第五話





――――――作業着に、作業帽。肩からは、ちょっとした作業バッグをさげている。

この世界……俺が進んできた時間と、違う流れの過去の世界に来てからは、これが俺の仕事着だ。

一張羅のスーツはホテルのハンガーにかけたままである。当分、出番はないだろうな。


俺の名前は、横島忠夫。

日本で5本指に入る優秀なゴーストスイーパーだ。

……あっ、自称じゃないぞ、一応事実だ。免許も持ってる。


妻・令子の身体から病魔を退散させるため、妖怪の体液を入手しようと、過去に飛んだはずの俺。

しかし何の因果か……知り合いと言うか、因縁の相手と言うか、まぁ、そんな感じの悪魔に

この別世界へと無理やり召喚された、なんとも不幸な男だ。誰か癒してくれ。出来れば女性な誰か。


何で悪魔が俺のことをこの世界に呼んだのかと言えば、

『この世界の俺』は『俺』とは違う系統に成長しているらしく、

このままでは『文珠』という擬似万能能力に目覚められないのだそうで……。


そんなこの世界の俺に、文珠能力を教え込む。それが俺に望まれる役割だ。

それを果たせば、俺の欲しがっている妖怪の体液は手渡され、

そして本来いた世界に戻してもらえる…………以上が、俺の現状だ。


「さてと、今日もお仕事っと。ご苦労なこったな、我ながら」


寂れたビルの非常階段を、俺はリズミカルに登っていく。

カンカンという甲高い音が、路地裏に響いていった。

しかし、誰にも聞きとがめられることはない。

まぁ、日中の路地裏に人影はないし……仮に見られたところで、誰も気に止めないだろう。

清掃員らしき人間がビルの非常階段を登っていても、別に不自然さはないのだから。


屋上まで到達した俺は、本日の仕事に取り掛かる。

バッグの中から双眼鏡を取り出し、遅い昼食代わりのアンパンを口にくわえれば、準備完了だ。

後は視線の先にある、美神令子所霊事務所の中を、眺め続けるのみ。

なお、飲み物は控えるべきだ。あんまり頻繁にトイレに行くわけにも行かないしな。


そう。今現在の俺の仕事は、過去の俺の観察だったりする。

未来からやって来たと、全部話してしまうべきか。それとも親戚を装って、接近すべきか。

その辺をどうするか、まだしっかりと決めていないし、

それにこの世界の俺の実力がどの程度か、ちゃんと把握しておく必要もある。

そんなわけで、観察あるのみだ。決して覗きではないので、勘違いは止めて欲しい。

特に、おまわりさん。いきなり背後から『貴様! そこで何をしている!』とか、

怒鳴りながら接近するのは、止めにしていただきたい。

勘違いだ。誤解だ。俺はストーカーじゃないんだ。


まぁ、文珠に『視』の文字を込めれば、双眼鏡など必要ない。

仮に一つでダメでも、『透』『視』や『遠』『視』と、

2つの文珠を使用すれば、効果は飛躍的に増大する。

俺はホテルのベッドで寝転びつつ、目的の場所の様子を知れるだろう。

だが、文珠は貴重だ。一定期間に限られた数しか、生成することが出来ない。

そして一応、ここは異世界である。いざと言う時のために、無駄は省きたい。

そんなわけで、双眼鏡である。

昔ながらの、目視による目標の監視となるわけだ。


さて、俺の視線の先にある美神令子所霊事務所内には、数人の人影がある。

まずは令子…………と呼ぶのもアレなので、美神さん……いや、美神ちゃん?

この世界の20歳の令子は、俺の世界の令子より、やはり若い。

オトナの女と言うより、女の子って感じだ。キレイってより、可愛い感じ。

むぅ。昔はもっと『オネーさま』に見えたんだけどなぁ。俺も高校生だったし。

でも、今の俺から見れば、この世界の令子は20歳の女の子。そう、女の子なんだよ。

20歳じゃ、オネーさまとは思えないんだよな。

…………俺も年を食ったってことか。もう、おじさんだもんな。

とは言え、別に好みが変化したわけでもないんだけど。


あーっと、なんだ。そう、令子……さん? 

