第十四話




俺の身体と意識が、どんどんどんどん暗い場所に向かって落ちていく。

深海よりも、海溝の最奥よりも深い何処かへと、落ちていく。

そして気がついた時、俺は黒い空の下に立っていた。

光はなく、しかし地面は白い。

俺の身体とどこまでも続く地平だけが、そこにあった。


何と言うか、殺風景だな。どう考えても、これは夢だよな。

夢占い的には、これは何の夢だ? 疲れたんだろうなぁ、俺。

何もない白い地面を見やりつつ、俺はそんなことを考えていた。

すると突然、頭の上から声をかけられる。

頭ごと視線を上げてみれば、そこにいたのはメドーサさんだった。

腕と足を組んで、宙に浮かんでいる。その表情は、かなり不機嫌そうなものだった。


「横島。身体の調子はどうだい?」

「えーっと……まぁ、ボチボチっす」


昨夜、俺はあいつにボコボコにされたが、しかし今はどうともない。

多分、これが夢だからだろうけど――――――……


「先に言っとくけど、夢は夢でも、これは普通の夢じゃないよ?」

「はぇ? どーゆーことっスか?」

「アンタの意識に直接アクセスしてんのさ。本体は動けないからね」

「…………つまり、寝てる間だけテレパシーが出来るってことすか?」

「まぁ、そう言うことだね。念話だと思えばいい」


メドーサさんが言うには、あいつが眠ったことで拘束力が弱まり、

これまた眠っている俺に念を飛ばすことで、話しかけることに成功したってらしい。

つまり、メドーサさんの言うように、これは夢だけれど、夢じゃない。

今俺がこの夢を見ている瞬間、メドーサさんもこの夢を見ているんだろう。


「あいつに関して、いくつか分かったことがあるから、教えとくよ。

 あいつが持っている能力は―――だ。三界を見渡しても、珍しい能力だね。

 私の知る限り、あいつ以外では――――――が、持っている能力か……。

 あぁ、でもあいつは神となったから、人の身ではやつだけか?」


メドーサさんの言葉は、途中途中で聞き取りづらかった。

今も固まっているメドーサさんには、これが精一杯なんだろう。

俺はメドーサさんにより近づき、声を聞き逃さないようにしようとした。

でも、俺が前に進んでも、メドーサさんとの距離は縮まらない。

俺とメドーサさんの距離は常に一定であり、どうやら変化しないようだ。

この距離が、今の俺とメドーサさんの現実の距離に比例しているのか……?

歩み寄ろうとする俺に苦笑しつつ、メドーサさんは話を続ける。


「―――は、霊力を凝縮し、一定の方向性の元に、一気に解放する能力だ。

 『爆』とすれば、爆発が起こるし、『固』とすれば、敵が固まる。

 方向性をきちんとイメージしてやれば、どんなことも可能となる。

 それこそ、『覗』とすれば、アンタは風呂を覗き放題だろうね。

 その時、『覗』で発動する能力は『千里眼』あるいは『透視』だ。

 つまり極めて高度な能力で、人が扱うには難のある能力だ。 

 けれどイメージさえ出来れば、それは現実化する。

 横島に元々千里眼の能力がなかったとしても、『覗』と言う方向性の元に、

 一時的にとは言え千里眼を行使することが出来るのさ。分かったかい?」


メドーサさんの問いかけに、俺は首を縦に振る。

能力名はまたしても聞き逃したけれど、その効果みたいなものは分かった。

イメージすれば、それが現実になる。つまりはそう言うことだ。

あいつに『呼』というキーワードが込められたビー玉を渡されたけれど、

アレがこの能力の実物なんだろう。

あいつが霊力を凝縮して、呼ぶという方向性を決めたんだ。

だからこれを使えば、召喚術が発動して、あいつが俺の元にやってくる。

あいつ自身が紋章術による召喚方法を知らなくても、

『呼ばれたら、あいつのところに行く』とさえイメージしていれば、

それは現実になるってことだな? うん、よく分かった。

となると、あいつが両手を合わせていたのは、

自分がビー玉に込めたキーワードを見えないようにするためか?

