第四話




さて。そろそろ話を進めよう。私の考えるプランについてね。

目的と手段など、内容が多岐に渡る以上、かなり長い説明になるが……最後まで聞いてくれるかね?


「聞くのはいい。でも、冗談を間に進まずに頼むぞ」


はっはっは。分かったよ。では、はじめようか。重複する部分もあるが、目を瞑ってくれたまえ。

……まず魂の牢獄と言うものは知っているね? そう、延々と続けられる終り無き壮大な茶番劇だ。

私はこれを力を持って克服しようとした。最高の体を作り、武力で世界全てを制圧しようと考えたのだ。

当初、これは問題なく進んでいった。

様々な素材をかき集め、膨大なエネルギーを内包する結晶の基礎を構築した時など、喜びに打ち震えたものだ。

だが、それは呆気なく人間……君たちの手によって阻止され、私はそれなりに大きい失意を抱えたまま時を過ごした。

君の世界とどこまで同じかは分からないが、平安時代のことだ。まぁ、大して変わるまい。

平安時代から別時代へと飛ばされた頃の話は、省略させてもらうよ。

……そして、ある日のことだ。別のアプローチで世界を覆らせる方法を思いついた。

それが、宇宙の卵だ。自身を強化して世界制圧をし、絶対王者に君臨するのではない。

新たな宇宙の雛形を作成し、そしてそれを処理装置によって稼動させることで、

現在存在しているこの宇宙そのものを、私の意思どおりに書き換えてしまう……正しく天地創造だ。

武も知も必要ない。完成さえすれば、私はまさに絶対王者だ。

発生しようとする問題そのものすら、この世から消せるだろう。




そう考えていた私だが――――――しかし、気づけば平安の都を眺めていた。

そして魂を収集し、自身の強化を考えようとしていた。




おかしい。私は何故、魂を収集し、自身の強化を考えているのか。

先ほど、自身による天地創造と言う答えを出したのではないのか?

おかしい。そう思いつつも、私はまた同じ行動を繰り返し、そして天地創造をすると言う結論に至る。

だが、いつしか私の意識はかき消え――――――またしても平安の都を眺めていた。


おかしい。そう、あまりに不自然だ。

その答えは何だと思うかね? すでに大方の予想はついているだろうが……


「あーっと、魂の牢獄……?」


近いが、違うな。計画がどう転ぼうと、私の勝利に終わるよう、計画は進めていた。

私が勝てば、新たなる宇宙の創造。負ければ、私と言う危険因子の完全排除。

どちらにしろ、牢獄に囚われたまま同じ役割を繰り返すはずがない。


「じゃあ、何なんだ? 実際に繰り返しているって、そう感じてるんだろ?」


ああ、そうだ。私は繰り返しを続けている。今が何度目の繰り返しかも、正確には分からない。

だが、何度も繰り返したおかげで気づけた。

――――――この世界は、宇宙の卵の中に構築された世界だ。


「……卵って、一つ一つが新しい世界を中に持ってる、あの卵か?」


そうだ。君が見たものと、この世界の外側がまったく同じかとは限らんが……恐らく同じだろう。

私自身、計画遂行のために何個も試作したよ。

その試作した卵。それと同じ物の中に私はいるのだ。

その中で、絶対王者となるまでの道程……それを明確なものとするため、私は一定の時間を延々と繰り返していたのだ。

つまり、この世界の外には、オリジナルの私がいるのだ。

そしてそのオリジナルの私は、自身の計画を成功させるため、

コピーの自身に何度も何度も条件を変えて、ある一定の時間を繰り返させ続けていたのだ。

私が知覚している範囲で、もう6回ほど繰り返している。

気の遠くなるほどのこの茶番劇を……。

たかが6度と思ってくれるな。6度でも、人の人生とは違う長さだ。

それにしてもだ……神々との茶番劇よりも、たちが悪い。そう思わないか?

