第二話




私は魔力を隠す迷彩用のマントを風になびかせ、ある建物を見やっていた。

私が立っている場所は、名も知らぬ10階建てのビルの屋上だ。

だから、ここからならば、その建物を簡単に眼下に収めることが出来た。


私が見やっている建物とは、GS試験会場だ。

多くの人間が、わらわらと集まっている。

そのおぞましい光景を見ていると、

つい今ここで、霊波砲の1発でもぶち込んでやりたくなった。


そんな胸中に起こる感情を、私は無理矢理ねじ伏せる。

そんな下らない行動をわざわざ自身で起こさずとも、

後々、あそこは大きな破壊の渦に飲まれるのだ。


そう。メドーサと呼ばれる、魔族によって。


「本当にいいのか? デミアン」


会場を見やりつつ微笑を浮かべる私の周りを、小さなハエが飛んだ。

ハエの王の欠片……ベルゼブル。

そして今ここにいるのは、その欠片の欠片だった。


「いいも悪いも、すでに実行した後だ。後には引けないだろう?」


私はベルゼブルの言葉を、簡単に一蹴した。

そう、すべては実行した後なのだ。

口から出た言葉、すでに起こしてしまった行動……。

それらは、時間を撒き戻しでもしない限り、絶対に元の鞘に戻ることはない。


我々は2週間ほど前から、

メドーサの行動をうっすらとだが、神族に伝わるよう操作した。

後は神族の調査官が、勝手に推論を立て、上層部に報告するだろう。

そして上層部は人界に住む下級神族へ、こう言うのだ。


『GS試験に潜入しようとする、魔族を即刻滅せよ』


あるいは、もっと他の言葉かも知れない。

しかし、根本的に言いたいことはそこに集約されるはすだ。

私たちが流した情報とは、メドーサのGS協会乗っ取りの冒頭部分なのだから。

ベルゼブルは少々消極的だが、私はこの情報操作に積極的だ。


何故か?


もちろん、もともと私が考え出した策略だからであるし、

それに………この情報操作によって、メドーサが消えれば、

ボスの部下の中での地位は、私がトップとなるからだ。


メドーサと私は、あくまでも同格。

しかし、私は最近、あの女が目障りになった。

私が細々とした仕事をしている間に、

メドーサはどんどんと大きな仕事を軌道に乗せた。


実際、メドーサに任されている仕事は、多い。

今回のGS試験に潜入させる選手育成も、メドーサだ。

今後発動する、風水盤計画も、メドーサだ。

また来るべきときの駒を作り出すため、

人造魔族生産のラインを確保したのも、メドーサだ。

ああ、風水盤発動での実働要員であるゾンビ兵。

その生産の南部グループが行ったが、

そのゾンビ兵は予定よりも、かなり高性能なものが出来上がった。

実際に作り出したのは南部グループだが、

これもボスから見れば、メドーサの功績だ。


メドーサ、メドーサ、メドーサ。


鬱陶しいこと、この上ない。

しかも最近の奴は、何かにつけて

『横島、横島』と、自分の作品の強化に入れ込んでいる。


名目上、それはGS試験に受かるための特殊訓練だと言う。

特殊訓練である以上、任務のうち……つまり、どうしても外せない仕事だと言う。

そう言い、奴は私たちに細々とした仕事を押し付けるのだ。


そう、この私にだ! 何たる屈辱。


ここ1ヶ月では、どこぞのハエまでも、その風潮を受け入れている。

貴様はハエでも、一応は王だろうが! 例え欠片でも!

どんどんと功績を連ね、ボスから権限を貰い受ける蛇が、憎くないのか!?