もしも込められたキーワードが敵にバレたら、少し厄介だろうし。

もっとも、あの時点で俺がキーワードを把握してても、カウンターする方法はなかっただろうけど。


「嘘か真か、あいつは自分をアンタの叔父だと言った。

 実際、アンタとあいつの雰囲気や気配は似ていた。その言葉が真実である可能性は高い。

 となれば、横島。アンタも―――を使える可能性が高い。

 霊能は完全に遺伝するものでもないけれど、同時に遺伝しないものでもない」


おぉ! それなら、俺もあいつと戦うことが出来そうだな!

同じ能力が使える…………しかも、そんな反則的能力が使えるんだし!


「ただ問題は、どうやって習得するかだ。私は習得方法を知らない。

 悪いけれど、責めないでおくれよ? ただでさえ稀有な能力なんだからね。 

 魔装術みたく、何処かの魔族と契約すればそれで済むものでもないだろうし」


メドーサさんは肩をすくめて、嘆息交じりにそう言った。

むぅ、素養があるかも知れないけど、習得方法が分からない。

つまり、自分で編み出せってことっすよね?

現物は俺の手の中にあるけれど、これをどうやって作ればいいのかは分からない。

似たような…………霊力を魔眼で固めた、擬似精霊石は作ったことがある。

でも、それにはキーワードを込めることなんて出来ない。

そして内部の霊力を一気の解放させることも、出来ない。せいぜい、破裂させるだけだ。


「憶測でしかないけれど、一応習得するための方法を言っておくよ。

 まず、霊力の凝縮。これは霊力の集束から始めればいい。

 手から霊波を出して、それを収束し、固形化するんだ。

 霊波砲として放つんじゃなくて、その場に止める。霊波刀を目指してみるといい。

 そして方向性の決定だけれど、無地の霊符を用意し、そこに自身の霊力だけで属性を込める。

 つまり、5つの種類の札を用意せずとも、無地の霊符さえあれば

 すぐさまどの種類の符をも作れるようになればいい……と思う。

 現物があれば、そこにキーワードを込め、さらに新しいキーワードを上書きするとか、

 そう言った感じで、練習が出来るんだろうけど――――――くっ、そろそろ限界か」


俺、現物を持ってますよ! そう、メドーサさんの言葉に答えようとした、その時だった。

宙に浮かぶメドーサさんの姿が、何処かへと流されていく。

もしかして、俺はもう、目覚めようとしているんだろうか……?

俺は慌てて、何処かへと消え去ろうとするメドーサさんに、別れの言葉を口にする。


「愛子と、待っててください! そのうち迎えに行きます!」

「あぁ、楽しみに待ってるよ」


メドーサさんは見えない力に引っ張られるように、遠ざかっていく。

しかし俺の言葉を受けて、小さな笑みを浮かべてくれた。


「――――いいか、横島! 夢であろうとも、時間は無駄にするな!

 霊能力を持つ人間の見る夢は、力のあるものなんだ!

 目が覚めるまでの時間も、ちゃんと鍛錬をするんだよ――――」


消えるその最後の瞬間まで、メドーサさんは俺に声をかけてくれた。

そして、メドーサさんが姿が完全に見えなくなると、世界に静寂が訪れる。

呼吸の音も、心臓の音も、聞こえない。ここが夢の中だから……だろうか?

まぁ、いい。いいさ。別にそんなことは、些細なことだ。


「んじゃ、目が覚めるまで、頑張ってみるか」


夢の中なんだし、疲れるってこともないだろう。

俺は大きく息を吐いて、右手に力を込めた。


「つーか、霊波刀って、どんなんだ?」


霊波砲は分かるけど、刀ってなんやねん? 見たことないぞ?

サボ念もユッキーも、そんな技は使ってなかったし……。

神通棍なしに、ああいうのを自分の霊波だけで作るみたいなイメージか?


「むぅ?」


右手に力を込めつつ首を傾げる俺は、もしかするとかなり間抜けかもしれなかった。
















            第十四話   討ち入り……否、弟子入り

















ジリジリと、目覚まし時計がけたたましく自己主張していた。

全身に気だるさがこびりついているのを感じつつ、俺は体を起こす。

そして腹を出して寝ているシロを跨いで、置いてあった目覚ましを踏みつける。

スイッチを押された目覚ましは、沈黙。室内に朝の静かな時間が戻ってきた。

――――――って、今は何時だ? 5時半? なんでやねーん?

