力はすでに上々だからだ』

「…………よ、喜んでいいのか、悪いのか」

『禍福は糾える縄だな。さて、再開するぞ』

「おう、いつでも来てぶらやまぁぁああぁ!?」


カモーンと手を挙げたところで、俺の全身は心眼の霊波で包まれた。

びりびりびり〜♪ このシーンをビジュアル的に言うなら、感電シーンだ。

いや、確かに再開するとは言ってましたが、早過ぎやしませんか?

こっちが台詞を言い終えるまで、せめて待ってくれよ。


『油断するな』


心眼の冷静な声が、どさりと崩れ落ちる俺の頭にぶつけられた。

うぅぅ〜……こんちきしょー……。





      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





時刻が午前7時を回ったところで、早朝の修行は終わった。

俺はバンダナを額に巻き直して、自宅であるアパートを目指している。


成果は上々だった。30分ほど霊波を浴びたところで、集中のコツが分かったのだ。

霊波は、常に発しているもの。呼吸による二酸化炭素よりも、自然に周囲に発散されるもの。

それを意識的に、一部分から多く出せばいい。

そうすれば、その箇所の霊的防御力が上昇する。

もちろんその場合、多く出す以外のところが相対的に薄くなる。俺の場合は、本当に薄っぺらになる。

美神さんなんかは、最初から出してる量が多いから、そこまで薄くはならないらしいけど。


そして……さらに出力を上げれば、心眼のようにビームっぽく放射も可能なんだろう。

それを俺は、正しく身を持って実感&理解した。


つーか、思えば美神さんとの仕事で、無意識的には理解してたような気もするぞ。この防御。

改めて『さぁ、やれ』と言われて、戸惑っただけと言うか、何と言うか。

完璧に無防備だったら、絶対に死んでただろーって言う状況は、何度も思い浮かぶしな。


まぁ、とにかく。こちらに飛来する攻撃に対し、俺は自身を覆う霊波をかき集めて対抗した。

心眼のビーム攻撃は突き出した俺の手から、明後日の方向へとそれて行った。

ビームの進行を、俺の霊波が妨害して、歪曲させたんだそうな。何かすごいぞ?


さらに続けたところ、かき集めた霊波は目に見えるくらいになった。

そこに確かにあると、分かるようになった。いやぁもう、すんげー嬉しかったですよ。ええ。

GSでは別に珍しくもないレベルだろーとも、一般人には不可能な技だ。

つまり、俺も一歩前に足を踏み出したわけだ。うむ。

心眼も褒めてくれたしな。


さらにご褒美として、霊視もちょこっと教えてくれた。

もちろん透視はダメダメなレベルだが、希望も持てた。

心眼に手伝ってもらったら、遠くの銭湯の女湯も覗けたしな! 

朝早過ぎて、誰もいなかったけど! でも希望だけは膨らみまくった。


霊視とかは、学校でも人知れず特訓出来るので、今後も頑張ろうと誓う。

上手くやれば、クラスにいながら更衣室を見たり、試験時に解答を見たりも可能。

うん、夢が広がる話だなぁ、おい!


今日の修行は、まぁ有意義だった。それはいいんだ。

いいんだが…………足が重い。眼がかすむ。

絶対に、今から学校に行く体調じゃねーぞ?

いや、でも、学校には皆(と言うか女子)が待っている!

皆(と言うか女子)に協力してもらって、是非とも霊視の訓練を!

しなければと言うより、したくてたまらない。


「ふと思ったんだけど」

『何だ?』


身体の痛みやら何やらを無視するため、俺は心眼に話しかける。

今から振る話題は、皮肉屋な心眼をからかえるかも……と、

昨日から今日にかけて、初めて見つけたネタだったりする。


「心眼でも、ちゃん付けしたりするんだな」

『何を言っている? 俺が誰をそう呼んだ?』

「え? おキヌちゃんって」


小竜姫様ですら呼び捨てのくせになぁ。

やはり、おキヌちゃんのキャラなんだろうか?

つーか、こいつは元々が俺のバンダナであり、俺の影響も受けてたりするのか……?
 
もしかして、小竜姫様とはいつか呼び捨てでOKな関係になりたいと思っていて、

でも、おキヌちゃんとは、ずっと今のノリを続けたいってことなんだろうか?


肝心の心眼の答えは――――――


『……………………………気のせいだ』


――――――だった。むぅ。何なんだ?

もしかして、ふと言った『ちゃん付け』を、自分のキャラじゃないと後悔してるのか?

まったく、ハードボイルドぶりっ子め。

いっそ女の子を、全員ちゃん付けで呼んだらどうだ?

