十一話





アシュの野郎が“報告は可能な限り、事細かに行ってくれたまえ”なんて言ってきたので、

今日からT観察日記をつける事にした。Tってのは、もちろんタダオって意味だ。

自分の名前を何度も書くのもおかしな気分なので、書くときは観察対象Tってことにしたわけだ。

自分をストーキングしつつ、その行動を列挙するってのも、なんだかなぁ……。

眺めてるだけでも、十分変なのに。


それはまー、それとして。

観察対象をボコボコにして、修行法伝授の夢を見せてから、まだ一日しか経ってないし、

実質的に修行開始直後から、この観察日記はつけられてるってことだよな。


正直に言って、アシュの注文はナイスタイミングだった。

まるで俺がテキトーな報告しか寄越さない事を、見越していたかのようだ。

まぁ、言われんかったら『まだ覚えんわー』の一言しか、言うつもりはなかったけどな。


そんなこんなで、観察1日目。観察対象Tが、起床。時刻は5時半。

俺が目覚まし時計をこっそりといじくったので、予定よりかなり早い起床だった。

本人は目を白黒させていた。イタズラ成功なわけだが……感想としては、微妙だ。

西条か雪之丞なら、混乱する姿に笑えたんだろうが、過去の俺だしなぁ。

不思議そうにしてる顔を見ても、あんまり楽しくないっつーか、むしろ空しい。

気配を殺し、安アパートの天井にひっそり忍びながら、こんなことを書いているのも、かなり空しい。


観察対象T、起き抜けに霊波刀を発現。

夢で垂眠学習をさせたとは言え、かなりあっさりだった。

まぁ、俺も栄光の手に目覚めた時は、いきなりだったしな。

何かの切欠があれば、ぽんっと目覚めるもんなんだろう。多分。

このまま文珠にも、出来ることならあっさり目覚めて欲しい。俺は早く、元の時代に帰りたい。切実だ。


観察対象T、朝食を取る。内容は白米。梅干。鮭フレーク。お茶。

意外とまともな飯であることに、かなりびっくりだ。

食材がある時点で、びっくりだ。愛子やメドーサがいたせいか?