何しろ、自分自身によって私は操作され、延々と茶番劇を繰り返させられていたのだから。

憎しみすら抱いた、顔も知らぬ絶対的な創造主。

まさかそれが、私自身だったとはね……。


「いや、待ってくれ。どうして、気づけたんだ? この世界が卵の中だと」


私が私の正確なコピーだからだ。

初期の卵では処理し切れなかったであろうアシュタロスと言う存在も、

試行を繰り返すことで精錬の進んだ最近の卵では、表現し切れるらしい。

つまり、私が何度も茶番劇を演じたおかげで、劇や舞台そのものの完成度が見る見るうちに上昇。

役者であるはずのコピー人形は、役そのものになりきり……つまり本物といっていい状態となった。

本物になってしまえば、この世界の本質について察知することは造作も無いことだ。

何しろ、鏡の前に立つ私も、鏡に映った私も、どちらも私なのだから。

違うか? 鏡の中の自分は、外の自分と違うか? 髪形が違うか? 顔が違うか? 思考が違うか?

違わない。あえて言うのであれば、前後と言う概念差があるけれども。


「そういうもんなのか? 俺にはよく分からんな」


感覚的に言えば……自覚夢だろうか? ある瞬間、気づくことはないかな? これは夢だと。

恐らく、その感覚がもっとも私の感じた何かに似ているだろうと思う。

気づいたのだ。この世界は、殻に覆われ、その内部で延々と茶番劇を続ける世界だと。


私は考えた。そしてこの世界の下らない連鎖を断ち切ろうと思った。


天地創造などと言っている場合ではない。


例えこの世界で成功したとしても、それはシミュレーションの事例の一つに過ぎない。

ある時間を過ぎれば、私はまた条件を変えた状態から、やり直しを受ける羽目になる。

だから――――――まず、この世界を覆う殻を破る。

この世界での絶対王者になるとしても、まずはそこからだ。


「この世界の外にアシュタロスがいたとして、そのアシュタロスのいる世界も卵の中だったら?」


ああ、もちろんその可能性は否定できない。

卵を覆う殻の外側に、更なる殻があり、その殻の外にまだ殻があるかもしれない。

永遠と世界は連続して存在し、それこそ終わりなどないのかもしれない。

しかし、それはそうであると判明した場合のことだ。

今はともかく、この世界を覆う殻を破ることを考えている。

ここまでの話は理解できたかな?


「俺の世界とこの世界の流れが、おおむね一緒って言うのは?」


いささか質問の意味が理解しかねるのだが? 何が聞きたいのかな?


「条件を変えて、繰り返してるんだろ? それで何で俺の世界と一緒なんだ?」


ああ、そういうことか。答えは簡単だ。条件を変えすぎれば、試行する意味がないからだ。

ある程度の登場人物は、押さえなければならない。

GSがいない場合や、核戦争が起こって人口が激減した場合など、試行しても意味がないだろう?

試行は、あくまでオリジナルの世界に極めて近い設定でしか行われない。

例えば……君・横島忠夫が一番最初のアルバイト先を、小笠原エミの事務所にした場合などだね。


「それは……確かに色々流れが変わりそうだな。でも、それを試して意味があるのか?」


様々な状況を試すことで、何かしらの情報は得られる。

それに繰り返すのは自身ではなく、卵の中のコピーだ。

ランダムに条件を変えて、試行していることだろう。

茶番を続けさせられる私にすれば、堪ったものではないがね。

…………さて、他に質問は? すでに随分と話たが、ついて来ているかね?


「ここが卵の中で造られた世界で、計画がうまく行くか試すために、何度も繰り返してる世界で、

 気づいたお前は、この世界の外にいるアシュタロスを倒そう……とか考えてるってことだな。

 リトライばかりさせられたゲームキャラが、画面前のプレイヤーを殴るって感じだな?

