第三話




出来たての、熱いお菓子。私はその魚の形をしたお菓子を頬張る。

――――――美味しい。私は胸中で、ただその一言を繰り返す。

もっとも外側は、パリッと。その薄皮を破ると、柔らかく。そして中の餡子はしっとりと。

このお菓子の名前はタイヤキと言う。

よく覚えておこうと決意を固めつつ、私は二口三口と食べ進めていく。


「美味しいですね、これ」

「ああ」


私の言葉に、メドーサは気のない返事を返してくる。

彼女が自ら購入を提案したお菓子だと言うのに……気に入らなかったのだろうか?

私は半身のなくなったタイヤキを口から離し、メドーサに問いかける。


「美味しくなかったんですか?」

「いや?」

「じゃあ、なんでそんなに憮然としているんです?」

「……何が悔しくて、アンタとタイヤキを食べているんだろうと思ってね。こんなところで」


メドーサは一口だけしか食べていないタイヤキを見、それからその視線を周囲に投げる。

簡素ながらも噴水の設置された、そこそこ広い公園のベンチに、私とメドーサは並んで座っている。


美神さんの仕事についてきたのだけれど、

その仕事が色々と面倒なものらしく、解決にはまだまだ時間がかかりそうだった。

だから暇を持て余したメドーサは私を散歩へと誘い、この公園までやってきたのである。

ついでに言っておくと、口にしているタイヤキは、ここへとやってくる途中に購入したもの。


――――――そんな現状に、何の問題があるのだろう? 何の不満があるのだろう?

一度は剣を交えたもの同士が、今は確執なく菓子を頬張る。

それは中々物珍しく、そして素晴らしい光景だと思うのだけれど……。

やはり種族の違いと言うものを彼女も気にするのだろうか? 二人きりになるのは、居心地が悪いのだろうか?


そう考えて彼女の横顔をのぞき見ると……どうやら違うらしい。

彼女の目線は、昼下がりの公園内を睦まじく歩いていく若い男女に向けられていた。


ああ、そういうことなのだろう。

つまり、私であろうと美神さんであろうと、誰であろうと彼女は不満なのだ。

メドーサが隣に座ることを望む者は、彼女の思い人なのだろうから。

そしてその思い人とは――――――横島さん。


「どこがそんなにいいのか、いまいち分からないんですが……」

「まぁ、横島の良さは、言葉では言い表しにくいがね」

「態度を思い返しても、良さを見つけられないんですけど」


横島さんのことを思い出しつつ、私はそう呟く。

能力を考えれば、戦士としての見込みがないとは思わない。

私も最初は育ててみたいとも思ったほどだ。

そして実際にGS試験会場では、手負いのメドーサを私から守るため、

気迫を持って立ちはだかり、挙句にはこの私を驚かせる技を行使した。


彼は凄い人間です。

なのですけれど……ちょっと……なんと言うか。


殿下の衣服をいきなりずり下げ、その、アレを――――――男性についてるアレを

さらには、いきなり自分の服を脱いで……

あの、やっぱり、その……男性の象徴を私に見せつけようとしたりとか――――――


思い返すと、今でも恥ずかしくなります。

何故、あのような行動を取れるのかが、全く理解できません。

アレが露出癖と言うものなのでしょうか?


…………いえ、深く考えるのは止めにしましょう。

私は自身の頬が上気していることに気づき、軽く頭を振った。

そんな私に、メドーサは苦笑したようだった。


「そりゃ、アンタが真面目だからだろうね。悪ふざけくらい、軽く流せないと大人の女じゃないよ?」

「美神さんみたいにですか?」

「どこをどう取れば、美神が大人の女になるのか……。あの子もまだまだだよ」

「そうですか? 冗談は、軽い打撃で即座に黙らせているようですけれど?」

「殴ってる時点で流せていない」

「そんなものですか」


私はそんな短い言葉で、会話を終らせた。

私は自身を未熟だとは思っているけれど、しかし子供であるとも思っていない。

だから、メドーサの言葉はどこか私を子ども扱いするように感じられ、少々不本意だった。

しかしまぁ、それにムキになって反論するのも、大人気がないだろう。だからこその、短い言葉だった。


――――――ああ。そう言えば、ヒャクメは横島さんとのワケの分からない会話を、平気で続けていた。

ならば、ヒャクメは私や美神さんより、大人の女性とか言うものであることになるのだろうか?