少なくとも、一人暮らし中だった頃、俺は朝から白米なんて食ってないぞ。

前の日におキヌちゃんが来て、飯を作ってくれていたと言う例外がない限り、な。

まぁ、作るのが面倒って言う事は元より、金もなかったわけだが。可依相な俺。

ちなみに俺の朝飯は……今日は抜きだ。食い物は持ってきてないしな。明日から気をつけよう。


観察対象T、人狼少女Sと会話しつつ、朝食を終了。

経緯に微妙な差はあるが、結果的に人狼少女Sが、観察対象Tに弟子入り。

――――――んで、本日の予定は、白竜会道場で修業だそうだ。

ついでに狼王の件については、GS美神に連絡するとのこと。


…………書いてて、何か違和感あるな。いいや、シロはシロで。

アルファベッドとか、固い表記にするのは、観察対象Tだけでいいな。

まぁ、この観察対象Tってのも、結構書くのが面倒なんだが。漢字4文字だし。

もうただのTでいいな、Tで。うむ、楽だ。


……そしてTは、除霊事務所やらコンビニに寄りつつ、白竜会に到着。

ついでに、俺もコンビニで朝飯兼昼飯……ブランチを購入。

かなりどうでもいいことなんだが、品揃えが微妙に懐かしかった。


T、道場の奥へと移動。ちなみに俺が白竜会に足を踏み入れたのは、今日が初めてだ。

ぱっと見、ごく普通の―――あるいは、それよりちょい上の―――武術道場って感じだな。

多少、あちこちから力の気配を感じる辺りが、一般道場じゃない証拠か。


T、道場の特別区画とやらで結界を張り、修行開始。

こっちもそれに合わせて、援護開始。

区画の四隅に『加』『速』『空』『間』を設置し、発動。

自分は近場に身を隠しつつ、その加速状態の維持と持続って事で、

『持』を手に、精神集中を続ける。ぶっちゃけ、2文字使った方がいいんだろうが、

今後のことも考えて、出来るだけ文珠は節約するべきだと思うわけだ。

込める文字も大事だが、何より本人のイメージが大切なわけで。まぁ、これでいけるだろう。


俺の頑張りは功を奏したようで、Tは夕方まで快適に修行が出来たようだ。

ある少女曰く『はぅぅ……長い一日でござった。1ヶ月くらい、こもった気がするでござる』

そう言ってくれると、嬉しい限りだ。まぁ、さすがに1ヶ月分も加速出来たとは思わんけど。

こっちも3回のトイレ休憩以外、壁に張り付いて神経を張ったままだった。

疲れた。何気に俺の修行にもなってる?


明日もここで修行ってんなら、何かペットボトルとポテチでも用意しないとな……。

神経を張るんで、暇とか退屈だとかは思わんが、補給が得られんのはけっこう辛い。


修行途中、Tが偶痴る。俺との戦闘を思い出していたらしい。

曰く『骨を折り砕いたつもりだったんだけど……理不尽すぎるぞ……』

T的には、俺のタフネスさは反則の領域らしい。反則って思われてもなぁ。

この微妙に素敵で無敵なタフさは、横島の男子の固有スキルといってもいいと思うんだが?

Tは経験が浅いせいか、どうやらまだ横島の血に目覚めてないっぽい。

俺はこの頃、すでに目覚めてたような気がするんだがなぁ。

半殺し、瞬時に回復、横島家―――なんてな。俺も親父も、ボコられても元気いっぱいさー。


そう言えば、そうだったな。この世界の横島忠夫は、俺とは少し違う道を歩んできたらしいしな。

何しろ、Tことこっちの横島忠夫は、美神所霊事務所に入って、まだ一年も経ってない。

つまり、令子にフルでボッコボッコにされた回数が、1日1回としても365回未満なわけだ。

ついでに仕事で無茶な任務を任されたりする事も、まだまだ大した回数になってないんだろう。

つーか、かなりの回数をこなしていたら、自動的に身につくしな。タフさは。

このタフさがないと、まともに覗きも出来んような鉄壁具合だしな、美神令子って女は。


あれか? 白竜会道場で修業したこっちの横島忠夫は、いわば温室育ち?

んで、美神所霊事務所でアシスタントした俺は、無茶なまでにしぶとい雑草野郎?

あー……そういや、老師も言ってたっけ。令子にシバかれる俺を見やりつつ、

『なんじゃあれは? ワシの修行より厳しいぞ?』とか、なんとか……。

ハヌマンの修行より辛い日常生活って、何やねん? 日々が戦場ってやつか?

何か、自分と少し違う道を辿る自分を見て、今さらながらに色々と考えさせられたぞ?


こっちの俺は、メドーサにちょっかいを出してたんだよな?

数日観察しただけだけど、メドーサは別に殴ってそれを止めさせようとかしてなかったな。

大人の女の余裕ってやつか? 令子にも、俺にセクハラに対して、そのくらいの度量を見せて欲しかったぞ。

いや――――――って言うか、ちょっと待てよ?

メドーサ本人が性的な嫌がらせだって認識してないなら、こっちの俺はセクハラ野郎じゃないって事か?

…………くっ、なんだか、とっても、どちくしょうっ……。


漢和休題。それはともかく。


T、GS犬と接触後、入浴。その折に色々とあったが、ここでは省略する。別にいいだろ? 俺が書きたくない。

まぁ、文珠獲得に至るには、別段何ら関係のない出来事なんで……気にするな、アシュ。俺も気にしない。

あと、GS犬マーロウは、T……つーか、シロ? からの情報を受けた令子さんが手配したようだ。

Tが眠ったのを確認後、事務所の様子を伺いに行ってみたんだが、狼王対策会議中だった。

マーロウは元より、神父と冥子ちゃんの姿もあった。

エミさんがいないのは、やっぱり仲が悪いからか? カオスは……電話代が払えずに、連絡がつかなかったとかか?