 それくらいちゃんと理解しているさ。馬鹿にするな。

 まぁ、ここまでの話はいいとしても……どうやってこの世界の外に出るんだ?」


うむ。その世界を覆う殻の突破方法だが……実は今回の君の召喚も、その突破方法の確立に一役買っている。

この世界には、君が存在するまでの連続した時間軸がない。

何故なら、私が騒乱を引き起こした以降の時間が存在しないからだ。

成否に関わらず、世界はまた最初から流れ出す。もちろん、全ての存在の記憶をリセットして。

私が自意識を保てているのは……こう言うのは何だが……ある種の奇跡によるものだろうな。

それこそ、外の世界の私の計画を阻害するため、宇宙の意思がこちらを後押ししているのかも知れない。

……おっと、話を戻すが、君はこの卵の中の世界には、永遠に存在しないのだ。

条件次第では存在する可能性もあるが、今回の稼動条件では、絶対に有り得ない。


「なぁ、今回の卵の世界の、試行の条件は何だ?」


ああ、そう言えばそこを話していなかったか。前後して悪いが、そこを話そうか。 

多くの場合、横島忠夫はまず、美神令子の事務所にアルバイトで出入りするところから始まる。

横島忠夫と美神令子は前世からの繋がりがあり、二つで一つとしても考えていい存在だからだ。

それに、美神令子がエネルギー結晶の持ち主であることも大きい。

彼女はキーパーソンなのだ。恐らく、外のオリジナルの私にとっても。

だが、今回この世界では、それとは違う特殊な条件を与えられた。

それは『あの日、ある時、あの場所で横島忠夫が美神令子に会わなければ』だ。

君は世界の開始時に、条件設定により少しだけ行動を操作され、美神令子には出会わなかった。


そして出会ったのが……メドーサだった。


「――――――は? えーっと、あの……メドーサ? 乳のデカイ?」


そう、そのメドーサだ。

それにより前世の関係に関しても再演算がなされ、世界はこれまでと一層違う方向へ進んだ。

こちらの世界の君が文珠を生成出来ないであろう理由も、これが原因だな。


「そんな条件を思考して、何か意味があるのか?」


ああ。今回の条件では、美神令子はキーパーソンとなりえなくなった。

ある意味、先ほど述べた『試行する意味のない試行』となってしまった。

しかし、これも避けられんのだろう。条件を出してみて、初めて分かったことだ。


「んじゃ、外のアシュタロスは、この世界を何で放っておくんだ?」


途中で試行は中断されない。結果に行き着いてから、時間は繰り返される。

卵そのものに、恐らくそういう設定がなされているのだろうね。

計画が最終章を迎えるか、あるいは私の存在について、神魔の上層が消去を決定するか。

そのどちらかを迎えない限り、この世界は終わりはしないとも言える。


「あー、まぁ、分かった。分かったと言うことにしておく。で……?」


ああ。話を戻すことにしよう。

今回、卵の外の世界から……それは本当に外の世界か、それとも他の卵の中からかは分からないが、

とにかく私は君と言う存在を召喚した。これは風水盤により大量の地脈エネルギーを利用してだ。

しばらくは地上での術の使用が困難になるほどに、神魔両属性のエネルギーを用いた。

君が凍結せずとも、すでにあの風水盤に大したことは出来ない理由はそこに在る。

あるはずの地下資源は、すべてないのだ。神魔のどちらにも、バランスは傾かない。等しくゼロだ。

まぁ、しばらくすれば地脈をかけるエネルギーも回復し、その価値を取り戻すだろうがね。


「大丈夫なのか? 騒ぎにならないのか? 地脈のエネルギーが根こそぎ無くなったって……」


風水盤起動と君の召喚は、実に瞬間的なものだったからね。

違和感を覚えた術者はそれなりにいただろうが、しかし何も分かるまい。