7時にセットしたはずが、しかし5時半。現実は5時半。窓の外は、まだ暗い。

…………疲れてたしな。まぁ、毛の荒れたスミスさんだ。

それに割と早く寝たんだし、睡眠時間は十分だ。一応は。


俺は欠伸をすることで、体内に新鮮な空気を取り入れる。

そして、自身の右手を見やる。


「本当に、ただの夢じゃなかったんだな」


夢の中で俺は何時間も、手に霊波を集中させた……ような記憶がある。

霊波刀がどんなものか分からなかったから、なかなか上手く行かなかった。

けれど、何となく『それっぽいもの』が出来た。

魔眼を利用した、手に集めた霊波を固形化させる『ガントレット』

あの技を、魔眼で固形化させずに、霊波の集束だけで再現する。

霊波は完全な石のような『塊』にはならないから、筆先のように、

先に進むにしたがって、細くなる形で固まっていく。

それは考えてみると、手から延びた一本の剣のようでもあった。

だから、まぁ、多分これが霊波刀である…………と、思う。

夢の中での修行は、決して無駄ではなかったのだ…………と、思いたい。

これで『霊波刀はそんなんじゃなくて、こんなん』と言われると、無駄なわけだけど……。

まぁ、いいさ。集束の鍛錬にはなったし。多分、きっと。


霊波刀―――指先から計ったとして、刃渡りは40cm?―――っぽいもの。

ここからさらに霊波をかき集めて、小さなビー玉にして、そこにキーワードを込める……か。

先は長いなぁ。石化の魔眼もなしに、完全な固形化って、どんな化けモンだよ?