権限を与えられると言うことは、

いづれ我々は、あの女に従う日が来るということだ。


ふざけるな。

だから私は、メドーサを排除するのだ。

何の問題もない。


すでに人造魔族の生産は軌道に乗っている。

メドーサがわざわざ折衝に赴く必要も、ほとんどないのだ。

後は、生産される商品を受け取るだけなのだからな。

風水盤にしてもそうだ。

実動員がいるならば、後はそれを使うものがあればいいのだ。

そして、それは別にメドーサである必要はない。

この私が、この智謀に長けた私が、直々に指揮を取ってやろう。


「しかし……お前の策では、今回のGS試験の件は、失敗することになるぞ?」

「かまわん。もとより、この作戦は目くらましでしかない」


私はしっかりと、ボスの言葉を覚えている。それこそ、一言一言に至るまでだ。

そんなボスの口ぶりからするに、ボスはあと数年で、何か大きな行動を起こすはずだ。

GS試験は成功しようとしまいと、

風水盤から……香港から、GS協会の目を逸らすことが出来る。

自国の中で、大きな魔族の動きがあったのだ。

数ヶ月は、国内の魔族に対する監視をことさら強めることだろう。

その数ヶ月があれば、十分なのだ。


また日本国内での騒動が起これば、近隣諸国の目も、しばしは日本に向くことになる。

そう。だからGS試験は、大いに失敗してくれれば、それでいいのだ。


「だが、しかし……」


「ベルゼブル、心配するな。

 私は……やると言ったら、必ずやって見せる」



メドーサ。お前は自分の背後にいるものを、信頼しすぎた。

私とハエを信用し、仕事を任せすぎた。情報に関しても、そうだ。

確かにお前と同格である私が、本気で機密漏洩を防ごうと動いたなら、

間抜けな神族どもに、今回の作戦は気づかれなかっただろう。


だが、しかし。

お前は失敗する。私の裏切りによって。

ボスには、上手く説明しておいてやる。


だから、安心して死ぬといい。










            第二話      一日目が終了した夜に……










「1次試験で不合格だったものは、除外してもいいでしょう」


真剣な表情の小竜姫さまが、まずそう発言する。

私はその言葉を受け、先生に尋ねた。

先生は、手にした書類に目を落としつつ、答える。


「先生も、試合は大体見ていたんでしょう?」

「ああ。一応、少しは目星をつけたよ」


テーブルの上には、乱雑に書類がばら撒かれていた。

それは今回のGS試験に参加した、GS候補たちの詳細なプロフィール。

私はそのうちの一枚をつまんで、眺めている。


「これは、特に怪しいところがないわね」


私は書類を右手から左手に持ち替え、空いた右手で、新しい書類を掴む。


いったい、私たちが何をしているのかと言えば……。

今日合格した受験生のプロフィールを見て、研修先や修行先を調べているの。

何らかの魔族が、GS協会に子飼いの候補を送り込もうとしている。

その情報を掴んだ小竜姫さまから、私と先生は、その阻止依頼を受けたのよ。


よくよく考えると、GS協会乗っ取りなんて、かなり大きい事件よね。

それに何で協力するのが、GS二人だけかというと、

この任務は、少数精鋭で行わなければならないから。

GS協会の最上部には通達が言っているらしいけど、

下級の職員にまで情報は流せないから。


情報を知るものが多ければ多いほど、

どこからか漏れたり、敵に察知されたりして、失敗しやすいでしょう?

最小限に情報の通達は控えて、こちらも秘密裏に、敵の尻尾を掴まなきゃね。

それに抜擢されたのが、私と先生と言うのは、

誇らしくもあり、同時にちょっと…………ね。

小竜姫さまには、修行場の修繕の後から、

厄介ごとを専門医扱う人間とか、そういう風に思われている気も………。


……えーっと。で、魔族がGS候補を育てているならば、

そこはかとなく怪しいと思える研修先に目星をつけ、

そこを直接調べに行けば、自ずと答えは見えてくるだろう……と言うわけ。


何事も巧妙に隠蔽してあるだろう。

でも、そこはプロGSの磨かれた霊感で、探し出すしかない。


にしても……他人の経歴など、

見ていてさほど面白いものでもない。

これなんて……大阪から東京に引っ越し、そして中学、高校を経て、今に至っている。

その高校も、聞いたこともないような公立高校だ。

つまりは『普通』の学校なんでしょうね。

高校生でGS試験を受ける……。

まぁ、ちょっと早い気がしないでもないけれど、おかしいと言うほどではない。

六道女学院に入学し、その途中で退学。

そしてGS試験を受けると言うパターンは、過去にも何件かあるはずだし。

まぁ、大体その場合は、家が何かの流派で、15歳だとか16歳だとかに、

何らかの儀式を受け、形式上は『一人前の社会人』になっちゃうんだけどね。


ふぅ……ったく。

私は書類仕事が好きじゃないというのに、

1次試験と第1試合に落ちた者は除外してあるとは言え、64枚もある。


さっさと書類を読んでいかなければ、

目当ての『当たり』を嗅ぎつける事は出来ないでしょうね。

こういう作業は、くじ引きのようなものなの。

その日の運がよければ、最初の一枚目に、霊感が反応するかも知れない。

もし運が悪ければ、最後の一枚まで、怪しいと思えるものに出会えない。

さて、今日はどっちかしら?


まぁ、先生と小竜姫さまもいるから、一人でやるよりは断然楽なのだけど。


…………うん? そう言えば小竜姫さまって、

今の人間のプロフィールを読んで、ちゃんと内容が分かるのかしら?