――――――と言うことにしておこう。風水盤について何かを察している人物が

いないわけではないが、今それについて説明すると、また話が脱線してしまう。


とにかく術の種類によっては、使用が困難になっている。

そのため、多くの術者がやはり首を傾げるだろう。

だが、地脈そのものが一時的に消失したなどとは、誰も考えはしない。

仮に気づいても、恐らく首を振るだろう。『そんなことは有り得ない』と。


「それで? そんだけやって、俺を召喚して、何になった?」


とりあえず、殻に小さな穴を開け、外のモノを取り込むことは実証できた。

ならば、殻に大きな穴を開け……殻を破って、我々が外に出ることも可能だろう。


「さっきも言ったけど、ゲームの中のキャラが現実世界に出る………みたいな感じだよな?

 でも、待てよ。ゲーム内でどんだけレベルを上げても、現実世界には影響ないはずだろ?」


吐き違えてもらっては困る。ここはゲームの世界ではない。卵の中の世界だ。

仮想現実ではなく、はっきりと存在する一つの世界なのだ。

考えようによっては、卵の殻は我々の世界を抑える一種の封印だと思えばよいだろう。

封印されている我々が、コツコツと力を溜め、それを打ち破るのだ。

それに、そもそも卵は内部のヒナに破られるために存在するもの。

私たちをただの試行存在だと思っている外の私に、成長を言うものを見せてやりたいものだな。


「……でも、風水盤で極東の地脈を使って、ようやく穴が空くかどうかだろ?

 どうやって殻を本格的に破って、この世界の繰り返し……って言うか、連鎖を解くんだ?」


私がこつこつと溜め続けた、エネルギーの結晶体がある。

過去の試行条件で、何度も重要アイテムとして浮上しているモノだ。

君自身が体験した世界でも、エネルギー結晶は重要視されていたはず。知っているだろう?


「ああ。アレがないと、コスモ・プロセッサが動かないらしいからな。最悪な2択を……迫られた」


ふむ。その2択がどのようなものかは気になるが……まぁ、あえて聞くまい。

面白くなさそうであるし、君自身も辛かろう。そう顔に書いてある。

ついでに言っておくが、君の世界の私と、この世界の私は同位体ではあるが同一ではない。


だから、そう私を睨まないで欲しいものだ。

――――――でだ。そのエネルギー結晶だが!

今現在様々な過程を経て、この世界の横島忠夫の中に存在している。


「はぁ!? 令子の中じゃなくて、俺の中かよ!」


そうだ。間違いようのない事実だ。何度も確認はしている。

その横島忠夫の内部にあるエネルギーを使えば、風水盤よりもはるかに簡単に、殻に刺激を与えられるだろう。

世界を書き換える装置の動力源だ。世界を覆う殻を破るために、これほど相応しいエネルギーはない。

だが、莫大なエネルギーは大変操作が難しい。

この世界の横島忠夫は、これからもどんどんと成長するだろうし、やがては高い技能の修得もするだろう。

しかし、ただ高いだけでは、莫大なエネルギーの操作は出来ない。

完全制御には、そのエネルギーのベクトルを揃えなければならないのだ。

ここまで言えば分かるだろう? そのエネルギー制御には、文珠生成技能が必要となる。

より簡単に言えば、その結晶を特大特質の文珠として使用する。こめる文字はもちろん『突』『破』だ。

だが、残念なことに、ここまで上手く条件が揃ったからこそ、この世界の君は文珠を生成出来ない。


「だから、俺に教えろって言うのか……。やっと話が一段落ついたな」


すまないね、長話につき合わせてしまって。だが、どうしても必要なことだ。諦めてくれたまえ。

それで、返事をまだ聞いていないのだが、技能習得を頼めるかな?