んっ、令子さんと呼ぼう。さすがに令子ちゃんは、しっこりこないし。

んで、その隣に、おキヌちゃん。こっちは若いってより、幼いって感じ。

懐かしいことに、ぷかぷかと浮いている。まだ幽霊なんだな。


そして過去の俺と、その俺に引っ付いているメドーサ。さらに愛子。

以上のメンバーが、事務所内のレギュラーだ。


メドーサと俺が親しいってのには、驚いた。

あらかじめアシュの野郎からは聞いていたが、実際に眼にすると驚きもひとしおだ。

正直、羨ましい。あの胸は反則だ。俺の知る中でも、トップクラスだし。

眉間に眉を寄せて、『死にな!』とか『ふざけんじゃないよ!』と叫んでいないメドーサ。

俺の世界ではまず見なかった、穏やかな顔のメドーサ。かなり印象が違う。

やっぱり、羨ましい。俺の世界のメドーサも、あのくらい大人しければなぁ……。

ついでに愛子がメイド服を着てるってのも、すげぇ。

学校ではセーラーで、事務所や自宅アパートではメイド服。

ある意味、すでに俺を超えているぞ、この世界の俺は。


視線にちょっと恨みがましい意思を込めつつ、眺め続ける。

すると、メドーサがちらりとこちらを見やった。


俺の視線と、メドーサの視線が、交わる。

交わったまま、3秒間が過ぎる。


こっちを見たのは気のせい…………じゃないな。やっぱ、気付かれてるっぽい。

むぅ。ちゃんと気配は消しているんだが……魔族だけあって、鋭いな。

令子さんや過去の俺なんかは、まったく気付いてないんだが。


まぁ、思えばワルキューレなんかも、感覚は鋭かった。

事務所の窓から、ビルの上にいた敵をスナイプしたこともあったし。

メドーサもその気になれば、あそこから俺を攻撃できるか? 超加速とかあるし。


「はろー。まいねーむいず、ありす。あいむふろむ、きゃなだ」


アンパンをもぐもぐと食べ終えてから、

中学の頃に習った英語の例文を、見事な日本語発音で呟いてみる。

するとメドーサは眉を寄せた。微妙に俺の知っている表情に近くなった。

こちらの発言の意図が読めず、困惑ってところか?