少なくとも学校名が理解できないと、学歴なんて本当に読むだけ無駄よね。

…………まぁ、GSに学歴は関係ないし、いいんだけど。


「あっ」


私は書類の中の一枚に、不審な点を見つけた。

年齢がなんと、703歳となって…………って、これ、ピートじゃない。


「まぁ、当然と言えば当然なんだろうけど、

 ピートもちゃんと合格できたのね」


「ん? ピートかい? ああ、なんとかね」

「なんとかって、先生。受かって当然でしょう?」


「……緊張でガチガチになっていたからね。

 試合中も、私は用があって応援できなかったから……」


「先生の声が聞こえなくて、ますます緊張したって言うこと?」


先生と私が苦笑すると、小竜姫さまが申し訳なさそうに言った。


「すみません、美神さん、唐巣さん。

 特に唐巣さんは、お弟子さんの成長を見ることも……」


「いえいえ。大丈夫ですよ、小竜姫さま」


謝る小竜姫さまに、先生は笑って答えた。

そして、机の下から何やらバッグを取り出した。

何だろうか? そう私が視線で問いかけると、先生はまたしても笑った。


「落ち着いてピートの試合が見れなかったからね。

 資料用の試合映像を、借りてきたのさ。まだ編集前のものだけれどね。

 何でも、一昨年からはDVDとか言うのになったらしくて、とても見やすいらしいよ」


そう言って、先生はデスクを2枚取り出した。

確かに、それなら試合中どんな動きをしていたかなどの確認は、

家でもちゃんと出来るわよね。

それに試合映像で、受験者に不審な点がないかを探すのも、いいかもしれない。


……にしても、よく借りてきたわよね、こんなもの。

まぁ、それほど厳重に保管するようなものでもないし、

案外簡単に借りれるのかしら?

借りようと思ったことがないから、その辺はよく分からないわね。

そう言えば、あの六道女学園でも、

こういった映像を、学校の授業で使ってたりするらしいけど……。


「…………それはいいけど、先生? どうやって見るつもりなの?」


私は半眼になりつつ、先生に尋ねる。


「? ビデオデッキでは、駄目な……ああ!」

「やっと気づいた?」

「そうだった! 我が教会のTVは、半年前から壊れていたのだった!」

「じゃなくて! DVDはDVDデッキじゃないと無理なのよ!」

「そうなのかい!? ビデオでは駄目なのかい?」

「と言うか、ビデオはあったの?」

「ああ。私は『帝国の逆襲』が大好きだからね」

「意外とSF好きなのね、先生って」


そんなどうでも言い話をしていると、小竜姫さまが手をあげた。

そしておずおずと、こう質問してくる。


「あの〜、まず、びでおって何ですか?」

「…………そう言えば、カラーTVに驚くレベルの人だったわね」


私は少し大きな声で、おキヌちゃんと呼んだ。

キッチンでお茶を新しく汲み直してくれていたおキヌちゃんは、

少しだけ慌ててこちらへとやってきた。

その手にはお盆が持たれ、3つのティーカップがあった。


「はい、何ですか、美神さん?」


「悪いけど、私がTVの用意をする間に、

 DVDについて説明しておいてくれない?」


「いいですけど、私そんなに詳しく知りませんよ?」

「一般レベルでいいのよ」

「はーい」


おキヌちゃんに二人を任せて、私は壁掛けTVの前に椅子を運んだ。

そして先生の持ってきたデスクを、デッキに挿入。

何なら、電気を消して、映画館よろしくな状態で見ようかしら?

小竜姫さまにも、『こんな感じが映画館』って、理解してもらえるでしょうし。


「……で、650nmの赤色レーザーを使用しています。

 そして最近では、次世代規格として策定された、

 より波長の短い青色レーザを使用した、Blu−ray規格なんかも……」


後ろを振り返ると、おキヌちゃんがやたらと専門的な説明をしていた。

先生は興味深そうに頷いていた。最近は凄いんだねぇ、とか何とか。

しかし、小竜姫さまは余計に混乱していたりする。

れーざー? れーざーって何……と言う感じ。


「幽霊に現代技術を学ぶ竜神と神父と言うのも、なんかアレね」


…………よくTVを見ているし、私よりワイドショーにも詳しかったりするし、

だから説明を頼んだのだけれど……あの子、いつの間にあんなに詳しくなったのかしら?

もしかして、私がずっと前の仕事で、パソコンの使用方法を教えたからかしら?

あの、銀行のローカルなネットへの不法侵入と、オンラインの不正取引が原因?