ふと思いついたその考えは…………ちょっと納得が行かないものだった。


「ところで、ちょっとアンタの耳に入れておきたいことがある」


メドーサの声の調子が、変わった。

私もそれに応じて、少しだけ眉を寄せる。


「何ですか?」

「先に言っておくけれど……信じるも信じないも自由。アンタが自分で判断するといいよ」

「真面目なお話、なんですね?」

「ああ。わざわざ美神から離れて、二人きりになったのはこのためさ」

「そうなんですか?」

「本当にただ散歩するだけだと思ったかい?」


はい……とは言えず、私は手元のタイヤキを見る。


「長い話になるから、先にさっさと食べるんだね」

「あ、はい」


しばらくした後……メドーサは私がタイヤキを食べ終えるのを待って、真剣な表情を顔に浮かべた。

私はその表情に少しだけ押され、居住まいを直す。


「元始風水盤ってモノを知っているかい?」

「……知っています。遥か古代に、この世の秩序を形作るために使用された、始まりの陣章ですね」


今の人間界があるのは、その風水盤によって地脈が制御され、秩序がもたらされたからだと言っていい。

すでにその発動法は、少なくとも人間界には存在せず、伝説の域にあるものだ。

たとえば現代日本における最高術者の一人である美神さんに尋ねたとしても、

『元始風水盤』と言う名前を知っている程度であり、詳しい発動・使用方法までは分からないだろう。

当然である。地脈すら任意で変化させられると言うことは、

つまり人間界のバランスそのものを崩すことも可能であるということになる。

元始風水盤はおいそれと使用することの出来ない、伝説の存在でなくてはならないのだ。

その名前が、魔族であるメドーサの口から紡ぎ出される。

――――――ひどく、嫌な予感がした。

そして、その予感は恐らく当たるのだろうと思えた。


「元始風水盤を起動させようとしている者がいる……かもしれない」

「どういうことですか? 詳しくお願いします」

「私はGS試験会場で、ハメられたんだ。あの騒ぎの真犯人は別にいる」

「はい。その件に関しては、人間界でも色々と解明が為されていましたね」

「あの騒ぎを起こした理由は、多分私に世間の目を集中させるためだろうね」

「貴女に? どういう事ですか?」

「私にメディアが注目すれば、裏でこそこそ動きやすいだろう?」

「そう、ですね。GS協会や私のような神族の目も、貴女や貴女のお弟子さんに向けられるから」

「ああ。そして私を生贄にしてくれたヤツらは、今頃香港で風水盤作成に励んでいる……と思う」

「思う? 確証はないのですか?」

「今はまだないね。今後、私は弟子を送って詳しく調べるつもりだ」

「あの、そもそも貴女はどうやって、その風水盤について知ったんですか?」

「魔族には魔族の噂話が広がるネットワークがある、としか言えないね」

「秘密と言うことですか?」

「違うよ。分からないのさ。どこからともなく聞こえてきた噂だからね」


私はメドーサの瞳を凝視する。嘘だろうか? 真実だろうか?

でも、この場でこんな嘘を言って、どんな意味がある?