まぁ、どうやら俺の唇の動きも、しっかりと読めているらしい。


「すごいな。さすがメドーサ。取り得は乳だけじゃないな」


読まれるとまずいので、後半は口の中だけで呟いておく。

しっかし、これで確信。ばっちりバレてる。疑いようがないくらい、バレバレだ。

ちょっと迂闊だったな。全然、秘密裏に観察出来てない。

今のところ、メドーサは俺の存在を過去の俺や令子に話してはないようだが、

しかし話されてしまうと、接近する時にややこしくなりそうだし……。


やっぱ、正面から出て行って、全部話すか? うーん、でもなぁ。

でも下手に未来から来たと言えば、絶対に『未来では、どうなってる?』って聞かれるしなぁ。

あの令子……さんが、『禁則事項だ』の一言で、引き下がるはずもない。

俺の世界の話だが、ある悪魔の予言を聞こうとして、ヴァチカンで銃撃戦をしたこともあったくらいだし。


かと言って『美神令子と結婚した未来から来た』とは、正直に言えないよなぁ。

この世界の今の人物関係が、絶対にギクシャクするだろうし。

ついでに『メドーサは大気圏で燃え尽きた』とか、『再生したけど、一撃で葬った』とか。

ぱっと考えるだけでも、言えない話は結構あるっぽいわけで。

嘘をつくにしても……適当な嘘はすぐにボロが出るだろう。

自慢じゃないが、俺は令子に嘘を突き通せたことなど、ほとんどない。


「――――――んっ?」


今後の対応に悩んでいると、バッグにしまっておいたケータイが鳴り震えた。

俺の世界より、かなり大きい折りたたみのそれを手に取る。


『やぁ、仕事の進み具合はどうかな』


このケータイに電話をかけてくるやつは、今のところ一人しかいない。

そしてやはり俺の耳に響いた声は、アシュ……芦優太郎のものだった。


「進み具合? 微妙だな。メドーサにもうバレてるし……どうしたもんか」

『ふむ。まぁ、こちらとしては、最終的に文珠能力を伝えられればそれでいいのだが』

「過程は問わず、結果を出せばOKか? つーか、んで? 何の用なんだ?」

『あぁ、そうだった。今夜、飲まないか?』

「…………何を言ってるんだ、お前は」

『時間が出来たのでね。酒を飲み交わそうかと考えたのだが?』

「俺と、お前がか?」

『不服かね? 君を労うため、もちろん奢るつもりだ』


さて、どうしたもんか?

一瞬の黙考の後、俺は答えを返した。


「……じゃあ、奢られてやる。場所はどこだ? 時間は?」


正直、あまり進んで酒を飲み、話をしたいとは思わない相手だ。

だが、あいつが奢るというなら、可能な限り飲み食いしてやろう。

今更、俺の毒を盛る理由もメリットもないだろうしな。


『東京駅で落ち合おう。後はこちらの手配する車で移動する。時間は、午後6時にしよう』

「分かった。6時に東京駅だな」


俺は頷いてから、ケータイの通話を切った。

さて、今日の夕方の予定は埋まった。

動くとすれば、その時間までだが……どう動いたもんかな?


双眼鏡を覗きなおすと、メドーサはすでに俺の方を見てはいなかった。


過去の俺に後ろから抱きついて、その乳を後頭部に押し付けている。

そしてにやける過去の俺に、令子さんは手にしていた万年筆を投擲。

ぶすりと額に刺さり、血が吹き出す。

おキヌちゃんと愛子が、ティッシュの用意をする。

流れるような、一連のドタバタコメディ展開だった。

なんか、胸を突く郷愁があるなぁ。ああいうドタバタ。



      ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



午後5時まで観察を続けた俺は、ホテルでスーツに着替えてから、東京駅へと向かった。

俺という人間の説明をどうするか。メドーサへの対応はどうするか。

そういう命題の答えは、結局出ないままだった。


……人狼の事件が起こるまで、アシュの推測では、もうしばらく余裕があるらしい。

今週中に色々考えれば、十分間に合うだろう。間に合わなければ、その時はその時だ。

つまりはまぁ、臨機応変だ。どうにかなるだろう。

どうにかなるはずだ。どうにかならなかったことなんて、これまでにないしな。


それよりも、今は夕飯について考えるべきだ。

アシュはどこで俺を接待するつもりだろうか? 高級料亭とかか?

東京駅前で待ち合わせ相手の姿を探しつつ、俺は取り留めのない思考を広げる。


「――――――ふむ、待ったかね?」


アシュはどこからともなく現れると、俺の隣に立った。

にしても『待った?』ってのは、男に言われると、微塵も嬉しくない台詞だな。


「いいや、別に」

「そうか。では、行こうか」


アシュはそう言うと、タクシーを拾った。


「…………フツーにタクシーなのか?」


別に高級リムジンでご登場だとか、そう言うことは期待していなかった。

だが、仮にもお前はある企業のトップだろう? 

お抱えの運転手に動かされる自家用車とか、そういうモンは用意してないのか?


「タクシーでは、何か不都合があるのかね?」


タクシーに乗り込むと、嘆息する俺にアシュがそう尋ねてきた。


「別にないけどな」

「ふむ、ならばよいのだが」

「それで、どこに行くんだ?」

「前々から目をつけていた店だよ」

「魔王のくせに、抜け目がないな」

「正しくは、魔王候補だがね。しかも自称だ」

「慎ましやかな答えだな。好感が持てるぞ」

「はっはっは。棒読みの見本のような台詞だね」


会話のキャッチボールは、一応成立している。

だが、微妙に殺伐としているのは、気のせいではないだろう。

まぁ、俺が一人で非友好的な感じを作っているだが。


「君と食事をすると言ったところ、ルシオラに強く反対されたよ」

「お前を殺すと、初対面で言ったからなぁ」


こんなことを言うもんじゃない。それは分かってはいた。

だが、気付くと俺は、この世界の幼いルシオラに、『殺す』と言う言葉を発していた。

普通に人間として暮らしている、この世界のルシオラ。そしてその父親であるアシュ。

そりゃ、そんな物騒な相手と、自分の父親が食事をすると聞けば、反対するだろう。

あぁ、ベスパやパピリオは、どうなんだろうか?