…………今度から、もっと色んな仕事をおキヌちゃんに頼めそうね。

結界さえ張っていなければ、

それこそどんなコンピューターの前にも、侵入できるし。

バレたらやばいけど、危ない橋を渡るだけのお金が……。


「美神さん?」

「はっ!? いや、何でもないのよ?」

「……?」

「あはは、じゃあ、見ましょうか!」


私はあからさまに焦りの笑いを浮かべつつ、3人を促した。

私、先生、小竜姫さまが腰掛け、おキヌちゃんは私の背後で浮かんでいる。


「じゃあ、まずピートの試合から見ましょうか?」

「長い巻き戻しがないというのは、便利だねぇ」


先生が何やらDVDに感動していた。

でも……多分先生の教会にDVDが配備されることは、当分ないだろう。


「先生、他に見たい試合はあります?」

「そうだねぇ。横島クンの試合が見てみたいかな。

 彼の試合は長引いたから、

 途中からは見たのだけれど、最初のほうは見ていなかったし」


「………………………横島って、あの横島さんですか?」

「へぇ、あのセクハラ小僧がねぇ。ちゃんと1次、受かってたんだ」


そう言えば、今さっき見ていたプロフィール。

何も感じないからあっさりスルーしちゃったけど、横島と書いてあった気もする。


「あ、ああ。彼も受かっていたよ」


小竜姫さまと私の底冷えのする声に、先生は顔に青く縦線を引いた。

そう言えば、小竜姫さまもあいつにセクハラされたのよね。


「先に横島さんの試合を見せて下さい! あの人の戦いに興味があります!」

 えぇ! 大いにありますとも!

 あのふざけた人が、どんな風に戦っていたのか、興味があります!」


おうおうおう! 手前ぇみてーな野郎が、ラーメンを作るだってぇ!?

こちとら、数百年以上ラーメンを作り続けてんだよ!

いいだろう! 貴様のラーメンとやら、この俺が味見してやる!

不味かったら、承知しねぇぞこらぁ!


…………そんな感じかしら?

ちなみに、ラーメンを格闘なんかにすると、比喩じゃなくなる感じ。

真面目な小竜姫さまにしてみれば、

横島クンの戦い如何では、文句でも言いに行くかもしれない。


『貴方はGS試験を……いえ! 戦いと言うものを、舐めているのですか!』とか……。


勝てば官軍。何をしようが、審判が認めて、そして勝った以上、

小竜姫さまに文句を言う権利なんてないのだけれど……真面目な人だからねぇ。


まぁ、私も全く興味がないわけじゃないし。

私に張り倒されて、そのまま沈黙してた横島クン。

あれから彼は、どのくらい強くなったのかしらね?

それに、霊能に目覚めたのは高校に入ってからだと言ってたし、

これでしっかりとGS資格を取得したら、ある意味最短で資格取得したことになるかも。


「じゃあ、横島クンの試合から再生するわよ?」


私は先生と小竜姫さま、

そしておキヌちゃんが頷くのを待って、リモコンを操作した。





      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「さて、第1次試験もつつがなく終了したところで…………

 まもなく、本年度GS資格取得試験の第1試合が始まろうとしております。

 実況は私、GS協会記録部広報課の枚方亮。解説に厄珍さんを迎えております」


「創業40年、何でもそろう厄珍堂! 受験生の皆さん、よろしくあるね〜」


「さて、選手が入場してきました。

 第1試合は128名によって、64試合が行われます。
 
 なお、試合の組み合わせは、審判長によってサイコロが振られる事で決定されます」


「あのサイコロはラプラスのサイコロ。

 運命を示すサイコロあるね。

 幸運を呼び込むも、貧乏くじを引くも、

 すべてはその人間……GSの力の一つあるね! 

 恨みっこなし、サイコロの出る目は、運命ある!」


「厄珍さん……」

「ん? ナニあるか?」


「そうやって最初からプロっぽくしていただければ、

 こうやって撮り直しする必要がなかったのですが?」


「うっ……。いやいや、あんたのほうこそ、

 そーゆーいらんこと言って、どうする気ね?」


「一言くらいなら、編集ですみますからね。

 冒頭全カットとは、比べる必要はないですよ。

 ……さぁ、何はともあれ、サイコロにより組み合わせは決定しました!

 厄珍さん、試合はすべて映像で記録されていますが……

 その中でも、どの試合が一番の注目でしょうか?」


「そうあるねぇ〜。見ていて面白そうなのは……

 あそこのバンダナの小僧かも知れんあるね〜」


「えーっと、横島忠夫選手と、蛮・玄人選手の試合ですね。

 ずばり、この試合の注目すべきところは、なんでしょうか?」


「1次試験の霊波測定でヨコシマと言う小僧は、一番ビリだったね!

 もう、数合わせて合格したレベルと言うか、

 他にいなかったから、仕方なく合格したと言うか……。

 もしあれが自身の力を抑えたものなら、奴は天才あるね!

 しかし、もしあれが全力だったら、今年度最弱のGS候補ある!

 その対戦相手は1次試験トップクラスの合格者。これは見物あるよ」


「詳しい解説、ありがとうございました!

 おおっと、そうこうしているうちに、試合用結界の展開が終了!

 さぁ、一体どうなるのでしょうか?