その方が、今の偉そうな感じより親しみが持てるぞ、多分。


その後、ちょっとした沈黙が訪れた。

俺が言葉を発しない限り、心眼は何も言う気がないらしい。

ハードボイルドぶりっ子ってのを、もしかして俺は声に出してたか?

それを聞いて、拗ねたのか? 心眼、だとしたらお前、ちょっと子供だぞ?


「なぁ、心眼」

『なんだ?』

「俺には本当に、何かすごい力が隠されてるのか?」


確認と言うわけじゃないけど、俺はそんなことを尋ねる。

沈黙が何となく嫌になって、とにかく何かを話したかった。

でも、俺と心眼の共通の話題って、まだこれだけなんだよな。基本的に。

昨日会ったばっかりだし、仕方がないと言えば仕方がないんだけど。


『ああ。間違いない』

「何でそう、断言出来るんだ?」

『そう見込んだ。それで不服か?』

「不服ってワケじゃないけど……」

『そもそも小竜姫が見込んだからこそ、俺がいる』

「でも、ひょっとしたらって言ってたぞ?」

『ならば、ひょっとしたのだろう』


俺には力がある。なら……すべては今後の俺の努力しだいか。

つまり頑張れば、美神さんのヌードを拝める日も、本当にいつかちゃんと来るんだな? 

あとから、実はお前には霊視能力の素質は欠片もないとか、言わないでくれよ?


『霊視を強めて透視に至り、千里眼の高みに上る可能性はある。

 しかし、事務所にも自宅にも、結界が如かれている。

 遠くから悟られず覗くなど、まだまだ先の話だろうな』


「くぅぅ! いつになるんだよ、それは!」

『だから、お前の努力次第だ』

「つーか、お前は止めないのか?」


あの真面目な小竜姫様の竜気から生れたとは思えないぞ、まったく。

どこの世界に、主を導くために覗きを餌にする歩行器があるんだ?

俺が少しばかり呆れを声に含ませると、心眼は鼻で笑った。


『ふん。何を言っているのやら。すでに俺は心の向く時に堪能している』

「…………………………な、何を?」


『無論、美女と美少女の裸をだ。透視レベルを調節し、下着姿のみや

 チラリズム溢れる薄着姿すら、俺にかかれば可能だからな』


「な、なんて羨ましいことを!」


すでに餌にするどころか、自分でもつついて喰ってるらしい。

こいつ、身体があったらとんでもない事になりそうですよ、小竜姫様!?

どこの世界に暇を見つけては、美女の裸のために透視する心眼がいるんだ!?

ある意味俺のバンダナらしいと言うか、何と言うかだが、とにかく羨ましいっ!


『この高みに、お前が達せられるかどうかは、お前の努力次第だと言っている』

「くぅぅぅぅっっ! 絶対、心眼レベルになってやるぞ!」

『まぁ、頑張るといい。いいものだぞ? 日常生活で見る下着姿は』

「ちなみに、美神さんの今日の色は何なんだ!? 何だってんだ!」


時刻は朝の7時過ぎだしな。夜にはいた物か、朝起きてから着替えたモンから分からん。

でも、はいてないはずがない。

いやいや、寝るときには全裸にシーツなら、それはそれでいいけど!

それで、どうなんだ、心眼!? 俺に真実を教えてくれ!


『ふむ。意外とでも言おうか? 白だ。ちなみにどこぞの巫女は――――――』


どうやら、心眼はもう『おキヌちゃん』と呼ぶ気はないらしい。

いや、それはそうと……お、おキヌちゃんまで見たのか? 

いや、つーか、おキヌちゃんの下着って、想像出来ないぞ?


『――――――何もつけていなかったな。300年前の巫女のままだからか』


そりゃ、今あるようなぱんてーなんて、300年ないでしょーけど!

くっ、おキヌちゃんがのーぱんさんですか! そうですか!

でも、巫女装束である以上、まぁ、それはそれで――――――……


『そう言えば、お前は霊体で着用可能な衣服を以前に贈っていただろう?

 しかし、下着までは贈らなかった。つまり、あの下は言うまでもなく……』


現代の衣装で、下は何もなしですかっ!?

それは破壊力が強すぎます!

おキヌちゃん……やってくれたな!


前のクリスマスを思い出し、俺は何とも言えない気分になった。

あの時、俺の隣にいたおキヌちゃんが、実は下着なしのある意味羞恥プレイ中だったとは!


気がつくと、何だか俺はすごく興奮していて。

あと1時間くらい特訓を続けてもよさそうなくらい、足が軽くなっていた。



あーうー………………。

いや…………なんか……ごめん、おキヌちゃん。


何となく、自己嫌悪に陥る俺だった。





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