こっちの世界のあいつらとは、まだ会っていない。

まぁ、間違いなく、ポチとかぺスとは呼ばれないだろうが。


そんな風にアシュとの会話を続けていると、タクシーはいつしか目的地に到着した。

俺の目の前にあるのは、どこにでもあるような……街中の居酒屋だった。

まだ宵の口だが、席はそこそこ埋まっており、割と大きな笑い声が、店内に響いている。

おいおい、そこの中年親父。完全に出来上がってるぞ? いつから飲んでんだ?

――――――って言うか、なんで居酒屋? 


「さて、まずは生ビールを頼まなければならない」

「いや、張り切って何を言ってるんだ」

「何か間違ったことを言ったかね? 生ビールで乾杯が、定番なのではないか?」

「その前に、そもそもなんで居酒屋なのかが、俺には理解不能なんだが」


別に居酒屋を馬鹿にするつもりはないけど……期待していたものと、現実の落差が……。


「一度友人と、こういう場で酒を飲みたかったのだよ」

「会社の人間と行けよ。と言うか、俺はお前の友人じゃない」

「会社の人間では、いくら無礼講と言っても遠慮が残る」


アシュはメニューを眺めつつ、苦笑した。

そのままの表情で店員を呼びとめ、メニュー片手にアシュは料理を注文する。

一度飲んでみたい……と言った割には、随分と手馴れている。

TVや何かで見た風景を、そのまま真似ているのだろうか?