 審判が選手の間に立ち、いよいよ試合開始です!」




      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




俺はやかましい実況と解説の声を聞き流しつつ、試合用の結界の中に入る。

9番コートなんだけど……。

9と言うのは、いい数字なんだろうか。

苦労の9とか、苦しみの9とか……いい感じがしないなぁ。


いやいや。えーっと、確か中国ではいい数字だったはず。

1、3、5、7、9……奇数は『割り』『切れない』数だから、縁起がいいんだと。

夫婦間に関係することなんかは、特に奇数が好まれたり。

そりゃ、夫婦は『割れ』たり、『切れ』たりしたら、大変だしな。


で、奇数の中でも、もっとも大きな数字である9は、最高にいい数字のはず。

ちなみにこの知識は、ちゃんと本を読んで勉強からだ。

……最も、肝心の本の題名は、どんなものか忘れちゃってたりするけど。


「ふん、軟弱そうな小僧だな」

「よ、よろしくっす。お手柔らかに」


とにかく、最高にいい数字なはずなのに、

俺の対戦相手は……迷彩柄のズボンに、上半身は裸。

筋骨隆々と言う四字熟語を、自身の体で盛大にアピールしとります。


見ててすんげぇ萎えます。むしろ気持ち悪い。

頼むから、Tシャツを着用してくれ。


蛮……とか言ったっけ?

あんたが女の子なら、今の格好はむしろ望むところなんだけど……。

あっ。女の子でも筋骨隆々過ぎると、萌えないなぁ。


そんなことを考えつつ、俺は審判の注意を聞く。

曰く『武器や道具は一つまでで、基本的になんでも有り』


それを聞いてから、俺は持参したサスマタを武器に申請する。

審判は一瞥をくれるだけで、あっさりOKをくれた。

まぁ、霊刀とかも……刀のレベルは別として……

けっこうザラにあるらしいので、珍しくないのかも知れない。


簡単な注意事項の確認が済むと、いよいよ試合開始だ。


「ふっふっふ! まさか、こんな雑魚が俺の初戦とはな!」


ムカッ! すっげぇムカつきました!

雑魚とはなんだ、雑魚とは!

俺だって1次試験をクリアしてるんだから、

ちゃんとGSとして最低限の霊波は出せるって、証明されてるんだぞ!

1次試験に落ちた奴に言え、そーゆーことは!


……って、いかんいかん! 試合前から相手にのまれてどーする!?

そうじゃないだろ?

雑魚とか言われたら、相手にしないくらい大物の気概がないとな!


大丈夫。自分を信じるんだ!


まず、横島忠夫は魔族・メドーサを師匠として、

なんだか戦闘大好きな人たちと鍛錬に明け暮れて、

時折異世界に送られたり、キロ単位の自由落下を体験してたり、

大海原を漂流したり、魂をごついゴーレムに狙われたり……。


…………………うん。

あの危機に比べれば、こんな試合なんて!



『さぁ、注目の第一戦が始まりました!』

『上底VS下底の、絵に描いたような対戦あるね!』


「ええい、あんたらさっきから喧しいぞ!

 受験生に対するいじめじゃないか、そりゃ!」


聞き流してたつもりだが、

実況と解説の言葉は、しっかりと耳には聞こえている。

いい加減ムカついた俺は、実況席に向かって、吼えた。


そう言えば、愛子はどこから応援してくれているんだろう?

実況のうるさい声は、無駄に聞こえるんだけどな……。

実況がうるさくて、愛子の声が聞こえないのか?

まぁ、観客席のどこかには、いるはずなんだろうけれど。


つーか、やっぱり俺、1次試験の霊波測定……ビリだったんだなぁ。


でも、霊波を出すだけがGSじゃないだろ?

そう。どんだけ霊波が出せても、全体の霊力量が少なければ、すぐに息切れする。

10の霊力しかないのに、8ずつ出していれば、

もう出すものはないという状態に、すぐなってしまう。


メドーサさんとか、あるいは去年の夏のゴーレムとか、

ああいうレベルになると、ほとんどそんなこともないだろうけど……。

でも相手は人間! しかも、GS候補の、俺と同じ立場の人間!

なんなら、息切れするまで攻撃をかわし続けてやる!

ユッキーの攻撃を全弾回避した、

この俺の華麗な身のこなし、じっくりと見せてくれる!


「見てろよ! 俺は絶対勝って見せるからな!」


『おおーっと! 試合開始と同時に、横島選手からの勝利発言だぁー!』

『随分大きく出たあるね〜。まぁ、どうなることやら』


うわぁ、絶対に無理だと思っているよ、あの実況席の二人。

見てろよ、ちくしょー。

選手のやる気をそぐと言う、

最悪な実況と解説から視線を放し、俺は蛮の奴と相対した。


何故か知らないけれど、蛮は試合が始まっている状態で

実況席と言い合っていた俺に、攻撃を仕掛けてこなかった。

余裕があるからか? 

ちぇ。何だかんだ言いつつ、カウンターを狙ってたんだけど。


「遺言は終わったか?」

「はい?」


蛮は嘲笑とともに、俺にそんな質問をしてきた。

やはり、攻撃を仕掛けてこなかったのは、余裕かららしい。

つまり、雑魚がしゃべる時間くらい、与えてやろう……とか言う感じ?