「模の文字をこめた文珠を手渡して、俺の経験を体感させればいいだけだろ」


いや、そう簡単には行かないだろう。

この世界の試行において、君は過去に2度ほど、単身私に勝負を挑んできたことがある。

曰く『アシュタロスの野郎を模写すれば、勝ちもしないが負けもしない!』だそうだ。

しかし……うまく行かず……それどころか、文珠効果が切れた後、彼の能力は自身のそれのみになった。

私の能力を写していた時には使用出来ていた技は、文珠の消滅とともに使用不可となった。

知識の一部はそれなりに残ったようだが……やはり身体を使うことは一朝一夕にはいかんのだろうね。


「つまり、時間をかけて、教えるしかないか……」


おや、なかなか乗り気のようだが?


「嫌だと言ってすんなり帰す気はないだろ? と言うか、俺は帰れるのか?」


ああ。来た時と同じように、こちらが後押しすれば、おそらく……。

文珠を使用して、君の単身での時空異間移動を試してもいいが、あまりオススメしない。

君の文珠だけで、君自身を元の世界まで送り届けられるかは、未知数だ。

異世界への転移を実現するイメージを、今すぐ明確に思い浮かべられるかね?


「……一人でこっそりばっくれるのは、やっぱ無理か」


そう言うことだな。あぁ、その代わり対価も支払おう。

君の欲している妖怪の体液は、私が用意するつもりだ。


「安い対価だな。と言うか、別に用意しなくてもいい。自分で倒すさ」


だが、君の望む妖怪が発現するのは、これから2年ほど先の話だが?

それまでこの世界に留まり続けるか? 私としては別にそれでも構わんが。

なんなら、世界の殻を破壊し、最終決戦にも参加してくれるというなら、強く断りはしない。


「そ、そんなに後なのか。なら頼もう。俺はこの世界の俺に講釈垂れて、さっさと帰るからな」


いいだろう。では、そのように。

私の目には、君と言う戦力は魅力的に写る。

だが、この世界の問題はこの世界の住人で解決すべきだ

君にはちょっとした助力以外、多くは望まんよ。


「で? 俺はどうすればいい? 大して金も持ってないぞ。作るつもりだったが……」


おや、何だね、その新聞は? ふむ? 

その競馬の結果を利用して、こちらでの活動資金とするつもりだったと?

だが、君の考えている通り、その日にちはこちらではまだまだ先の話だ。

それに世界の試行条件が違う以上、同じ結果になるとは限らんな。


「……寝る場所もないぞ。しかもここは香港だし」


では、仮の身分と資金はこちらで用意しよう。1時間ほど待ってくれ。

ついでに今日の宿は、とりあえず東京のホテルを用意しておこうか?

もちろん、過去の自分に全て洗いざらい話し、その上で特訓をしてもいいがね?


「どうするかな。未来から来たと言うべきか……親戚かなんかだと言っておくべきか」


その辺は君の裁量に任せよう。

こちらとしては、この世界の君が文珠を習得しさえすれば、どうでもいいのだ。

だが、参考までに言っておくと、君が過去のアパートに行ったとしても、寝泊りはしにくいだろうな。

何しろ、君の知る過去とは違って同居人がいる。

ついでにここの君は美神令子ではなく、メドーサにご執心だ。

そうである以上、この世界の君を、君は自分だと思えないかもしれない。

そうでなかったとしても、少々の違和感や気まずさが発生するのは、目に見えているな。


「ホテルを頼む。しばらく観察して、それから決める」


なんなら、ウチの子の屋敷に泊まるか? 3姉妹が待っていてくれるぞ?


「…………そう言えば、何でルシオラたちはいるんだ?」


ふむ? またしても質問の意図が読み辛いのだが?


「ルシオラたちの役目は、エネルギー結晶を探すためだろ?

 少なくとも、俺の知る世界ではそうだった。結晶の在り処が分かっている以上…………」


そうだな。彼女たちを造り出す必要性などないな。

わざわざ経験値を増やすように生活の場を人界に整える必要もないな。

芦優太郎は27歳の人間だ。

4歳の子供はともかく、15の子供は対外的なカモフラージュにもならん。

では、何故造り出したか? 答えは先ほど返したものと同じだ。

単に娘が欲しかった。それだけだ。悪いかね?