「私にぞんざいな態度を取れるのは、君くらいなものだ」

「俺のは、ある意味開き直りだけどな」

「そういうものなのかね?」

「今、ガチで闘りあって、勝てるはずもないだろ」


――――――何の準備もしていないしな。

文珠を百個ストックしたわけでもない。

令子以上に合体に適した相手を見つけたわけでもない。

そんな状態で、アシュタロスに勝てるはずがない。勝てると思うほど、馬鹿じゃない。


俺という存在が、アシュにとってはまだ必要で、いきなり殺されることはない。

そう考えているから、変に怯えていないだけだ。


「そうかな? 今の私は、一応人間だ。君でも殺せるやも知れない」

「…………ふぅん? 試してみてもいいのか?」

「殺せるものなら、殺して欲しいものだ。自らの死。それを願っていないわけではない」


俺たちの前に、生ビールが置かれる。無言のままに手を伸ばし、チンッと乾杯。

細かな泡が、黄金色の液体が、揺れる。やはり無言のまま一気に喉に流し込み、一息。


――――――ちょっとした沈黙が、その場にあった。

周囲がそこそこ煩いだけに、俺たちだけやけに浮いているような気がした。


そうこうしていると、アシュが頼んだ料理が届く。

焼き鳥やら……焼き魚やら……おでんやら。

微妙に統一性がないな。本当にテキトーに注文したって感じだ。

俺は焼き鳥を一本口に運ぶ。塩だけで味付けされたシンプルさが、イイ感じだった。


「もし、俺がここでお前を殺そうとしたら、どうなる? 真面目なところ」

「私は抵抗出来ずに、死ぬかもしれない。少なくとも、今は人間だ」

「……だが、死なないかもしれないんだろ?」


アシュも焼き鳥に手を伸ばしつつ、言葉を紡ぐ。


「どうにも分からんね。私はあっさり殺されて、また最初から繰り返すのか……。

 いや、この世界の人間ではない君なら、これまでとは違う現象が起きるかもしれない。

 私が死んだ後も、世界の時間は巻き戻らずに、続いていくかもしれない。

 イレギュラーによる死。試行終了条件を満たさない死。予想外の、永遠の終わり……」


「でもその場合……世界が続いた場合、俺は芦優太郎殺人犯で、指名手配だな。

 ルシオラたちからも追われるだろうし……元の世界に戻れるかも不確かになる。

 そんなわけで、お前が頼んだとしても、悪いが殺害を試す気にはなれんな」


俺の言葉を受け、アシュは笑った。

肉のなくなった串を弄びつつ、くすくすと。

それは自嘲の笑みのような、そうでないような。

まぁ、悪魔の王らしくない表情だってのは、確かだろう。


「君には色々と、叶えてもらいたい願いがあるのだがね」

「この世界の俺に、文珠を教える。それ以外はしないぞ」

「そうか、残念だ」

「あんまり残念そうじゃないな?」

「今日は気分がいい。久方ぶりに、酒を楽しんでいるからか……」

「ルシオラたちに晩酌してもらえばいいだろ。親父なんだし」


……親父だから、か。俺にも娘が生れたら、晩酌してもらうんだろうか?

そしてその時、その娘はルシオラの生まれ変わりなのか、そうじゃないのか。

ルシオラが、俺の子供として生まれ変わる……か。

子供が欲しいと思いつつも、後一歩踏ん切りがつかないのは、そのせいだろうな。

もしも記憶の欠片まで受け継いでいたら……もう、どう接していいやら?

こんな事をつらつらと考えるのは、酔いが回ってきたからか? ビール一杯で?

…………まぁ、令子が入院してから、あんまり飲んでなかったしな。耐性が落ちてる?


「対等な友人と、飲み交わす。近年、人として企業の中にいるせいか、夢だったのだ」

「だから、俺はお前の友人じゃねぇっつーの。しつこいな」

「つれない答えだ」

「当然だ。あ、ビール追加〜!」


近場を通った店員に、空のジョッキを見せつつ、俺はそう言う。


「てか、作れよ。他に友達。そんで、飲む約束しろ。俺以外を誘え」

「約束と言えば……一緒に飲むことを、ある女性としていたな」

「…………女性、だと? 誰だ? 美人か?」

「こういう話題には、食いつきがよいのか」

「俺はそう言う人間だ。何を今更。で、美人か? 美人なのか?」

「そうだな。傾国の美女だ」

「今度、紹介しろ」

「もうずっと寝たままだ。約束がいつ果たされるかは、分からんな」

「むぅ。おねぼーさんだな」

「……私より先に酔わないでくれないか」

「知るか。んなこと。そもそも俺は、まだそんなに酔ってない」


俺のその言葉に、アシュはやれやれと首を左右に振った。

何だ、そのリアクションは? 

これだから酔っ払いは……とでも言いたげだな?

俺はまだ、酔ってないっつーのに。


「にしても、魔王様の夢もささやかになったもんだ。居酒屋で酒飲むことが夢かよ」

「TVなどでは、よくある光景だが……何しろ、実体験はなかったものでね」

「よくある光景なら、見飽きるだろ? どーでもいいだろ? 別に体感せんでも」

「そういうものではないだろう?」

「そーか?」

「ふむ。では、少し例え話をしよう」

「おう、してみろ」


アシュの肩を叩きつつ、俺は話の先を促す。

あー……やっぱ、ちょっと酔い始めてるかも? 早いなぁ、俺。


「SEXは色々なメディアで描写される。よくある光景だ。

 そうである以上、見飽きるだろう? 自身で体感せずともいいだろう?」


「いや、すみません。よくないです。アスタロット様!

 実体験したいです! 本番がいいです! 性欲をもてあますっ!」


――――――直立不動で、挙手。

『お客さん、ちょ、ちょっと……!』とか、店員が言ってくる。

しかし、何となく気分が良かった俺は、とりあえずそのまま笑っておいた。


いや、なんか……あっはっはっは!?


「あぁ、騒がせてすまないね。連れはどうやら、酒に随分と弱いらしい」


アシュ。何をお高い受け答えをしてる!

令子に鍛えられた俺が、酒に弱いだと?

そりゃ、最近はそんなにのんでかなたけろ、なことないじょっ!?


「とりあえず、水を飲んで体内のアルコール濃度を下げたまえ」


アシュはそう言うと、俺の口にお冷を突っ込んできた。

むぅ、さすがは魔王! ぼうにゃくむじんだな!




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