あぁ、ダメだ。出来ないって思うと、ダメなんだよな? イメージが重要だ、イメージが。

仮にこの能力に目覚めたとしても、勝てないなんて思いつつ使ったら、本当に勝てない。

足止めに『固』を使う場合でも、本気で『固』と信じないとダメなんだよな。

『固まらないかも?』とか考えて作った『固』じゃ、きっと足止めにはならない。


「んぁー……? あれー……横島殿が縮んでいるでござるぅ」

「何をワケの分からんことを。起きろ、シロ。飯にするぞ」


何はともあれ、飯だ。エネルギーを補充せな、話にならん。

ただでさえ、霊力も体力もすっからかんだったつーのに、

夢の中で修行までしたしなぁ。その勤勉さのせいか、すっげぇだるい。

『早く胃に何かを詰め込め!』と、体が強く訴えている。

つーても、俺に人並み以上の調理スキルはないんで、基本的に残りモンだ。

早くメドーサさんと愛子を助け出さないと、またインスタント食品にまみれるなぁ、俺。


「ちなみに、シロの好物はなんだ?」

「肉でござる!」

「さすがは犬っころ」

「狼でござる!」

「へいへい」

「ちゃんと聞いてくだされ! 拙者は――――――あっ!」

「な、なんだ? どうしたんだ、シロ?」

「よ、夜明けが……拙者は昼間は、人の…………」


その言葉を残して、シロは人の姿から犬の姿へと変化する。

あーっと、つまり人の姿になれるのは夜間のみ。期間限定ってことか。

言われて見れば、カーテンの隙間からは、かすかに光が漏れている。

山の向こう側から、太陽が顔をのぞかせ始めたんだろう。


「参ったぞ。ドッグフードは完備してない!」

「わうわうわうわう!」

「と言うか、大家に知られたら、追い出される!?」

「わうわうわぅわぅう!?」


俺が悩んでいると、シロが激しく抗議してくる。

……が、しかし。何を言っているのかが分からない。

手をこっちに出してくるけど、それはまんま『お手』でしかないし。


「どうしたんだ、シロ?」

「くぅ〜……わふっ」


シロは『やれやれだぜ』とでも言いたげに、小さく鳴く。

それから俺を無視して、風呂敷包みの中をあさり始める。

顔を突っ込んで、中をがさごさと探る様子は、何だかかなり野良犬チックだった。

顔を上げたシロの口には、美神さんの着けてる精霊石っぽい石がくわえられていた。

すると、シロの体が見る見る人間の形を取っていった。


「わふ――――――ぅぅ……とゆーことでござる」

「いや、何が?」

「父上から渡されたこの石があれば、ちゃんと昼でも人の姿になれるでござるよ」


どうやら、シロは先ほど『風呂敷の中から石を出してくだされ』と言ってたらしい。

ふーん、なるほど、そうだったのか、はっはっは――――――って、分かるか、んなの。

軽やかにノリツッコみをしつつ、俺は布団をしまい、テーブルを出す。


「だったら、最初から首に下げとくとかすりゃどうだ」

「寝ている間も首から下げると、首が絞まるでござろう?」

「んじゃ、ポケットの中に入れとくとか」

「もしもなくしたら、怒られるでござる」


いちいち風呂敷の中にしまいこむのは、子供なりに考えてのことらしい。

それから俺とシロは、自分たちのことや、人狼の里のこと、

あるいはユッキーのことについて話し合いつつ、朝食を取った。

ちなみにメニューは、炊いてあった白米。梅干。鮭フレーク。お茶…………以上。

そして朝食を終えたら、そのまま本日の行動指針について話し合う。

見た目よりもシロはしっかりしてるらしく、ちょっと助かった気分だ。

いや、デジャブーランドに行きたいとか、王子と言う身分も省みずにスルーして、

結構な騒ぎを起こしてくれたお子さんもいらっしゃるしなぁ。

そういや、天竜童子も『迷子』って言うと、すげぇ怒ったっけ。


「ちなみに、シロっていくつだ?」

「拙者は今年で6つになるでござるよ」

「そっか、しっかりしてるな」

「そ、そうでござるか!」

「知り合いに700歳なお子さんもいるんでなー」

「拙者の100倍以上でござるな」

「でも、100倍精神的に年上かって言うと、そうでもないっぽいしな」


さて。それはそうと、本日の行動指針だ。

人狼・犬飼の存在は、かなり危険だ。

ユッキーの手紙はちょっと軽いノリだったけど、現実的に考えて放置は出来ない。

それこそ、ちょっと霊力が高いだけの一般人が襲われることもあるだろうし。

ちゃんとGS……この場合、美神さんに連絡を取るべきだろう。

『ユッキーを倒した敵だって? へ、面白そうじゃねえか』とか言って、

一人で犬飼と勝負をする気は、さらさらない。そーゆーキャラじゃないしな、俺は。

でも、俺は諸事情により、美神さんのところに行けない。

あいつがどこから俺を見ているか分からんしなぁ。

美神さんのところに駆け込んで、勘違いされたら困る。

いつどこでも俺を見るとなると、観察の『観』とか、追跡とか追尾の『追』とか?

まぁ、何かしらのイメージを込めていることだろう。あっちは慣れてるだろうし。


だから、今日はシロを事務所に案内して、俺は中に入らない。

仮に入った場合でも、美神さんはメドーサさんと愛子がいないことを不審に思うわけで。

でもでも、素直に『連れ去られました』とも言えないわけで。

うむ。色んな視点から考えても、俺は美神所霊事務所には行けないのだ!

…………研修終えて、バイトになって、その翌日から姿を見せない。

美神さんの機嫌が心配だ。今度会った時に、俺はどうなることやら……?


「シロ。俺は今日、道場に行って修行する」


不機嫌そうな顔の美神さんを、頭の中から追い出しつつ、俺はそう言った。

なお、学校は行っている場合じゃないから、自主休校だ。

そして俺が霊能の特訓を出来る場所と言えば、白竜会道場しかない。


GS試験に合格してから、そう言えば一度も行ってないな。

と言うか、一応俺たち白竜会メンバーは、保護観察的な意味を込めて、

バラバラにGSの研修を受けてたわけだけど……勝手に行って大丈夫か?

