第二話


『このゴーストスイーパー美神が、極楽に逝かせて上げるわ!』



俺の城、狭く汚いアパートの一室に、麗しい女性の声が聞こえてくる。

TVの中で悪霊を払う美神というGSの姿は、彼女の名前のとおり、美しき神にも見える。

でもまぁ、あの格好で『イかせてあげる』なんて言われると、風俗みたいだよなぁ、と思ったりもする。

だってさ、ボディコンですよ? 

悪霊騒動解決ってニュースでの一幕じゃなかったら、絶対勘違いするね!



でも、いいなぁ、GS美神。すっげぇきれー。胸も大きいし、ああ、いいなぁ。

あんだけ体を露出させてるってことは、キスマーク隠す必要がないってことで、

マークされてないってことは、特定のお付き合いしている人がいないってことだよな? そーだよな?



俺よりちょい年上って感じだし。ハァハァ……って、いかんいかん。

当初の目的を忘れてる! 

あぶねー、さすがGS美神。危うくドコカに逝かさせるところだった。

気がつけば、天国?



えーっと、そうそう。

当初の目的は、GSという存在についての勉強だった! 

GS美神の身体観察じゃなかとですよ!



「悪霊を、悪魔を……人に害なす存在を祓う。それがGS、か」



俺は放課後、メドーサさんと話したときのことを思い出した。



メドーサさんか。

よーく見ると、ちょっと年増っぽい顔立ちなんだけどなぁ。

でも胸がなぁ。全然垂れてないし、ぽよぽよとしてるし、あの感触も……。

やっぱ、そこに惹かれたんかなぁ……って、違う! そこじゃないつーの!



俺は雑念を払って、もう一度メドーサさんとの話を思い出した。

俺から雑念が払ったら、何が残るんだろう。

そんな思いがふと浮かんだか、考えると悲しいことになりそうなので、それは無視した。






          第2話   横島クン、決意する






えーっと。そう。メドーサさんの柔らかな手を引いて、近くの喫茶店になだれ込んで。

ちょっとかっこつけて、コーヒーをブラックで頼んで。

その苦さから、顔をしかめたあたりで話がどんどん進んでいったんだよな。



「魔族っすか?」

「そうさ。私は一般的にそう呼ばれている存在だ」

「外人さんじゃなかったんすか。つまり俺は魔性の美しさに惹かれたったわけですね!」



実際、最初に目が言ったのはその胸であり、顔はさらに太ももの次だったのだが、俺はそう呟く。

まぁ、姿態も美しさのひとつだし、顔が全部じゃないしな。

……あ、でも、顔がよければ微乳でも萌えるしなぁ。難しい。

顔がなんと言うか、かなり奇抜な構成で、んで胸だけ大きくても、俺の心は熱くなんないし。

そんな風に悩んでいると、メドーサさんは俺に苦笑を漏らした。


曰く、俺は珍しい存在らしい。


普通、魔族というと恐れたり罵倒を浴びせるのが普通であるそうだ。

確かに目の前にいるのが、腐ったゾンビだったらそうするだろうけれど、

美しいメドーサさんに、そんなことできるわけないっす。

ちゅーか、美しくない口裂け女でも場合によっては可!

口裂け女は実は超絶美少女で、イヌ神憑きになった結果だって、ドコカの地獄先生も言っていたし!

……本物の魔族女性を前にして、漫画の知識を振りかざすっちゅーのも、何やけどね。


そう俺は言うと、メドーサさんは笑いを大きいものにした。


「ヨコシマの意見は置いておいてだ。私ら魔族ってのは、人間界じゃ嫌われもんさ」


まぁ、RPGなんかでも、お決まりの定番の王道の敵ですしね。

悪しき魔王討伐に立ち向かう勇者。

で、そのたびの道中に出てくるのは魔物。

人間で、勇者の邪魔する存在は基本的に出ないし。


メドーサさん自身、危険な存在としてGSの協会などからも指名手配をされているらしい。

何をしたからか、ではなく、その存在自体が邪悪だから、だそうだ。

たとえば、今ここに神がいて、

メドーサさんの姿を見たなら、いきなり斬りかかってくることも考えられるそうだ。


「私がここでこうして存在していること自体、悪なのさ。
 
 私を殺して、魔界に再び落とすことに、いちいち理由なんて要らないのさ」

「なんでっすか?」

「私が魔族だからだ」

「それって差別じゃないすか?」

「そう思うだろう? そして私が殺されないよう、

 自分の身を守って襲ってきたGSを倒せば、また危険な存在として人々から嫌われるのさ」

「悪循環すねぇ」

「私はその循環から抜け出そうと考えている。手伝ってくれるか?」

「報酬はメドーサさんの体で払ってください!」


喫茶店であることを忘れ、俺はその場でメドーサさんに襲い掛かった。

いや、自分でも何やってるんだって思うんですが、こればっかりは魂の所業なんで!


『手伝ってくれるか?』と、微笑み混じりで首をかしげたメドーサさんが可愛すぎるんすよ!

きりっとした出来る女、という身にまとう空気と、その動きのギャップといったら、もう!