私はしばし黙考し、そしてメドーサの言葉を信じることにした。

危険とも言える元始風水盤が、魔族によって発動させられようとしている。

警戒しておくに、越したことはない。もしも真実なら、見逃すことは出来ないのだから。


「とにかく、まだ詳しいことは何も分かっていない。だからこそ、調べに弟子を向かわせる」

「貴女が行けばいいのではないですか?」

「自分をハメたヤツらが悪巧みしているかもしれない香港に、ノコノコと? それは無謀だよ」


さらに言うならばメドーサは魔族であり、かつ大きな力を持つ。

秘密裏に情報を探るなら、この場合人込にも紛れ込みやすい人間の方がいい、と言う事だろう。

だが彼女の弟子は、まだGSとして長い経験を積んですらいない。

潜在能力がどれだけ高くとも、経験値の低さは時に致命傷となりえる。だからこそ、私は一つの提案をした。


「では、さらに美神さんなどのGSに頼むのはどうでしょう? お弟子さんだけでは、不安も……」

「美神はダメだ」


即答だった。


「何故です?」

「もし風水盤があったら、アイツは自分のために使いそうな気がする」


メドーサの言葉に、私は少しばかり想像してみた。

無事に発動前に風水盤の在り処を突き止め、風水盤をいじっていた魔族も倒した美神さん。

今、彼女はその場に一人。そして彼女の前には、風水盤が。大地の地脈を、世界の秩序を制御できる風水盤が、ある。

そこで彼女は、なんと言うだろう? 何をするだろう?


『こーゆーのは、魔族なんかより、この私が持つべきものよね! えーっと、とりあえず試しに私のウチに

 地脈を巡らせて、大きな力が流れ込んでくるようにして、そして――――――』


私の想像の中で、美神さんは好き勝手に風水盤を弄繰り回していた。

下手すると、魔族と大して変わらないかも知れない。

私の勝手な想像だけれど……あの人はやりそうな気がする。

世界征服とか、実は何気にやりたいとか考えていそうな気がする。


「まぁ、そんなわけで。神族であるアンタの耳に入れておこうと思ったのさ」


黙りこくっている私に、メドーサはそうまとめた。少し声が笑っていたのは、私の表情を見てだろう。

何しろ、美神さんの行動を想像した私は、自然と自分の頭を手で押さえていたのだから。


「正義を重んじる小竜姫は、仮に風水盤が目の前にあっても悪用しないだろう?」

「当然です」

「この世界には、滅んでもらっちゃ困るんだよ。菓子も食べられなくなるしね」


本気と冗談を混ぜた口調で、メドーサはそう呟いた。


……えっと、ちょっとまとめよう。メドーサの今の話しは、少し私にとって衝撃が強かった。

まず、元始風水盤を作ろうとしている魔族がいる……らしい。そしてそれがメドーサを落とし入れた者である……らしい。

その者たちの情報を得るために、メドーサは香港に弟子を送ると言う。さて、私はどうしよう?