とにかく、対策を検討中らしい。実際に被害は出てないんで、具体案はなかなかまとまらなかったようだが。


そんなこんなな一日だった。今日も夢を見せるべきかと思ったが、休息は必要ってことで、やっぱ止めとく。

ちゃんとした垂眠で精神が休まらんと、霊能力にも悪影響が出るかもしれんしな。

あと本音を言うと、めんどい。ついでに眠い。さすがに俺も疲労が溜まってるんだよな。

昨夜はエネルギー補給のために歓楽街に行ったんで、あんま寝てないし……マジで睡眠不足だ。


――――――本日の成果。


T、朝から霊波刀をマスター。そして文珠もどきを作成。しかし、破烈。

固定化した霊力の塊をそのままに珠として安定させる事が、今後の課題となりそうだ。

キーワードにより、一定方向のベクトルを与えて効果を発現ってのは、その次のステップだ。

今日の感触を元に、明日はどこまで行けることやら。

正直、分からん。でも、近いうちに何とかなるだろ。うん。


――――――今日の観察報告は以上だ。もう寝る。さらばー。




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報告、ありがとう。少々脱線気味な箇所もあったが、おおむね問題はない。
独自の、極めて個性的な見解もあり、こちらとしても楽しく読ませてもらった。
今後も彼の育成と補助に励み、そしてその報告は詳細に行うようにしてもらいたい。

なお、誤字が見受けられたので、こちらで添削しておくことにする。
別に無理をして難解な漢字や表現を使用する必要はないので、留意してもらいたい。
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漢字を多用すると言える文珠使いが、誤字を指摘されるって、どうよ?

しかもその相手は、魔王が人の皮をかぶった、非常にムカつくイケメンだったりする。

心の底から悔しいので、今後はこういうことがないように、軽く書き取りなんかしてみることにする。

ついでに、アシュの野郎に報告を送る前に、今度からは辞書でささっとチェックしよう。


睡眠、睡眠、睡眠、睡眠、睡眠、睡眠……。

可哀相、可哀相、可哀相、可哀相……。

愚痴、愚痴、愚痴、愚痴、愚痴、愚痴……。

閑話休題、閑話休題、閑話休題、閑話休題……。

破裂、破裂、破裂、破裂、破裂、破裂……。


……というわけで、あてつけがましく報告書の裏に書き取り練習をしてから、

今日の報告を開始することにする。


――――――観察2日目。昨日の風呂に引き続き、Tのロリ疑惑払拭から一日が始まる。

シロがその幼さからか、夜中の内にTの布団に侵入したせいだ。気配に気づかんとは、未熟者め!

俺だったら…………いや、どうだろう? 気づくかどうかは、五分五分か?


Tの尽力により、周囲の目に一定の温度が戻ってから、朝食。

T、本格的な活動を前に、すでにそこそこ精神的に疲労してたり。


体力作り的な基礎トレーニングを、道場の仲間と済ましてから、

Tとシロは昨日に引き続いて、特別区画での修行に励むことに。

修行前のTの真剣な表情を見てか、周囲のからかいは引いた事をここに記しておく。ちっ。

俺なんて、真面目に修行したいって言ったら、釜茹でにされかけた記憶があるぞ? 何だ、この差は?