「10パーセントだ。10パーセントで相手をしてやろう」


そう言うと、蛮の体から大量の霊波が噴出する。

……なっ……。

これで10パーセント!?

な、なんて霊波の力強さなんだ!?


例えるなら、えーっと…………。

そうそう。ユッキーの足の裏から、足首まで位の霊波じゃないか!


まぁ、つまり……大したことないと思います。

あと90パーセント出しても、

ユッキーの全力には追いつかないだろうなぁ。

……そう考えると、俺ってとんでもない奴と、

日常的にド突き合いをしていたんだよな。


「その程度の霊波じゃ、そよ風くらいにしか感じないぜ!」

「なんだと!? では貴様の霊波を見せてみろ!」

「言われなくても!」


俺は蛮に挑発をかましつつ、

自分の霊力を練り、それを対外に放出していく。


『なんと! 横島選手、大きな口を叩いておきながら、

 蛮選手の半分にも満たない霊波量だぁー!?』


「喧しい! 文句あるか!」


いちいち人のやることに突っ込んでくる実況。

他の試合の実況でもしとれっちゅーんじゃ。

大体、そこまで人のことを弱い弱いと言うなら、何でこの試合を見てるんだ?

蛮の圧勝。で、試合終了。

そう予想つけてんなら、いちいち見なくてもいいだろ?

仮に俺のほうに勝つのを期待しているんなら、もうちっと激励しろっつーの。


憤慨しつつ、霊波を放出する。

その迫力とかも、まぁ、実況の言うとおり、蛮の半分以下。

あれだよなぁ。

ユッキーやメドーサさんのレベルに慣れてるから、蛮は大したことないと思う。

じゃあ、蛮を大したことないと思う俺は、

大した奴なのかと言うと……そーゆーわけにはいかないんだよな。


「霊波なんて、どうでもいいだろ! とにかく、先手必勝!」


俺はサスマタを構えなおし、蛮に接近する。

途中で、サスマタを無意味に一回転させ、

それから奴の足元に向けて、サスマタを突く。

この攻撃は、様子見だ。

俺の体は、すぐに後退できるよう、準備が整っている。


となると、先手必勝と言うのは、

もちろん大嘘なのだが、そこら辺は深く突っ込んではいけない。

内虚外実。フェイントって重要だよな。



「しゃらくさい!」



蛮はそんな叫びとともに、サスマタを回避し、俺への攻撃を繰り出す。

その鍛え上げた肉体から放たれるパンチ。それが奴の攻撃。

かなりの霊気のこめられたパンチだった。

まぁ、でも…………所詮はパンチだしな。

普通によければ、何の問題もない。

だから、俺はそれを余裕を持ってかわした。


「かわしただと!?」

「いや、そりゃかわすだろ?」


さて……霊波砲の一つでも撃ってくるかと思ったけど、それはなかった。

撃てないのか、それとも単に撃つ気がなかったのか。

撃てない、と考えるの馬鹿だよな。

あいつの攻撃力なら、

おそらく、ユッキーより少し威力の低い霊波砲が撃てるはず。


一撃でやられるほどの威力じゃないけど、

一発喰らうと、俺はその場に硬直してしまう。

そうなると、やっぱり連発されちゃうわけで…………。

やっぱ全弾回避の方向で、話を進めたほうが吉か……。


奥の手を使うのは、まだまだ後にしたい。

さすがに初戦で手の内を見せるって言うのは、ちょっとな。

ユッキーやサボ念と同じレベルの奴に当たるまでは、とっておきたい。


んん? こういうこと考えている時点で、負ける気はないって証拠かも。

ま、いまだに蛮の厳ついカオは、凝視する気になりませんが。


……よし。せいぜい、弱い奴だと思って、慢心してもらおう。

実際、出せる霊波的に見れば、俺はこの試験中で最弱な奴らしいし。


んじゃあ、弱い奴なりの戦い方ってモンを、見せてやるぜ!



…………って、なんか情けない叫びだな、これじゃ。




      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「何なんですか、あの消極的な戦い方は……」


「いや、凄いですよ。あれだけ回避行動を取り続けるというのも。

 まさか、最初から最後まで、あの調子だとは思いませんでしたが」


横島クンの戦闘が終わると同時に、

それまで見入っていた小竜姫さまが、呟いた。

そしてその呟きに対し、先生が答えた。


確かに、色々な意味で凄い戦闘だったと思う。

まず、横島クンと相手選手の霊波放出量だけで言えば、子供と大人の喧嘩だった。

いや、横島クンが小鹿で、あの蛮選手が熊……だろうか。

どうにしろ、大きな力の差があったのだ。

にもかかわらず、横島クンは勝利した。無傷で、何の損害もなしに。

試合時間を、41分もかけて。


有り得ないほど長丁場な試合だろう。

普通の格闘技戦を考えればいい。たとえば相撲だ。

『残った!』と言う掛け声とともに、41分間も試合が続くだろうか?