俺は何をどうやったのか、テーブルを一瞬で飛び越え、向かいに座るメドーサさんにダイブする。

時々、俺ってすごいよなぁ。

自分の行動能力に、胸中でのんきにそう思う。


「悪いけれど、前払いは嫌いでね」


宙を泳ぐ俺に、メドーサさんはポツリと呟く。

すると彼女の髪の一部が蛇の形をとり、俺の体を地面へと叩き落した。

さらにその蛇は大きく口を開け、俺の頭を丸呑みにした。

……ああ、蛇の口の関節ってすごいなぁ。マジで全部飲まれてますぞ?


あ、でもこれって、ある意味メドーサさんの体に入ったってこと? 上の口とは違う口ですか!

いやぁ、でも下の口でもないしなぁ。


(っ! んなこと考えてる場合者ない! これマジやばい!)


ぬめぬめした肉壁の締め付けが! ああ! 

俺の体をあまねくしごいて、さらには包み込みますよ! はふ!


…………って、苦しい! 息できへんがな! 

てか、全身の血管が圧迫されるぅぅ! いや、血が、チガァ!


エロティックなようで、実はかなりの危険状態!

横島忠夫、活動限界まで、残り00:00:12秒!


「がはっ! けほ、こほ!」


数十秒間、へびの体内に飲み込まれた俺だったが、消化される前に何とか解放された。

蛇の口から漏れる粘液で少し汚れた床の上に、腰から無様に落下する。

ぼすんっ、べちゃぁ…というくぐもった音が、蛇の体液に湿る俺の耳にも聞こえた。


「いっつ〜!」

「すぐに飛び掛る自分を自重するんだね」

「う、うぃ〜っす……あれ?」


かなり騒いだにもかかわらず、店内の人々は俺にまったく注意を払わなかった。


「? 何なんだ? なんか空気がおかしい?」


首をかしげていると、メドーサさんが笑う。

いや正しくは嘲笑する、かな。

何か、呆れられたらしい。

まぁ、俺自身も自分に呆れることが、ないわけじゃないっすけどね。


「結界も張らずに、こんなことをするはずがないだろう?」

「結界?」

「私の領域だ。この中にいる以上、外の人間には中のことを気づかれない」

「それってつまり……」

「そう、私がここでヨコシマを殺しても、誰にも気づか……」

「ここでHしてもOKってことっすね! 

 これはもうカモ〜ンって言う意思表示? 横島忠夫、今参ります!」

「ええいっ! ちょっとは懲りろ! 人の話も聞け!」

「ひぎゃぁぁぁっ!」


何か、四肢を石にされました。すぐ解放されたけれど、むっさビビリました。

だって、動かんのですよ、手足が。

メドーサさんは視線と自分の召喚する蛇で、相手を石化することができるそうです。

そういえば、確か鏡で反射した姿を見ながら戦うんだっけ? RPGとかだと。

そう、銀の盾とかなんか、そんな感じの。

うん、その方法は正しいと思います。

直視は即死につながります。全身を石にされたら、動けないしな。


「つまり、襲うなら目隠しを持って、背後からと。ああ! でもバックじゃ胸が見えん!」

「やかましい。お前、もう黙れ」

「うい」


マジで睨まれたので、さすがに俺も大人しくなりました。

いいさ、機会は次もある。今は雌伏の時さ!


「……どこまで話したか……。ああ、あんたに仕事を手伝ってもらう」

「うぃ」

「簡単に言えば、GSの妨害だ。

 明らかに人間の一方的な都合で滅せられようとしている霊の保護、とでも言えばいいか」


基本的にGSは、自分から除霊に赴くことはないらしい。

企業やら何やらが、自分の確保した土地などの中に霊障害を見つけ、それを取り除くためにGSに依頼する。

そこからGSは行動を開始し、契約要綱にしたがって、霊を排除するのだ。


「なんか、無作為な開発で山を追われる動物の保護みたいっすね」


今まで山奥にいた人畜無害の霊や妖怪も、人が入ってくると動き出すわけで。

動き出すと、無害じゃなくて有害になるわけで。

そうなると、問答無用で消滅させられるわけで。

多摩丘陵を舞台にした、平成何とか合戦って言うアニメみたいだな。

あれは確か、化ける狸とか狐だったっけ?


「そういう見方もできるさ」

「……っでも、俺じゃGSの妨害なんてムリっす。手も足も出ませんもん」


TVなどで見るGSの活躍は、それこそ人外の動きだ。

だって、ただの紙切れの札が爆発するんだぜ? 