なんだか納得のいかないものを感じつつも、Tの修行場所に『加』『速』『空』『間』を形成。

『持』なしでしばらく放置しておいても、一応はOKなはずなので、今のうちに所用を済ませる。

まず、出勤前に―――ちなみの俺は4時起き――――購入しておいたコンビニ弁当で、朝食を済ませる。

文珠の具合を見計らいつつ、一っ走り本屋に向かって、辞書を購入。

コンビニには置いてなかったんでな。開店を待ってたんだ。

買ってから、報告書を自筆じゃなくて、PCか何かですればいいことを思いつく。

今度、アシュにPCを強請ろうと思う。


俺、帰還。本屋から。文珠はまだ効果が続いていた。

Tの修行には、目に見える進行がなかった。作っては壊し、作っては壊し。つまり失敗。

珠状態での維持が出来んことには、次のステップにゃ進めんのだがなー……。

って言うか、今さらながらに言うけど、Tがここで修行してるのは、一応俺対策らしい。

どこからともなく、俺が修行風景を見ているかもしれない。つまり、自分の現在の実力が駄々漏れだ。

しかし、この区画は結界が張られているから、そう簡単に情報も流出しまいっ! ってわけだ。

うん、無駄だ。俺はしっかりと見守っているぞ。って言うか、取り憑いた霊のように傍にいるぞー。

情報も何も、日常生活からして、全部駄々漏れだ。頼むから、今だけは自家発電とかせんでくれ。

さすがに昔の自分のそーゆー姿は見たくない。ある意味、対タダスケの最高率精神攻撃だな?

まぁ、道場の皆さんやらシロがいる以上、そんな暇もないだろーけどな。


修行に進展がないまま、時間が過ぎていく。昨日一日で、何となく加速空間の維持に必要な

力加減つーか、集中加減というか、制御加減みたいなものが分かったので、俺は少しだけ退屈だ。

昨日一日は、延々神経を張ってたわけだが、今日は時々だけど力を抜いてる。


……つーか、Tの修行風景を観察してるだけってわけにも行かないんだよな、俺。

加速空間展開を維持のために、文珠が見る見る減ってるし。

これじゃ、どんだけ頑張って作っても、補給が追いつかん。

つーか、そもそも今の俺じゃ、大した量を作れるわけでもないし。

考えてもみろよ? 日中は加速空間の維持と、Tの観察に神経を使ってるんだぞ?

Tが寝た後に、文珠補給のために精神集中しようにも、もうヘロヘロだ。余裕なんてない。


そんなわけで、ちょっとリフレッシュに行くことにする。今の俺には休息が必要なんだ。

俺は壁際に『維』『持』の文珠を置いて、正午過ぎから午後6時まで、ちょっと出かけた。

まぁ、あれだ。色々遊んだり、昼寝したりだ。人間、こういう時間が必要なわけだ。


――――――んで、正直に謝る。帰ってきたら、何かTがすっげー喜んでた。

曰く『これでどうにかなりそうだ! いけるぞ、多分!』とか、なんだとか。

いや、すまん。まさか俺のいない数時間で、文珠を獲得するなんて……予想外だ。

と言うか、文珠に至るその瞬間を、思いっきり見逃してしまった。

セミの幼虫をじぃ〜……と見てて、成虫になる直前で睡魔に負けて、眠りこけたような?

観察者としてそれはどうよ? って、さすがに思うわけで、謝っとく。すんまそん。いや、マジで。


言い訳になるが、俺としてはあと数日はかかると思ってたんだ。

そのくらい、見てても修行の手ごたえってモンが、感じられなかったんだ。

つーか、こういうのはお約束として、生きるか死ぬかの瀬戸際じゃないと、開花しないんじゃ……?

なんで普通に修行で開眼してるんだ、この横島忠夫は? 俺としても意味分からん。

そんなわけで、俺は悪くないって事でファイナルアンサーでOKだよな?


――――――いつまでも言い訳を書いててもしょうがないんで、本筋の観察報告に戻る。


Tはすぐに俺に再戦を申し込んでくる……かと思ったが、そこは結構慎重だった。

文珠に目覚めても、その使用法の経験値は俺の方が高いから、それを補う手段がいる、と。

さし当たって罠を仕掛けたいって考えてるみたいだが、どうする気だ?

令子の武器庫から、爆薬やら何やらの物騒なものを無断で拝借するか?

それとも、俺ですら思いつかない奇策を用意するか……。

自分で言うのもなんだが、何するか分からんのが『横島』だからなぁ。

まぁ、気をつけようと思う。さすがに、ここで負けたら洒落にならん。

今まで続けた修行が何だったんだって話になるしな。



――――――本日の成果。


T、文珠をマスター……した? 多分、した……と思われる?