私は妙神山に縛られている。国内ならともかく、香港では通常と同じ行動は出来ない。

それに、まだ風水盤の話が本当かどうかは、メドーサ自身確証はないと言っている。

私も自身で調べたくはあるけれど……さすがに今の段階で、長く妙神山から離れるわけにも行かない。


――――――う〜ん……よし。

メドーサのお弟子さんに、勾玉でも作ってお守りとして持って行ってもらいましょう。

そうすれば、私はその勾玉を頼りに、いざと言うときには妙神山から瞬間転移も出来ますし。


私がそんな結論を出すのと、メドーサが新しい話題を振ってくるのは、ほぼ同時だった。


「ああ、話は変わるけれど、私の弟子の雪之丞が、アンタの所で修行したいと言っていたそうだ」

「ゆきの、じょう? えーっと……」


私はその人物を、記憶の中から探し出そうとする。えーっと、白竜会の人で……。

やがて思い当たった私は、ポンッと手を叩いた。


「ああ、あの目つきの悪い人ですね。背の低い」

「…………アンタ、意外に毒舌だね」


私の述べた特徴に、メドーサは半眼で答えた。

あの、すみません。思いついた特徴がそれだったのもので。

いえ、決して悪気はないんですけれど……


…………ごめんなさい。

















                第三話        美神令子さんは、ずっと立ったまま、延々と警察関係者と対話中



















時間が経つのは、早いものである。


ふと、俺はそんな風に感慨に浸ってみる。

使い込まれた学校の机に肘をつき、視線の先は窓の外を流れる雲へと向ける。

いつの間にやら2年生に進級して……俺が毎日通う教室も一階上の教室となり、空に浮かぶ雲に少しだけ近づいた。

一年前の俺は霊能力も魔眼も格闘術もなくて、毎日フツーの生活を送っていた。

まぁ、貧乏アパートで一人暮らしして、毎日飢えている生活がフツーかと言うと、かなり疑問だが。

それはそれとして、少なくとも一般人だったことは確かだ。

霊能力がどうとか、そんな世界に踏み込んで行くなんて、思いもしなかった。


ふぅっと、物憂げに嘆息する。


――――――……絵になっているか? なっているといいなぁ。

クラスの女子一同から、黄色い声がかけられるシーンだぞ?

……声が上がらないつーことは、やっぱ絵になってないんだな。

ちっぃ。多分俺じゃなくて、ピートなら声がどこからともなく……えぇい、ちくしょう。


いや、そんな舌打ちは心に閉まっておくとして、問題は俺の机の上に乗っている進路調査表だ。

第1〜第3志望まで記入する欄があり、その横に理由を書く欄まで用意されている。


さて、どうしよう……?


2年生進級前までに師匠―――つまりは美神さんのところで研修を終えられなかったため、

俺は未だにGS資格は手にしていない。だから、もちろんGS資格が得られるまで、

美神さんのところで研修を受け続けるんだけど、だからと言ってGSになるつもりは、今のところない。


「俺って、元は何になりたかったんだ?」


子供の頃の夢は……プロのミニ四駆野郎と言う、ワケの分からないものだった。

とりあえず、却下。

そんなワケの分からない存在しない職業で、生計は立たないのだ。

同じ理由で戦隊ヒーローとか、変身ヒーローも却下。


となると――――――やっぱりメドーサさんに出会ってからの、

GS協会幹部とか、オカルトGメンの職員とかになるんだけど……うーん?

俺は本当にそれになりたいのか? そう自問した時、その答えはかなり微妙だ。

ピートもオカルトGメンになりたいなぁ、とか考えているらしいけれど、俺にはピートほどの熱意はない。


「何を書くかなぁ?」


変わりばえのしない独り言を呟きながら、俺は時間を撒き戻し、昔を見返してみる。


そもそも今の俺がいるもの、元を辿れば一時の欲情から始まっているんだよな。

偶々出会ったキレーなオネーさんに飛びついて、愛の告白……。

そしてその一生憑いて行くと言った相手が、魔族のメドーサさんで……。

さらにそのメドーサさんが、魔族は人間界じゃ嫌われ者だから、一方的に攻撃されたりすることがあって……。

攻撃してきたGSから身を守るために戦うと、さらに狙われると言う悪循環で……。

メドーサさんはその悪循環を解消したいから、俺に協力してくれって言って……。

もちろんOKした俺は、白竜会で修行して、

そしてGSを束ねるGS協会そのものの体質を変えるため、GS協会の幹部とか目指したりして……。

GS試験を受けて、見事合格して、さらにはオカルトGメンなんかを目指していたりしてたんだけど――――――……。


仮に公務員を目指すとなれば、今から俺の高校生活は勉強漬けとなる。

勉強、勉強、勉強の日々が続く。

何しろオカルトGメンは公務員です。あくまで警官なのです。

修行する間も惜しんで勉強して、公務員の1次試験を合格して、そして2次の面接受けて……。

晴れて合格した暁に、GS資格を持っていると言う特殊技能をかざして、オカルトGメンへ行くというコースのはず。

…………いや、本当に行けるのか? そもそも今はまだ、日本にそーゆーモノはない。

遅かれ早かれ、出来るはずだけど、しかし今はない。

今はないものを進路に書くのって、どうだろうな?


と言うか、俺は本当にオカルトGメンになりたいのか?