さすがに邪魔するのは無理ってもんです。

ヘルメットとたすきを装着し、メガホンを持って、

『私は〜! GSの横暴な霊の排除に〜! 断固抗議する〜!』などという、

そんな自分の姿を想像してみる。

結果。お札一枚の爆発で、宙を舞う自分の姿が見えました。

うん、やっぱり邪魔なんてできんよなぁ。


「ヨコシマ。お前はやれば出来る男だと思っている」

「へ?」

「私はお前に期待しているよ」


メドーサさんは懐から一枚の紙を取り出した。

それは地図で、白竜会とか言う道場への行き方が書いてあった。


「そこで強くなって、私を補佐してくれるとうれしいね」

「いや、俺は貧乏なんで、こういう習い事は……」

「金は要らないよ。私の仕事の前準備なんだ。
 
 そこで訓練する時間に応じて、報酬を払おう」

「マジっすか!?」

「私が嘘を言うと?」


俺は首を大きく横に振った。でも、正直に言うと、ちょっと信じられなかった。

だっておい、これってあれじゃん。防衛大学に行くようなもんじゃん。

強くなることが仕事で、道場に通う金は要らなくて、通えば通うほどお金がもらえる。

なんてこった。俺すごい期待されてない?

やっぱ、メドーサさんとの出会いは運命的な何かっすか? 

明日からは、これまでとは大きく違う生活が広がっている気がする。

俺がこれまで、ここまで期待されたことが、あっただろうか!?


「GSから霊を保護するには、力が必要だ。

 お前の潜在能力はすごいものだと思っている。頼むぞ」

「うぃっす!」

「時給は……そうだな。1000円でどうだ?」

「そ、そんなにもらえるんですか!?」


思わず俺は敬語で叫んだ。

学校が4時に終わって、それから道場で3時間ほど訓練する。

で、いろいろあって9時に帰ってくる生活をしたとしよう。

となると、一日3000円で、つまりそれって、一ヶ月で……おいおい、9万円っすか?

え、これ俺が払うべき、道場の月謝の額じゃないっすよね?

これ、払うんじゃなくて、もらえるんですよね?


「こ、これで明日からまともなご飯が食べられる!」

「…………いったい、普段は何を食べてるんだい、あんた」

「いや、今日なんて朝、昼と菓子パン1個ずつだったり!」

「そ、そうかい。まぁ、何にしろ……」


メドーサさんはそこで言葉を切ると、

席から立ち上がり、俺を背中から抱きしめる。

ああ、胸が背中に、背中に、せなかにぃぃっ! 

きゅいぃぃぃぃん!(意味不明)

さらに熱い息が耳にかかる。かかってる! 

いや、マジで! ゾクゾクきます!

にょおぉぉぉぉん!(意味不明)


「私を守るくらい、強くなっておくれよ? 私は強い魔族だが、一人で頑張るのは寂しくてね」

「はいっ! 粉骨砕身、ガンバルッス!」

「ふふ、期待しているよ」


いつだったか、漢字の小テストで答えられなかった四文字熟語が、すらすらと出た。


こういうわけで、俺はメドーサさんの部下となり、

霊能力に目覚めるため一夜努力し、立派な『カウンターハンター』になるために頑張っている。

あ、ゴーストスイーパーにカウンターを食らわすから、カウンターハンターね? 

これ、俺の作った言葉。『メドーサさんの部下、横島参上』って言うのは情けないし、どうせならってことで。

まぁ、高らかに宣言することなんて、ないと思うけど。


でさ、最後に言っておくと、あれだ。

月9万円の報酬、とか考えてたんだけどさ。あれは大きな間違い。

だって、土日祝日はほとんど道場に行くだもん。ていうか、泊まり?

軽く2万4千円もらっちゃうんで、俺の生活は今、かなり潤っています。

ちなみに今日の夜ご飯はハンバーグだ! レトルトじゃなくて、ファミレスの!


「GS美神の色気など、おそるるに足らず!」


俺はTVに向かってほえた。(ちなみに買い換えた新型)

お金を貰って見境なく霊を払う女の色気なんかに、俺は迷いません。

うん、多分。さっきもギリギリ耐えたし。大丈夫……のはず。


霊に与えておく土地は今の日本にない。

まぁ、土地開発は時代とともに進むし、確かに一理あるさ。

でも、彼女だって、自分の家のお墓がゴルフ場になったら、絶対怒るはず。

『うちの祖先の霊が、そこにいたはずなんだ』とか言うはずなんだ。


意思のない災害としての霊は仕方ない。

意思がないって言うのは、すでに人格がないってことで、

人格がないってことは、それこそ魂のない、ただの残留物だろうし。

でも、メドーサさんとか、

あるいは話の通じる霊を無理やり払うのはやりすぎ。

それ、人の都合。


GS美神がメドーサさんのことを知ったら、やっぱり賞金欲しさに襲いに来るのか?

だったら、俺はそれを打ち払うくらいに強くなって見せる。


俺はカウンターハンター……の、卵。

いつか、メドーサさんを超え、あの人を守る存在になるさ。


さしあたって、頑張るために胸もませてくれないかなぁぁ、とか思いつつ、今日は寝ることにします。

おやすみなさい〜。






追伸。

その日は、なぜか俺がGS美神に弟子入りしている夢を見ました。

TVに出てくるGS美神の印象が濃かったせいか、

ただ働きの上、肉の壁として弾除けに使われました。

マジで、むっさ悪夢でした。


……実物はどんな人なんだろう。今度一度あってみたいと思いました。

彼女だって命がけの仕事をしている以上、やっぱり信念持ってるはず。

いつか分かりあえたらいいなぁ、と思いました、以上!




次へ

トップへ
戻る



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送