いや、俺も見てないんで、断言は出来ん。でも、とにかく自信のある顔はしてたな。

今夜はゆっくり休む & 俺に対する対策検討で、明日から具体的な動きに出る……か?

もうちょい修行は続けたいだろうが、一応メドーサと愛子の身柄がかかってるんだし、

文珠が使用できるって段階になった以上、あんまり時間はかけないと思われる。多分。

明日か、明後日。遅くとも3日後には、決闘になるだろう……と、思う。


――――――今日の観察報告は以上だ。いや、今日はマジすまんかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




俺は白竜会内の長屋じみた棟にある一室――――――その天井裏で、報告書をまとめていた。

器用に気配を殺し、階下にいる観察対象Tを探りながら……である。Tが俺に気づく気配は、これっぽっちもない。

まったく、こんなものでは令子のシャワールームは程遠いぞ? なんだ? あれか? メドーサと愛子がいるから、

そんな危険な隠密接敵と潜入活動は、こっちの俺には必要ないって事か? うん? そう考えると、それはそれでムカつくな。


「――――――っ!? 何だ? 今、何かすごいプレッシャーが!?」


どうやら俺の嫉妬混じりの怒気が少し漏れたらしく、眼下ではTが戸惑っている。

まずいまずい。俺は慌てて、気配を消しなおす。


「……? 気のせいか? 結界にも異常はないみたいだし……」


しばらく息を殺していると、Tは頭をかきつつ、そう呟いた。

おーい、あんなちゃっちい結界を信用しすぎじゃないか、お前?

いや、まぁ、ここで思いっきり慎重に気配を探られて、バレても困るんだが。

安心からか、それとも呆れからか? 俺の口からは嘆息が漏れた。


なお、Tはせっせと何やら作業している。修行合間に作った霊符に、手を加えているらしい。

俺は陰陽道をそんなにまともに学んでないんで、よー分からん。手元もここからじゃ、よく見えんし。

霊気がどばどばと出てないところを見ると、自作の破魔札を鍛えて、その威力を上げてる……とかじゃないっぽいが。

まぁ、T製の攻撃系符なら、一喝するだけで防げるけどな。何てったって、地力が違うってもんだ。

元となる紙や何やら一式全てを最高品質にした上で、ギリギリまで霊力を込められれば、

さすがに俺としても、真面目に防御手段を考えにゃならんだろうけど……所詮、修行合間に作られた量産品だからな。

Tだって、俺の気をそらすためくらいにしか使えない事は、分かってるだろう。

……ん? となると、今やってる作業は、俺の気を引くための小細工か?

例えば、霊符の力を無理やり散らすと、ヌード写真が浮かび上がってくるとか? やばい、効果は技群だ!


(つーか、真面目な話……なんで文珠をストックしないんだ、コイツ?)


霊符をいじくり続けるTを見つつ、そんな疑問を浮かび上がらせる。

もしかして、やっぱりまだ文珠には目覚めてないとか?

俺に対抗する手段を、文珠以外で見つけたとか?

少なくとも、自棄になってる……って感じはせんしなぁ。

何かしら、掴んだはずなんだ。

まぁ、その辺は決闘を申し込まれてからのお楽しみってやつか。


何なら『過』『去』『視』で、サイコメトッってもいいんだけど……文珠が3つってのがなぁ。

3という個数もネックだし、もう集中力……正確には、本日のやる気……も、ゼロに近いしー。

『視』だけで過去を覗ければいいんだけど、それはさすがに無理だし。


つーか、油断しなけりゃ、何をされても負けるはずがないし。大丈夫だろ。

文珠マスターな俺とゆー存在は、すでに人界において敵はほぼナッシングなのだ。
(例外:オカン、美神家関連、六道家関連、その他もろもろ……あれ? 結構あるな)

俺を指先一つでダウンさせられそうな、万とか億とか言うふざけた単位のマイト数のやつらは、デタントで人界には来ないしなー。

あぁ、いや……一応、この時代には、該当するやつがいるけど、今は協力関係だからな。


さて、Tもそろそろ寝るみたいだし、俺も報告書をアシュんところに渡して、さっさと休むか。


俺は屋根裏でくるりと回転、体勢を立て直して、出口を目指す。

外の風は、どうやら強いらしく、俺の頭上……屋根を力強く撫で付けていく。

明日は雨か? なら、決闘日和じゃないな。

天気予報の一つも見てないって言うか、まともにTVも見とらんなぁ、俺。

よくよく考えると、今の時代なら過激な深夜番組があるんじゃないか?