続くはずがない。やはり、有り得ない試合なのだ。

いくらGS試験が時間無制限だとは言え……ここまで長い試合は例を見ないだろう。


小竜姫さまは、横島クンの試合を消極的だと言った。

確かにその通りだ。横島クンは、完全に後の先……

……つまり、相手の攻撃を受けてから、その対処に回っていた。


敵の攻撃を回避し、敵が攻撃のために霊力を消費したその瞬間、彼は攻撃するのだ。

自分から一度も先に手を出さない戦闘。

相手が攻撃してこない間の彼は、おもに言葉で挑発し、終始攻撃を誘っていた。

そしてその攻撃をかわし、攻撃行動によって、

敵の霊的防御が薄れた一瞬に、針を刺す。


ちくちくちくちくちくちく。

彼はこつこつと細かい攻撃を繰り返して、強大な敵を倒した。

最弱が、最強クラスを倒した。

時間はかかりすぎであり、

後手に回った戦いだったが、それでも評価できる部分はあるだろう。

映像には、蛮選手を疲労困憊にして倒れさせた横島クンが映っている。

その顔には、大きな疲労は浮かんでいない。

この戦いは、間違いなく極度の集中力を使用したはずなのに。


…………慣れているのね、自分より強い相手と戦うことに。

しかも、自身の手の内を、ほとんど隠している。

私が知る限り、少なくとも彼は『魔眼』と言う特殊能力を持っていた。

それを発動させないのは、

自分の手の内を見せないでおこうと言う、その証拠だろう。

もしくは、危険だから封印してあって、単に使えない状態かもしれないけれど。


また、手にしたサスマタは、ほとんど飾りだった。

わざわざ持ち込んだ以上、何らかの効力があるはずなんだろうけど。

そう言えば、私や鬼門に使用した、あの自己流の結界も見せていないわね。


結局彼が見せた攻撃と言えば、相手選手と同様に、

自身の体に霊気を集中し、霊的格闘を行うと言うものだった。

彼の攻撃で分かったことと言えば……彼の体術は、それなりのレベルってことくらいね。


「これは……次の対戦相手が、怖がるかも知れないわね」


1次試験の霊波測定で、圧倒的な差のあった相手を撃破。

しかも、彼の本当の攻撃手段は、おそらく温存されている。

手にした武器の、霊的な効力もほぼ不明。

そして、凄まじいまでの集中力とスタミナ。

厄珍の言葉じゃないけど、

彼は最弱と言うより、手の内を隠した天才よね。どちらかと言えば。


…………まぁ、プロの私から言わせてもらえば、まだまだなレベルだけど。

あと数年。

私と同じ年齢になるまで修行を続ければ、そこそこのレベルになるかもしれないわ。


「横島クンの修行先って、どこでしたっけ?」

「ん、確か白竜会と言ったかな?」


私の質問に、先生がすかさず答える。

そう言えば、そうだったかしら? 