改めて進路の紙を見やりつつ再度自問すると、これがかなり微妙と言うか、疑問だ。

そもそも俺って、絶対公務員っぽい性格じゃない。

進路調査のチェックシートに丸をつけていったら、結果が……



   あなたは仕事人間になることはまずありません。
   堅苦しく単調な職業よりも、あなたの自由な感性を生かせ、
   変化に富んだ職業の方が、あなたらしさを生かせるでしょう。 



……だったしな。仮に公務員かGSの二者択一なら、GSだよな。

つーか、ぶっちゃげると、GS協会幹部とかオカルトGメンを目指そうと思ったのは、

メドーサさんが誤解から狙われたりしているからだったんだ。でも今は狙われていない。

俺がそんな大それたものを目指さなくても、別に大丈夫なんだよな……・


つまり、やる気が出ないんだよなぁ、やる気が。勉強嫌いだし〜……。

あー……進路に悩む今の俺って、蝶☆甘酢ッぱいかも?

来年。いや、もっと将来、俺は何してんだろ?

GSになってそこそこ稼いで、愛子とかメドーサさんとかと、今と同じような感じか?

いや、GSになったなら、美神さんの事務所の従業員とかしているかも?

それとも本当に公務員になったり、GS協会を中から変えようと、机に向かっていたり?

あぁ、でもキャリア組みってどこでも大学出てるよな? じゃあ、順当に大学目指す?


「? 何悩んでるの?」


俺が頭を抱えていると、愛子が話しかけてきた。

ちなみに学校側は、俺と愛子を1つのペアとして考えているので、2年に進級しても同じクラスだ。

俺は愛子に進路調査表を見せつつ、説明する。


「何を書こうかなーと思ってさ」

「ああ、これね。うん、青春よね、進路調査って」

「ちなみに、愛子は卒業したらどーする?」


俺の家のメイドさんと言うのはすでに決定事項で、ある意味ではもう永久就職してるよな?

そんな風に思ったり思わなかったりするけれど、それはそれ、これはこれだ。

愛子がやってみたいことあるなら、別に俺は止め気ないし。

つーか、愛子って制服のある職業なら、基本的に何でも似合いそうな気がするな。

もっとも、何をするにしても机がネックとなるわけだけど。


「さぁ? 私の場合、また1年生から入学し直してもいいしね」

「いいのかよ、そんなんで」

「先生からはそうして欲しい……みたいな事を言われたけど?」

「へっ?」

「名物があった方が、入学志願者が増えるからって」


学校の運営と言うのも、大変らしい。

俺は愛子の言葉に苦笑して、視線を再び窓の外へと移す。

開けられた窓。気だるい放課後の雰囲気。教室に流れ込むおだやか風。


…………くっ、この程度の風力じゃ無理か。

愛子のスカートは、ぴくりとも動かない。ちぃっ……。


人に心を覗き込まれたら、絶対にくだらないと思われるそんな思考。

それを途切らせたのは、俺の制服のズボンから鳴る電子音。

ケータイを取り出して見れば、メール送信者は美神さん。

学校が終り次第、指定した現場に集合しろ……との事。


「美神さん? 今日の研修のお話?」

「ああ。直接来いってさ。場所は……春風? えーっと、これは繁華街の高級料亭なのか?」


ディスプレイに表示された内容に、俺は首をかしげる。

自分ではまず近づきもしない場所なので、どこにあるのかが把握し辛かった。


「…………制服で行っていいのかしら」

「いや、いいんだろーけど」


取り壊し予定の廃墟ビルや、芸術品に紛れて呪いのアイテムを運び込んでしまった美術館。

そんな場所なら、学校帰りにでも気軽に寄れるが……確かに愛子の懸念は、もっともと言えばもっともだ。

浮くだろうなぁ。研修生と言えど、学生服は。

俺は上着を脱げばまだセーフかも知れないが、愛子はどう見てもセーラー服だし。

と言うか、何故高級料亭で事件が?


「まぁ、行けば分かるか」


俺は白紙の進路調査表を机の中にねじ込んで、カバンを持った。

ついで、手馴れた手つきで愛子の机を背負う。

さすがに周囲も見慣れたのか、誰も俺に注意を払いはしない。


「んじゃなー」

「みんな、ばいばーい」


俺と愛子は教室に残っていたクラスメイトに挨拶をして、その場を後にした。





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