俺のいた“向こう”だと、色々と規制が厳しくなったけど……今ならまだ、けっこう甘いはずだ。

あっ……でも、俺の時代に消えていったお色気タレントの“輝ける今”を見るのは、なんかすっげー寂しいものがあるような?


そんなことを考えた、その時だった。

階下のTの部屋の扉が、どばんっ! と、無遠慮に開け放たれた。喧しい入室者は、シロだった。


「センセー! 人狼の気配でござる! これは間違いなく……犬飼でござるっ!」

「な、なんだってー!?」


――――――どこのミステリーリポーターだ、お前?


「もう来たのか!? どこだ!?」 

「分からぬでござる。しかし風に乗って、かすかに奴の匂いするでござるよ!」

「もう都内に入ったって考えるべきってか? くそ、どーするよ。やっぱ、師匠たる美神さんに連絡か?」


現在は自分から連絡が取れないと言う制約があるので、ケータイをシロに渡そうとし、

その途中で『でも、俺のケータイからシロがかけたら、色々面倒か?』と、悩み出すT。

まぁ、『どうして横島クンのケータイから、アンタが電話をかけてくるの!?』ってなるよな、当然。

「拙者、必ず居場所を見つけてやるでござる!」

仕方なくケータイをその場に置き、Tがシロに視線を向け直すと――――――すでにそこには誰もいなかった。

Tがほんの少し目を離した隙に、シロは室外へと爆走していた。

昨日今日の鍛錬のおかげか、足音だけがやけに静かだった。

霊波刀を出すための集中が、身体の捌き方にも出てるんだろう。

どうでもいいけど、犬ってより、猪だな。猪突猛進だ。変わらないよなぁ、シロは。


「って、シロ! 先走るなっつーの!」


ようやく我に返ったTが、怒声を上げる。でも、もうシロには聞こえない。

つーか、聞こえていたとしても、多分止まらなかっただろう。

Tは舌打ちすると、先ほどまでいじっていた霊符をポケットに突っ込み、荷物からサスマタを取り出す。

そしてGジャンを羽織って、シロの後を追ったのだった。


「さて……俺も追わなきゃいかんよなぁ、やっぱ」


ぽつりと呟いて、俺もこそこそと移動を開始した。

なぁ、アシュ? 犬飼の動向は掴んでんだろ? ったく、ちゃんと連絡しろよな?

シロの鼻より知らせの遅い情報網とは、魔王のくせに……飛んだお笑い種ですわ!

どこか貴族風な口調で、俺はアシュのことを内心でこき下ろした。




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おまけ:後日、アシュ様が記した文章
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報告、ありがとう。まず、こちらからは謝罪しよう。犬飼の動向について、情報が遅れたことは申し訳なかった。
なお、該当時刻の犬飼は、こちらが危険領域と定めた都内近隣には、まだ到達していなかった。
当日は強風だったとは言え、感知出来たのは異常と言っていいだろう。人狼の超感覚というよりは、執念か。

さて、君は何か勘違いをしているようなのだが……
私が望むのは、あくまで“文珠をこちらの世界の君に教え込むこと”だ。
その獲得に至る経緯、決闘の勝敗などは、あまり重要視していない。
文珠と言う能力を獲得させてくれれば、何ら文句はないのだ。
まぁ、とは言え……報告内容に遺憾な箇所が多々あるのも事実だ。
以後、気をつけていただきたいものだ。もっとも、次の報告はもう必要ないだろうけれど。


一応、最後に言っておこう。バツグンとは、抜群と書く。
技群では、ワザグンとなる。以後、留意したまえ。
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