前に先生の教会で会った時に、聞いたような気がしないでもない。


「彼の先輩弟子も、今回の試験に3人出ているね。

 彼らの頑張り次第では、第二の六道女学となりえるかも知れないね」


「おキヌちゃん、テーブルの上の書類を」

「はい」


私はその言葉を受け、リモコンのボタンの上に、指を置く。

そしておキヌちゃんから書類をもらい、その種類の中から『白竜会出身者』を探す。

…………あったわ。伊達雪之丞ね。

参考までに、彼の試合を見ていましょうか。

私は、リモコンのボタンを押した。



画面に、横島クン同様の胴着を着た、黒髪を適当にカットした男が映る。

男……と言うか、男の子かも知れないわね、これじゃ。

横島クンより、10センチ以上、背が低いように思える。


『いくぜぇ!』


雪之丞は、気合とともに、相手選手に肉薄する。速いわね。

相手選手は持ち込んだ神通棍を構え、彼の攻撃に備えた……のだが、

神通棍をそのまま破壊され、自身にも大きな突きをもらってしまう。


『はっ! そんなもので、この俺の攻撃が防げるかよ!』

『くあぁっ!?』


神通棍は、霊力を込めてこその武器。

私のようなGSが使えば、そこそこの霊刀と同じレベルの道具となるけれど、

逆に込める霊力が少なすぎれば、今の試合のように、簡単に破壊されてしまう。


『遅いぜ!』


いえ、今の神通棍には、おそらくそれなりの霊力が込められていたはず。

おそらく、雪之丞との間に、実力差がありすぎるのね。


試合の流れは、一方的だった。


道具を壊され、重い一撃を受けた相手選手に、

彼は霊波砲を止めとばかりに撃ちはなった。それでK.Oだ。

まぁ、その止めを受ける前に、すでに意識はなかったかもしれないけれど。


「いい根性ね。実力差がはっきりしている相手に、あそこまでやるなんて」

「いや、あれが白竜会のやり方らしいよ? スパルタ式と言うか、なんと言うか」

「? 先生、知っているの?」


「ああ。横島クンから、話しは聞いていいるからね。

 今の雪之丞君……私たちはユッキー君と呼んでいるが……」


「確かにそんな名前も聞いたような気が……って、

 先生までそのあだ名を使っているんですか」


私は少しだけ先生に呆れつつ、昔の記憶を掘り返した。

去年、先生の教会で横島クンと話した内容だ。


『ユッキー……あ、白竜会の先輩なんすけど、

 ユッキーは、霊的近接戦闘をすでに主体としてるみたいです。

 で、今までは俺も、そういう霊的格闘の修行してました』


『霊的格闘というと……霊波砲や霊弾、あとは殴り合いね?』

『ええ。コブシに気を溜めて、とか……』

『あんた、先輩弟子と一緒に修行してて、大丈夫なの?』

『一発当たるとKOだから、全弾回避するようにしてます』

『……ま、戦い慣れはしそうな感じよね』


思い返してみると今日の試合は、

横島クンにとって、日常の一コマだったのかも知れない。

蛮と言う選手の霊波は、確かに強い。

でもまぁ、プロの私にしてみれば、大した敵じゃない。

そして横島クンにしてみても、先輩弟子に比べれば、大したことがなかっただろう。

つくづくおかしな奴ね、彼。

レベルは低いくせに、毎日の訓練はGS試験の試合並だなんて……。


「先生は、どう思います? 横島クンの……白竜会の道場」


弱い相手だろうと、全力を尽くす。

まぁ、そういうお題目を道場自体が掲げているなら、

今見た伊達雪之丞と言う子の試合内容も、まぁ、納得できなくもない。

全力を尽くす。どんな相手にも油断しない。

それはGSになるものならば、誰もが持つべき精神だとも言えるのだから。


しかし、実際先生はその道場について、どう考えているのだろう?

白竜会という道場は、微妙に私の心に引っかかるものがあった。

それが危険を察知する霊感によるものか、

あるいは見知った横島クンの通う道場だからかは、分からない。

だからこそ私は先生に、改めて道場をどう思うか、聞いた。


「悪いが、僕とは相容れないだろうね」

「え? そうなんですか?」


意外だった。横島クンとも仲がいいし、

てっきり道場にも好印象を持っているかと思っていたのに。

先生はどこか寂しげな笑いを浮かべて、呟いた。


「白竜会はね、言ってしまえば仏教系の道場なんだ。

 体術は、大陸系が少し混ざっているかな?

 にもかかわらず、道場でクリスマスパーティーをしていたんだ、あそこは!

 私まで誘われたよ! しかも愛子君には、

 『どうせ聖書にも、キリストの誕生日についての記述なんて、ない』と言われ!

 分かるかい!? 道場でクリスマスだよ? 畳の上でケーキを食うのだよ?

 全く、どういう神経なのだか……悪いが、私とは相容れないよ」


嘆くように言う先生。

これはつまりあれかしら。お寺や神社で、クリスマスなんて、

そういう日本人的なごちゃ混ぜは止めろってことかしら?

と言うか、まさか中国系武術の道場から、

クリスマスパーティーに誘われるなんて、思ってなかったんだろうなぁ。

小竜姫さまが、キリスト教を信仰しているようなものだものね。


…………ん? 


でも先生は、

仏教系の竜神である小竜姫さまのところで修行したんだし、

別にそんなに拘らなくてもいいんじゃ?

私なんて昔、聖書を使った時にうまく行かなくて、

『キリストなんて信じてない私が、使っても意味ないでしょ!』って、

聖書を思いっきり地面に投げ捨てちゃったほどよ。


うーん。

やっぱり、何か私には分からない『神父』なりの拘りがあるのかしら?


…………じゃなくて。

あいつら、クリスマスパーティーなんかしたの?

12月と言えば、試験寸前の追い込み時期。

随分な余裕と言うか、いい加減と言うか……。


「ま、まぁ先生。じゃあ白竜会はいいとして。

 明日からは、次のところを回って行きますから……」


私は話をまとめるため、先生に書類を渡しつつ、言う。

先の話し合いで、一応怪しいところには、それぞれでチェックを入れていた。


先生が、せっかく試合の映像を持ってきてくれたのだ。

本当は今日中に、64試合を駆け足で見ておきたかったけれど、

横島クンの試合が無駄に長すぎため、それも無理だ。


今日はさっさと眠り、明日に備えなければならない。

体調を不完全にした状態で望めるような仕事じゃ、ないのだから。


「小竜姫さまも、それでいい?」

「はい、分かりました。明日からは、これで行きましょう」


書類に目をはわしつつ、小竜姫さま。

私はそれに頷いた。



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