いや、ダメって言われても、行くしかないんだけど。

大真面目に霊波を出して特訓する場合、それなりの場所でやらないと、色々影響が出るしな。

例えば、俺の霊波を受けて雑霊がざわざわ騒ぐと、

その影響でこれまた浮遊霊が集まり出したりすることも考えられるし。

まず有り得ないけど、もしも霊団になったら、処置のしようがないし。


「その途中に美神って言う、俺の師匠の事務所に連れてくから、状況説明を頼む」

「美神殿でござるか? 横島殿の師匠は、メドーサ殿では?」

「まぁ、二人いると思ってくれ。で、シロは犬飼の件を相談する」

「あい分かったでござるよ」

「頼む。俺は霊波の集束つーか、凝縮の修行をしなくちゃだし」


俺は右手から『霊波刀っぽいもの』を出して、シロに見せる。


「おぁ、これは霊波刀……でござるか?」


シロはちょっと自信なさげに、そう言った。

どうやら、シロは霊波刀を実際に見たことがあるらしい。

俺の霊波刀は、その実物とちょっと違うようだ。むぅー、残念。


「自己流の霊波刀……っぽいものだ」

「自己流でこれだけのものを? すごいでござる!」

「本当の霊波刀ってどんな感じなんだ?」

「拙者が知っているのは、もっとこう……こういう……太く細い感じでござる」


まるでボディラインを指し示すように、シロは手を動かす。

その様子から察するに、俺は霊波を集束させる位置がおかしいらしい。

俺は腕全体から刀を構成する形だが、シロの言う霊波刀は手首からの延長らしい。

手の平部分が太く、そこから突出した刃の部分は細いってことらしい。

うーん、俺のは肘から剣先までが、全部同じ太さだしな。

確かにそう言われると、集束効率が悪いような気がする。

ガントレットのイメージが、出発点だったからな。


俺は霊波の集中具合を調整し、シロの思い描くそれに近づくように、霊波刀を構成する。

元々、俺は出力こそ低いものの、色々といじくるのは得意だったしな。

これもよく考えてみると、集束させることが割りと上手かったって事なんだろうなぁ。


「――――――っと、こんな感じか?」


手首からすらりと伸びた刀を、俺はシロに見せる。

無駄がなくなった分、刃は長くなったな。刃渡りは1mってとこか?

上手く調節すりゃ、もっと長くしたり短くしたり出来そうだな。

戦闘中だと、そこまで気が回らないだろーけど。

あー、でも、戦闘中に得物の長さが変わるって、いいな。

『行くぜ、全力っ! 斬艦モォォオド!』とか言って、すんげぇ長くしたりとか。


「おぉ、そうでござる! こんな感じでござるよ」

「割と上手く出来たな。満足満足」


とは言え、これだけじゃ、まだあいつには勝てそうにもない。

むしろはっきり言えば、まともな勝負にすら、なりそうもないんだよな。

サスマタが霊波刀に変わっただけだし……。

武器をふっ飛ばされて、無手にならないだけマシって感じか?


「横島殿は、どのくらい修行したんでござるか?」

「ん? あぁ、昨日の夜、寝てから夢の中で特訓した」

「…………は?」

「昨日、負けたって言っただろ? んで、夜中に夢の中で頑張ってみた」

「そ、そんなことが!? すごいでござる!」

「ふっ。何しろ俺は天才だしな」


ぶっちゃけ、メドーサさんが来てくれたおかげだけどなー。


「すご過ぎるでござるよ!」

「はーっはっは、だろ? だろ?」


キラキラした瞳で俺を見るシロに気分がよくなった俺は、ちょっと調子に乗ってみた。

そもそも天才で無敵に素敵なら、最初から負けないだろーとか、そう言うことを気にしてはいけない。

いいじゃん。負けたからって、いつまでも落ち込んでてもしゃーないし。

ここは一つ、ちょっといい気分になりつつ、修行に頑張った方がいいだろ?

怒りのスーパーモードは通用しないって、不敗な先生も言ってたし。


「横島殿! 拙者を弟子にしてくだされ!」

「…………………はい?」

「父上を斬った犬飼に、拙者もせめて一太刀、浴びせたいのでござる!」

「いや、えーっと………………ごめんなさい」

「えぇ!? 何故でござる!?」

「俺は俺の修行に忙しいし、シロに教えてる時間は取れないんだよ」

「見取り稽古でもよいでござるから! たまに教えてくれるだけでも! あるいは、手取り足取りでも!」

「いや、それとなく要求が上がってるぞ、おい!?」


えーっと、そんなこんなで。

犬塚シロ。横島忠夫の弟子1号がここに誕生した。

今日をどうするかとか、まだあんまり話し合いは進んでないのに……。

何だか、無駄な苦労だけ背負い込んだ気がする。何やってんだ、俺は……。


むしろ、俺が教えて欲しいことだらけだってのに、この先どうすれば?

くっ、調子に乗った俺の阿呆!

胸中でそう呟いてみるけれど、現状は何も変わらない。


「せんせー! ふつつかな弟子でござるが、よろしくお願いするでござるよ!」


改めてそう頭を下げてくるシロが、何だかやけに輝いて見えた。


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