神魔はカードの裏表のように区分されてはいるが、本質は変わらん。

情を理解した程度で驚かれたとするなら、それは大変遺憾だな。


「……そうか。俺としては、あいつらがちゃんと扱ってもらえるなら、それでいいさ」


君のところの私は、あの子らを使い捨てにでもしたのかね?

まぁ、そうなのだろうね。君の顔を見ていると、そうなのだと思う。

我ながら…………いや、止めよう。私が何を言っても詮無いことだ。


「そうだな。あーっと、じゃあ、とりあえず今晩ゆっくり、今後のことを考える。

 といっても、明日からもしばらくは、この世界の俺の生活の観察かも知れんけどな。

 それからどう動くか考えるさ。いきなり会いに行っても、面倒なことになるのは目に見えてるし」


ふむ、分かった。隣の部屋の隅にある方陣から、東京の芦グループビルの一室に出られる。

そのビルから出れば、多少の差異はあるだろうが、君にとって懐かしい過去の東京だ。

こちらから受付に連絡しておくから、そこで携帯電話を受け取ってくれ。

以降、資金についてや、ホテルの部屋番号、その他連絡はその携帯電話に私が直接行う。

ああ、何かあれば、美神除霊事務所に行ってみるといい。人工幽霊が管理している方だ。

あちらは今現在、ルシオラたちの屋敷として使用している。

いつでも会いに行くといい。私も時折顔を出している。


「お前に直接会いたいときは?」


そうだな。携帯電話で連絡してくれれば、時間を割くように善処しよう。

何しろ今現在の私は芦グループの総帥の御曹司だ。それなりに忙しいのだよ。


「了解した。それじゃ俺はこれで。とりあえず、昔の東京を1時間楽しんでから、また連絡する」


ああ。私はまだこちらでやることがあるのでね。

ついて行くことは出来ないが……何ならルシオラをつけた方がいいか?


「止めてくれ。不案内ってワケじゃない。迷子にはならん」


そうか。

それでは……。

違う過去の世界を楽しんできてくれ。


すでに人狼の里では、八房奪取による騒動が起こっている。

その騒動で、八房を手にした人狼自身も大きな傷を負ったため、すぐと言うわけではないが、

それでも一ヶ月以内には、フェンリル復活を目論むその人狼が、東京に姿を現すだろう。

この世界の君に、ちょうどよい危機が一ヶ月以内に訪れると言うことだ。

危機は人を成長させる。技能の習得も、多少はやりやすくなるだろう。


「人狼……シロとはじめて会った頃か。あっ、シロの親父さんは、どうなった?」


犬塚シロの父親は、現段階で生存している。


「そっか。そりゃ、よかった……って、そうなると、シロが仇討ちに出る理由がないから

 この世界の俺とは、出会うこともなくなるってことか? 

 と言うか、一企業の偉いさんが、どうやって人狼の里の動向を探ってるんだ?」


それは我が社の企業秘密だ。


「…………会社ぐるみかよ」


ああ。採用試験には戦闘試験を設けている。


「マジかよ」


もちろん嘘だが…………むぅ、すまない。

同じやり取りを繰り返すのは、いささか芸がないな。


「何かもう、心底どうでもいいがな」


まぁ、とにもかくにも頑張ってくれたまえ。

人狼がフェンリル復活を目論んでいると知れば、美神令子は古代神を召喚し、

その助力を得ることで、件の人狼に対抗しようとするだろう。

だが、現在極東地脈は、事実上消滅している。通常でも困難な古代神の召喚など、まず実現しない。


「…………洒落にならないんじゃないか、それ?」


だから言っているだろう? 頑張ってくれたまえと。

しかし、あまり焦ってもいけない。焦りは何事においても禁物だ。


すべてはエレガントに運んでくれたまえ。

くれぐれも、鼻血を盛大に噴き出すような失態を犯さぬようにね?





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